The Elder Scrolls V: Skyrim Anniversary Edition発売記念プレイログ小説 作:裸男祭
死闘の余韻が残る静寂の中、俺は荒い息を整えながら、崩れ落ちたデス・ロードの亡骸を見下ろした。奴が最期まで守っていたもの、それは玉座の後ろにそびえる、半円形の黒ずんだ石壁だった。
「……こいつは」
松明を近づけると、煤と苔にまみれた石の表面に、奇妙な文様が刻まれているのが見えた。ただの装飾じゃない。それは、スカイリムの各地に点在する古代の遺跡、その最奥にのみ刻まれているという――「竜の言葉」だ。
爪で引っ掻いたような、鋭く、力強い文字の羅列。
見つめていると、頭の奥が痺れるような、奇妙な感覚に襲われた。
(……何かが、呼んでいる?)
俺は引き寄せられるように、石壁へと歩み寄った。
文字の一つが、かすかに青白い光を帯びて見えた。いや、光っているのではない。俺の意識が、その文字に吸い込まれていくのだ。
鼓動が速くなる。デス・ロードとの戦闘とは違う、もっと根源的な、魂を揺さぶるような熱が、指先から全身へと広がっていく。
俺は、その光る文字に触れた。
――!!!――
その瞬間、頭の中で爆発が起きたような衝撃が走った。
視界が真っ白に染まり、轟音が耳を劈(つんざく)。
それは、数千年の時を超えて響く、竜の咆哮だった。
悲しみ、怒り、傲慢、そして絶対的な力。
無数の感情と記憶が、奔流となって俺の精神に流れ込んでくる。
(う、うあああああ!)
俺は頭を抱えて蹲った。脳髄が焼けるようだ。
古代のノルドたちが、竜から奪い、そして受け継いできた「声(スゥーム)」。
その一片が、今、俺の魂に刻み込まれようとしていた。
どれほどの時間が過ぎたのだろう。
嵐のような感覚が去り、意識が現実に戻ってきた時、俺は石床に両手をついて激しく喘いでいた。全身が冷や汗で濡れている。
ゆっくりと顔を上げると、石壁の文字は、もう光っていなかった。
だが、俺にはわかった。
「……『ファイアブレス(Yol)』」
口から漏れた言葉は、俺自身の声でありながら、同時に、もっと古く、巨大な何かの響きを含んでいた。
まだ、その力を完全に引き出すことはできない。だが、その「言葉」の意味と力は、確かに俺の魂の一部となったのだ。
俺はふらつく足取りで立ち上がり、砕け散ったデス・ロードの兜を一瞥した。
奴はこの力を守っていたのか、それとも、この力に囚われていたのか。
「……ソブンガルドで見守っててくれ、じいさんたち。俺がこの力を、どう使うか」
戦槌を担ぎ直し、今度こそ遺跡の出口へと向かう。
背後に残された竜の言葉の壁は、再び静寂の中に沈んでいった。だが、俺の胸の中には、消えることのない新たな「炎」が、静かに灯っていた。
遺跡を後にした俺を待っていたのは、肌を刺すような吹雪と、どこまでも続く松林のざわめきだった。
「……ふぅ、死ぬかと思ったぜ」
吐き出す息は白く、重い。だが、不思議と足取りは軽かった。胸の奥に刻まれた「竜の言葉」が、内側からじわじわと体温を押し上げているような感覚がある。
ファルクリースの門が見えてくる頃には、陽はすっかり落ち、街道沿いの灯火が吹雪の中でぼんやりと揺れていた。
宿屋「デッドマンズ・ドリンク」。
重い木の扉を押し開けると、安っぽいエールの香りと、パチパチとはぜる暖炉の熱気が俺を包み込んだ。
「おい、ヨルン! 生きてたか」
カウンターで酒を注いでいた主人のコーパルスが、顔を上げて声をかけてくる。俺の革鎧が返り血で汚れ、肩に担いだ袋が重そうに音を立てるのを見て、彼は小さく口笛を吹いた。
「相当な荒事だったようだな。エールか? それともハチミツ酒か?」
「……一番強いのを頼む。喉がカラカラだ」
俺はカウンターの隅の席にどっかと腰を下ろした。運ばれてきたジョッキを一気に煽る。冷えた喉を、焼けるようなアルコールが通り抜けていく。その瞬間、ようやく「生きて戻った」という実感が湧いてきた。
人心地ついた俺が、懐からデス・ロードが持っていた黒檀の剣を取り出し、布で拭き始めようとした時だ。
「……見事な業物だな、ノルドの友人よ」
背後から、低く、落ち着いた声がした。
振り返ると、部屋の隅の暗がりに一人の男が座っていた。フードを深く被っているが、その隙間から覗く鋭い眼光は、ただの旅人のものではない。
「あんたは?」
「ただの放浪者だ。だが、お前がその遺跡から持ち帰ったのは、その剣だけではないだろう?」
男は立ち上がり、ゆっくりと俺のテーブルへ近づいてきた。
その歩き方、気配の消し方……。帝国軍の斥候か、あるいはスカイリムに影を落とす「ブレイズ」か。
「お前の瞳の奥に、見慣れぬ光がある。……古代の言葉を、その身に刻んだ者の光だ」
俺は無言で戦槌に手をかけた。
宿屋の喧騒が、急に遠のいたような気がした。暖炉の火が爆ぜ、男の影が壁に長く伸びる。
「警戒するな。俺はお前の敵じゃない。ただ、その『声(スゥーム)』をどう使うか……それを決めるのは、お前自身だと言いに来ただけだ」
男はそれだけ言うと、テーブルに数枚のセプティム銀貨を置き、吹雪の吹き荒れる外へと消えていった。
「……何だったんだ、あいつは」
コーパルスが怪訝そうに呟く。
俺は手元に残された黒檀の剣を見つめた。
竜の言葉、謎の男、そして内乱に揺れるこの大地。
ただの狩人だった俺の日常が、あのヘルゲンでの出来事から決定的に変わってしまったことを、俺は確信していた。
「……ホワイトランへ戻るか」
そろそろウスガルドの傷も癒えた頃だろう。
俺は最後の一口を飲み干すと、暖炉の火を見つめながら、静かに拳を握りしめた。
意味深なだけのただのおじさんでした(´・ω・`)
もう出てきません。