乙女ゲー世界の悪役貴族に転生した俺は如何にして絶望するのをやめて隠しヒロインの男装令嬢を堕とすことになったか   作:三月菫

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第13話 アルカナクラウン!

「じゃあ、君は退学ということで」

「ちょ、待てよ!?」

 往年の国民的アイドルグループの人気メンバーの台詞じみたツッコミの声を上げてしまった俺。

 一方の校長先生は涼しい顔だ。

「だから言ったじゃない。公爵貴族の一存は絶対だって」

「いやいや、だからって……今のは絶対に退学を取り消す流れだっただろ!? あんたそれでも教育者か!? それがこの学院の正義か!? 相手取るぞ!?」

「だって考えてみて? あなたは品行最低、学力も魔術の腕前も、本来ならこの学院の入学ラインに遠く及ばない。それをご両親の力で無理やり入学した、学園始まって以来の劣等生よ? そんな生徒を公爵貴族の圧力から守る理由が学園にある?」

「ないんだなそれが」

 ……

 あ、いやいや!

 ちょっと待て!

 言いくるめられてるんじゃないぞ俺!?

「そ、そこをなんとかですね……チャンスの一つをお恵みください!」

 俺は強気な態度から一変、スムーズに土下座の態勢に移行する。

 こうなったらもう泣き落とししかねえ。

 

「残念ながら退学は決定事項。ただし——」

「ただし?」

 俺は顔を上げて校長の顔を見つめた。

 校長先生は口元に指を当てて、不敵な笑みを浮かべている。

「その執行時期については、先方は指示していない。だから、君に猶予を与えることができる」

「猶予ですか?」

「現状では君はただの落ちこぼれ。だから学院には、上位貴族の意向を無視してまで君をかばう理由がない。だけど……もし君がなんらかの功績を残し、この学院において()()()()を示せれば……学院側にも君を守る理由が生まれる」

「俺の価値……」

「期限は一年。その間に君の価値を示せなければ、予定どおり君は退学処分となる」

「突然、価値とか言われても、具体的に何すりゃいいんですか?」

 俺の問いに、校長は黒曜石の瞳で俺を見据えて、そして言い放った。

 

()()()()()()()()を目指しなさい」

 校長が口にしたワード――アルカナクラウン。

 それは原作ゲームのタイトル。

 というか、ゲーム内目標の一つでもあったはず。

 えーと確か……

「アルカナクラウンとは、ユースティティア学院に設けられた特待生制度よ。学業や武術など、様々な分野で卓越した実績が認められた者が選出されるわ」

「ああ、そんな感じでしたね……んで、具体的には俺は何をすれば……」

「この一年で、アルカナコインを集めるの」

 校長先生はそう言って杖を軽く振るった。

 すると、キラリと光る小石みたいなものが、放物線を描いて手元まで飛んでくる。

 片手でキャッチしたそれを、まじまじと眺めた。

 表面に月と星を組み合わせたような意匠の魔法陣が彫り込まれた銀色のコインだった。

「それがアルカナコイン。学院の授業や試験、課外活動で特筆すべき成果を残した者に授与される勲章のようなものよ」

 俺はそのバッジに目を奪われながら、校長の話を聞いた。

 

「アルカナクラウンは学院の名誉そのもの。いかに公爵家であっても、その存在を軽視することはできない。君が理不尽に抗う力を得たければ、目指しなさい神秘の王冠(アルカナクラウン)を」

 俺はしばらくの間、手のひらの上にのったアルカナコインを見下ろしたあと、ぐっと強く握り込む。

 そしてゆっくりと立ち上がり、握り込んだ拳を校長に向かって突きだした。

「わかりましたよ、校長――受けて立ちましょう。俺がただの落ちこぼれじゃないってこと、この()()()()()に証明してみせますよ」

「ふふっ、期待しているわ。ブラッドレイ」

 校長先生は口端を緩めて微笑んだ。

「あ、このコイン……返さないとですよね?」

「いえ、それはあなたにあげる」

「え?」

「自分を犠牲にしてでも友の名誉のために立ち上がった貴方の高潔な意志に対する、わたしからのプレゼント」

「え、マジすか。ありがとうございます」

 もらえるものはありがたくもらっておくことにする。

 俺は校長の気が変わらないうちに、コインをいそいそとローブのポケットにしまい込む。

 もう返せと言われても返さないからね?

 とにかく、これで俺のやるべきことが明確になった。

 退学回避のため、アルカナクラウンを目指す。

 

 すべてはアシュレイとこの学院でイチャイチャ学院生活を送るために。

 今の俺にできることは、そのために、ただひたすらに前に進むことだけだ。

「じゃ、失礼します」

 こうして新たな目標を与えられて、校長室を後にした俺。

 一緒に退席したリド先生が話しかけてきた。

「よかったなグレイ、とりあえずチャンスがもらえて」

「リド先生は何もしてくれませんでしたけどね」

「アルカナクラウンか……」

「やっぱ大変なんですか?」

「そりゃそうだ。アルカナクラウンの称号を持つってことは、この学院のトップの称号を持つってことだ。まず、コインを一つ手に入れるだけでも、例えば試験でトップクラスの成績が必要だ。無理だろ?」

「今は無理でも、努力してみせますよ」

「まあ、無駄な努力も青春の花だ。俺も応援してるからな、がんばれよ」

「アンタ、ほんとに教師向いてないと思うよ」

 

 ***

 

 そしてマギナの教室に戻った俺。すると――

「グレイ!」

「グレイくん!」

 アシュレイとリオンの二人が、俺のところに駆け寄ってきた。

「グレイ……校長室に呼び出されたと聞いた。大丈夫だったか!?」

「入学早々なにかやらかしたの?」

 二人の顔は心配でいっぱいだった。

 特にアシュレイは、顔色がちょっと青くなっている。

「……まあ、色々とな」

 俺は苦笑いを浮かべながら、軽く肩をすくめた。

 だけど、アシュレイの視線がそれだけじゃ許してくれない。

「この間の夜のこと……だろう? そのせいで……まさか……」

 アシュレイに図星を突かれて、俺は少しだけ言葉に詰まる。

 バカ正直に、そのせいで退学予告を受けたなんてことをアシュレイが知ったら……

 真面目なコイツのことだ。自分のせいだと思い詰めるに決まってる。

 なので俺は退学予告を受けたことだけは隠して、それ以外の校長室での会話を二人に話した。

「――というわけで、俺はアルカナクラウンを目指すことにしたよ」

「アルカナクラウン……」

「公爵貴族様の嫌がらせに抵抗するためには、そうするしかないってさ」

 俺がそう言うと、周りからクスクス笑いが響いた。

「落ちこぼれが、アルカナクラウンって……」

「身の程を知れよ。できるわけないだろ」

 どうやら俺の評価は基礎魔法の授業をきっかけにして、恐るべき極悪貴族から、落ちこぼれのバカ貴族にジョブチェンジしているらしい。

 そんなバカにしたような笑い声が広がる中、俺は肩をすくめながら笑顔を作った。

「みんな俺のことを気にかけてくれてありがとう。お前らの声援を絶対に忘れないからな。俺がアルカナクラウンを取ったときは、()()()()()?」

 皮肉を込めた俺の返しに、コソコソ話をしていた連中の間に、ちょっとざわめきが起きる。

 俺はそれ以上、そいつらには取り合わず、アシュレイたちの方へ視線を戻した。

 視線の先で、アシュレイはじっと俺のことを見つめていた。

 固く結ばれていた唇が、ゆっくりと開く。

「グレイ、私は決めたぞ」

「決めたって何が?」

「君がアルカナクラウンを目指すなら……私は全力で君を支える」

「アシュレイ……支えるって……」

 結婚? とつい軽口を叩きそうになって、やめた。

 なぜならそう告げるアシュレイの瞳には、固い決意の光が宿っていたからだ。

 ただ、それは同時に思いつめたような表情でもあり、俺は危うさを感じてしまう。

 だから俺は――

「アシュレイ、ありがとうな」

 軽く笑ってアシュレイに礼を言った。

「君に礼を言われる筋合いはない。そもそも君が追い込まれてしまったのは、私の責任なんだ……!」

「それは違うよアシュレイ」

「え……?」

 俺はまっすぐアシュレイの瞳を見つめ、言葉を継ぐ。

「こうなったのは、単純に俺が迂闊な行動をしたせいだ。ま、そのことを全然後悔してないけどな。だから気にすんなって」

「グレイ……」

「ただ、それはそれとして手伝ってくれるのは超助かる! 全力でおんぶに抱っこさせてもらうから、よろしくなアシュレイ!」

 俺はそう言って右手を差し出した。

 アシュレイは差し出されたその手をしばし見つめて、そして――

「ああ。任せてくれ、グレイ」

 ゆっくりと、俺の手を握り返す。

 その顔に、やっと笑顔が浮かんでくれた。

 俺とアシュレイが固い握手を交わす一方で。

「グレイくん! もちろん僕にもできることはサポートするからね!」

 俺たちの間に割り込むように、リオンがそう声を上げた。

「リオンもサンキューな」

「といっても、ただの平民の僕にできることはあんまりないかもだけど……」

 そういってリオンは、自分自身を茶化すように笑う。

 そんなことないぜ。

 お前はこの世界の主人公なんだから。

 アシュレイとリオン。

 二人の存在がいれば、落ちこぼれの俺がこの学院の頂点(アルカナクラウン)を目指すという荒唐無稽な目標も、なんとかなるかもと思えてきた。

「ああ、そっか――」

 そのとき。

 ふと、俺は胸にすとんと落ちるような納得感を得た。

「どうした、グレイ?」

「いや、なんでもないよ」

 俺はアシュレイの問いを、笑って受け流した。

 俺の得た納得感は、あまりに今更すぎて、言葉にするのも気恥ずかしかったからだ。

(これが、友達か――)

 アシュレイとリオン。

 この二人の存在が、俺にとってゲームの登場人物以上のものになっていた。

 

 

 

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