乙女ゲー世界の悪役貴族に転生した俺は如何にして絶望するのをやめて隠しヒロインの男装令嬢を堕とすことになったか 作:三月菫
俺の仲間のことを傷つけた、勘違いウンコ王子、ギャリー・シチュアート。
ヤツを叩き潰すために、発動した俺の
だが、なぜか俺はその発動に失敗してしまった。
「ファ、ファンタジア——!!」
もう一度、イメージを固めてファンタジアを発動する。
だけど結果は同じだ。
うんともすんとも反応がない。
「なんでだよ!? 固有魔法《ユニークスペル》が発動しねえ!」
「グレイ……! きっと魔力切れだ……!」
俺の異変を察したアシュレイの声が、背後から届いた。
「魔法を連発しすぎたんだ! 消費魔力が多い魔法は発動できないんだ……!」
「魔力切れ……マジで? このタイミングで?」
俺は思い返す。確かに、道中出くわす雑魚相手に、調子にのって《アルデオ》を連発した。
したけどもさ!
所詮、《アルデオ》なんて、炎属性の初歩魔法じゃねーか。
それをちょっと連発したぐらいで魔力切れって……
くっそお、グレイ・ブラッドレイ!
最近調子よかったから、お前が学院一の落ちこぼれキャラだって設定を忘れてた!
魔力量が少なすぎだコノヤロー!
「どうした、こないのか? ならこっちからいくぜ?」
冷や汗ダラダラの俺と対象的に、ギャリーは不敵に笑いながら杖を掲げる。
「ちょ、ちょっとタンマ——」
「《テラ・グラディス》——!」
「ですよねー!?」
ギャリーの杖が振られた瞬間、轟音と共に地面がひび割れ、俺の足元が突き上げられる。
「っぶねぇ!!」
反射的に飛び退いた瞬間、更に着地先地面から鋭い岩の刃が生えた。その攻撃も全力で横っ跳びして回避する。
ギャリーは次々と俺の足元に狙いを定めて、魔法を使ってきた。
(やばい、足の踏み場がなくなる……!)
ヤツが発動したのは土属性魔法。
その狙いは俺を攻撃するだけじゃない。
逃げ道をなくす気だ。
俺は一度大きく跳び退き、ギャリーとの距離を広げる。
足元を削りきられる前に、その動きを見極めるしかない。
相手の出方を慎重に見極めながら、呼吸を整えた。
「さあ、どうする? どんどん逃げる場所がなくなるぞ?」
そんな俺に対して、ギャリーは余裕たっぷりの笑みを向けてくる。
くっそ、腹立つ……!
そのスカした面をグチャグチャにしてやりたい!
だがどうすりゃいい?
魔力切れのせいで、固有魔法《ユニークスペル》でチートアイテムを精製することはできない。
消費量の少ない一般魔法《コモンスペル》なら、後何発かはいけるかもしれないけれど、俺の使える魔法なんて、《ルークス》と《アルデオ》、あとは戦闘では頼りになりそうもない日用魔法だけだ。
それでも悩んでいる時間はなかった。
とにかく反撃を。
俺はギャリーを中心に弧を描くようにして地を駆ける。
懐から杖をとりだした。
「《アルデオ》——!」
俺は走りながら、《アルデオ》を発動。
俺の杖から放たれた火球は、まっすぐ飛ぶのではなく、空中でうねるように軌道を変え、ギャリーへと迫った。
これはこの間の授業で習った魔法の応用技術――魔法の軌道変化の術式を加えたものだ。
直線攻撃なら簡単に読まれるが、変則的な動きならどうだ!
「無駄だ」
だが、ギャリーは微塵も動じることなく、スッと杖を振る。
「《
瞬間、ギャリーの全身が淡く輝き、その体を取り巻くように半透明の魔力の壁が展開される。
俺の放った火球が、光の壁に触れた瞬間、まるで霧のように消滅した。
「……ッ!」
手応えゼロ。
まるで何事もなかったかのように、ギャリーは余裕の笑みを浮かべる。
「もう詰んでいるということが、分からないのか? 流石は落ちこぼれのグズだな」
「……わからないね。まだまだ俺の力はこんなもんじゃないし」
俺は内心の焦りを隠すため、精一杯の軽口を叩く。
そんな俺のことを、ギャリーは見下した。
「グレイ・ブラッドレイ……」
「なんだよ、俺の名前知ってたのか。光栄だね王子様」
「いつだかお前は言っていたな? アルカナクラウンを目指すと」
「ああ目指してるぜ。目指しちゃ悪いか?」
「アルカナクラウンの称号は——お前みたいな何の覚悟も決意もないクズが目指していいものじゃない」
「んだと?」
「俺は……この国の王——頂点の存在となるべくして、生まれた人間だ」
ギャリーはふと視線を落とし、一瞬だけ何かを思案するような素振りを見せる。
しかし、すぐに鋭い目を俺に向け、冷ややかに言った。
「背負っているものも、これまで積み上げてきたものも、お前らとは違う。俺は——」
そして始まるギャリーの自分語り。
長かったんで端折るけど、この国の第二王子として、跡目レースを勝ち抜くために、アルカナクラウンをとるのは必須だとかなんとか。
それに加えて、なんか親父や兄弟との確執もあるっぽい。
死ぬほど、どーでもいいわ。
誰も野郎の自分語りに興味はないんだよ。
「——わかったか? お前のような、何も背負っていないクズに、ただ気まぐれで
長い自分語りを終えたギャリーは,鋭い瞳で俺のことを睨みつけた。
俺も負けじと睨み返す。
「覚悟も決意もないって決めつけんじゃねえよ。俺だって、俺なりの理由があって、アルカナクラウンを目指してんだから」
「お前のような怠惰なクズが、何を背負っているとでも?」
ギャリーは軽蔑に満ちた目で俺を見下ろした。
俺はぐっと拳を握る。
何を背負ってるかだと?
何もわかってねえくせに、ふざけんな。
「俺の背負っているものは、もっと重いんだ……」
そもそもお前が背負ってる重荷なんて、所詮、貴族っていう、生まれつき決められたレールの中のもんじゃねえか。
俺は違うぞ。
俺はな……
BL世界に転生したんだ!
わかるか!?
ボーイズラブだぞ!?
せっかくイケメンに生まれ変わったのに!
女の子とつきあいたいのに!
チュッチュしたいのに!
肝心のその女の子がいねえ!
代わりにタケノコみたいにニョキニョキ生えてくるのは、めまいがするくらいのイケメンだ!
いい加減にしろ!
十分重すぎる運命なんだよ!!
それでも俺は、自分の人生に絶望してない!
女の子と付き合うために、たった一つの
アシュレイとのノーマルエンドという名の未来に向かってな!
「俺は、自分の運命すらぶっ壊して、欲しい未来を掴むって覚悟を背負ってんだ! 決められた道を歩くだけのテメエに、俺の背負ってるもんの重さはわからねえだろうな!」
俺は気づけば、そう叫んでいた。
「どうやらここで死にたいらしいな……」
ギャリーの顔から余裕の笑みが消えた。
代わりに、張り詰めた静寂のような冷たい怒りがその瞳に宿る。
「そんなに死にたいのなら、見せてやる。選ばれし人間が持つ、本物の力をな——」
凍てつくような視線をまっすぐ俺に向けながら、ギャリーは手にしていた杖を一度懐にしまう。
そして代わりに、ゆっくりと手のひらを上に掲げた。
瞬間——周囲の空気が張り詰め、まるで世界そのものが震えたような錯覚を覚えた。
俺は直感で感じる。
「来る、固有魔法《ユニークスペル》……!」
◇
「来る、固有魔法《ユニークスペル》……!」
無意識のつぶやきとともに、俺の背筋に、鋭い針を突き立てられたような悪寒が走る。
本能が、すぐにここから立ち去れと、全力で警鐘を鳴らしていた。
だが本能の叫びを意思の力でねじ伏せる。
「我が手に来たれ、
詠唱と同時に、ギャリーの手のひらに光が収束する。その輝きは徐々に形を持ち、一本の剣となった。
「——剣を、精製した……?」
俺と同じ幻造魔法《ファンタジア》?
一瞬そう思って、すぐに違和感を覚える。
剣身はまばゆい白光を放ち、まるでRPGのクライマックスで、勇者が掲げる伝説の剣みたいなオーラをまとっていた。
違う、ただの模造品《レプリカ》じゃない。
そんな生やさしいものじゃなくて、あれは、本物の——
「この俺に対して、あれだけ減らず口を叩いたんだ——」
ギャリーが光剣の柄を握ると、その周囲の空気に、一気に殺気が張り詰める。
「少しは楽しませてくれよ?」
ギャリーはそう呟いてから、その剣を振るう。
次の瞬間、轟音と共に光が生まれた。
凄まじい衝撃が俺の体を襲う。
「ぐ、あッ!?」
体がふっとばされて、背後の木にぶち当たった。
胃の中を全部ひっくり返してしまいそうな衝撃に、意識が一瞬持っていかれそうになるが、すぐに踏ん張って立ち上がる。
ギャリーは視線の向こうで、次の一手を繰り出そうとしていた。
なんだこの威力……!?
ヤバい……!
あんな攻撃を喰らい続けたらあっという間に……!
とにかく反撃しないと。
俺は慌てて杖を振り上げようとした——が、その瞬間、奇妙な違和感が走った。
「……嘘だろ?」
視線を落とすと、そこにあったのは、根本から真っ二つになって、頼りなくぶらさがる俺の杖だった。
杖がへし折られてしまった!
これじゃあ魔法のほとんどが使えない。
どうする? どうすればいい!?
焦りに飲み込まれそうになったそのとき——
「グレイくん! ヘビだ!」
「……へ?」
背後からリオンの叫び声が飛んできた。
「《幻造魔法《ファンタジア》》で、ヘビを作るんだッ!」
あまりにも唐突だったその言葉。
一瞬理解が追いつかない。
だが、その言葉をきっかけに、脳裏を駆け巡る記憶——
それは前世で姉ちゃんから、一方的にアルカナの推しトークをされているときだった。
——このギャリー・スチュアートってキャラが推せるのよ〜! 最初は自己中で傲慢な嫌なヤツなんだけどね、素直になれないだけで、本当はすごく純粋でまっすぐなヤツで……
——ねえ、ちゃんと聞いてる? それにギャリーには可愛いところがあるのよ、この子は子どもの頃のトラウマでね……
そうだ、思い出した。
俺はとっさに折れた杖を投げ捨てると、すぐさま右手のひらを地面に添えて、残っている魔力のありったけをつぎこむ。
「巡れ、ファンタジア——!!」
固有魔法《ユニークスペル》、詠唱。
そして魔法の発動と共に、俺の手のひらを中心にまばゆい光が生まれた。
そして光の中から生まれたのは……
地面を這いずり回る、ヘビの大群だった。
その光景を見たギャリーの動きがピタリと止まる。
一瞬、自分の目を疑ったようにまばたきし、そして——
「へ、ヘビぃ!?」
さっきまでの殺気と威圧感はどこへやら。
情けない声を挙げて、あからさまに足を引いた。
その顔面は真っ青、剣を握る手はガタガタと震えている。
「あれえ、どうしました……? 顔色悪いっすよ王子様?」
俺が意地悪く言うと、ギャリーはぎりっと歯を噛みしめた。
「き、貴様、なにを考えている……!? 戦いの最中にッ……!」
強気な言葉とは裏腹に、ギャリーの声が震えていた。
そこにさっきまでの冷徹な殺気も、自信に満ちた傲慢さもない。
「王子様、ヘビが怖いんスよね?」
「ば、馬鹿な……! 俺はこんな……こんなもので……! ひっ、く、来るんじゃねえ!」
必死に否定しようとするが、その足はじりじりと後退している。
「ふ、ふざけるな! 早くそいつを消せえッ!」
「消すわけないでしょ」
俺は勝ちを確信して、底意地の悪い笑みを浮かべる。
「さあヘビ共、あのいけすかねえクソ王子めがけて突撃だ——」
そして、まっすぐギャリーに向けて指さした。
「ヘビィにいけえ!!!」
俺の号令と共に、幻造魔法《ファンタジア》で生み出したヘビのイメージは一斉に這い出して、ギャリーの足元に迫る。
ヘビの群れは音もなく広がり、そのままヤツの足に巻きついていった。
「ひいいいいいいいいいッ!」
ギャリーが叫び声をあげる。
その瞬間、彼の体から力が抜け、ガクガクと震えながら地面に崩れ落ちた。
ヤツが手にしていた
魔法は精神の強さに依存する。
ヘビの恐怖で精神が折れた今のギャリーに、もはや魔法を使う余力はないということだろう。
ならば——やるべきことは一つ。
「終わりだな、王子様」
「汚いぞ……汚いぞ! ブラッドレイ!」
ギャリーの負け惜しみの言葉に、俺は軽く肩をすくめる。
ニヤリと笑って、拳を固く握りしめた。
杖も折れて魔力もすっからかん。魔法はもう使えない。
それでも俺は抵抗するぜ?
拳で。
地面を駆け、ヤツの懐に飛び込む。
「くらえ、クソ王子! 鉄拳パーンチ!!」
勢いそのまま、全力パンチをギャリーのボディーにぶち込んだ。
「がはあッ!」
クリーンヒット。
衝撃に体をくの字に折らせながら、ギャリーはその場に崩れ落ちた。
「……卑怯、者め……」
「ありがとう。最高の褒め言葉だぜ」
ギャリーの首がガクッと力なく垂れた。
決着の瞬間である。