乙女ゲー世界の悪役貴族に転生した俺は如何にして絶望するのをやめて隠しヒロインの男装令嬢を堕とすことになったか   作:三月菫

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第14話 課外授業!

 

 校長から直々に退学予告を受けとった後も、俺の学院生活はこれまでどおり続き、気づけば二週間が経っていた。

 もしもセルヴィスが、またウザ絡みしてきたらどうしようと心配していたのだが、結果として杞憂だった。

 そもそもヤツとはクラスが違うわけだから、会う機会自体がそれほど多いわけじゃない。

 それにセルヴィスからしたら、パパに泣きついた時点で、俺の問題は解決したということなんだろう。

 俺としても、クソ野郎のクソみたいな顔を見なくてすむのはありがたい。

 おかげで、この二週間は魔法の勉強に集中できた。

 そう。今や俺は勉強の虫といっても過言じゃない。

 自分でいうのもなんだけど、魔法についてメチャクチャ真面目に勉強している。

 授業に真剣に取り組むのはもちろんのこと、放課後は毎日、図書館に通って閉館時間まで、ぶっ通しで自習している。

 そして今もマギナ寮の自室にて、俺は机の上に広げた魔術書にかじりつく。

「グレイくん、そろそろ寝たほうがいいんじゃない? もう日付が変わるよ?」

 ルームメイトのリオンが、そんな俺の身を案じて声をかけてきた。俺は魔術書から視線をそらさずに返事だけを返す。

「もうちょっとでキリが良いとこまでいくから、そこまでやってから寝ることにするわ。先に寝ててくれ」

「ほんと努力家だよね……でもあんまり根を詰めすぎたらダメだよ?」

「おう、心配してくれてサンキューな、おやすみリオン」

「あ、そうだ。寝る前にホットミルクでも飲む? 僕、淹れるよ」

「お、マジで? サンキュー」

「ちょっと待っててよ!」

 パタパタと足音を立てながら飲み物を準備するリオンの気配を背中越しに感じつつ、俺は再びペンを持つ手を走らせる。

 そんな努力の甲斐もあってか、魔法学について理論的なところは少しずつ理解できてきたし、一般魔法《コモンスペル》についても、ちょっとずつ使える魔法が増えてきた。

 こうなってくると、魔法がますます楽しくなってくる。

 時間がいくらあっても足りないと感じるくらい、魔法の世界にのめり込んでいってしまうのだ。

 そして、今の俺にはその努力に意味を与える、具体的な目標もある。

(アルカナクラウンになるためには、もっと努力しないとな……)

 そう心の中でつぶやきながら、俺の研鑽は続くのだった。

 

 ***

 そして翌日。

 今日の授業は課外授業だ。

 俺たちは学院近くにある森の入口までやってきていた。

 目の前に広がるのは、霧に包まれた薄暗い森。

 巨大な木々は幹をねじらせ、根は地を這い、不気味な雰囲気を漂わせている。

「……随分鬱蒼とした森だね」

 俺の隣に立つリオンが、ぽつりとこぼす。

 視線をうつすと、その顔からは不安の色がありありと見て取れた。

 不安そうな顔を浮かべているのはリオンだけじゃない。

 周りに整列するクラスメイトたちは皆、一様に顔を強張らせていて、妙な緊張感が場を支配している。

 それも無理のない話だった。

 この森は、基本的には立ち入りが禁じられている場所。

 中は高い魔素で満ちていて、その魔素の影響で凶暴化した生き物——魔物が跋扈《ばっこ》する空間なのだ。

 そう、この森は()()()()()なのである。

 

 今日の課外授業はダンジョン探索。

 俺たちはこれからこの森の中に足を踏み入れることになっていた。

「リオン、そんな顔すんなって。ダンジョンの中に入るからって、これは授業なんだから。ちゃんと学院側が安全対策をしてくれてるさ。なあアシュレイ?」

「ああ……そうだな」

 そう返事するアシュレイは、リオンほど露骨じゃないけど、唇がぎゅっと引き結ばれていた。

 

 いつもは王子様みたいに凛々しいアシュレイだが、やはり本来は女の子。ダンジョン探索はやっぱり怖いんだろうか。

 

 いや、いいぞ。だとしたら凄くいいぞ。

 こういうギャップはグッとくるものがある。

 

 それにこれはアシュレイの好感度を上げるチャンスかもしれない。

 せっかくだし、頼れる男をアピールして、さりげなく好感度を上げていこうじゃないか。むふふ。

「諸君、これより本日の授業を始める——」

 俺がそう決意を新たにしたところで、森の入口の側に立っている先生が口を開いた。

 それで生徒たちの間に広がっていたざわめきが一気に収まる。

 課外授業の担当教師は、少し厳しめの表情をしたガレット先生だ。

 鼻の下に蓄えた立派な口ひげが特徴の、ナイスミドルな先生である。

 彼は実戦魔法の教科を担当していて、噂によると魔法の腕前は相当なものらしい。

 ガレッド先生は鋭い目つきで生徒たちを見回すと、静かに言葉を続けた。

「お前たちはこれから魔物が出没する危険区域に入ることになる。授業とはいえ、軽率な行動一つが命の危険に直結する。気を引き締めるように——」

 その言葉に、生徒たちがごくりと唾を飲む音が聞こえた。

「課題内容はあらかじめ予告しておいたとおり、ダンジョン探索だ。諸君らには今から伝える目的地に向かってもらう。そこには、帰還《リコルディア》の魔法陣が設置してある。それに触れれば課題クリア。一番先に帰還した者には、報酬としてアルカナコインを一枚与えよう」

 来たぜ、コインゲットチャンス。

 よーし絶対にモノにしてやる。

 俺は拳をギュッと握りしめた。

「探索にあたりパーティーを組むか、ソロで行うかは自由。また、緊急脱出《エスケープ》の魔符を配るので、死ぬ前に使え」

 淡々とした説明の後、ガレッド先生は胸下のポケットから、懐中時計を取り出した。

「今から五分間、諸君らに時間を与える。探索の準備をしろ。はじめ——」

 先生の指示で、一斉に生徒たちが動き始めた。

 もちろん、俺は迷うことなく——

「アシュレイ、リオン。一緒に行こうぜ」

 いつもの二人に声をかけた。

「もちろんだ、グレイ」

「うん、頼りにしてるよ。グレイくん!」

 二人から快諾の声が返ってくる。

 これでパーティーメンバーは決定だ。

「時間だ、それでは順次森へ入っていくように——」

 準備時間はあっという間に過ぎ、ガレット先生の号令とともに、生徒たちは次々と森の奥へと踏み出していく。

 俺たちもそれに続き、霧が立ち込める森の中へと足を踏み入れた。

 

 

 

 森の中に入ると、辺りはさらに薄暗くなり、昼間とは思えないほどだ。

 そこら中に生えまくっている木々のせいで、見通しもかなり悪い。

 木と木の間を吹き抜ける風が、低く唸るような音を響かせていて、ぶっちゃけかなり不気味である。

 

「これがダンジョン……」

 

 俺の背後でリオンが息をのむ。

 気になって振り返ると、リオンは杖をぎゅっと握りしめているが、その杖先はかすかに震えていた。緊張しているのが一目でわかった。

 

「リオン、落ち着くために少し深呼吸しよう。大丈夫、君は一人じゃない。私もグレイもついているのだから」

 

 アシュレイは、そんなリオンに優しく声をかけた。

 その言葉に俺も乗っかることにする。

 

「そーそー、それにいざとなったら緊急脱出《エスケープ》を使えばいいんだし、気楽にいこうぜ」

 

 俺はそう言って、さっき先生から配られた緊急脱出《エスケープ》の魔符を取り出してひらひらさせた。

 魔符ってのは、特定の魔法が封じ込められたアイテムで、魔力を込めれば即発動できる。

 つまり、ヤバくなっても、これを使えばワンタッチでダンジョン脱出ってわけだ。

 

「そうだよね、うん。わかった……僕もパーティーの一員なんだから、足を引っ張らないように頑張るよ」

 

 それでリオンの顔色も少しだけよくなった。

 

「よし、グレイ、リオン。探索を始めよう。先鋒は私に任せてくれ」

 

 アシュレイはそう言うと、ローブの懐から、事前に配られた地図を取り出して、視線を落とした。

 

「森の入口はここ。そして目的地はここか……方角は北西……目印になるものは……よし、大体ルートは把握できた」

 

 アシュレイは地図を折りたたみ、俺達の方を振り返った。

 

「行こうか、二人共」

「おう」

「案内よろしくね、アシュレイくん」

 

 そして颯爽と歩き出すアシュレイ。

 だが、その歩き出した方角を見て、俺の足が止まった。

 

「アシュレイ……」

「なんだ?」

「いや……逆じゃね?」

「逆ってなにが」

「なにがって方角だよ。目的地の」

「……なに?」

 

 俺はアシュレイを呼び止めてから、手持ちの地図を広げ、一緒に覗き込む。

 

「ほら、見ろよ。北西はこっち……反対じゃん」

「あ、ああ、すまない。少し勘違いしてしまったようだ」

 

 アシュレイは軽く咳払いをして、気を取り直すように、再び歩を進めた。

 そしてしばらく進んだところで、二手に分かれる分岐路にぶつかった。

 アシュレイは迷いなく右の方を指し示す。

 

「間違いない、こっちだな」

「いや、待て待て待て! 反対! 左だって!」

「……む?」

 

 俺とアシュレイはまた地図を取り出して立ち止まり、ルートを確認する。

 

 その後も分岐にぶつかるたびに、おんなじことが繰り返された。

 アシュレイの選ぶ道は、ことごとく目的地と正反対の方向なのである。その都度、俺が正しいルートを指摘する羽目になった。

 

 アシュレイに対しては、聖母マリア並の無償の愛を注ぎつづけると決意している俺。

 

 だがダメだ。こればっかりは見逃せない。

 本人に指摘するしかねえ。

 

 俺はそっとリオンに視線を移す。

 リオンも、俺の意図を察したのだろう。なんとも言えない表情で俺のことを見つめ返していて、俺達は互いにうなずきあった。

 

「アシュレイ……あのさ……」

「なんだ?」

「お前、方向音痴なんだな」

「……!」

 

 俺が客観的事実を指摘すると、アシュレイの顔が赤くなった。

 

「な、なにをいうグレイ! そんなことはないぞ!」

「そんなことあるわ! もうこれで三回目だぞ!? むしろ二択の分岐でここまで間違いを選び取れるのは、逆に才能だわ!」

 

「ば、馬鹿な! 私は子爵といえどアストリッド家の人間だぞ! その私が道を誤るなど……」

「貴族とか関係ねえから!? 方向音痴は身分を問わないんだよ!」

「私はただ、地図の意味を解釈していただけで……」

「アホか!? 解釈してどうする!? 事実だけを読み取れよ!?」

「ぐ、ぐぬぬ……」

 

 アシュレイは頬を膨らませ、ふいっとそっぽを向いた。

 でも、その耳先がほんのり赤い。

 

「……た、確かに、昔から道を覚えるのは苦手だった、かもしれない……」

「ほらみろ! もういい、俺が先導するから! アシュレイ、お前は後ろだ!」

「仕方ない……私はしんがりを任されたと思うことにしよう」

 

 そう言ってしょんぼりしながら後ろに回るアシュレイ。

 

 どうやら、方向音痴の事実は彼女にとって、かなりの屈辱だったらしい。

 

 いやいや、そこまで気にしなくていいだろ……

 

 俺は内心そう呆れつつも、いつもの王子様然とした雰囲気とは違う……なんというか可愛らしいアシュレイの姿を見ることができて、ちょっとだけ嬉しかった。

 

 ***

 

 俺が先導してからというものの、探索は劇的にスムーズになった。

 

 それもそのはず。

 だって、このダンジョンの構造、出てくるモンスターの種類、攻略ルート……俺はぜんぶ知ってるのだから。

 

 この森は、原作ゲーム『アルカナクラウン』に、登場するダンジョンだ。

 通称、迷いの森。

 学院の一番近くに存在するダンジョンで、ゲーム序盤に、システムの基本を学ぶためのチュートリアルダンジョンという位置付け。

 だから、難易度は低いし、迷いの森なんて名前に反して、マップ構造もシンプルだ。

 

 出現するモンスターは、植物系の魔物がメイン。

 だから火属性の魔法を使えば、苦戦することなく撃破できる。

 

 これぞ原作知識チート。

 ふふふ、ちょっとは悪役転生モノらしくなってきたじゃないか。

 ……なんてメタいことを考えながら、ニヤニヤする俺。

 

「……なんかグレイくん、余裕そうだね」

「え、そうか?」

 

 そんな俺のニヤけ顔にリオンが気づいたのか、声をかけてきた。

 

「うん、さっきから地図も見ないでスタスタ歩いてるし……まるで目的地を知ってるみたい」

「まあ……目的地までのルートはカンペキ頭に入ってるから、安心してくれ」

「それほんと!? さっき地図を配られたばっかりなのに!? あんな短時間で道を覚えたの!?」

 

 リオンは驚きの声をあげる。

 

「流石だねグレイくん!」

 

 そんな反応に、ますます気を良くしてしまう俺である。

 

「まあな、昔から道を覚えるのは得意なんだよ。()()()()と違ってな?」

 

 調子にのった俺は少しイジワルな言葉を、アシュレイに投げかけてみた。

 

「いいさ、笑うがいい。道を間違えた者には、もう正しさを語る資格などないのだから」

「すねるなよアシュレイ。冗談だって」

「つーん」

「どんなヤツにも弱点はあるもんだろ? 完璧人間よりそっちのほうが親しみが湧くし……」

 

 そんなやり取りを聞いていたリオンが吹き出す。

 

「グレイくんがいると、安心だね」

「まあな、今回の課題は俺に任せとけ。最短ルートで安全にゴールしてやる。アルカナコインはいただきだ」

 

 俺は二人を鼓舞するように肩を叩き、さらに奥へと進んでいった。

 

 

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