乙女ゲー世界の悪役貴族に転生した俺は如何にして絶望するのをやめて隠しヒロインの男装令嬢を堕とすことになったか   作:三月菫

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第1話 こんな世界は絶対に嫌だ!

 前略。俺は異世界に転生してしまった。

 

 

 転生先は、いわゆる剣と魔法のファンタジー的世界。

 頭の中で、好きな異世界転生系ライトノベルの世界観を三つくらい思い浮かべてくれ。

 うん、だいたいそんな感じの世界観だと思ってくれてオッケー。

 

 ちなみに前世では元ネタのゲームが存在している。

 つまりゲーム世界転生というジャンルなわけだ。

 

 ところで俺は今、この世界の貴族たちが通う魔法学院的なところに通っている。

 ……いや。正確に言うと、今まさに入学式典の真っ最中だ。だから、これから通うといったほうが正確か。

 

 とにかく俺は魔法学院の生徒だ。

 

 この世界の俺は、とある伯爵家の三男坊。

 貴族社会のしきたりにしたがい、15歳を迎えた年、この魔法学院に入学した。

 

 ……まあ、実家の力を利用した裏口入学なんだけど。

 

 実家のブラッドレイ公爵家は、貴族社会では悪い意味で有名だ。

 自分本位に好き放題やっていて、他の貴族たちから嫌われまくっている。

 

 血染めのブラッドレイ(ブラッディ・ブラッドレイ)――

 

 その家名を聞くと誰もが震え上がる、悪名高い一族だ。

 

 俺こと、グレイ・ブラッドレイもまた、その悪評に負けず劣らずのクソ貴族だ。

 

 家族の中の落ちこぼれ。

 生まれつき魔力に乏しいうえに、努力することもしないから、初歩の魔法すらまともに使えない。

 ブラッドレイ家の中でも露骨に差別されている。

 

 そんな生い立ちなので、ただでさえタチの悪い性格がよけいにひん曲がっている。

 いや、根っこから腐っているのだ。

 

 弱きをくじき、強きになびく小物。

 気に食わないことがあると、すぐに癇癪を起こし、自分より立場が下の使用人を理不尽に殴りつける。

 暴力だけじゃなく、あちこちでセクハラまがいの行為を繰り返し、ところ構わず不埒なまねを働く。

 

 そんなクソ野郎が俺だ。

 

 自分で言ってて軽く引いてしまうが、この『グレイ』という人間は本当にロクでもない男なのだ。

 そんなわけで俺ことグレイ・ブラッドレイは、学院に入学する前から、親のコネで学院に入学してくる、学院史上最悪の問題児とのもっぱらの評判だ。

 

 さて、ここまで聞いた賢明な読者諸君なら、もうお分かりだろう。

 俺はこのゲーム世界の主人公ではない。

 ゲーム序盤に主人公に絡んで、雑にやられるモブ悪役に他ならない。

 

 つまり、()()()()()()()()()()()のだ。

 

 ちなみに、前世の俺は、現代日本を生きた筋金入りのオタクである。

 異世界転生に対する造詣も深く、魔法とか学院とか、親の顔よりみた底の浅いファンタジー世界観に、めっちゃワクワクしている……しているんだけど。

 

 この異世界転生……実は一つだけ大きな問題がある。

 

 ちなみに、悪役キャラに転生したことは、全く気にしてない。

 悪役転生モノなんて、ゲーム知識をつまみながら、雑に善人ムーブ決めてれば、周りがヨイショヨイショで、勝手に成り上がっていくのは明らか。

 

 俺が抱えているもっと大きな問題とは……。

 

 きょろきょろ。

 俺は周りを見渡す。

 

 今、俺が立っている場所は魔法学院の大講堂だ。

 壇上では、校長先生がお言葉を述べている最中である。

 

 周りにはこれから入学する魔法学院の新入生たちが整列している。

 数はそんなに多くない。たぶん全員で五十人くらいだ。

 みんな緊張した面持ちであり、これから始まる新生活に期待と不安をよせているといったところだろう。

 

 きょろきょろ。

 

 魔法学院の制服に身を包んだ生徒たち。

 心なしか……というか間違いなくイケメン率が高い。

 

 さわやかな雰囲気のイケメン。

 少し影のあるイケメン。

 長髪のイケメン。

 メガネをかけたイケメン。

 制服をちょっと着崩した不良っぽいイケメン。

 

 イケメンがゲシュタルト崩壊を起こしかけてる。

 

 まあ異世界ファンタジーの登場人物なんて美形揃いなもんだ。

 そういう俺だって、ちょっと目つきが悪いけど、前世基準でいうと間違いなくイケメンに属していると思う。

 

 ここまではいいんだ。

 問題はここからだ。

 

 男女比率が明らかにおかしいのである。

 野郎率が高い。高すぎる。

 パッと見8:2で男だ。

 

 え、おかしくない?

 

 異世界転生モノって、チートスキルと原作知識で俺ツエーして美少女ハーレム築くもんじゃないの?

 

 ヒロインはどこだ。

 俺の好きなママみあふれるロリ顔巨乳全肯定ヒロインはどこだよコラ。

 

 式典中にもかかわらず俺は目を血走らせて必死に女のコの方に眼を凝らす。

 

 女子もいることにはいる……いるのだが。

 なんというか、妙に存在感がうすい。

 

 一人ひとりの造形も、野郎どもは髪型のバリエーションが無駄に豊富だったり、制服の着こなしも様々だったりと必要以上にキャラが立っているのに対して、女子は総じて無個性だ。

 

 この違和感なんて言ったらいいんだろうね。

 

 女の子たちは背景と同化しているというか。

 その他大勢感が凄いというか。

 もっと分かりやすく言うと()()()()()んだ。

 

 それもそのはず。

 

 俺が転生したゲーム世界。

 名を《アルカナクラウン》。

 

 何を隠そうこのゲーム……。

 俗に()()()()と称されるジャンルに分類される。

 

 

 それもそのジャンルの中でも更に深淵。

 

 

 いわゆるBL(ボーイズラブ)ゲーなのだ。

 

 主人公は男。

 攻略対象も男。

 サブキャラも男。

 モブも男。

 登場人物、ほぼすべてが、男。

 

 男、おとこ、男ォォォォォッ!!

 

 つまり俺は、BLゲー異世界に転生してしまったのだ。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 

「なんでよりにもよってBLなんだよ!?!?」

 

 

 式典中にもかかわらず、俺は悲しみの雄叫びをあげた。

 

 

 ***

 

 

 もう一度、状況を整理しよう。

 

 

 式典の進行をみだりに乱したということで、先生に、魔法のステッキのようなアレで一撃を食らった俺。

 頭にできた大きなタンコブをさすりながら、自分のこれまでのことを振り返った。

 

 

 俺が転生してしまったのは、俗に言う乙女ゲーと呼ばれるファンタジー世界。

 しかしあろうことか、そのジャンル内でも深淵であろうB()L()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 幼少期から、この世界に抱くぼんやりとした違和感はあった。

 

 女の子が少ない。

 その反面、野郎は多い。

 しかもどいつもコイツもイケメンだ。

 犬も歩けばイケメンにあたる。

 

 そしてタチの悪いことにイケメン共の距離が近いのだ。

 

 街中でイケメン同士でやたらとベタベタしてたり。

 

 イケメン二人で談笑してる間に、突然、血相変えて割り込でくるイケメンがいたり。

 

 路地裏の片隅では、割とフツーにイケメンが倒れてるし、それをやたら親身に介抱するイケメンもシームレスに出現する始末!

 

 いやすまん。

 イケメンイケメン連発しすぎて目が滑るよな。

 だけどしょうがない。事実なんだから。

 

 この世界には、雨が降ったあとのタケノコのように、至る所にイケメンが生えている。

 

 俺が前世の記憶をハッキリと思い出したのは、実はついさっき。学院入学式典の真っ最中のことだ。

 

 この世界がBLゲーム世界であって、そのキャラクターに転生してしまったと思い出したときには戦慄したね。

 

 ……え?

 なんでこの世界が、BLゲーム世界だと気付いたかって?

 

 ああ、簡単なハナシだ。

 前世の俺には腐女子の姉がいた。

 その姉から、聞いてもいないのに、一方的にBL知識を植えつけられたんだ。

 

 やれ受けがどーだの、攻めがどーだの。

 オメガバースに、リバだサンドだわけわからん。

 頼むからナメック語で喋るのはやめてくれ。

 

 特に姉ちゃんが好きなのが、このゲーム――《アルカナクラウン》、略してアルクラだった。

 

 なんでもBLゲーの中ではトップクラスの出来らしく、年に一度のBLゲーの奇祭、もとい祭典であるBOTY(BLゲーオブザイヤー)で、準グランプリの栄冠に輝いた名作らしい。

 いやいや。そんな、全日本スポーツチャンバラ選手権大会準優勝みたいなニッチな受賞歴を語られても、一般人はピンとこねーよ。

 

 とにかく、このアルクラのことも、姉ちゃんから教えてもらった。

 というかゲームをやらない姉ちゃんに、強制的に代理プレイさせられてしまったのだ。

 

 おかげで、無駄に全キャラコンプした挙句、隠れキャラルートまでクリアしてしまったのだ。

 

 ただあくまでも性的嗜好はストレートな俺。

 もちろん、BLには1ミクロンも興味がない。

 

 だからストーリーにはまったく興味が持てなかったことはもちろんのこと、次々と仲間になる目眩くイケメンキャラにも基本的に嫌悪感しか抱かず、最後まで主人公だけのソロプレイでクリアしてやった。

 

 おかげで各キャラクターの背景くらいは分かるけど、ストーリーフラグについてはかなりあやふや。

 

 原作知識チート? 

 なにそれ美味しいんですか??

 

 ちなみに一個だけ蛇足の情報を付け加えるなら、このゲーム、無駄にRPGとしての出来はよかった。

 おかげで()()()()()()()普通に楽しめてしまい、システム面では、やりこんでしまったのはまた別の話だ。

 

 とにかく、そんな名作BLゲー世界に転生してしまった俺。

 

 自分がイケメンになったことは素直に嬉しいが、イケメンのことは別に好きじゃない。

 

 ハッキリしておく。

 

 俺は女の子が好きだ!

 

 巨乳で黒髪ロングのおしとやかな正統派な女の子が好きだ!

 

 え? ママみあふれるロリ顔巨乳系ヒロインが好みだっていってなかったって?

 

 こまけえこたあいいんだよ!

 

 とにかく女の子が大好きなんだよ!

 この世界でも美少女とイチャイチャしたいんだよ!!

 なのになんでボーイズラブなんだよ!?

 嫌がらせか!?

 

 

 ……しかし、嘆いていても仕方ない。

 俺はこの世界で生きていくしかないんだ。

 

 こうなってしまった以上、俺はこの異世界でハーレムをなんて贅沢な願いは抱かない。

 

 

 女の子!

 

 

 女の子と付き合えればそれでよしとする!

 可愛い彼女を作って、ファンタジー世界でイチャイチャスローライフしたい!

 

 俺の願いは、本当に。

 ただそれだけ。

 

 ああ、なのに、神様。

 

 この世界、腐ってますよ?

 

 

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