乙女ゲー世界の悪役貴族に転生した俺は如何にして絶望するのをやめて隠しヒロインの男装令嬢を堕とすことになったか   作:三月菫

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第3話 原作主人公はダシにつかえ!

 

 平民出身のクラスメイト、リオン。

 ちなみに平民だから苗字はない。

 

 イケメンの外見なんてクソほどどうでもいいけど、さすがにこのリオン少年については、今後、俺と関わる機会もそれなりあると思われるので、最低限の外見的特徴を覚えておくことにしよう。席も後ろなことだしな。

 

 髪は青色で、すこし癖毛ぎみ。

 身長は俺より頭半分くらい低いか?

 

 顔立ちは当然のようにイケメンなのだが、ややショタっぽい印象なのに加えて、全体的に薄味というか、クセのない淡白な印象を受ける。

 そして純朴というか、人を疑うことを知らないと言うか、もっと言うなら、ちょっとこう、田舎くさいというか。

 

 この感じ、犬だな。

 そう、動物で例えるならポメラニアンだ。

 全体的にリオンは犬っぽい。

 

 とにかく、このリオン少年こそが、このゲーム世界の主人公である。

 つまり、本来の俺の役割は、ゲーム序盤にリオンに因縁つけて突っかかって、ボコボコに叩き潰されることだ。

 

 そんなのまっぴらごめんだ!

 原作知識を活かして、逆に主人公を叩き潰して、ヒロインを根こそぎかっさらってハーレムウハウハひゃっほーい!

 

 ……なんていう、日本男児が寝る前に見る、清く正しい妄想が、本来の悪役転生ジャンルというものなのだが、何度も繰り返すとおり、この世界はBLゲー世界である。

 

 かっさらうべきヒロインが、いない(慟哭)。

 

 唯一の例外は男装ヒロインであるアシュレイなのだが、原作ゲームでは、アシュレイは二周目に登場する隠しキャラだ。

 だからリオンが並み居るメインキャラをかきわけて、わざわざアシュレイルートを選択するとは、ちょっと考えにくい。

 

 というわけで、リオンとは必要以上に敵対する必要はない。

 むしろ敵対するだけ、原作ルートという名の、神の見えざる手で、俺の破滅が近づくだけだ。

 

 コイツとは、ほどほど仲良くやっていくことにしよう。

 

「――よし、これで自己紹介は全員終わったな。それじゃ次は寮についてだ」

 

 なんて、リオンのことをあれこれ考えていたら、いつの間にか話が進んでいたらしい。気づけばリド先生が寮についての説明を始めていた。

 

「知ってのとおり、本校は全寮制だ。お前らが所属するのはクラス名と同じくマギナ寮。部屋は二人一組で生活してもらうことになる。いまからその振り分けを発表していくぞ」

 

 教室内がざわつく中、リド先生が、ペアとなったクラスメイトの名前を順番に呼んでいく。

 その間俺にできることといえば、アシュレイと同じ部屋にしてくださいと、ただ女神ユースティティアに祈りを捧げることだけだった。

 

 そして――

 

「次、グレイ・ブラッドレイと――」

 

 きた!

 俺の名前!

 

「リオンだ」

「…………」

 

 祈り届かず。

 残念ながらアシュレイとは別室になってしまった。

 

 まあ、残念だけど仕方ない。

 もしアシュレイと同室になってたら、本当は女の子の彼と、壁一つ隔てるものない中で二人っきりになっていたわけで。

 

 そんなの理性が持つわけないだろ、いい加減にしろ!

 

 というわけで俺の同室相手は、リオンに決まった。

 よくよく考えてみれば、この振り分けは、案外悪くないかもしれない。

 

 なんたって彼はこの世界の主人公。

 

 つまり、これからメインキャラのイケメンどもは、彼をめぐって、バーリトゥード(なんでもあり)の恋愛イカゲームを繰り広げることになる。

 そうして生き残った、ただ一人のイケメンを、リオンくんは選び取るわけだ。

 

 そう、リオンは選ぶ側。

 

 その点、俺はこの世界においては取るに足らないモブキャラなわけだから、リオンくんがそんなメインキャラ共を差し置いて、俺を狙いにくる確率はゼロに等しい。

 

 つまり彼と同じ部屋になったことで、同室のイケメンに迫られるという、貞操の危機は脱したことになるのだ。

 

 うん、悪くないんじゃないかな。

 

「……というわけで、同じ部屋ってことで、これからよろしくな」

 

 俺はリオンの席の方に振り返って、小声で挨拶する。

 リオンはちょっとだけ驚いたような表情で、俺の顔を見返した。

 

「よ、よろしく……グレイ、さん」

 

 リオンは俺に対して、おっかなびっくりな感じだ。

 まあ、俺の悪評は平民出身のリオンの耳にも届いていることだろうから無理もない。

 

 ただ、同じ部屋のルームメイトにいつまでも恐縮されっぱなしっていうのも、やりにくいから、ちょっとずつでも打ち解けていきたいところだ。

 

 安心してくれ、リオン。

 原作と違って、俺は悪い悪役貴族じゃないよ。

 

 ◇

 

 

 というわけで無事に寮の割り振りも終了した。

 その後は、授業のカリキュラムやら、その他諸々の説明を延々と聞かされ、ようやくガイダンスが一段落ついた頃には、お昼休みになっていた。

 

 というわけでレッツ昼飯なのだが、もちろん一人で食べるなんてことはない。

 

 アシュレイを昼食に誘う——ミッションスタート。

 

 俺はそっと隣に座るアシュレイに視線を向ける。

 アシュレイは机の上を片付けているようだ。

 まだ誰も彼のことを昼食に誘ってはいない。

 だが、さっきのガイダンスで、アシュレイの自己紹介に対する野郎どもの、聞き惚れていたような反応。

 

 いつ声をかけられてもおかしくない。

 

 ならば先手必勝! 声を掛ける!

 

 ……といいたいところだが、忘れてはいけない。

 俺はユースティティア学院始まって以来の問題児で、前代未聞の落ちこぼれ。

 目つきがヤバくて笑顔が邪悪、実家の地下にお気に入りのイケメンをペットとして監禁してる、危険人物なのである。

 

 下手に声をかけて、アシュレイに断られてしまったらそれまでだ。

 

 ここは慎重に事を進める必要がある。

 ……というわけで。

 

 俺は視線をアシュレイから、()()()()()()()()()へと移す。

 

「リオン。一緒に昼メシを食おうぜ?」

「え……!? 僕……?」

 

 自席に座っていたリオンは、自分の顔を指差して目を白黒させた。

 

「ああ、寮も相部屋なわけだしさ。仲良くしようじゃないか、はっはっはっ」

 

 俺はまずリオンを昼食に誘うことにした。

 ヤツとはこれから寮のルームメイトになるわけだから、誘いの口実としては自然である。

 

 それに自己紹介の雰囲気を見るに、奴はおそらく気弱。

 ぐいぐい押せば容易に折れるタイプだ。

 昼飯を誘うくらい、朝飯前である。

 

 だが俺の狙いは当然、リオンと二人で昼飯を食うことなんかじゃない。これもすべてアシュレイのため。

 

 そう、アシュレイと一緒にお昼ご飯を食べるために、俺が取った作戦。

 強引に攻めるよりも、第三者を巻き込んで自然な流れに持ち込むという作戦だ。

 

 初対面でサシで食べるのは、アシュレイも躊躇するかもしれないが、他のクラスメイトも加えて、席が近い同士、グループで食べるという形にすれば参加のハードルも大分下がる。

 アシュレイも断りづらくなるはずだ。

 それに加えて、原作主人公のリオンと仲良くなっておけば、その分、俺の破滅フラグも遠ざかるわけで。

 

 まさに一石二鳥のクレバーな作戦である。

 天才だな、俺。

 

「えっと、僕が一緒でも、いいの……? 迷惑じゃない?」

「迷惑って、なんでだよ」

「いや、だって僕……皆と違って平民だし……」

「平民だからなんだってんだよ。一緒に飯を食っちゃいけないのか?」

「それは……」

 

 リオンは、貴族と平民という身分差を、必要以上に気にしているようだ。

 

 愚かな。

 そんなもの、突然BL世界に放り込まれた俺が常に感じている、ナチュラルに盛り合うイケメン共との価値観の差に比べたら、あってないようなものだ。

 

「身分差なんて、そんなのいちいち気にしないって。少なくとも俺はな」

 

 俺はそう言って、リオンに笑顔を見せる。

 リオンは、ちょっと驚いたような顔をした後、 顔をほころばせた。

 

「あ、ありがとう……! じゃあご一緒させてもらうよ!」

「決まりだ」

 

 計画どおり。

 リオンはホイホイ俺の誘いにのってきた。

 これでアシュレイも参加しやすくなったことだろう。

 いざ、本命を誘わん。

 俺は視線をリオンからアシュレイに移す。

 

「アシュレイ……くん」

「ん?」

 

 声がけに応じて、アシュレイが俺の方に顔を向けた。

 

「昼食は一人か?」

「そのつもりだけど」

「そりゃよかった。これから俺達二人で一緒に食うんだけど。アシュレイくんも一緒にこないか?」

「私が? 君たちと?」

「ああ、せっかく席も近い同士なんだし。親睦を深められればと思って……」

 

 アシュレイは、俺とリオンの顔を交互に見つめ、一瞬だけ逡巡するようにまばたきをした。

 

 ダメか?

 学園一の落ちこぼれと平民と一緒に食う飯はないか……!?

 

 けれど、アシュレイは、すぐにふっと小さく息を吐くと、静かに頷いた。

 

「わかった。せっかくの誘いだ。ご一緒しよう」

「よっしゃ決まりだ!」

 

 こうして俺たちは、三人で食堂に向かうことになったのだった。 

 

 ***

 

 ユースティティア学院の食堂は、見上げるほどの大空間だった。

 

 高い天井には、重厚な梁が複雑に組み合わさり、その間に浮かぶ魔法の燭台が柔らかい光を放っている。

 壁には、おそらくこの学院に縁があるであろう、魔法使いたちの肖像画がずらりと並び、その視線が、俺たちのことををじっと見守っているようだった。

 

 食堂の中央には、長い木製テーブルがまっすぐに並び、その周りには、思い思いに食事を楽しむローブ姿の生徒たちが座っていて、和気あいあいとした空気だ。

 

 漂ってくるのは、焼きたてのパンの香ばしい匂いや、スープの温かみのある香り。

 あー、なんかフツーに腹減ってきたわ。

 

「……すごいなぁ。僕、本当にここまで来たんだなぁ……」

 

 食事を受け取って、席についたリオンが、周りをキョロキョロと見回しながら、感心したように呟いた。

 

「やっぱり、めずらしいか? リオン」

 

 そんなリオンの斜向かいに座った俺は、自分のパンにバターを塗ったくりながら聞く。

 リオンは我に返ったように、俺の顔をみつめた。

 

「あ、そういう意味じゃ。いや……えっと、ごめん。貧乏くさい反応だったよね」

「別に。事実として、リオンはこれまで平民だったんだから。いきなりこんな王宮みたいな場所に放り込まれて、珍しく思うのは普通だろ」

 

 俺はそう言って、バターを塗り終わったパンを口に入れる。

 うん。うまい。焼きたてフワフワだ。

 

 そんな俺の顔を、リオンはまじまじと見つめながら、どこかキョトンとしたような表情を浮かべている。

 

「なんだ? 俺の顔になんかついてる?」

「いや、その……」

 

 リオンは、言葉を選ぶように視線をさまよわせながら、口を開いた。

 

「グレイ……さんって。なんていうか、聞いてた感じと、ちょっと違うね」

「と、いうと?」

「いやだって、グレイさんって、他の貴族の人たちから、すごい恐れられてるじゃん? だから僕みたいな平民には、尚更、容赦ないんだろうなって思ってたんだけど……」

 

 リオンはそう言ってから、慌てたように手をバタバタさせた。

 

「あ! ゴメン! 別に悪口を言ってるわけじゃなくて!」

「はは。わかってるよ。気にすんなって」

 

 俺は軽く笑いながら、手を振って答える。

 

「どうやら我が家(ブラッドレイ)の悪評は、ばっちり庶民のリオンくんにも伝わっているみたいだな。まあ、事実だから別にいいんだけど」

「事実なんだ」

「まあ、でも家は家。俺は俺だ。せっかく同じ学院でクラスメイトになったわけだし、俺はリオンと友達になれたらと思っている。仲良くしようぜ」

 

 俺はそう言って右手を差し出す。

 リオンはその手をぽかんと見つめてから……

 

「あ、ああ……! こちらこそ、グレイさん」

「呼び捨てでいいよ。タメ年なんだし」

「そ、そう? でも……やっぱり、グレイくんで!」

「おう、リオン」

 

 俺とリオンは、そう言ってテーブル越しに握手を交わした。

 それから俺は、自分の隣に座るアシュレイに視線を向けた。

 

「もちろんアシュレイくんも」

「ん?」

「色々と俺の悪評は聞いてるだろうけど、こうして君を昼食に誘ったのは、君と友達になりたいからなんだ」

「私と、友達に?」

「ああ! だから、仲良くしてくれると嬉しい。どうかよろしくお願いします。助けると思って、俺と友達になってください!」

 

 そう言って俺は、アシュレイに右手を差し出す。

 アシュレイはまっすぐ俺を見つめて……、ふと口端を、わずかに上げた。

 

「君は……面白いヤツだな」

 

 わ、笑ってくれた!

 アシュレイが初めて俺に向かって微笑んでくれた!

 あーかわいい。一生守りたいこの笑顔。

 

 アシュレイはそのまま、俺が差し出した手をそっと握り返してくれる。

 

「こちらこそ、友達になろう。グレイ・ブラッドレイ。私のことはアシュレイと呼んでくれ」

 

 差し出した右手から伝わるアシュレイの柔らかな手のひらの感触。

 その感触が俺の心臓のビートを跳ね上げる。

 

 というか至近距離で改めてアシュレイの顔を見つめて思うんだが、やはりとんでもなく美形だ。

 

 髪の毛は絹みたいにサラサラ。

 三つ編みに結った髪をほどけば、もう完璧に女の子だろう。

 

 顔のパーツは満遍なく整っており、特に目が綺麗だ。

 髪色と同じくオフホワイトの透き通った瞳。

 その瞳は長いまつげに彩られ、まるで宝石のように輝いている。

 いつまでもこのきれいな瞳を見つめていたい。

 吸い込まれてしまいそうだ。

 

「どうしたグレイ? 私の顔に何かついてるか?」

 

 俺の視線に気づいたアシュレイが、小首をかしげる。

 

(いかん!)

 

 俺は慌てて視線を逸らしつつ、握手の手をほどいた。

 やべー思わずガン見してしまっていた。

 これ以上、この距離で見つめ合っていたら俺の心臓がもたない。

 

 ていうか手汗がやべえ。

 大丈夫かこれ? 気持ち悪がられてないよね?

 

「あ……いや、なんでもない! 気にしないでくれたまえ。はっはっはっ……」

 

 俺は胸の高鳴りを悟られないように、高笑い笑いでごまかす。

 そんな俺の挙動不審な様子を、アシュレイは首を傾げたまま、見つめていた。

 

「そ、そうだ! せっかくこうして一緒に飯を食うんだし、改めて自己紹介でもしとくか! ほら、お互いのことをもっとよく知るチャンスだしな!」

 

 俺がそう提案すると、アシュレイもリオンもうなずく。

 こうして、俺たち三人は、不器用ながらもちょっとずつ、打ち解けはじめたのだった。

 

 

 

 

 

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