乙女ゲー世界の悪役貴族に転生した俺は如何にして絶望するのをやめて隠しヒロインの男装令嬢を堕とすことになったか   作:三月菫

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第15話 ドキドキ!?エンカウント

 さらにダンジョンを進むことしばらく。

 記憶にしたがい、分かれ道を右へ進み、その先の大きな木の根の隙間をくぐったところで——

 

 がさり。

 前方から、木のざわめきとは明確に異なる、何かの物音が響いた。

 同時に視界の先で何かが動く。

 

 足を止めて身構える俺たち。

 

「くるぞ……たぶんモンスターだ」

 

 俺が背後の二人に声をかけると、ごくりと息を呑む音が聞こえた。

 

 次の瞬間、草むらの奥から黒い影が飛び出してきた。

 俺達の行く手を塞ぐように、大きな植物型のモンスターが立ちはだかる。

 

「ツタクラーだ!」

 

 俺は反射的にその名前を叫んだ。

 

 その見た目は、でっかい食虫植物みたいな感じだ。

 肉厚な葉のような本体の中心には大きく裂けた口があり、中からは粘ついた液体が糸を引いている。

 

 これは……消化液か? 

 飲み込まれたとしたら、いやな予感しかしない。

 そして、厄介そうなのが、体から伸びた二本の長いツタ。

 俺たちの動きを見定めているみたいに、ウネウネとうごめいている。

 

 これも、触ったらやばい奴だな。

 触手系エロ同人みたいな目に合わされたら目も当てられない。

 

 というわけで、先手を打って、速やかに排除するのが正解である。

 

「で、出た……! 本物のモンスターだ……!」

「敵は一体、慌てずに対処すれば大丈夫だ!」

 

 リオンとアシュレイの緊張した声が耳に響く。

 ちらりと肩越しに二人を見て、俺は不敵に笑った。

 

「ここは俺に任せてくれないか?」

「……え?」

 

 二人は一瞬、きょとんとしたような顔で俺を見た。

 俺はすぐにツタクラーのうねるツタに意識を戻す。

 落ち着いた声で告げた。

 

「ツタクラーは植物系モンスター。炎に弱いんだ」

 

 俺はローブの懐からそっと杖を取り出す。

 

「アシュレイ、リオン、見ててくれ。学院一の劣等生、グレイ・ブラッドレイの努力の成果を——」

 

 杖を眼前に垂直に構えて、深く息を吸い込み、集中する。

 体内のマナを練り上げ、それに指向性を与え、炎の属性へと変換。

 それを杖先に集束させると、熱が立ち上り、空気が揺らめき始めた。

 

 危険を感じたのか、ツタクラーが動く。

 ツタを大きく振り上げようとした。

 

 だが、もう遅い。

 燃え盛る力が一点に収束し、やがて、臨界点を迎えた。

 

「――燃え尽きろ。《アルデオ(Ardeo)》!」

 

 俺がそう詠唱した瞬間、杖先から赤々と燃え盛る炎球が放たれる。それは一直線にツタクラーへと突き進んだ。

 

 炎球はツタクラーに直撃。

 一瞬にしてその体が炎に包まれる。

 激しく燃え上がる炎の中で、ツタクラーはのたうち回るように暴れるが——すぐに力を失い、その場に崩れ落ちた。

 

 戦闘終了……うん、思ったよりあっさりだ。

 

 俺はくるりと振り返り、満面の笑みで一言。

 

「いやぁ、どうよ? 俺の華麗なる炎魔法!?」

 

 リオンは目を丸くしていた。

 

「グレイくん、いつの間に……? ルークスもできなかったのに……」

「ふふふ、リオンくん。貴族の間では、『男子、三日会わざれば刮目(かつもく)して見よ』という格言があるのだよ。覚えておくがよい」

「え、なにそれ……」

「いやなんでもない。戯言だから気にしないでくれ」

「でも、でもホントにすごいよ! グレイくん!」 

 

 アシュレイも驚いたように一歩前へ出た。

 

「グレイ、その魔法は……」

 

 俺はアシュレイの顔を見つめてから、肩をすくめて笑う。

 

「ああ、前にセルヴィスの取り巻きに絡まれたとき、これ使われただろ? また絡まれたとき、今度は俺がお返ししてやろうと思って、ずっと練習してたんだよ」

 

 俺がそう言うと、アシュレイが感激したように俺の手をぎゅっと握ってきた。

 

「すごいぞ、グレイ!」

「え? わ……」

 

 手、柔らか!

 あとめっちゃいい匂い!

 アシュレイの予期せぬ急接近に、俺の心臓がバクっと跳ねた。

 

「すごい、すごいぞ! グレイ! 信じられない速さで魔法が上達している!」

「ま、まあな。俺って意外と頑張る男だからね」

「何言ってるんだ。意外とじゃない。君はすごく頑張る人間だ! 君の努力を側で見続けてきた人間として——本当に自分のことのように嬉しいよ!」 

 

 アシュレイはそう言って、キラッキラに輝く瞳で俺を見つめてくる。

 

(は、反則だ! その顔——!)

 

「は、ははっ! ま、まあな! やればできる子なんだよ俺は! この後もモンスターは俺がまとめて薙ぎ払ってやるから、安心しろ! はーっはっはっはっ!」

 

 俺はアシュレイのせいで、バクバクになった心臓を誤魔化すために、勢いよく笑った。

 

 

 その後も俺たちは順調にダンジョンの中を進んでいった。

 迷いの森は、所詮はチュートリアルダンジョン。

 ルートを知り尽くした俺にとっては楽勝だった。

 途中、何度かモンスターと遭遇(エンカウント)したものの、俺の炎魔法で瞬殺。

「燃〜えろよ燃えろ〜よ、炎よ燃〜えろ〜――はーはっはっはっ!」

 調子にのって必要以上に炎魔法を連発する俺。

 そんな俺を諫めるように、アシュレイが話しかけてきた。

「グレイ、少し魔法の発動を控えたほうがいい」

「え? なんでよ?」

「あまり調子にのって連発してると、魔力切れになるかもしれない」

「固いこというなって。さっきは俺の魔法を褒めてくれたのに」

「それとこれとは話が別だ」

「アシュレイは心配性だなあ。大丈夫、大丈夫。どうせあとちょっとで目的地だし。それに万が一俺が魔力切れになっても二人がいるだろ?」

「まったく……君はかなりのお調子者だな」

 アシュレイは呆れたようにため息をつきながらも、その口元には小さな笑みが浮かんでいた。そんなアシュレイのツッコミに、リオンもクスッと笑う。

「実際、最初よりずっとスムーズに進めるようになったよね」

「そのとおりだぜリオン。俺達の連携はバッチリ。ダンジョン探索恐れに足らずだぜ」

 俺の言葉どおり、アシュレイもリオンもダンジョン探索に慣れてきたのか、最初の頃のおっかなびっくり緊張した雰囲気はすっかり消えていて、俺たちは肩の力を抜いてダンジョンを進んでいった。

 それからしばらくして……

「おっ、たぶんここだぞ二人とも」

 

 俺たちは、目的地とおぼしき場所に到着した。

 けもの道の奥にある、行き止まりの広場で、木々の壁に囲まれた、直径十メートルくらいの空間。

 

 地面には踏み固められた土が見え、中心にはぼんやりと魔法陣が輝いている。

 露骨に「ここがゴールですよ」と言わんばかりの場所だった。

 俺たちは魔法陣の元まで歩み寄る。

「……間違いなくこれだな。帰還(リコルディア)の魔法陣は」

 ここに触れれば、ダンジョンの入り口まで転送される。

 それが今回の課題のクリア条件だった。

 リオンが辺りをきょろきょろと見回してから口を開く。

「僕たちが一番乗りかな?」

「ああ。ここまで来るのに、まだ三十分も経ってない。グレイの的確な先導のおかげだ」

「だね!」

 リオンとアシュレイが顔を見合わせて笑いあった。

 

「ふはははは、そうだろう、そうだろう! もっと我を褒め称えよ!」

 

 二人に褒められ、ついつい調子に乗って高笑いが出てしまう。

 そんな俺のことをアシュレイが苦笑し、リオンもクスクスと笑っていた。

「じゃあ、さっさとクリアしちまおう、二人とも」

 そう言って、俺が魔法陣に手を伸ばした、そのとき――

「待て」

 低く響く声が、背後から届いた。

 反射的に手を止め、俺たちは振り返る。

 そこに立っていたのは、一人の男子生徒だった。

 そいつは、紫色の長髪を緩やかに後ろで結び、鋭い目つきで俺たちを見据えている。

 いうまでもなくイケメンだ。

 俺はそいつの顔に見覚えがあった。

 あー……誰だっけコイツ。

 たぶん原作アルクラのメインキャラクターだ。

 俺のその直感を示すように、そいつの背景には、紫色のバラの花がうっとおしいくらいに咲き誇っている。

 

 えーと、確か名前は……

 「シチュアート、様……」

 俺が思い出す前に、アシュレイが呆然とした声で、その名前を呟いた。

「え?」

「ギャリー・シチュアート……この方は、第二王子だ……この国の……」

「ギャリー……第二王子……」

 その名前を聞いて、俺ははっきりと思い出した。

 そうだ、ギャリー。

 アルカナ原作に、確かそんな感じのキャラがいた気がする。

 アシュレイが語ったように、確かにこの国の王子とかいう設定だった気がするわ。

 確か、攻略対象の仲間キャラだよな?

 えーと、どんなヤツだったっけ……?

 

「まさかこの俺より早く目的地(ここ)まで到着するヤツがいるとは思わなかったぜ——」

 そのキャラ設定を思い出すよりも早く、ギャリーが口を開いた。

「よほど運がよかったのか、それとも何か汚い手口を使ったのかは知らねえが。まあいい、誉めてやる」

 ギャリーはそう言ってゆっくりと髪をかき上げ、俺達を値踏みするようににらみつける。

 奴のその態度で思い出した。

 あーコイツ、典型的な俺様タイプのキャラだった気がする。

 妙な絡まれかたをする気配をムンムンに感じた俺は、大きなため息をついた。

「えーと、残念でしたね王子様。あなたもコインを狙っている口でした? 悪いけど、今回は俺達の勝ちってことで……」

「怪我をしたくなかったら、そこから一歩も動くんじゃねえ」

「あん?」

「アルカナコインは、俺のものだ」

 ……何言ってんだこいつ?

 後から来といて、いきなり偉そうに命令とか。

 ジャイアンでもそこまで理不尽じゃねーぞ。

「あのさあ、俺達より後に到着したくせに、なに偉そうにほざいてんの?」

「お前らのような下級貴族がコインを集める必要などない。アルカナクランはこの俺にこそ、ふさわしい」

「いやいやいや……」

 なんだよその超理論。

 あまりにも身勝手なギャリーの言い口に、俺は怒るというより、呆れてしまった。

「あのね、コインがほしけりゃ俺達より先に到着すりゃよかっただけでしょうが。それを横取りとか、情けないと思わないの? 王子様は知らないかもしれないけど、世間ではそんなワガママ聞いてくれるのはお母さんだけだよ?」

「ぐ、グレイくん……あわわ…」

 リオンがオロオロと俺の袖を引っ張るが、軽口は止まらない。

「まさか自分が王子様だからって、俺らが大人しく言うこと聞くと思ってる? だとしたらアンタの頭の中、そうとう、おめでたいよ? そんな頭で国の統治なんてできるわけがないでしょ。これを機に考えを改めてみよ? 大丈夫、皆、間違いは犯すものだから。問題はそこからどうやって成長するか——」

「黙れ」

 ギャリーは俺の言葉を遮ると、ローブの懐から、自身の杖をスッと引き抜いた。

「《束縛(インペンディス)》——」

「——!?」

 詠唱と共に、ギャリーが軽く杖を振るう。

 瞬間、その杖先から紫色の閃光が、俺たちめがけて奔《はし》った。

「はや——っぶねえ!」

 俺は咄嗟に横っ飛びで回避。

 魔法の放射速度があまりに早くて、自分で避けるだけで精一杯だった。

 すぐに身を起こして、アシュレイとリオンの無事を確認する。

「二人とも——あっ……!」

 視線の先で、アシュレイの足元に魔法陣が広がり、そこから紫の光がうねるように立ち昇り、イバラのような光が絡みついていた。

 アシュレイのそばでは、リオンが尻もちをついたまま、アシュレイを見上げていた。

 その光景を見て、俺は状況を察する。

 アシュレイはきっと、リオンをかばって、魔法をくらったんだ。

「アシュレイ! 大丈夫か!?」

「あ、ああ……だが……くっ……! 動け、ない……!」

 アシュレイは、イバラの拘束から逃れようと、必死にもがく。

 しかし、まるで鉄の鎖に絡め取られたかのようにびくともせず、その場に縛り付けられてしまっていた。

拘束魔法(インペンディス)——俺が解除しないかぎり、お友達はここから一歩も動けない」

 ギャリーの冷たい声が響く。

 俺はギリッと歯を噛みしめ、ギャリーを睨みつけた。

「てめえ……!」

「さあどうする? お友達をここに残して帰るってんなら、好きにしろ。解除してほしいなら……その魔法陣から今すぐ離れろ」

 大切な存在を傷つけられた俺の中に、怒りの炎が燃え上がる。

「ぶち殺す——」

 そう口ずさむと同時に、俺は右手のひらを上にかざした。

 出し惜しみしねえ。

 最初から全力だッ!

「巡れ! ファンタジア!」

 俺は固有魔法《ユニークスペル》、幻造魔法《ファンタジア》を発動した。

 脳内にイメージした武器は、次元をも分断するとうたわれる、最強の魔剣レーヴァテイン。

 チート武器の一撃を、そのいけ好かない顔面に叩き込んでやるッ!

 覚悟しやがれ!!

 レーヴァテイン、幻造——!!

 ……

 しない。

「あれ?」

 レーヴァテインは精製されず、俺は空っぽのままの手のひらをぽかんと見つめる。

「なんで?」

 予想外の事態に、俺の脳内には焦りの鐘が鳴り響いた。

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