The Elder Scrolls V: Skyrim Anniversary Edition発売記念プレイログ小説 作:裸男祭
ハイ・フロスガーの冷たい石床に、俺の足音が低く響く。四人の長老たちが静かに立ち並び、その中心に立つアーンゲールが口を開いた。
「ドヴァーキンよ。お前の中にある『声』は、まだ荒削りの原石に過ぎぬ。真の言葉の力を知る準備はできているか?」
俺は深く頷き、ウースラドを傍らに置いて、精神を集中させた。
アーンゲールが床を指差すと、そこには青白い光を放つルーン文字が浮かび上がった。
「RO(ロ)……均衡だ。これでお前の『揺るぎなき力』は、より確かな形となる」
俺はその文字を見つめた。
ただの知識として覚えるのではない。ドラゴンの魂を通じて、その言葉の「意味」を血肉に変えていくのだ。
内側から熱い奔流が込み上げてくる。言葉が魂に刻み込まれた瞬間、俺の喉は新たな力を得て震えた。
「放ってみせよ。我らがその衝撃を受け止めてやろう」
三人の長老が同時に「声」の幻影を放つ。俺は肺の底から、これまで以上に重く、鋭い叫びを叩きつけた。
「FUS……RO!!」
寺院の空気が爆ぜ、長老たちのローブが激しくなびく。
「見事だ。お前は驚くべき速さで言葉を喰らう。だが、次は『速さ』だ。WULD(ウルド)……旋風を学べ」
アーンゲールは中庭へと俺を導いた。そこには、一瞬だけ開く魔法の門が用意されていた。
「風の如く駆け抜けろ。言葉と肉体を一つにするのだ」
「WULD!!」
叫びと共に、俺の体は弾丸のように前方へ突き抜けた。景色が引き伸ばされ、気づいた時には門の向こう側に立っていた。ウスガルドが背後で驚きに目を見開いているのがわかる。
「……これが、グレイビアードの修行か。戦斧を振るうより、魂が削れるぜ」
俺は額の汗を拭い、荒い息を整えた。
修行の終わり、アーンゲールは厳しい表情で俺を見つめた。
「ドヴァーキンよ。技術は教えた。だが、お前が真に『声』の道を歩む者であるか、証明せねばならぬ」
「何をすればいい?」
「ウステングラブの古き沼に眠る、我らの祖ユルゲン・ウィンドコーラーの角笛を回収してこい。それが、お前の最終試験だ」
ハイ・フロスガーの門が開く。
外は相変わらずの吹雪だが、今の俺の目には、山を下りた先にある広大なスカイリムが、これまでとは違う景色に見えていた。
ハイ・フロスガーの冷たい静寂を背に、俺とウスガルドは七千階段を駆け下りていた。
習得したばかりの「旋風の疾走(ウルド)」の余韻が、まだ脚の筋肉を微かに震わせている。一歩踏み出すごとに、風を切り裂く感覚が心地いい。
「修行はどうだった、ヨルン? あんたの叫びが聞こえるたびに、山全体が震えてたよ」
ウスガルドが感心したように笑う。
「悪くない気分だ。だが、腹に力が入りすぎて、ハチミツ酒が恋しくなるな」
俺たちが麓のイヴァルステッドへ辿り着く直前、街道の向こうから一人の男が必死の形相で走ってくるのが見えた。スカイリムのどこにでも現れる、あの神出鬼没の配達人だ。
「ああ、やっと見つけた! 貴方を探してホワイトランから追いかけてきたんですよ。……これ、貴方宛ての手紙です」
男は息を切らしながら、一通の封書を差し出した。
手紙の封を切り、雪混じりの風にさらされながら目を通す。
「親愛なる友へ。
ハイ・フロスガーでの貴方の『叫び』は、遠く離れた場所でも感じ取ることができた。貴方がその力を正しく使い始めていることを嬉しく思う。
一つ、貴方に知らせたいことがある。ハイヤルマーチの沼地、ウステングラブの近くに、古の力が眠る別の場所があるという噂を聞いた。角笛を探すついでに立ち寄ってみるといい。
幸運を祈る。……貴方を見守る『友』より」
「『友』だぁ? 妙に詳しい奴だね」
ウスガルドが横から覗き込み、不快そうに鼻を鳴らした。
「……ああ。だが、グレイビアード以外に俺の『声』を感じ取れる奴がスカイリムにいるらしい。そいつが敵か味方かは分からんが、ウステングラブへ行く理由は増えたな」
俺たちは北西へと進路を取り、不気味な霧に包まれた沼地、モーサルの領土へと足を踏み入れた。
足元はぬかるみ、至る所から腐敗した水と硫黄の臭いが立ち昇っている。木々は枯れ果て、幽霊の手のように空を掻いている。
「嫌な場所だ。吸血鬼や魔女が好んで住み着きそうな雰囲気だね」
ウスガルドが剣を抜き、周囲を警戒する。
霧の向こうに、巨大な石造りの入り口が見えてきた。
ウステングラブ。
かつて「声」に敗北し、瞑想の道を選んだユルゲン・ウィンドコーラーが眠る場所だ。
入り口へ近づこうとしたその時、沼の泥の中から、腐った肉を纏った死者たちが這い出してきた。
「またドラウグルか……いや、様子が違うぞ!」
現れたのは、通常のドラウグルではない。青白い炎を身に纏った**死霊術師(ネクロマンサー)**の実験台たちだ。奥の影から、黒いローブを纏った術師が杖を掲げて叫ぶ。
「ここから先は通さん! 偉大なるユルゲンの遺産は、我らがお師様のものだ!」
「……どけ。俺は機嫌が悪いんだ」
俺は戦斧を構えず、あえて深く息を吸い込んだ。
ハイ・フロスガーで学んだ「言葉」の重みを、魂の底から引き出す。
「FUS RO(フス・ロ)!!」
ハイフロスガーで習得した第二の言葉「RO(均衡)」が加わった咆哮は、これまでの比ではなかった。
物理的な衝撃波が沼の水を跳ね上げ、死霊術師と死者たちをまとめて吹き飛ばし、硬い岩壁に叩きつける。
「……ふぅ。これが『修行の成果』ってやつか」
ウスガルドは、戦う必要すらなくなった光景を見て肩をすくめた。
俺たちは、霧に煙る遺跡の奥へと、一歩ずつ慎重に踏み込んだ。