結構伸びてて嬉しいなり。もっと応援来て♡
私、阿慈谷ヒフミには幼なじみの男の子がいる。
小さい頃から家が隣でお互いの親の仲が良いという、まぁまぁ幼なじみとしてはありふれた関係で、お互いの家で交互にお泊まり会をしたこともあるし、誕生日やクリスマスはみんなでパーティーをしていた。
そんな私たちの関係は、トリニティに入学して高校生となった今でも続いている。唯一、彼が“男子だから”という理由で私と同じ寮に入寮することは叶わなかったが、今はトリニティ郊外のマンションの一室を借りて生活している。
校舎から徒歩20分。厳かな雰囲気のあるトリニティの中でも比較的普通な街並みで、空気感的にはD.U.とか、ちょっとした都会みたいなそれに近い。
築10年の2LDK。モノクロ系のインテリアで揃えたオシャレでシックな部屋になっている。家具は一緒に買いに行ったもので、ドレも思い出深いものだった。
「なーなー、ヒフミー」
「なぁーにー、ジンくん〜」
「ちょっと来れるかー」
彼の声だ。なんだろうか。そう思いつつ、料理をしていた手を止めてダイニングキッチンからリビングを見る。
するとそこには─────。
「イナバウアー」
「……」
─────何やってるんだろう。
両足と両手を床につけ、仰向けの状態で腰を高く掲げる、いわゆるブリッジをする幼なじみ。イナバウアーなどと意味のわからないことを叫ぶ。
─────まぁ、割といつも通りというか、昔からというか。
「……」
「……」
「……イナバウアー!」
激しく腰を動かしながら何度言われたって、おもしろくないものはおもしろくないのである。
無駄に顔が良いだけに、非常に残念な絵面である。なぜこんなにおバカなのかと不思議になるが、彼の両親はこれを“男の子だから”で済ませるのだから流石と言うべきか。
高校生にもなって、なんて言うのは野暮だろうか。ハンドタオルで手を拭きながらリビングへ向かい、ウェーブキャット様の枕を手にブリッジ状態の腰に横移動を加え始めたジンヤの元へ。
それにぱぁっと顔を明るくしたジンヤが一言。
「ヒフミがピンクのパンツ履いてる!」
「えっ」
「ペロロパンツじゃなくなってる!?まさかヒフミ、色を知る年ご─────」
振りかぶったウェーブキャット様を、突き上げられた彼の腰のど真ん中、盛り上がっているそこへと振り下ろす。
するとどうだろうか、ニヤニヤと笑っていたブリッジマンはもんどりうってフローリングに転がった。
「おっ、おまっ、おまえ、それはダメだろ……っ!」
「うわー、痛そう……」
「……え、軽くね……?俺の○ん○んに打撃食らわせといて、痛そうって、おまっ、それは昔っから知ってるでしょ……?」
股間を抑えて汗をダラダラと流し、苦悶の表情を浮かべてうずくまる彼の横にウェーブキャット様を添え、今度はスカートの中を覗かれないように彼から距離をとる。
「つぶれ、つぶれた……。これ、絶対つぶれた……っ!」
「うんうん、大変だね」
「ちょ、俺怖くて見れないからヒフミ確認してぇ!」
「……ちょっと臭そうだから、やだなぁ」
「くっ、臭くねぇし!?」
比較的匂いには気を使っている彼だが、たまに遊びに来ると
それに、それじゃあ私だって
案外
「フローラル、フローラルだかんなヒフミ!?」
「知らないし知りたくないよ、そんな情報」
「いや、いっぺん嗅いでみ!?多分知ってる匂いだから」
「……たまにこの部屋でするあの匂い?」
「ちっ、ちげぇし!?」
「じゃあ知らないよ!」
「知っててよ幼なじみでしょ!?」
「幼なじみでも知りたくないよ!?それに、そこはいい匂いとかないと思うけどなぁ!」
「そりゃお前、あれだかんなっ。アンダーヘアはヒフミのでシャンプったからなっ」
─────この幼なじみ、最低だ。
壁にかけてある彼のサイドアームの拳銃を手に取り、私は彼の股間目掛けて容赦なく発砲した。
△
「まじ舐めたことして、すみませんでした。反省してます。なのでハンバーグ食わせて……」
「だーめ。今回はしっかり反省して」
ヒフミによる股間攻撃事件、記念すべき通算67回か68回かそれ以上くらいとなった1件の後、俺は反省の意味も込めて半強制的にフローリングでの正座を強いられていた。
俺が見上げる先ではトリニティの制服の上からペロロのエプロンを身につけたヒフミが食卓につき、非常に美味しそうなハンバーグを食している。
「なぁー、頼むよぉ。ヒフミのハンバーグが毎週の楽しみなんだよぉ」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、今日はダメ」
「なんでだよぉー……」
俺が一体何をしたというのだろうか。そんなにも責められるようなことをした覚えはないのだが。そんなに俺の傑作、イナバウアーブリッジが面白くなかったのだろうか。
いや、もしかすると俺がアンダーヘアにヒフミのシャンプー使ったから怒ってる……?
「ひーふーみー」
「………………」
─────ついに無視……っ!
だが、これで少しわかった。恐らくだがヒフミはシャンプーを
だがおかげで俺のアンダーヘアはいい匂いだし、スンバラシイキューティクルを手に入れたのだ。謎の満足感があった。
─────しかし、そんな俺に策がない訳では無い。
「ヒフミ、ヒフミってさぁ」
「……。なに」
「髪下ろしてるのも可愛いよな」
「…………」
「俺、ヒフミのツインテも好きだけど、やっぱ髪下ろしてる方が好きなんだよな。ほら。なんかちょっと大人びて見えるんだよ」
白米を口に運んでいた箸が止まり、そして俺から見えないよう顔を背ける。だが。
─────耳。真っ赤だなぁ。
普段はツインテールに合わせて伸ばしているヒフミの髪は、そのほとんどがサイドを避けて後頭部に偏っている。故に、横や浅い斜め後ろからだと真っ赤になった耳が見えるのだ。
「やっぱヒフミって食べ方綺麗だよなぁ。んでもってもぐもぐしてる横顔もかわいいな」
「……」
「てか制服の上からエプロンとか?それかわいすぎだろ。めっちゃグッとくるもんあるってそれ」
「……」
「それにエプロン持ち込んで俺にハンバーグ作ってくれるのもさ、めっちゃ嬉しいし」
「……」
「ぜったいいいお嫁さんになれるし、ヒフミと結婚するやつとか羨ましいなぁ」
「……」
「あ、てかさ、やっぱ俺のためにハンバーグ作ってくんね?できれば毎日!」
「─────ご、ちそうさまっ」
ズズッ、と座っていた椅子を引きずってヒフミが立ち上がる。恐らく真っ赤になっているであろう顔を両手で覆い、こちらに背を見せたままのヒフミは、そのままの足で浴室へと向かってしまう。
「ごはんっ、食べてていいから。私、お風呂入るからっ」
「お、おぅ」
音を立てて閉められた浴室のドアに、ここ賃貸なんだけどなと心配になる。机の上を見ると、確かにヒフミの白米と味噌汁はなくなっているが、その真ん中には食べかけのハンバーグとサラダがあった。
「……まぁ、もったいねぇし食うか」
流石に一回り小さいヒフミ用のお茶碗では物足りないので新しく俺のお茶碗に米を装い、味噌汁はヒフミのお椀に注ぎ直した俺は、ひとまずヒフミの食べかけハンバーグへと手をつける。
少し冷めてはいるが、それは食べ慣れたお袋と同じ味付けのそれ。やっぱり、どこのハンバーグよりも美味しかった。
「……あっ、ヒフミのパンツ、かわいいって言うの忘れてた!」
△
「心臓がっ、持たない……っ!」
あの幼なじみは、ふとした拍子にああいったことを平然と言うのである。
やれ好きだのかわいいだの。髪型が似合ってるだのナイスファッションだの。なにかと追い込まれてたり自分が悪いと自覚がある時に限ってそういうことを言い始める。
そして、私もちょろいものだと心の中で自嘲する。
─────だって、彼の言葉は誰にだってかけられるそれなのだから。
そう考えると、少しだけ冷静になれる。彼はモテる。あまり愉快ではないが、先輩や同級生からはかなりモテるのだ。
確かにルックスはいい。
これがトリニティのお嬢様にはよく刺さるらしい。一時期「俺、アウトロー目指すぜ」なんて言って拳銃片手にカッコつけまくっていた時期があった。
アウトローだなんてキメてはいたが髪を茶色に染めたくらいで、何かと困っている生徒をみかけると飛んで行って声をかけ、相手のことをお嬢様、だなんて呼んでいたのだ。
それに、1年生の頃は本当に酷かった。「寡黙な強者って、カッコよくね?」なんて言って正義実現委員会に入ったかと思えば、大活躍している最中に謎の重症を負って帰ってきたのだから。
─────そう考えると。
「放課後スイーツ部、かぁ……」
何があったのか知っている身としては少し不安だったが、今は平和に活動しているようで安心したのを覚えている。
だが、それと同時に非常に悔しいものもあった。
彼が1番リラックスして、自分をさらけ出せるのは私の前くらいだろうと言うのは自負している。普段の彼は、少し気負いすぎている節があるから。
「なんかちょっと、妬けちゃう、かなぁ」
シャンプーをシャワーで洗い流す。思い出すのはスイーツ部と一緒にいるときにしか見せない笑顔。
別に彼のことが好きなのかと問われれば、私は素直にうんとは言えない。確かにカッコよくて、おもしろくて、愉快で、私のことをしっかりと見てくれて。カッコつけと子供っぽいところとスケベ根性さえなければ、ペロロ様の次くらいには好きになっていたかもしれない。
……余計なことを考えるのはよそう。またコハルちゃんとハナコちゃんが暴走しかねない。
髪の水気をきってリンスを手に取ろうとして、ふと気がついた。そういえば、このシャンプーと同じ匂いが、彼の陰部から漂っているのではないかと。彼は私のシャンプーでアンダーヘアを洗ったと言っていたことを思い出したのだ。
匂いに敏感なアズサちゃんがそんな状態の彼と出会わなくてよかったと心底思う。彼の陰部から私のシャンプーと同じ匂いがした、なんて無邪気な瞳で言われようものなら、コハルちゃんが死にかねない。
それと同時に、私もふとしたイタズラ心が湧いてしまった。明日、部活でトリニティ郊外までスイーツを食べに行く予定に同行しよう。
そう決めた私は、もう一度髪をシャワーで流し、ペロロ様のボトルの横に置かれたシャンプー手に取って─────。
△
「か、カズサー?カズサちゃーん。なんでそんなに不機嫌なのぉ……?」
「はぁ?なに?ふざけてんの?」
「ごめんなさい」
「謝んのはやっ!?」
「……なぜ、ヒフミさんからジンヤと同じ匂いが……」
「えっと、まさか……」
「あはは……。まぁそういうこと、かもしれませんね」
「へぇ……」
「ふぅん?」
「おーっと……?」
「─────はぁ?」
「ちょ、ガチで怖いってカズサ」
ちょっと短めかも。
誤字報告まぢかんしゃ〜。