ある日、クラスメイトから言われたことがある。
ジンヤくんの部活は平和そうでいいよね、と。
部員は俺以外全員1年生。中学時代にスケバンやってたやつもいるが今はそこそこ落ち着いているし、喧嘩もあーだこーだの口げんかがせいぜいなもの。
どちらかといえば和気あいあいと活動を楽しんでいるように見えるのだろう。
─────たしかに、トリニティの部活はわりとぶっ飛んだ奴らが多い。
最近でいえば、純文学部は裏文学部とやらと決闘を繰り広げた結果、一部が決闘罪によって活動停止になったかと思えば、その一部が
茶道部では活動中に隠れてスポドリを点てていた為に異端審問にかかり24時間正座の刑に処され、その結果スポドリを点てる事を目的とするスポドリ道部が独立しようとしたし。
弓道部が鏑矢演奏会を開催した結果、降り注いだ鏑矢によって多数の負傷者が発生し、計画的な大規模テロではないのかと大事件になったりもしたし。
そんな中で特に目立った問題行動も起こさず、黒猫が時たまスケバンと喧嘩をするぐらいで正義実現委員会に捕まったことのない
「あれ、どうかした?」
「……いや、なんでもない」
横を歩く金髪ツインテ女子、伊原木ヨシミが不思議そうに首を傾げる。部内でいちばん身長が低く、それを気にしてか日課は苦手な牛乳1リットルを飲むことという努力家。
「……さては、私のことを考えて」
「それはない」
「ったく、何馬鹿なこと言ってんの」
「あだっ」
わかったと言わんばかりにしたり顔を作るのは、俺の少し後ろを歩いていた柚鳥ナツ。とにかくマイペースなロマンチストで、変に哲学者ぶろうとする物言いが特徴的な女子。
そんな彼女の頭を小突くのは、頭の上で揺れる大きな猫耳と黒髪から覗くピンクのインナーカラーが特徴的な女子、杏山カズサ。件の“元”スケバンだ。
「なんか今、余計なこと考えなかった?」
「……き、気のせいだろ」
「なによ、その変な間は」
「ま、まぁまぁカズサちゃん。おちついて、ね?」
指を鳴らすカズサを止める女子、この部活の創設者でもあるチョコミント狂いの栗村アイリ。
どうかしたのかと思っていると、アイリが心配そうに聞いてくる。
「でも、珍しいよジンヤくん。いっつも歩幅は合わせてくれるのに、今日は気付かずに歩いてっちゃうなんて」
「え……?」
言われて気がつく、たしかに横にヨシミはいるが、学校を出た時はアイリ達が前を歩いていた。よくある事だが、体格や歩幅の違いから歩くペースはどうしても俺が早いためにいつもは気をつけていたし、わりと無意識下でもゆっくり歩くようにしているのだ。
そんなことにも気が付かないくらい、クラスメイトに言われたことが気になっていたのかとひとり心の中でぐちる。
「ジンヤだって、時には考えることがあるのさ」
「おいナツ、何気に俺が普段考えてないみたいな言い方するなよ」
「いや、わりと何も考えてないんじゃない?馬鹿みたいな顔してるし」
「言い過ぎだぞー。泣くからなー」
「情けなっ」
「うるせぇ」
そんな俺とカズサのやり取りを見ていつも通りだったと笑うアイリ。何気に刺さることを言ってくれる。
これ以上余計なことを言われるのは面倒だ。そういえば、と話題を変えてみる。
「茶道部のやつら、どうなったか聞いたか?」
「あー、例のスポドリ事件?」
「確かアイリの友達にいなかったっけ」
「うん、茶道部に残った子とスポドリ派に付いてった子がいるけど」
乾いた笑いのアイリ。少し前まで茶道部の友達が喧嘩してて、なんて悩んでいたくらいだ。何か思うところでもあるのだろうか。
「茶道部だと今度は“砂糖入れる派”と“砂糖入れない派”でまた騒動になってるみたい」
「……馬鹿なんじゃないの?」
「まぁたしかに、抹茶ラテみたいでおいしいけどなぁ」
「作法に乗っ取った抹茶、飲むことを楽しむ抹茶、どちらのロマンも捨てがたいのさ……」
「またナツが変なこと言ってるし」
それに、と前置きしてアイリが続ける。
「独立したスポドリ道部も、ポ○リ派とア○エリ派で対立してるみたいなの」
「これまた、心底どうでもいいわね」
「てかよく独立できたな、そんな部活」
「活動内容を運動部全般へのマネジメント、ドリンク提供を活動に据えてるから通ったんだって」
「スポドリ専門マネージャーってこと?」
「そのコンセプト、斬新だね」
「そりゃ前例にないだろうからな、そんな部活」
あーだこーだと盛り上がる3人を見て、なんとかごまかせたか、そう思って歩いているとちょんと控えめに裾を引かれる。何かと思って裾を引いたであろうヨシミの方に振り向いた
「なんだ?」
「その、ほら、悩みとかあんなら、言いなさいよねっ」
「……」
「な、なによっ、たしかにジンヤは先輩だけど、悩んでることがあるなら別に、相談に乗ると言うか、なんというか……」
「……ヨシミ」
「だ、だからなによっ」
言っておいて恥ずかしくなったのか、赤らんだ顔でそっぽ向くヨシミ。そんな彼女がどうにもかわいくて、俺は頭をガシガシと撫でた。
ふわりとキャラメルチックな甘い香りが鼻をくすぐる。以前買ったと自慢していたグルマン系のシャンプーの香りだろうか。甘くていい匂いだ。
「ちょ、やめなさいよっ」
「はっ、まだ心配されなきゃならねぇほど悩んでねぇよ」
「ちょっ、ぐしゃぐしゃするなぁ!髪型崩れるじゃない!」
「気にすんなよ、そんなこと!」
「気にするわよっ。ふざけんな、この、女の敵ぃ!」
「女の敵でもヨシミは味方でいてくれるもんなぁ!」
「はぁ!?ば、ばーか!あほ!鈍感のクソボケの唐変木!」
「言い過ぎだろ……?」
両手で俺を押しのけようとするも、素振りだけのそれはまったく力が入っていない。そこまで嫌がっていないのがわかる。やはりツンデレなのだ、彼女は。
それにしても、なんだかクセになる香りだ。ナツのあの独特な甘い匂いとも違う、こう、直接鼻をつけて嗅ぎたくなるような。そこでふと、非常に冷たい目で俺を見つめるカズサの姿が目に入った。
「な、なんだよ」
「別に。まーたバカやってるなって」
「んなこと言うなよ、カズ、さ……」
─────でた、放課後スイーツ部の怖いところだ。
どうにも俺は感情的に動くことが多く、みんなの肩を叩いたり、頭を撫でてみたり、わりと盛り上がってる時なんかはハグだってしてしまう。
悪い癖だと思うし、親しくない相手や嫌がる相手にはしないようにしているのだが、放課後スイーツ部のみんなにはついついやってしまう。
そしてその度に─────。
「それにしても、へぇ、ヨシミの頭、そんなに撫でやすいんだ。私の頭なんて全然撫でないクセにさ」
「……ヨシミばかり撫でるのは、少しばかりフコウヘーではないだろうか」
「あはは、ヨシミちゃん、嫌がってるみたいだしやめたら?」
─────こうなる。
何が逆鱗に触れるのか、2人きりで遊びに出かけたり、俺が誰かと過剰に接触したりすると残された全員が突然こうなる時があるのだ。
カズサはどこかツンデレ的に構われようとしてくるし、ナツは時々直接体を押し付けて来る。そしてアイリは、それなりの修羅場をくぐってきた俺でも気圧される迫力のある笑みを浮かべる。
そんなみんなの姿に、ヨシミは絵に描いたようなドヤ顔で笑いかける。
「なに、みんなして嫉妬?はー、見苦しいわね」
「何言ってんの。妹感覚で撫でられてるやつにそんな事言われても何とも思わないから」
「い、妹とか、そんなんじゃないわよっ。ねぇジンヤ!」
「いやぁ……」
「いやぁ、って、なんで優柔不断な感じなのよ!」
ぶっちゃけ、ヨシミが妹感覚と言われると、正直否定しきれない。いや、わりと全員に対してそういうものではあるのだが。
まぁ、ヨシミは何かと“大人の女性”的な存在に憧れてるところがあるから、そういった所のコンプレックスを刺激されるのだろう。こういう時は大抵ヤケを起こすのだ。
「あーもうっ。ジンヤ、今日行くお店どこ!?」
「え?……あー、どこだっけ。……アイリー」
「……え、ジンヤくん知らなかったの!?」
「はぁ?そんなんで前歩いてたとか、呆れた」
「考え事してたんだからしゃーねぇーだろ」
「慣れないことはするもんじゃない、ってことね」
「うるせぇ」
「……ふっふっふっ。ここは私の出番のようだね。ついてきたまえ皆の者〜」
そうほくそ笑んでスマホを片手に歩き始めるナツ。恐らく密かにナビアプリでも用意していたのだろう。そういうところが、流石というべきかなんと言うか。
そんなナツの後ろ、手鏡で髪を確認するヨシミの横をゆっくり歩いていると、後ろから迫るカズサに馬鹿だと肩を小突かれ、そこを優しくアイリが撫でて行く。
「それじゃあ改めて、放課後スイーツ部、しゅっぱーつ」
「おう!」
「お、おー!」
「なんでナツが仕切ってんのよ!」
「アイリ、そこのバカふたりに乗らないでいいから」
「誰がバカか」
「誰がバカだ」
「あんたらふたりでしょ」
「あはは……。じゃあ、そろそろみんな行こっか」
はーい、というみんなの声が重なる。栗村アイリ、杏山カズサ、柚鳥ナツ、伊原木ヨシミ、そして俺、高山ジンヤ。5人で放課後スイーツ部。
他所から見たら平和的な部活。しかし、俺から見たら何がきっかけで爆発するかも分からない一触即発の火薬庫。
もしこの現状を気兼ねなく言えるのであれば、俺ははっきり言ってみたい。
─────今は“ギスギススイーツ部”です、と。
△
「─────そういえば」
非常においしいいちごのタルトを食べられて大満足で帰路に着く俺たちだったが、突然先頭を歩いていたアイリが立ち止まる。
「んむ」
「どうしたのアイリ」
「なんか忘れ物か?」
「ううん。ジンヤくんに聞こうと思ってたこと、忘れてて」
ゆらり、と振り向いたアイリの瞳には、光が灯っていなかった。
「この間、
その途端、ほかの3人の目の色も変わる。恐怖から足が歩くことを拒むように動かなくなる。
例のシスターさん。おそらく、最近仲良くなった後輩の伊落マリーのことだろう。たしかに彼女とは先週、シスターフッドの買い出しに同行した。そう、荷物待ちという名目で一緒に買い物に出かけているのだ。
「あー、マリーとは、たしかに買い物に行ったけど」
「─────へぇ、マリー。呼び捨てなんだ」
─────ワンアウトっ!
右隣のカズサがスケバン時代を想起させるような鋭い目でこちらを睨む。
「その、あくまで荷物持ちってだけで、別に」
「─────荷物持ち、デートの言い訳の鉄板よね」
─────ツーアウト!
左隣のヨシミがムスッとした顔でそう言う。やはりその目にも光は灯っていない。
「マリーといると、ほら、癒されるんだ」
「─────私と一緒では、癒されないということか」
─────スリーアウト!
アイリの隣を歩いていたナツがゆったり振り返る。いつもの柔らかさのない、能面のような顔だ。
じり、じり。足を擦って俺が1歩下がる度、全員が表情を変えず距離を詰めてくる。
「ジンヤくんは、もう放課後スイーツ部の部員なんだよ?なんでほかの女の子と出かけるの?」
「私とアイリだけじゃなくて、ヨシミとナツも許してやってるのに、ほかの女に目移りとかよくできるね」
「カズサの言い方は気に食わないけど、どーかん。なに、私がちんちくりんだからってそう言う対象じゃないっていうの?」
「これだけの美少女に囲まれるという男のロマンを享受しながら、まだ欲しがるのはナンセンス。今目の前の据え膳にありがたがるべきではなかろうか」
じり、じり。しかし後ろへと逃げる足はカズサとヨシミがぎゅっと服の裾を掴んで止めてしまう。ナツはいつの間にか俺の後ろへとまわり、両肩に小さな手を載せている。
そして、正面。とにかく怖いアイリが迫ってくる。
そうだ、あの時、チョコミント沼にハマり始めた頃のこと。楽しみにしていた有名店の期間限定チョコミントケーキをスケバンの手によって目の前で台無しにされた時よりも遥かに恐ろしい。
「─────カズサ」
「あんたが悪いんだから」
「─────ヨシミ」
「覚悟は、できてるわよね」
「─────ナツ」
「部屋の確保はバッチグー」
「─────アイリ」
「ふふっ、なぁに」
アイリがそっと俺のネクタイを引っ張る。きっと周りに人がいれば、まるで犬のリードを引いているように見えるだろう。
「それじゃ、行こっか」
「……え、まって、何処に?」
「どこって、ナツちゃん」
「ほいほい」
ずしり、とナツがおれの背中に飛び乗った。ナツ特有の高い体温となんとも言えない柔らかさを背中に感じていると、目の前にナツのスマホが差し出される。
その画面にはレジャーホテルの豪華な一室を予約したという画面が。
「─────いや、ラブホじゃねぇか!?」
「うん、そうだよ?」
「そうだよ、って。アイリ、いやお前らも、何してるかわかって─────」
「─────わかってるに決まってるじゃん」
カズサが俺の右腕を胸に挟むようにして抱きしめる。左隣と後ろからは感じられない確かな膨らみが、そこにはあった。
「むしろ、わかっててやってるから。─────覚悟して」
まじか。そう漏らす前に今度はヨシミが左腕手に、そっと身を寄せてくる。
「“みんなで”っていうのはちょっと気に入らないけど、他所の誰ともわからない女に取られるくらいなら、私たちで……っ」
キャラメルのようなヨシミの甘い匂い。カズサだろうか、ベリーのような甘酸っぱい匂い。そして、背後から感じるナツの体温と柔らかさ。
それらでクラクラする脳みそを、アイリから香るメンソールの効いたチョコミントの香水の異質さが微かな正気を取り戻させる。
─────考えろ、考えろっ。
衰え、鈍る脳をMAXで回転させる。流石に今この4人に
─────そうだ、どんな状況もヤられなければいいだけのこと!不測の事態は考慮していないがIQ53万の俺の脳内CPUがハジき出した結論は─────。
「えっ、ちょっとなによっ」
「……ジンヤ?」
拘束の緩いヨシミから左手を抜き出して懐に手を入れる。ちゃきり、と引き抜かれるのは護身用に携帯している
引き金を引くだけで発砲できるダブルアクションのこいつをそのまま
「─────
ダブルアクションの重たいトリガー。パン、という乾いた音と共に走った激痛で、俺は─────。
△
「高山ジンヤくん」
「はい」
「シャーレに、君たちの不純異性交遊の通報が入ってるんだけど」
「はい」
「……意識のない君が、その、いわゆるラブホテルに担ぎ込まれたって」
「はい」
「……なんで?」
「……自業、自得?」
「……もしもしヴァルキューレ?カンナいる?」
「やめろ先生っ、あの日俺は無事逃げだせたんだぞ!─────だから、俺はまだ、童貞だぁ!」
ミレニアム・ピンクアーカイブの息抜きで書いてくからよかったら応援ちてね。(こっちはミレニアムピンクとは別時空のお話です)
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