乙女ゲー世界の悪役貴族に転生した俺は如何にして絶望するのをやめて隠しヒロインの男装令嬢を堕とすことになったか   作:三月菫

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第11話 俺ツエーじゃ! 俺ツエーの時間じゃ!!

固有魔法(ユニーク・スペル)だと……?」

「ほら、今日の授業で習ったろ? 魔法には一般魔法(コモン・スペル)固有魔法(ユニーク・スペル)の二種類があるって――」

 

 この世界に転生してきた俺は、魔法の理論や知識はゼロに等しい。だからこそ、理論をベースとして学んでいく一般魔法(コモン・スペル)はからっきしだ。

 

 けれど、固有魔法(ユニーク・スペル)なら話は別である。

 

 そもそも、固有魔法(ユニーク・スペル)は本人の血や資質に宿る、極めて個人的(パーソナル)な能力。

 だからこそ、知識や理論ゼロの俺でも、直感的に魔法を使うことができるのだ。

 ……たぶん。

 

「お前らは、俺の固有魔法(ユニーク・スペル)で叩き潰す」

 

 俺の言葉を受けて、取り巻きたちの表情が変わった。

 言葉の真意を測りかねているが、警戒は必要だと感じているのだろう。

 

「いっとくけど、先に喧嘩を売ってきたのはそっちだからな? 怪我をしても文句言うなよ」

 

 俺は不敵な笑みを浮かべつつ、右手のひらを上にして開く。

 そして、固有魔法《ユニークスペル》の名を唱えた。

 

()()()()()()()()()——」

 

 瞬間、俺の手のひらの上に光の粒子が集まりだす。

 それは渦を巻きながら、だんだんと形を成して、やがて一振りのナイフへと姿を変えた。

 

 幻造魔法(ファンタジア)

 使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それが(グレイ)に与えられた固有魔法(ユニーク・スペル)だった。

 

 俺は作り出したナイフの柄を握りしめた。

 

「さあて、どっからでもかかってきな?」

 

 取り巻きたちは、ぽかんとした様子で俺のことを見つめた後——

 

「ぷっ、ぷははははっ!」

 

 腹を抱えて笑い出したのだった。

 

「やっぱりお前は落ちこぼれだな! もったいぶって発動した固有魔法が、()()()()()()()()って、なんのギャグだよ。マジで笑えるわ!」

「おいおい、あんまり笑うなよ。可哀想だろ?」

 

 取り巻きたちは俺の作ったナイフを指さして、嘲り笑う。

 

「なあ、ブラッドレイ。お前の作り出したそのオモチャのナイフで、ほんとに俺達と戦うつもりか?」

「そのつもりだが?」

「こいつ、マジで頭悪いぜ? どうやらよっぽどケガしたいみたいだな」

 

 当然、幻造魔法《ファンタジア》がここまで侮られていることには理由があった。

 

 ()()()()()()()

 それがこの世界での常識だ。

 グレイが、ブラッドレイ家でも落ちこぼれ扱いされてしまっている理由の一端でもある。

 

「ブラッドレイ。頭の悪いお前にわかるように、俺達がわかりやすく教えてやるよ。幻造魔法ってのはなあ、()()()()()()()()()()()()()()()なんだよ」

「そうそう、どんな完璧なイメージでアイテムを作り出しても、所詮は模造品《レプリカ》だ。性能も耐久力も、本物より格段に劣る」

「現にお前がいま作ったナイフだって、わざわざ魔法で偽物を作るより、本物のナイフを使ったほうが早いだろうが。そんな簡単なこともわからねえのかよ」

 

 取り巻きたちが入れ替わり立ち替わり、ご丁寧にこの魔法の欠点を説明してくださった。

 コイツらは完全に俺のことを侮っている。

 もう、俺のことなど敵としてすら認識していないのだろう。

 

 だけど俺は、勝利を確信して笑う。

 

「――君たちに、このナイフについて教えてあげよう」

「あ?」

 

 俺は不敵な笑みを浮かべ、取り巻きたちを見据えた。

 

「妖精王の秘剣、エアリアル」

「エアリアル……?」

「このナイフはユニークアイテムの一つだ。ゲーム終盤のダンジョン、妖精の渓谷で戦う隠しボスキャラ、妖精王エアリアルを倒すと、低確率でドロップする――」

「てめえ、何いってんだ……?」

「ステータスはATK(攻撃力)が256。MAT(魔法攻撃力)にも高い補正がついてるぞ。風属性だから、土属性の敵相手に特攻なのが特徴だな――」

 

 俺が説明をする間、取り巻き達は怪訝そうな顔で俺を見つめていた。

 

「それと、このナイフにはちょっとした特殊効果がありましてね」

 

 俺は手の中でぼんやりと緑色に光るエアリアルを、軽く回して見せる。

 

「特殊効果、だと……?」

 

 俺はニヤリと笑い、エアリアルを構えた。

 その切っ先を、取り巻きたちに向ける。

 

「エアリアルを振るだけで、風魔法が使えるんだよ」

 

「はあ? そんなのありえ――」

「哭け! エアリアルッ!」

 

 取り巻きAが言い終わる前に、俺はナイフを横一閃に振り抜いた。すると――

 

 ゴオオオオッ――!

 

 空気が爆発するような轟音とともに、強烈な暴風が発生した。

 噴水の水面が激しく波打ち、風に乗った冷たいしぶきがあたりに飛び散る。

 風の刃がうねりながら取り巻きたちに向かい、勢いよく叩きつけられた。

 

「うぎゃっ!?」「げぼっ――!」

 

 二人とも、風の力に吹っ飛ばされて、裏庭の地面に転がった。

 ローブは乱れ、髪はぐしゃぐしゃ。ホコリまみれの無様な姿である。

 

 俺は軽くエアリアルを握り直しながら、ヤツらの方にゆっくりと歩み寄った。

 

「どう? これがエアリアルの能力だ」

「ば、バカな……こんな……」

「おいおい、どうした? さっきの余裕はどこにいっちまったんだよ? 顔が真っ青だぞ?」

「ありえない……たかが幻造魔法で作ったアイテムが、こんな威力を持つなんて……ありえない!!」

 

 取り巻きの顔には、驚きと恐怖の色が浮かんでいる。

 

「オタクらが言ったように、幻造魔法じゃ、どんなに頑張っても不完全な模造品《レプリカ》しか作れない――」

 

 こいつらがさっき言ったことは、世間一般の幻造魔法の認識として、何も間違っていなかった。

 

 人間のイメージなんて穴だらけだから、そもそも本物通りの複製品なんて作れない。

 だから、魔法でアイテムを作るくらいなら、本物でいいじゃん、という根本的な矛盾がつきまとう。

 

 だから幻造魔法はザコ魔法扱いされる。

 

 現にゲーム原作では、グレイは幻造魔法を使って、原作主人公リオンに襲いかかり、返り討ちにされてしまった。

 

 なんか凄そうなことができそうな響きはあるのに、実態は実戦ではとても使い物にならない、見かけ倒しのショボい能力。

 それが俺の固有魔法、ファンタジアなのである。

 

 だけど――

 

 もしも、この世界はゲーム世界で。

 もしも、外の世界からやってきた転生者がいたとして。

 もしも、その転生者は、ゲーム知識を知り尽くしていたとして。

 もしも、その転生者が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そう、俺は原作ゲーム『アルカナ・クラウン』を、システム面では、結構やり込んだ。

 隠しダンジョンもすべてクリアしたし、ユニークアイテムは全コンプリートしてやった。

 攻略本も読み込んだおかげで、アイテムのステータスはもちろん、フレーバーテキストとして掲載されていた各アイテムの設定資料も頭の中に叩き込まれている。

 

 

 そうまでしてもBLには欠片も興味はわかなかったけどなぁッ!!

 

 

 この出来のいいゲームがBLゲーじゃなくて、普通のRPGだったらどんなに……

 かわいい美少女キャラが沢山出てくればどんなに……

 

 そんな怒りをぶつけるようにして、俺はこのゲームをやり込んだのである。

 

 なんか話がずれた気がしないでもないけど、とにかく、俺はその知識を活かして、ユニークアイテム・エアリアルを実体化したのだった。

 

 もちろんあくまで幻造魔法で生み出したレプリカにすぎない。

 当然ながら、その威力はオリジナルには遠く及ばない。

 それでも、格下のザコを散らすくらいなら、十分すぎるくらいの力を持っている。

 

「くっくっく……オタクら命拾いしたなぁ。これが本物のエアリアルだったら、今頃、体がバラバラに切り刻まれてるぜえ?」

 

 俺はボロ雑巾のように転がっている取り巻きたちに向かって、ニヤリと笑った。

 

「さーて、取り巻きBくんは気を失っちゃったかなぁ? Aくんはまだ起きてるみたいだねえ。ナイス根性!」

 

 俺はそう言って取り巻きAのもとに跪き、エアリアルの切っ先を顔に突きつけた。

 

「ひっ……!」

「まだやる?」

 

 言葉を返せないまま、涙目になる取り巻きA。

 

 はい、勝負ありっと。

 これ以上やったら弱いものイジメになっちゃうからな。

 

「——つーわけで、セルビスくんに言っといてくれ。俺はこれからもアシュレイくんに近づきまくるし、なんならくんずほぐれつチュッチュッの仲を目指すってな」

 

 俺はエアリアルの実体化を解除して、立ち上がった。

 

「それに対して文句があるなら……テメーで直接言ってこい、腰抜け野郎」

 

 取り巻きAにそう宣言し、踵を返す俺。

 アシュレイと視線が交わった。

 不安げだったその表情に、安堵の色が滲んでいっているようだった。

 

 俺はサムズ・アップして、アシュレイに笑いかける。

 

 こうして本件は一件落着——

 

「これですむと思うなよ! ブラッドレイ!!」

 

 と思いきや、取り巻きAが大声を上げた。

 

(……んだよ、まだやられ足りないのかよ)

 

 俺は若干うんざりしながらも、振り返る。

 

「あのさぁ、いい加減にしてくれる? しつこい男は嫌われるぞ?」

「お前は完全にギルモア公爵家に楯突いた! ただでは済まないぞ! セルヴィスさまの力で、お前なんかすぐに退学にしてやるからな!?」

 

 取り巻きAは声を張り上げるが、その目には明らかに怯えが混じっている。悲しいほどの虚勢である。

 

「あーはいはい、セルビスくんに泣きつくのね。そんでセルビスくんはパパとママに泣きつくのかな? あーダサ。どーぞどーぞご自由に。こっちは逃げも隠れもしないんで。あ、でもアシュレイやリオンを巻き込むなよ。それやったらマジで殺すからな?」

 

 いい加減早く帰りたかったので、俺は取り巻きAにはまとも取り合わずに、そのまま引き上げることにした。

 

「ほっといて行こうぜアシュレイ」

「しかし……」

「いーから、時間も無駄だ」

「あ……」

 

 俺はそう言って、アシュレイを連れて歩き出す。

 

「後悔しろよ! ブラッドレイ!! 絶対に退学にしてやるからなぁ!!」

 

 負け犬の遠吠えは、背後からいつまでも響いていた。

 

 ***

 

 そうしてようやく辿り着いたマギナ寮の前。

 あー疲れた。せっかく自室でも勉強しようと思ってたのに、その気がなくなっちゃったよ。

 とっとと風呂入って寝よ寝よ。

 

「……グレイ」

「ん?」

 

 入り口前で立ち止まった俺に、アシュレイがおずおずといった感じで声をかけてきた。

 

「本当にすまない。私のせいで……」

「もしかしてさっきのこと?」

「ああ」

 

 アシュレイはうつむきながら頷く。

 

「いやいや、アシュレイが謝ることなんて何もないって。なにを勘違いしているのか知らないけど、セルビスのアホが暴走してきただけっしょ? ホント、キモいよな。ああいうヤツがストーカーとかになるんだぜ、きっと――」

「それでも、ギルモア公爵家の権力は本物だ! もし、今回のことで本当に君が退学になってしまったら……! そうしたら私はッ……!」

 

 アシュレイは、俺の言葉を遮るように、取り乱した様子で声を上げた。

 

「大丈夫だって、心配すんな」

 

 俺はそんなアシュレイの肩をポンと叩く。

 アシュレイは不安げに俺の顔を見つめる。

 

「セルビスがどんな嫌がらせしてくるかは知らないけど、所詮は学生だろ? パパの力を使って学校に泣きついたところで、学校もそんなにヒマじゃねーよ」

「そうだろうか……」

「あーもう、そんな暗い顔すんなって! 俺は絶対に退学にならない! せっかくこうしてアシュレイと仲良くもなれたんだ。そんで、いざとなったらアストリッド家の使用人として再就職。それで万事オーケーよ」

「……それって、退学してるじゃないか」

「あ、そっか」

「……ふふっ」

 

 俺の言葉を受けて、ようやくアシュレイはほんのり微笑む。

 つられて俺も笑ってしまった。

 

「グレイ」

「ん?」

「今日は、ありがとう。……かっこよかったよ」

「え……かっこいい?」

 

 俺が自分の顔を指差してそうつぶやくと、アシュレイはハッとしたように口を抑えた。

 

「あっ、いや、すまない! かっこいいっていうのは、その……! 魔法が凄かったってことだ……!」

 

 顔を真赤にして、アタフタしだすアシュレイ。

 

「すす、すまない。グレイ! 今日はもう遅い。また明日にしよう! 失礼する!」

 

 そのまま彼女は、寮の中に駆け込んでいってしまった。

 一人残された俺は、しばらくその場に立ち尽くした後――

 

「好感度あがった~~~~~!!」

 

 夜空に向かって拳を突き上げ、ガッツポーズ。

 

 見たか? さっきのアシュレイの様子!

 俺に対する好感度が上がったのは確定的に明らか!

 

 セルビスの野郎さまさまだぜ。アイツがいい感じに引き立て役になってくれたおかげだ。

 

 素晴らしい、素晴らしいぞ!

 まだ入学初日なのに、このパーフェクトコミュニケーションっぷりはどうだ!?

 このペースでどんどんアシュレイと仲良くなっていいけば、一週間後にはベッドインも夢じゃない――

 

「ふはははは……はーっはっはっはっ!!」

 

 そんなアシュレイとのバラ色の未来に思いをはせながら、俺は一人高笑いを上げる。

 そのとき。

 

「……なにしてんのさ、グレイくん」

「え?」

 

 振り返ると、そこにリオンが立っていた。

 

「リオン? なんでここに?」

「なんでって、グレイくんの帰りが遅いから、探しに行こうと思ってたんだよ」

 

 リオンは少しムッとした様子でそう答える。

 

「そうか、悪かったな」

「で、なにがあったの?」

「いーや、別に? ただちょっと俺の熱狂的なファンにサインをねだられちゃってさぁ、心を込めてファンサをしてたところだ。人気者はつらいぜ」

「ファン……?」

「ま、いいからいいから、部屋に戻ろうぜリオン」

「わ、ちょっ……!」

 

 首を傾げるリオンの背中をぐいぐい押しながら、寮の玄関を潜った。

 

 こうして長い一日がようやく終わった。

 そして、後日――

 

 

 

 俺は校長室に呼び出されていた。

 

 

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