乙女ゲー世界の悪役貴族に転生した俺は如何にして絶望するのをやめて隠しヒロインの男装令嬢を堕とすことになったか   作:三月菫

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第35話 粉砕!玉砕!大喝采!

 時間は決闘前、寮の部屋で、アシュレイやリオンと一緒に作戦会議をしてたときまで遡る。

 

 セルヴィスの提示した決闘条件の中で、ヤツを叩き潰す秘策を俺は練っていた。

 いくつもの策が脳裏に浮かんでは消えてゆき、そして——

 

「よし、決まりだ」

 

 俺はパチンと指を鳴らした。

 

「なにかいい方法が思い浮かんだの?」

 

 リオンが身を乗り出す。

 

「とびっきりの作戦を思いついたぜ、名付けて——」

 

 俺は少しだけ勿体つけてから、その作戦名を二人に発表した。

 

「魔力同調《インタリンク》作戦! これしかねえ!」

「インタ……リンク……?」

 

 アシュレイはそのフレーズに聞き覚えがないらしく、首をかしげている。

 一方のリオンは、ハッとしたような表情を浮かべた。

 

 俺は二人の反応にニヤリと笑ってから、作戦の内容説明に入る。

 

「インタリンク……端的に言うと、魔力を同調するってことだ」

「魔力の同調……?」

「アシュレイ。魔法ってのはさ、普通、自分の身体の奥から魔力を引っ張ってきて、それを自分の魔力回路につないで、魔法として発動するもんだろ?」

「ああ、そうだが」

「インタリンクは、自分の魔力じゃなくて、他者の魔力を魔力回路と接続するんだ。分かりやすく言うと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってわけ」

「……そんなことが本当にできるのか?」

 

 アシュレイの瞳が驚きに見開かれる。

 出来る、と俺は確信を持ってうなずいた。

 

 なぜなら、魔力同調《インタリンク》は、原作ゲー『アルカナクラウン』に組み込まれていたゲームシステムだからだ。

 

 原作ゲーにおいて、インタリンクは、別名「絆システム」と呼ばれていた。

 要は仲間キャラとの好感度を一定上げると、戦闘時のボーナスが色々と発生するという、RPGなんかではありがちなシステムの一つだ。

 好感度を上げると、仲間のMPを使って魔法を発動できるというわけだ。

 

 ゲーム内だと敵と戦う上で、わりと使用が必須となるこのシステム。特に終盤に登場するようなボスキャラ相手には、このインタリンクを活用して、いかに立ち回るかが攻略の鍵となる。

 原作ゲームにおいて、インタリンクは、そんな基本システムの一つなのだ。

 

「というわけで、このインタリンクを使ってだな……」

「——僕の魔力を、グレイくんの魔力回路に接続するんだね」

 

 俺の言葉の続きを、リオンが引き継いだ。

 俺はリオンの顔を見つめて、そしてうなずく。

 

「ああ、お前の持つ無限の魔力を借りれば、たとえ100人相手だって楽勝だぜ」

 

 俺の言葉にリオンは照れたような微笑を浮かべたが、すぐに表情を引き締めた。

 

「でもグレイくん。インタリンクにはリスクもあるよ」

「なに?」

「魔法回路との適合率が低い場合、出力が不安定になったり、逆に暴走状態になったりする危険がある。そもそも他人の魔力を無理やり自分の身体の中に流し込むんだ。身体にすっごい負荷がかかると思うよ……」

「……やけに詳しいんだな」

 

 俺が指摘すると、リオンははっと我に返ったように、慌てて顔の前で手を振った。

 

「あ、や……! 違うよ! む、昔、本で読んだんだよ! 魔法の理論書に少しだけのってたことがあって!」

「ああ、そうなのか」

 

 やけにインタリンクに詳しいリオンの反応に、少しだけ違和感を抱きつつも、俺は話を前に進めることにした。

 

「まあ、多少のリスクはしょうがない。そうでもしないと俺の乏しい魔力量じゃ、流石に五人抜きは厳しいからな」

「あとは……そもそも論だけど……インタリンクのためには、使用者同士が強い絆で結ばれていないといけないんだよ? 僕とグレイくんで、ちゃんとできるかな」

「そりゃ大丈夫だろ」

「え?」

 

 俺は人差し指を立てて、自分の顔とリオンの顔を、交互に指差す。

 

「俺とお前は、マブだからな」

「なっ、えっ……!」

 

 俺のその言葉に、みるみるうちにリオンの頬が赤くなっていった。

 リオンはぷいっとそっぽを向く。

 

「わ、分かったよ……! そこまでいうなら、試してみよう!」

「よし、早速、修練場でインタリンクの実践練習だ。本番まで一週間あるからな。みっちり特訓しようぜ」

 

 俺がそう言って、席から立ち上がったそのとき。

 

「グレイ……ひとつだけ疑問があるのだが」

 

 アシュレイが、ふと眉間に皺を寄せ、真剣な眼差しで口を開いた。

 

「疑問? 何だよ」

「インタリンクを駆使して、リオンの魔力を借りてグレイが戦う……それなら、最初からリオンを代理人に立てて戦った方がシンプルじゃないか?」

 

 アシュレイが口にしたのはそもそも論の疑問だった。

 その言葉にリオンも「あ、確かに」と同意する。

 

 確かにそれはある意味正論かもしれない。

 でも、俺は首を横にふる。

 

「それじゃダメだ」

「なぜ?」

「リオンは優しすぎるんだよ」

「……優しすぎる?」

 

 俺は口元に邪悪な笑顔を浮かべつつ、言葉を続ける。

 

「俺はな、セルヴィスをギッタギタのグッチャグチャにしたいんだよ」

「は……?」

「アイツが泣こうが喚こうが、命乞いをしようが、八つ裂きにする。この手で直接な。でも、リオンは途中で絶対手加減するだろ? それじゃダメだ。血塗れのブラッドレイに楯突いたツケを……あのクズにはたっぷり払ってもらわねえとなあ。ひーっひっひっひ……!」

 

「グレイ、本当に君は……」

「性格、わっる……」

 

「はっはっはっ、最高の褒め言葉だぜ」

 

 若干引きぎみの二人の反応に、俺は肩をゆらしながら笑った。

 

「とにかく作戦はこれで決まりだ。リオン、よろしく頼むぜ」

「……うん。わかったよ。力を合わせてセルヴィスと戦おう!」

 

 

 ……。

 そして、時間は現在へと戻る。

 

 

「——ってわけで、僕ちんはずっとリオンくんの魔力を借りて戦ってたわけ。いやー魔力切れの演技をするのは苦労しましたよ」

 

 俺はそう言いながら軽く屈伸運動。

 それから、杖を持つ方の肩をぐるぐると回した。

 

「ふー、全身が疲労でカッチカチだ。実際、他人の魔力が自分の中に流れこむって、中々しんどいんだぜ? まあ、そのおかげで、魔力切れを起こしたと勘違いしてくれたみたいだけどな」

 

 俺の態度の豹変に、呆気にとられたように固まっていたセルヴィス。やがてわなわなと、その身体が小刻みに震えだした。

 

「ふざ、ふざ……ふざけるな!! そんなのルール反則だろう!?」

 

 弾かれるように立ち上がり、そのまま俺に背を向け、叫ぶセルヴィス。

 

「この男は、ずっと二体一で戦っていた! それを申告せずに!! これがルール違反でなくてなんだ!? 誇り高き決闘を、この男は汚した!!」

 

 セルヴィスは俺を指差したまま、立会人のアレク先輩、そして観客席をぐるりと見渡しながら、大声でまくし立てた。

 自分の主張を、どうにか正当化しようと必死だった。

 

 俺は大きなため息を一つついてから、ゆっくりとヤツの主張を殺していく。

 

「セルヴィスくんさあ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だろ?」

 

 俺はそう言って、今回の決闘の条件を、あらためてセルヴィスに伝える。

 

 条件一、本決闘においては代理人を立てることができる。その人数は最大五人までとする。

 

 条件二、決闘中、アイテムの使用は禁ずる。

 

 条件三、本決闘において行使できる手段は、一般魔法《コモンスペル》に限り、固有魔法《ユニークスペル》の使用、その他物理的な攻撃の一切を禁ずる。

 

 ……以上。

 

「魔力同調して戦うのは、この規約のどこに違反するわけ?」

「そ、それは……!」

「それに俺、戦う前にもちゃんと確認したよん?」

 

 それは決闘前の、俺とセルヴィスが立てた代理人との間の小競り合いの中で交わされたやり取り。

 

 その内容はこうだ。

 

『なんなら、五人一度にかかってきます? 五人もいたんじゃ一人ひとり相手にしてても、時間がかかってダルいでしょ? 確か決闘のルールに一人ずつ戦わないといけないなんてルールはなかったよね?』

『……あまり舐めるなよ小僧。貴様らこそ、二人同時にかかってきたらどうだ? まとめて潰してやる』

『やる気満々ですね』

 

 セルヴィスは俺に指摘されて、そのやり取りを思い出したらしい。

 バツの悪そうな表情で俺の顔を見つめる。

 その額には、みるみるうちに、玉のような汗が吹き出ていった。

 

「そ、それとこれとは……話が、違う……!!」

「違わねーよ、バーカ。全部自分が設定したルールのくせに何言ってんだ」

 

 セルヴィスの必死な言い訳に肩をすくめながら、俺はアレク先輩の方へ視線を移した。

 

「ねえ、アレク先輩。この人、往生際が悪そうなんで。立会人として、早いところ沙汰を下してくださいよ。今回の俺の行動に、ルール違反はありました?」

 

 その確認の言葉に、アレク先輩は小さく笑ってから、ひと息ついたように口を開いた。

 

「……今のところ、グレイくんの行動に、ルール違反はない。魔力の供給も、代理人の支援も、この決闘においてはなんら禁止されていない。そのため、決闘は続行される」

「うそだっ……うそだうそだうそだあああッ!!」

 

 活路を失って、わめき叫ぶセルヴィス。

 その往生際の悪い姿に、観客席から容赦のないブーイングが飛ぶ。

 

「往生際が悪いぞ!」

「自分は代理人を五人も立てて戦っておいて、何いってんだ!」

「負けを認めろ!」

 

「く、クズ共があああああ……!」

 

 俺は杖を肩に担ぎ、観客の声援を背に、一歩セルヴィスの前へ歩み出た。

 

「さあ、そろそろ白黒つけようぜ。セルヴィス」

「ぐ、うぐう……!?」

「安心しろ。ここからは正真正銘、俺とお前の一対一だ。誰にも邪魔はさせねえ」

 

 恐怖で歪む宿敵の顔に向けて、俺は杖の先端をぴたりと向けた。

 

「ひっ——」

「俺がここまで努力して得た力で——お前を叩き潰してやるよ」

 

 

 怯えで腰を抜かしそうになっているセルヴィスを真正面から見据えながら、俺はニヤリと口元を吊り上げた。

 

「動かないなら、こっちからいくぜ?」

「ひ、やめ——」

 

 一気に身体の中から魔力を練り上げる。

 同時に、杖先が真紅に輝いた。

 

「アルデオ——!」

 

 まず俺が放ったのは火属性魔法——《アルデオ》。

 詠唱の言葉が口をつくと同時に、杖の先から真紅の炎が噴き上がる。

 それはセルヴィスに向かってまっすぐに飛んでいき、まるで怒りそのものをぶつけるような勢いで突き進んだ。

 

 セルヴィスは防衛魔法を展開しようとしたようだが、あまりにも遅すぎた。

 

「ぐぎゃああああああああッ!」

 

 ヤツの身体にアルデオの炎がまとわりつき、一瞬で全身が火に包まれる。

 転げ回ってジタバタするセルヴィスの姿は、まさに無様そのものだった。

 

「はっはっはー! 苦しいか!? だったら消火してやるよ!?」

 

 すかさず俺は杖を振るう。

 

「アクエル——!!」

 

 水属性魔法《アクエル》を発動。

 杖先が青白く光り、そこから水塊が勢いよく噴き上がった。

 その水は一直線にセルヴィスに向かって飛び、思いきり全身にぶつかる。

 セルヴィスは反応する間もなく、水圧に吹き飛ばされ、闘技場の壁際に激突。

 でも俺はそこで止めない。そのまま、水を容赦なく浴びせ続けた。これでもかというほどに。

 

「ごぼっ、やめ! 溺れ——! うぎゅ——」

「ほらほら、念願のお水だろ!? もっと味わえよ!? ほらほらほらほら——!」

「あぐ、ごぼっ、げぼっ!」

 

 まだまだ、こんなもんじゃ終わらせない。

 次だ。

 

「せっかくのお洋服が濡れちゃったなあ? 乾かしてやろう。ヴィント——!」

 

 詠唱したのは風魔法《ヴィント》。

 魔力を風に変換し、風向きと風量を操る。

 すると地面から、渦を巻くようにして竜巻が立ち上がった。

 竜巻はうねりを上げながら、壁際まで追い詰められたセルヴィスのもとまで奔る。

 

「う、うぎゃあああああああ!?」

 

 竜巻に巻き上げられたセルヴィスの身体が、空中に放り投げられる。

 ゴミクズのように宙を舞い、ぐにゃりとした放物線を描いて、闘技場のど真ん中に叩きつけられた。

 へばりつくようにして倒れた姿は、まるで潰れたカエルだ。

 

 とうに心は折れたのだろう。

 立ち上がろうともしない。

 

 だが、まだだ。

 徹底的に、骨の髄まで恐怖を刻み込む。

 

「足元に注意しろよ?」

「あ!? ひ……! じ、地面が……!? 溶けて……!? 下がって……!!」

 

 もはや死に身体のセルヴィスに向かって、トドメとばかりに放ったのは土属性魔法——《グラディス》。

 呪文発動と同時に、セルヴィスが伏せていた地面がざらざらと音を立てて砂状に崩れ、まるで蟻地獄みたいにセルヴィスの身体をゆっくりと飲み込んでいく。

 

「……や、やめ……た、たす……助けて……」

 

 もがけばもがくほど、地中に飲まれていくセルヴィス。

 ついには首まで埋まり、顔だけが地面から突き出た状態になったところで、俺はようやく《グラディス》の発動を止めた。

 

 俺はゆっくりと歩を進め、地面から顔だけを出したセルヴィスのもとへと近づいていく。

 そして、恐怖と絶望で引きつったその情けない面を、薄ら笑いを浮かべながら、じっくりと見下ろした。

 

「どうだいセルヴィスさん? 俺の一般魔法《コモンスペル》は。自分で言うのもなんだけど、中々のもんだろう?」

「もうやめて……許して……」

「《ルークス》一つまともに使えないクズの俺がここまで成長できたのは——まあ、俺の隠れた才能とひたむきな努力がほぼすべてなんだけど、実は友達に支えられたってのも大きいんだよね。いやあ、持つべきものは友達だよ」

 

 そう言ったあと、笑顔から一転、殺意を込めてセルヴィスを睨む。

 

「それを、てめえは踏み躙った」

 

 軽く杖を振るって、再び蟻地獄を再開する。

 じわじわと、セルヴィスの顔が地中に埋まっていく。

 

「や、やめてえ! 呪文を解いてえ!!」

「そもそも、アンタと初めて会ったとき、確か俺、言った気がするんだよね。ブラッドレイ家の家訓——()()()()()()()()って」

「ひ……! やめ……やめ……」

「いいか。一度しか言わないからよく聞けよ?」

 

 俺は、じわじわと地面に沈んでいくセルヴィスの顔を無言で見下ろしながら、わざと感情を込めずに、静かに言い放った。

 

「今後一切、アシュレイに近づくな。当然、お前とアシュレイの縁談も無し。分かった?」

「わ、わかった……! 近づかない……! 二度と近づかないことを、約束する! 約束するから! 早く助けて……!!」

 

 セルヴィスの必死な懇願をよそに、俺は容赦なく魔法で地面を操作して、さらにヤツの頭を地中に沈めていく。

 

「な、なんで!? 約束するって言ってるのに……!! むぐ……がべ……!! つ、土が……! 息が……!!」

 

 ついにはその口、そして鼻まで地中に埋まってしまった。

 呼吸を失い、もがきながら苦しむ様子を見届けたあと、俺はそっと膝をついて、わずかに地表に残ったヤツの耳元に顔を寄せる。

 

「約束を破ったら、今度こそ、()()()()()。お前がどこに逃げようと、どんな後ろ盾を立てようとも、地の果てまで追いかけて絶対に殺す。この世の地獄を味あわせてから殺す。ハッタリじゃなく、俺にはそれができる。そのことを、よおくその身体で味わっておけ……」

「……ッ! ッ! ッ!」

「それと当然だけど、今回のことで、アシュレイの実家に下手な嫌がらせとかしないこと。それをやっても殺すから。分かったな? 分かってくれるよな? セルヴィス・ギルモア?」

 

 顔の半分が土の中に埋まり、声すらだせなくなったセルヴィスは、それでも生きるために、自分の意思を俺に伝えようと、酸欠で赤黒く染まった頭を必死に縦に振っていた。

 

 それを見届けた俺は、立ち上がって杖を振るう。

 すると地面がふるりと震え、セルヴィスの埋まっていた足元が盛り上がった。

 地面が一気に押し上げられ、ヤツの身体が砂と一緒にズボッと地中から跳ね上がるようにして飛び出した。

 

「ッば…!! くはあッ!! ゲボ! がはっ!!」

 

 九死に一生を得たセルヴィスは、暫くの間、地面に手をついて、ぜえぜえと必死に息を吸い続けていた。

 

 その顔は土と涙と鼻水まみれでぐしゃぐしゃ。

 七三に整えられていた金髪は乱れきっている。

 俺の連続魔法を浴びて、ズタボロになった姿に、高貴な公爵貴族としての面影はなかった。

 

 やがてようやくひと心地ついたらしきセルヴィスは、怯えきった表情で俺のことを見つめて……。

 

「た、助けてーーーー! ママぁーーー!!」

 

 背を向けて、闘技場から、脱兎のごとく逃げ出すセルヴィス。

 俺はその無様な背中に向けて親指を下に立てながら、見送ってやった。

 

 そしてすべてを見届けたように、立会人のアレク先輩が声高らかに宣言した。

 

「決着だ——この決闘の勝者は、グレイ・ブラッドレイである!」

 

 

 

 

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