乙女ゲー世界の悪役貴族に転生した俺は如何にして絶望するのをやめて隠しヒロインの男装令嬢を堕とすことになったか   作:三月菫

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第33話 快進撃!

 

 初戦の相手、クラッソスを難なく突破した俺。

 その後も快進撃は続く。

 

「はい、おしまいっと」

「ぐ、ぐぬぬ……降参だ」

 

「これで詰みっすね」

「ありえない……! この私が……! こんな……!」

 

「へいへーい」

「おまえは いった……い な……にもの……ウボァー」

 

 ……というか同じことの繰り返しなのだ。

 

 セルヴィスが集めた代理人たちは、クラッソスと同じく、「疾風の〜」だの「深淵《アビス》を覗きし〜」だの、いちいち大層な二つ名がつく。

 

 その二つ名が、これまた()()()()()()のだ。

 要はそいつが得意とする属性の魔法と二つ名が結びついている。

 

 だから、俺がとった作戦はとてもシンプル。

 

 まずは二つ名から相手の得意魔法を推測。

 そして予測どおり、相手がその魔法を使用してきたら、その魔法に対して、有利属性を持つ魔法を、ありったけの魔力をぶち込んで発動する。それだけ。

 

 そうすれば、こっちは無傷、相手は即退場。

 これ以上ないくらい効率的な戦い方だ。

 

 二つ名なんて、派手に飾ったところで、結局中身がバレバレじゃ意味がない。

 というか、なんだろう、この世界の常識はこういうものなのだろうか?

 

 属性という相克する概念があるのに、それをまったく活かそうとせずに、ただ自分の得意魔法のゴリ押しで戦うなんて。あまりに戦いのレベルが低いと思う。

 そのおかげで、こうして勝ち上がれてるわけだから文句はいわんけどさ。

 

 まあ、多分固有魔法(ユニークスペル)が使えれば、また話は違うんだろうね。

 でも、そもそも固有魔法(ユニークスペル)を禁止してきたのはあっちだし。仕方ないね。

 

 とにかく、俺はどんどんセルヴィスの揃えた代理人を破っていき、気がつけば残りあと一人だ。

 

「ば、バカな……バカなバカなバカな……! 僕の最強の代理人たちが、こんなに……!」

 

 セルヴィスが半ば取り乱したように叫んだ。

 しかし、その叫び声をかき消すように、観客席からは俺への声援が湧き起こっていた。

 

「いいぞーブラッドレイ!」

「やれやれー!」

「これで四連勝だッ!」

「公爵貴族をぶっつぶせー!」

 

 ——いつの間にか、完全に俺が応援される側になっている。

 

 考えてみたら当然か。五人がかりでかかってきた代理人たちを、たった一人で次々撃破するなんて、普通に考えれば熱い展開だろうし。

 それに観客席に詰めかけてた観衆の大半が一般庶民だ。貴族同士の決闘とはいえ、いけ好かない態度の公爵貴族が一方的に叩きのめされて地団駄を踏む展開なんて、スカッとするに決まってる。

 

 とにかく、これで残る相手はあと一人。

 俺はそいつに視線を移した。

 

 俺の視線を受けて、壮年の魔術師がゆっくりと立ち上がる。

 長身の身体に、使い込まれて色褪せた黒のローブを羽織った、一見するとちょっとみすぼらしい風貌。

 しかし、その男は、これまでの代理人たちとは一線を画す、研ぎ澄まされた気配をまとっていて、 鋭く光る碧眼は、まるで戦場を渡り歩いた老練な狩人のそれだった。

 

 こいつはなかなか手ごわいかもしれない。

 俺はそんな直感を抱く。

 

 セルヴィスが用意した最後の代理人。

 ええと、名前は確か……。

 

「え、エドワルド!! もうあとが無いぞ!」

 

 そう、エドワルドだ。

 肩書は確か……北方最強だっけ?

 さてさて、その最強の肩書は伊達《だて》なのか。

 

「き、貴様、万が一にもあのクズに敗北するなんて、絶対に許されないからな! クソッ! こんなことになるなんて! せっかく大枚はたいて準備したというのに! どいつもこいつもクズばっかりだッ!!」

 

 視線の向こうでは、セルヴィスが汗をだらだら流しながら、エドワルドに向かってまくし立てていた。

 だが、エドワルドはそんなセルヴィスに取り合わず、落ち着き払った態度で俺を見据えている。

 

「焦ることはありません、セルヴィス殿。一般魔法《コモンスペル》といえ、あれだけの高威力の魔法を連戦で放っているのです。いかにこの少年が異能でも、魔力の底が見えつつある——」

「ど、どういう意味だ?」

()()()()()()()()()()()です。御覧なさい、あの少年の様子を。平然を装っているようですが、肩で息をし、顔色もすぐれない。間違いなく魔力切れを起こしかけている。つまり()()()()()()()()()()()()()()()

 

 エドワルドの言葉に、セルヴィスはわずかに息を吹き返す。 だがそれと同時に、興奮したように怒鳴った。

 

「能書きはいらん! 何でもいいから絶対に勝て! これでもし勝利を逃したら許さんからなッ!」

 

 それを聞いたエドワルドは、少しだけ困ったように眉をひそめたが、すぐに無言で頷くと、俺の前へと歩み出た。

 俺は肩をすくめて、エドワルドに苦笑まじりに言葉を投げかけた。

 

「いやあ、あんたも大変だねえ、エドワルドさん。雇い人が癇癪持ちときたもんだから」

 

 エドワルドもつられるように小さく笑う。

 

「グレイ・ブラッドレイ。まずは、ここまで善戦したことを称えよう。だがここからが本番だ。我が魔道に、全霊で応えてもらう」

「何言ってんの、カッコつけちゃって。俺は耳がいいからさ、オタクとセルヴィスの会話、全部筒抜けだったよ? 要は俺が魔力切れを起こすのを待とうっていうコスい作戦だろ?」

 

 俺はエドワルドの言葉に軽口を返しつつ、杖を構える。

 

「——まあいいさ。どいつもこいつもバカのひとつ覚えで得意魔法を放つだけ。いい加減、雑魚すぎてうんざりしてたわけ。その点アンタは、ちょっとは楽しませてくれるってことでいいんだろうな」

「……ゆくぞ」

 

 先に仕掛けたのはエドワルドだった。

 

 ヤツは杖を持っていなかった。

 代わりに、空の両手をゆっくりと掲げる。手のひらを俺に向けるようにして。

 

 その手のひらから、淡い光がじわりと滲み出していくのが見えた。

 

「火精《サラマンダー》、水精《ウィンディーネ》、土精《ドリアード》、風精《ジン》、全ての原初に命ず――輪となりて世界を震わせよ——」

 

 詠唱と同時に、手のひらの光は強く輝き出し、濁流のように渦巻いていく。

 

「なるほど……考えたね。エドワルドさん」

 

 エドワルドが使ったのは、間違いなく()()()()だ。

 その名の通り、複数の魔法を同時に操り、ひとつの大技に仕立て上げる高度な術式のことだ。

 当然、そんな芸当をやるには、並外れた。技術と魔力量が必要になる。俺もまだ合成魔法は使えない。

 

 つまり——エドワルドは、これまでの連中とは格が違うってことだ。

 

「これで弱点属性を突くことはできない。さあどうする?」

 

 エドワルドは、自身が生み出した大きな魔力の濁流に包まれながら、不敵な笑みを浮かべていた。

 

「……だったら、真正面からぶつかるだけだね」

 

 俺はにやりと笑い、杖先をエドワルドへと向けた。

 それから、腹の底から魔力《マナ》をかき集め、ありったけを杖に流し込む。

 杖先に光が宿り、音もなく鋭く、輝きを増していった。

 

「受けてみよッ! 我が力——!」

 

 エドワルドが両手を振り下ろした瞬間、空気を裂くような轟音とともに、魔力の奔流が一直線に俺に向かって放たれた。

 

「受けて立つッ!」

 

 同時に、俺も迷わず杖を振り下ろす。

 瞬間、純然たるマナが、エネルギーとなって開放された。

 杖先からほとばしったその力は、熱を持った奔流となって一気に前方へと走っていく。

 

 ——ドンッ!!

 

 俺とエドワルド、二つの魔法が真正面から激突。

 空間がきしむような爆音とともに、衝撃波が吹き荒れた。

 激突した魔力がぶつかり合い、互いの魔法が拮抗する。

 

「こうなっては、あとは魔力と魔力の消耗戦。連戦を重ねた貴殿の疲弊した魔力で……どこまでこの押し合いに耐えられるか——見せてもらおう」

 

 エドワルドは、まるで勝利を確信しているかのように、冷静な声で言い放った。

 

「はっ……痛いところ突いてきやがって……」

 

 思わず、苦笑が漏れる。

 エドワルドの言った言葉は図星だった。魔力を消耗した状態で、正面からの打ち合いに臨むなんて、正気の沙汰じゃない。

 そのうえ、今の俺が使っているのは、術式による制御すらない、剥き出しのマナをぶつけるだけの無骨な魔法。当然、そんなものは燃費が悪いにもほどがある。

 どんどん、自分の中から、魔力が浪費されていくのを感じた。

 

 だが、今更引き下がれない。

 正面からの打ち合いで挑んだ以上、()()()を信じて、走り切るしかない。

 

 身体はきしみ、頭もぼんやりしてきて、視界も霞む。

 だけど、俺は精一杯、不敵な笑みを作りつづけて、エドワルドを見据え続けた。

 

「エドワルドさん……! 俺()のありったけ……! 受け取ってくれよ!」

 

 軋むくらいに杖を握りしめ、俺はさらに魔力を絞り出していく。

 湧き上がる魔力を、限界まで高めて、放出していく。

 

「うおおおおッ!!」

 

 どれくらい膠着状態が続いていたのか、自分でもわからない。

 だがその均衡が、わずかずつ、確かに崩れはじめていた。

 俺の魔法が、じわりと、エドワルドのそれを押し返し始めていたのだ。

 

「ばっ……バカな……!」

 

 驚愕の声を上げるエドワルド。

 ぶつかり合う魔力の奔流に押されて、一歩、後ろに後ずさった。

 

「はは、はぁ……! エドワルドさん、どうしたよ? 限界が先にきたのは、もしかしてアンタの方か……?」

「あり得ない……この力は……!? 本当に人間か……!? ぐ、ぐお……!!」

 

 エドワルドは俺の放った魔力に押され、じりじりと後退していく。

 

 もう、止まらない。

 

 膨れ上がった魔力の奔流が、エドワルドの合成魔法を飲み込み、抗う間もなくその身を呑み込んだ——!

 

 爆発のような衝突の余波が闘技場を駆け抜け、乾いた土を巻き上げる。

 視界が白く煙り、しばらくしてから、砂煙の奥に人影がひとつ現れた。

 

ボロボロなった姿で片膝を立てて俺を見上げるエドワルドだった。

 

 観客席からどよめきが湧き上がる中、彼は驚愕の形相を浮かべて、俺を見つめていた。

 

「あ、あり得ない……貴殿の、魔力量は……底なしか……」

「いや、さすがにもう限界っすよ」

 

 俺はぐらりと身体をふらつかせた。

 頭の中はぐるぐると回っていて、視界はチカチカする。今すぐ大の字になってしまいたいくらいに身体は重たい。

 

 身の丈以上の魔力を出力したのだ。

 その副作用といったところだろう。

 

 でも——勝った。

 

 俺はゆっくりと視線をエドワルドから、セルヴィスに移す。

 セルヴィスは顔を真っ青にして、唖然とした顔でこっちを見つめていた。

 

「——俺の勝ちだな、セルヴィス」

 

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