エデンの戦士が彷徨うのは間違っているだろうか   作:ノマド

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2話:手続キ

「あっ!」

 

 ひのきのぼうを振り払い、最後のコボルトを倒す。そして聞こえるお馴染みのファンファーレに加えて違う音が聞こえたため周りの安全を確保し、ステイタスを確認する。

 

ーーーーーー

【シキ】

レベル:5

HP:50/50

MP:25/25

職業:武闘家★★☆☆☆☆☆☆

かけもち:僧侶★☆☆☆☆☆☆☆

習得呪文・特技:

→とうこん討ち

→足ばらい

→ホイミ

→キアリー

ーーーーーー

 

(やっぱり、職業ランクが上がっている……)

 

 武闘家が先にランクが上がったのを見るに、ゲームと同じく職業別にランクを上げる()()()()()には差があるようだ。

 

 ふと手元のひのきのぼうを見る。さきほどのコボルトの攻撃を何度か受けた拍子に嫌に鈍い音がしていたが、半ば部分に亀裂が入ってしまっている。昨日、この世界に迷い込んでからずっと使い続けたものだったがいよいよ限界のようだ。どうぐ欄に仕舞い、予備のひのきのぼうを取り出す。

 

 手元に新たに表れたひのきのぼうを見るに、新品?の状態も分からないが、さきほどの壊れかけよりは頼もしい。

 

 ふと周りを見渡すと脱出するまでは意識していなかったが、この地下迷宮(ダンジョン)の壁はうっすらと光ってるため地下であっても視界がある程度確保される。

 

 現在、3階層。ここでゴブリン、ダンジョン・リザード、コボルトと昨日戦ったモンスター達と戦い、魔石を回収しつつ検証しようと考えていたことを実施してみた。

 

 まず、昨日外へ出て分かった『よろずや』はやはりダンジョン内では使用できなかったこと。これはまあ、モンスターが産まれない18階層『迷宮の楽園』のような場所でも試すべきだが『よろずや』の売買はダンジョン内では宛にできないということだ。

 

 次に戦闘中の職業切り替えに関して。これも実施できた。結果として、慣れればモンスターや状況に合わせてステイタス恩恵の上下内容や呪文・特技を切り替えて対応できると確信を得ることができた。まあ、そのためには最適な装備の切り替えも必要でそれは要練習。加えて、その選択の判断が自身にとって致命的なものに為らないように経験あるのみ(死のリスクと天秤を図る)だ。

 

 また『職業選択の組み合わせの切り替え』と『どうぐ欄』。これにはかなり可能性を感じる。このダンジョンの上層はともかく中層以降はファミリア内でパーティを組んで役割分担をするのが当たり前だったはずだ。加えて、下層や深層では【ロキ・ファミリア】のようなトップ層であってもほぼ軍隊の進軍のような大掛かりな集団生活を前提にしたものでないと迫りくるモンスターに対応できていなかった。特に予備の武器や防具、兵糧運搬には非常に苦労していた記憶がある。本来集団対応が当たり前なことを自分一人で賄える。これは大きなアドバンテージだ。

 

 この運搬に関しては自身の『どうぐ欄』に上限があるか、そもそも入る・入らないの線引き検証も含めてはどんどん色んな物を詰め込んでいって検証すべきだが……まあなんとなく、上限自体はない気がする。

 

 一方でもし上限がなければ、このオラリオでありとあらゆる勢力、闇派閥(イヴィルス)でさえも何が何でも欲しいと干渉してくるだろう。一瞬、これを餌に【ロキ・ファミリア】といったトップ層に売り込んでみようと考えたが場合によっては自身は()()()()として一生囚われ続けることになる。

 

(とにかくレベルを上げて、装備を整えて強く為らないと……)

 

 その考えはリスクが大きすぎる。いくらトップ層であっても何があるか分からないのがこのオラリオという場所だ。必要最低限、強く為り、さらにこのオラリオでの【エデン・ファミリア】立ち場を確立しないと話にならない。

 

 特にダンまち本編を通して描かれている神々も千差万別だが、下界に降りた理由の大半が『退屈』であり、人間から見れば極めて傲慢で自己中心的な行動が多い。それが愛や自身の眷属達への……日本風に言えば()()()に近いと言えばよいのか、いい方向に働くこともあるだろうが身内が良ければいいというスタンスがほとんど。加えて本編を通して描かれている事件の発端の多くが結局神々が暗躍していることが多い印象だ。

 

 それらの神々とっては自分のような普通じゃない眷属は、さぞ面白いおもちゃ(退屈しのぎ)や自分のファミリアの()()()に見えることだろう。そんな連中に目を着けれられば碌なことにならない。

 

「よし!」

 

 気合を入れなおし、ひとまずこの3階層で魔石回収を優先に切り替える。少なくともこのひのきのぼうスタイルの改善を早くしたい。加えて、魔石を取り出すのに石を擦りつけるのは時間が掛かり過ぎる。いくらなんでも効率が悪すぎるため、解体用のナイフも視野に入れまずは購入用のヴァリスを稼ぐ。

 

ーー✳︎ーー✳︎ーー✳︎ーー

 

 魔石の換金。これはダンまち本編でも語られていたが、ギルドでの換金は安全と信頼の最低価格。高値での買取は、買い叩かれるリスクを承知の上で商人や職業系『ファミリア』での交渉を行うとあった。

 

 現状そんなツテもない、そもそもファミリア結成の手続きも昨日の去り際に明日また来てくれと言われていたので再度換金目的もかねてギルドへ訪れる。時刻は昼を大分過ぎてしまった頃だろうか。窓口に名前を伝えると、後方にいた赤髪の女性がやって来た。

 

「ようこそおいでくださいました、【エデン・ファミリア】()()、シキ様。ファミリア結成に伴い、監督役(アドバイザー)となりましたローズです。よろしくお願いいたします。」

 

 気だるそうな態度と真面目なセリフが全く一致していないと思わせるこの女性は狼人(ウェアウルフ)。非常に容姿が整っている美人。

 

 まあ、急にぽっと出のファミリアの駆け出し冒険者の担当を昨日今日でしろといきなり言われただろうから反応としては当たり前だ。加えて団長もやらないといけないという、かなりの面倒事だと思えるのも当然。

 

「シキです、急なご対応になるかと思いますがご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします!」

 

 それを察しつつもできることはこれ。姿勢を正し、前へ礼。こちらの礼作法は分からないが、誠意を見せること。

 

「……極東出身は礼儀正しいってほんとなのね」

 

「話にきいていた浮浪者のような格好だったらどうしよかと思ったけど……それ、他の冒険者にしたら舐めれるかもだからまあ要所要所で使いなさい」

 

 一瞬目を点にするが、直ぐに切り替え雰囲気を変える。かなり強気な感じが本来の姿なのだろう。この場慣れ感を見るに、かなりのベテランのようだ。加えて誠意に応えてくれるらしい……本当にありがたい。

 

 また特に言わなかったがこの容姿から極東出身ということで話が通っているようだ。それに従い、今後は自身の出身はそう名乗れば良いだろう。加えて、神相手でも日出づる、東の国(日本)と言えば嘘判定も誤魔化せる。

 

 そして、ファミリアの手続き書類と説明があるからと、別室を案内される。ローズさんの案内で入った別室は、窓もなく魔法灯の淡い光だけがぼんやりと空間を照らしていた。

 

「さて、まずはファミリア登録の最終手続きを済ませましょうか」

 

 ローズさんはだらりと腰掛けながら、分厚い書類の束をカウンターに置く。その動作はどこか気だるげだが、狼のような鋭い瞳はしっかりと私を捉えている。

 

「ひとまずはファミリアの証明書、無くさないようにね。まあギルドに来れば再度発行できるけど、次からはそれなりにヴァリスが必要になるわ」

 

 差し出されたのは、1枚の書類。表面には【エデン・ファミリア】と刻まれ、それを表す()()のみが描かれていた。デザインは……雲に浮かぶ、リンゴだろうか? 果物豊かな実る木々が生えた小さな島が描かれている。周りは羽の様な囲いがあり、まさに楽園(エデン)を端的に示す分かりやすいデザインだ。まあ神話関連の伝承等にてリンゴは大分厄ネタな気もするが、考えるのは辞めておく。

 

 さらに裏面には自身の名前が記されている。この世界に来て、直ぐに分かったが共通言語(コイネー)はシステムのおかげか問題なく読み書きもできる。そもそも言葉も通じていたので、こちらも深くは考えない。

 

(これが、この世界での正式な身分証明書……)

 

「そしてこちらが冒険者規約。読んで署名を、税金について、後はダンジョン内のルール、魔石換金の規定、他ファミリアとの紛争解決方法についてはしっかり目を通しておいて」

 

 分厚い書類を手に取ると、羊皮紙の特有の匂いが鼻をくすぐる。

 

「第三条 魔石の取引について……ギルド以外での取引は自己責任とする……第五条 ダンジョン内での他ファミリアへの攻撃は……」

 

 読み進めるうちに、この世界の法曹など合って無いような綱渡り状態であることが伺える。

 

 まさに金と権力、暴力が支配する世界だ。危険な現実がひしひしと伝わってくる。規約のほとんどが『自己責任』、『紛争解決は当事者間で』といった内容だ。まさにオラリオと呼ばれるにふさわしい、無法地帯のようなルールが並んでいる。

 

「どう? 特に疑問点は?」

 

 ローズさんはだらりと顎杖をつきながら尋ねてくる。その目は一見ぼんやりしているように見えるが、鋭い観察眼が光っている。

 

「いえ、特に問題ありません。署名すればいいのですか?」

 

「ええ、そこにサインを」

 

 差し出された羽根ペンを受け取ると、少し緊張しながらも名前を記入する。現代日本ではほとんど使ったことのない筆記具だが、なぜか自然に手が動く。

 

「はい、これで」

 

 書類を返すと、ローズさんはさっと目を通してうなずく。

 

「よし、これで【エデン・ファミリア】の登録は完了。後は税金だけど……」

 

 最後に税金関して説明を受ける。ギルドはオラリオに属する全ての【ファミリア】から等級に合わせて税金を徴収している。しかし設立して初年度は免除されるらしい。加えて、メンバーや功績に合わせてとのことだが額を見るにしっかりと稼いでいれば特に問題はない感じだ。

 

「さて、手続きはこれで終わりだけど……他に用事は? 換金だとは聞いたけど」

 

「はい、ダンジョンで回収した魔石とドロップ品を換金したいのですが」

 

 そう言って、肩から下ろした布袋をカウンターに置く。中身は3階層で戦って得た魔石と、ゴブリンの牙、コボルトの爪などだ。ローズさんは中を覗き込む。その瞬間、だらけた表情が微かに変化する。

 

「……これは」

 

 ローズさんは眉をひそめる。

 

「あなた、ダンジョンに潜った階層は? それに何回目?」

 

 声には少し呆れたような、しかし興味を引かれたような微妙なニュアンスが含まれている。

 

「3階層までで、今回で2回目です」

 

 ローズさんの細い眉がさらに吊り上がり、鋭い眼光が自身の装備――結局あまりダメージを貰わなかったため新品同様の皮のよろいとぼうしを一瞥した。ローズさんの指がカウンターを軽く叩く音だけが、少し重い沈黙を破る。

 

「ドロップ品は少ないけど、駆け出しにしては魔石の数がとんでもないわね。こんなに多くの魔石を、どうやって集めたの?」

 

(まずいか……? あまりに多く取りすぎただろうか)

 

「えっと、数が多いときは逃げるなり避けるなり対応してひたすら戦っただけなのですが……」

 

 内心で冷や汗をかく。確かに、コボルトやゴブリンといった下級モンスターばかりだったが、通常の新人なら、一度のダンジョン潜入でこれほどは集められないということらしい。システムの効率の良さが、逆に目立ってしまったのか。

 

「2回目でこの量? それに、あなた1人よね」

 

 ローズさんは袋の中からコボルトの爪を取り出し、じっと観察する。

 

「まあいいわ。換金所は……案内するわ」

 

 そう言ってローズさんは部屋を出て、檻で囲われたカウンターを指さす。

 

「幸い混んでないわね。あそこで渡せば、職員が検査するから」

 

 換金所のカウンターには、無表情な職員が待ち構えている。ローズさんの合図で、袋の中身をすべてカウンター木枠内の上に広げた。渡した魔石とドロップ品を検品し始める。

 

 強盗やトラブル防止なのだろう、柵越しに職員が木枠をスライドし手元へ。黙々と魔石を手に取り、一つ一つ仔細に検査していく。職員は最後にドロップ品を手に取り、細かくチェックする。ゴブリンの牙、コボルトの爪……すべてを確認し終えると、木枠が再度こちらへスライドする。そこにはかなりの数の硬貨が。

 

9()0()0()0()ヴァリス」

 

 一言言って、そのまま黙る。それらを受け取り、再度ローズさんの元に移動する。

 

「……この額は破格ね」

 

 そんな様子を見ていたローズさんは呆れたように首を振るが、その目にはかすかな好奇の色が浮かんでいる。

 

「ふつう、あんたみたいな初心者が4日、5日かけてようやく稼げる額よ。まあ、闇派閥(イヴィルス)の動きが活発で魔石の相場が上がってるってのもあるけどさ」

 

「……はあ、そうなんですね……」

 

 そんな無難な自身の言葉に、「けど、」とローズさんは切り返す。視線は鋭く、まるで自身のすべてを見透かすかのようだった。

 

「防具は揃えたようだけどその革装備はいくら何でも貧相すぎ。駆け出し用にギルドから支給品がある……最低品質だけどそれを上に着ければマシになるわ」

 

 ローズさんは、別の職員を呼び寄せた。

 

「彼を採寸して、支給品を一式渡してちょうだい。できれば傷の少ないものを選んで」

 

 その後、職員に採寸されて分類としては軽装な部類になるのだろう。見た目からして良質ではない鉄製の胸当て、籠手、臑当て、そして鈍く光るナイフを受け取った。どれも明らかに使い古されたものだが、確かに今までの装備よりはマシだ。

 

 皮の鎧の上からでも十分に取り付けられた。体を少し動かし、可動域は問題ないことを確認する。また鉄の重みはすぐに慣れないものだったが、それでも何となく心強く感じた。

 

「武器はそのヴァリスで更新しなさい」

 

 そんな様子を見学していたローズさんはそう言うと、近くの机から一枚の紙を手に取った。その紙にはいくつかの店の情報が記されていた。

 

「バベルの、上の階層にある【ヘファイストス・ファミリア】系列の店。ここなら駆け出しでもまともな値段で買い物ができるはずよ」

 

 紙を受け取り、深々と頭を下げた。恐らくダンまち本編にてベルがヴェルフと出会うきっかけの、駆け出し職人の店がある階層だと分かった。

 

「ありがとうございます、ローズさん。武器は購入するつもりだったんですけど、オラリオの土地勘が全然無くて店探しからと考えていたんです」

 

 感謝と敬意が込めて答える。

 

 ローズさんは少し間を置くと、表情は変わらずとも少しだけ雰囲気が柔らかくなった気がした。

 

「ついでに忠告しておくわ、この街では1人で行動する者は狙われやすい。特にあなたのように……目立つような存在はね」

 

 しかし、口調は変わらずローズさんの目が一瞬、狼のような輝きを帯びた。その表情は、周囲の空気までが緊迫した錯覚を覚える。

 

「私があなたの担当になった以上、ちゃんとここに来て話す気があるなら無駄死にはならないように多少教えてあげる。だから、何かあったらすぐに私に報告するの。わかった?」

 

「はい、しっかりと肝に銘じておきます」

 

「……ひとまず明日の朝、来なさい。適当な依頼(クエスト)斡旋するから」

 

 再び礼をし、ヴァリスをしまい、ローズさんと別れる。別れ際に先ほど教えてもらった店がある階層へと繋がるエレベーターがある場所を教えてもらい、すぐさま移動する。

 

 その際、なんとなく後ろを見られている気がした。少なくともローズさんは口調や態度とは違い、異邦人である自分にきちんと対応し考えてくれる人なのだと思えるファーストコンタクトだった。 

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