エデンの戦士が彷徨うのは間違っているだろうか   作:ノマド

5 / 6
4話:異分子

ーーーーーー

【シキ】

レベル:5

HP:45/45

MP:22/22

職業:武闘家★★☆☆☆☆☆☆

かけもち:僧侶★☆☆☆☆☆☆☆

習得呪文・特技:

→とうこん討ち

→あしばらい

→ホイミ

→キアリー

 

【装備】

黒鉄(くろがね)の杖

駆け出し冒険者の軽鎧

駆け出し冒険者の軽兜

ーーーーーー

 

 なぜかここまでモンスターとは出会わなかったが、ダンジョン3階層入り口付近に到着した。

 

 深く、ゆっくりと息を吸い込む。冷たく乾いた空気が肺に入り、覚悟を固めるように意識を研ぎ澄ませる。

 

 ゲパルドさんによって生まれ変わった防具は、今までとは比べ物にならない守り。そして、手に握った()()()()。装備欄にて名称が判明し、やはり棍ではなく杖だったのだが……その重みは、冷たく不思議な安心感を与えてくれる。

 

 それによって、心は今までにない余裕がある。これが、まともな装備というものなのか。たった1日前まで、命の頼りだったあのひのきの棒の軽さ、頼りなさを思い出す。

 

 3階層に足を踏み入れると同時に、より気温が下がる。ダンジョン内部の冷気が、防具の隙間から這い入り、肌を刺す。薄暗がりの中、壁がぼんやりと光を放ち、不気味な明かりを提供している。数歩進んだその時、蠢めく影が前方の洞窟の分かれ道から現れた。鋭い爪を擦り合わせるような音、湿った鼻息。そして、濁った目が5つ、闇の中に浮かび上がる。

 

 ゴブリンだ。小柄で、緑がかった肌、そして獲物を狙うような低い唸り声。1体が気性を荒げて敵意を剥き出しにすると、他の4体もそれに続いた。理性を感じさせない威嚇。

 

 今までだったら胸の奥で心臓が激しく打ち始めていた。

 

 しかし、今回は違う。逃げる必要はない。むしろ、この新しい装備がどこまで通用するのか、確かめてみたいという衝動が沸き起こる。

 

「来い」

 

 挑発するような低い声が、洞窟に響く。それを合図のように、1体のゴブリンが跳んだ。短剣のような爪がまっすぐに顔面を襲う。

 

 反射的に、黒鉄の杖を横一閃に振るった。

 

 風を切る重い音。そしてそれに続いて鈍い、肉を抉る衝撃音。

 

 跳んできたゴブリンの腹部に杖が直撃する。その瞬間、ゴブリンの体が内側から膨張し、まるで過剰に空気を詰め込んだ袋のように――破裂した。緑色の体液とともに、小さな輝く石――魔石がぽろりと地面に転がり出る。そして、その体は急速に色を失い、灰へと変わり、微風に吹かれるように散っていった。

 

 一撃。

 

 たった一撃で。

 

 他のゴブリンたちは一瞬動きを止め、混乱したように見えた。しかし、凶暴性が理性を上回る。残り4体が一斉に襲いかかってきた。右から、左から。体が自然に動く。この新しい防具は重いが、動きを妨げるほどではない。むしろ、守られているという感覚が、無駄な動きを抑制している感覚。杖を大きく振り回す。円を描くような軌道。一撃、また一撃と、ズドン!と鈍い音が続く。

 

 次々とゴブリンの体が破裂し、魔石が飛び出し、灰が舞う。ほんの数秒のうちに、魔物が跡形もなく消え去った。ただ、床に5つの魔石が微かに光を放っているだけだ。

 

 自分で振った杖でありながら、そのあまりの破壊力に声が出ない。息を呑み、ただ黒鉄の杖を見つめる。杖の先端には、ゴブリンの体液らしい粘液が少し付着している。昨日まで、あのひのきの棒で叩き、いつ折れるのかと心配しながら戦っていた時間はなんだったのか。まるで別世界の話のように感じる。

 

(これが……武器の力)

 

 呆然と立ち尽くす。周囲には再び静寂が戻り、直ぐに我に返る。地面に転がる魔石に目をやる。五つ。以前なら、戦闘が終わった後、石で必死に擦りつけて体内から魔石を取り出さなければならなかった。時間もかかるし、その間に他の魔物に襲われるリスクもあった。今はどうだ。戦闘と同時に回収が完了している。効率が違いすぎる。

 

「はは……馬鹿らしいよ、本当に」

 

 思わず苦笑いが零れる。喉の奥から湧き上がる、複雑な感情。強さへの喜びと、昨日までの自分への憐れみ。

 

 その瞬間、背後から、低く、野生的な唸り声が聞こえた。毛が逆立つような感覚。素早く体勢を変え、振り返る。

 

 影から、さらに6体の影が現れた。二足歩行でしゃがみ込むような姿勢、鋭い牙や爪が特徴的な小柄な人狼。コボルトだ。より知性的で、素早い、この世界で初めて出会った()()()()()

 

 奴らはゆっくりと弧を描くように動き、包囲網を狭めてくる。1体が牙をむき出し、深い声で唸る。別の1体が、よだれを垂らしながら近づく。

 

 ゴブリン以上のある程度の統率漁れた動きに緊張が走る。しかし、心臓の鼓動は早いが、乱れていない。恐怖ではなく、高揚に近い。自分でも驚くほど冷静に自然体で構える。

 

 視界の端にいたコボルトの1体が動いた。唸り声を上げて飛びかかってくる。

 

 しかし、ひのきのぼうよりはるかに長い、この杖のリーチがものを言う。リカントの爪が届く寸前で、杖の先端がその側頭部を捉える。鈍い音と何かの液体が吹き出る音と共に1体目のコボルトが崩れ、唸り声を出す頭部は潰れた。以前なら、何度も攻撃し特技も使って戦っていた。いや、そもそもこの距離から攻撃を仕掛けることすらできなかった。

 

 他のコボルトが動揺した隙に、正面にいる2体のコボルトの前に踏み込んで()()。胸元を狙ったそれは肉を抉るが抵抗のない重さ、奴らの体が痙攣し、そして灰へと変わる。魔石がコロリと2つ転がり出る。

 

 残りの3体が、より慎重に、しかし確実に怒りを込めて囲んでくる。2体が左右から同時に飛びかかる。

 

 体が反応する。左にステップを踏み、最初の1体の攻撃をかわすと同時に、杖を突き出すように振るう。先端がコボルトの喉元を貫通。そのままの勢いで体を回転させ、右から来たもう1体の腹部を払う。2体がほぼ同時に灰と化す。

 

 残り1体。唸り声を上げながらも、少し後退した。恐怖が、獣の目に浮かんでいる。

 

「逃げるか?」

 

 挑発するように杖を構えた拍子に、勇気を振り絞って突進してくるがそれは無謀だった。正確な一撃が胸を打ち抜き、灰と化す。

 

 連戦になったが、戦いはあっけなく終わった。

 

 肩で息を整える。黒鉄の杖を肩に担ぐ。革の防具の下で、汗が少し冷たい。以前なら、逃げるなり、石を投げるなりで牽制しとにかく工夫し人数差を埋めるのに必死で、息も絶え絶えになっていた状況。今は、ほんの少し息が上がっているだけだ。

 

(装備一つで、ここまで変わるものか……)

 

 地面に転がる魔石を拾い集める。また最初に倒したコボルトは頭が潰れるだけだったので、解体用ナイフで手早く胸を開き、魔石を回収。切れ味も申し分ない。

 

(装備慣らしは、この階層で十分かも……問題は目的でもある4階層だ)

 

 そもそも今回は装備慣らしとダンジョンに自生するという()の回収。ここに来るまでにそれらしいものを見渡していたが、見つからなかった。ローズさんの言う通り、3階層までは競争率が高いのだろう。あいにくとダンジョン3回目だが、同じ冒険者と遭遇することは今のところ一度もないが。

 

 しかしながらこの4()()()。昨日来た際は降りることは諦めた階層でもある。理由はただ1つ、()()()()()()()()()()の存在だ。

 

 大きさ、体重に加えて強靭な皮膚。その粘着質な舌の攻撃と、蛙特有のジャンプ力による俊敏さ。ひのきのぼうでは、その防御を崩すことすら困難だった。あの時はダンジョンから脱出するのに必死だったから特徴的な一眼の目玉や、口の中といった柔らかい部分をなんとか狙って対処したが正直2度とやりたくない。

 

 とは言え、4階層でないと苔は回収できなさそうなので覚悟を決める。

 

 しばらくして4階層へ辿り着き、慎重に前進を続けるとすぐに目標である()が視界に入った。壁の下側にへばりつくように自生する、緑色の苔だ。さっそく収集を始める。解体用ナイフ指先で慎重に苔を剥がし、袋の中へと収めていく。一つ、また一つと作業を進める。ただまだ数が少なく、かすかにちらつく程度だ。もっと深く進まなければならない。

 

 そう判断し、慎重に歩を進めるうちに前方から水の滴る規則的な音と共に、のっそりとした影が現れた。巨大な単眼が不気味に光る――フロッグ・シューターだ。しかも今回は3体がまとまって移動している。それらは互いに絡み合うようにして進み、湿った地面に足跡を残しながら近づいてくる。

 

(前回は1体ずつおびき寄せたけど……)

 

 杖をしっかりと握りしめる。以前なら即座に撤退を考えていた状況だが、今日は違う。新しい防具に守られ、武器の破壊力を実感した今、むしろこれは良い機会だとすら思える。心臓の鼓動が早くなるのを感じながら、ゆっくりと息を整える。

 

「やるか」

 

 囁くように言い聞かせ、最初の一歩を踏み出す。足元の小石が軋む音が響き、3体のフロッグ・シューターがほぼ同時に気配を感知し、巨大な単眼をこちらの方向に向ける。それらの目が一斉に光を放ち、不気味な威嚇の声を発する。

 

 最も近い1体が舌を伸ばしてくる。高速で襲いかかる粘着質の舌。

 

 反射的に後ろに下がり、杖で払おうとするが──空振りだ。

 

 舌が鎧の上を滑り、その衝撃でさらに一歩後退を余儀なくされる。流石にこの瞬間の伸び縮みを見切るのはまだ早かった。

 

 幸いダメージは無い。距離感を見極め、特技に頼らず基本の動きで戦うことを決意する。初日に対応した感触からして、この杖ならどの部位を攻撃しても有効打となるだろう。最初の1体目に狙いを定める。

 

 跳びかかってくる巨大な蛙めがけて、比較的慣れた足捌きで前へと突撃を繰り出す。

 

 杖が空気を切り裂き、フロッグ・シューターの頭部を直撃する。鈍い音と共に眼球が破裂し、体液が飛び散る。

 

(通った!)

 

 その瞬間、背後から猛烈な体当たりを受ける。大きく吹き飛ばされ、壁に激突しそうになるが、鎧の防御力と自身の踏ん張りで何とか耐える。鎧が衝撃を吸収し、体内に響くダメージを最小限に抑えてくれた。

 

「……ッ!」

 

 2体が威嚇するように膨らみ、次の攻撃の機会を伺っている。それらは互いに鳴き声を交わし、連携して襲ってくるような気配。

 

(冷静に……さっきのゴブリンやコボルトとの戦いを思い出せ)

 

 自分を戒め、冷静さを取り戻す。残り2体の動きを慎重に見極める。舌攻撃のパターン、跳躍の癖──初日の戦いで見た動きを思い出す。ゆっくりと距離を取ると、相手の動きを誘導するように細かくステップを踏む。

 

 2体目が跳びかかってくる。わざと誘い込むようにわずかに後退し、着地の瞬間を狙って杖を振り下ろす。頭部の一部が抉れ、悲鳴のような鳴き声が上がる。追い打ちをかけるように連続で突く。幸い、杖の重さと自身の筋力で固そうな腹も貫通できた。ついに2体目が崩れ落ち、魔石を残して消滅する。

 

 最後の3体目も跳んだ。しかし、軌道は読みやすい。こちらも踏み込む。相対速度を最大化するように。

 

 空中で交錯する瞬間、横へ振った杖が、フロッグ・シューターの大きく開いた口の中──中顎めがけて、突き刺さるように打ち込まれる。そのまま薙ぎ払う。

 

 グシャッ!

 

 鈍く、湿った破裂音。そのままの勢いで杖を振りぬく要領で前に前進すると、それは横を通り過ぎ背後に崩れる。その衝撃に合わせて、魔石が零れ落ちて灰が舞う。

 

 静寂が戻る。自分の荒い息の音だけが響く。膝から少し力が抜け、その場にうずくまりそうになるが直ぐに姿勢を戻す。手に握った黒鉄の杖は相変わらず重いが、今はそれが心地よい疲労感として感じられる。

 

(まだまだ危ういけど……少なくともこの階層でもこの装備は通用する)

 

 懸念だった、フロッグ・シューターにも攻撃が通じる。これならここでの採取でも問題ないだろう。

 

ーーーーーー

【シキ】

レベル:5

HP:41/45

MP:22/22

ーーーーーー

 

(さっきの衝撃……この防具だったから良かったけど、ほんとゲパルドさんに感謝だ)

 

 画面を出し、自身のHPの減り具合を確認。この防具のおかげでかなりの衝撃でも4ダメージ。

 

 これくらいなら検証に丁度よいと『どうぐ欄』から()()()()を取り出す。

 

「……」

 

 手元に合われた、青々しい葉っぱの束。

 

 ……間を置き、それを口に含む。

 

(……日本人の舌にはあんまり馴染みのない味なんだよなぁ)

 

 実はすでにやくそうの味見は昨日、安宿の少なくまずい食事では腹の足しにならんと実施していた。しかしその時はHPが減っていなかったため、その回復力を検証できなかった。

 

 味と風味としては……濃いミントにアシタバを混ぜたような感じだ。チョコミント好きな人なら好んで食べそうと偏見的な考えを巡らせながら、無心で我慢し全て噛んで飲み込む。それから時間を意識して周辺に散らばった魔石を回収する。画面は出したままだ。

 

──魔石回収し1分経過。やはり、直ぐには効果は現れない。

 

 視界の端で壁に自生する苔を捉え、周辺にあるものを回収しつつダンジョン内を進む。

 

──3分経過。変化なし。

 

──5分経過。変化なし。

 

──10分経過……()()()

 

──さらに10分経過でも同じく()()()

 

ーーーーーー

【シキ】

レベル:5

HP:43/45

MP:22/22

ーーーーーー

 

「10分で1回復……」

 

 非常に効果が低いリジェネ(作品違い)といった具合。戦闘中の回復手段としては宛にできないだろう。痛み止めといった他効能は……あるかどうか判断できず。説明を見る限り、患部に充てても効果があるらしいがダンジョン内で防具を脱ぐ行為自体リスクがあるのでこれ以上の検証は難しい。

 

(となると戦闘中の瞬間的な回復手段はやっぱりポーション……もしくは()()()等の魔法か)

 

 実は魔法自体まだ使用していなかった。ホイミは、レベルアップのHP回復効果のおかげで使う機会がなかったからだ。解毒のキアリーも言わずもがな。

 

 ここでの苔を回収をメインに、出会ったモンスターとは逃げずに戦う。ダメージは多少覚悟でこれまで避けていた数相手でも経験値稼ぎかつ、この杖の扱いを体に叩き込む。

 

 ついでにその際にホイミの検証をすることを決める。

 

 

ーー✳︎ーー✳︎ーー✳︎ーー

 

 

 あれから、コボルトやフロッグ・シューターを中心に討伐しつつ、ひたすら苔を回収していた。その際、レベルは()に上がり……恐らく5時間以上は経過していた。そろそろ帰還しようかと、考えた矢先にこれだ。

 

 湿った空気が震え、周りを囲む7つの影が忙しく動く。フロッグ・シューターの群れ。退路も自然に円を描くように塞がれる。

 

 これほどの数がまとまって現れるのは初めて。巧みに散開し、完璧な包囲網を形成している。1つ目の巨大な目が一斉にこちらを向き、その光は洞窟の薄暗がりの中で不気味に揺らめく。

 

 最初の1体が動いた。また対応できない速さで舌を突き出してくる。反射的に体をかわすが、完全には避けきれず。鎧の上を舌が滑り、その衝撃で体勢を崩されかける。その瞬間、2体目、3体目が同時に跳びかかってくる。左右から迫る巨大な影。咄嗟に杖を構え、右側の一体を払いのけるが、左側の体当たりを完全には防ぎきれない。

 

(連携している……?)

 

 今まで対応してきたどのモンスターよりも、群れとしての連携が脅威だ。彼らは互いに鳴き声を交わし、こちらの動きを封じるように位置取りを変えていく。

 

 鈍い衝撃が左肩を襲う。防具が衝撃を幾分か吸収してくれたが、それでも鋭い痛みが走る。視界の端でHPが減少したのが、とっさに出した画面で確認できる。

 

「たぁっ!」

 

 気合を入れ、杖を振りぬく。しかし、次の瞬間には別の一体が舌を絡めつけてくる。咄嗟に腕を引っ込めるが、鎧の上でぐしゃりと不気味な音を立てる。

 

(このままではまずい……各個撃破できる隙がなさすぎる)

 

 額に冷や汗がにじむ。心臓の鼓動が早くなり、呼吸も乱れ始めている。

 

 4体目が跳んだ。必死に体をひねり、間一髪で回避するが、その反動でバランスを崩す。

 

「ぐっぅ……」

 

 膝をつきそうになるのを堪え、杖で地面を支える。その瞬間、5体目が鋭い鳴き声を上げながら突進してきた。

 

(避けられない――!)

 

 覚悟を決め、杖を構える。しかし、その前に別の1体が放った舌が左腕に絡みつく。

 

「なっ!?」

 

 粘着質の感触が鎧の上で蠢く。信じられないほどの力で引っ張られ、体が前方へと引きずり出されそうになる。

 

 必死に踏ん張り、杖で地面を突く。岩石と鎧が擦れ合い、耳障りな音を立てる。なんとか体勢を立て直すが、その隙を狙われて6体目が体当たりを仕掛けてくる。

 

 ドスン!

 

 腹部を直撃され、息が詰まる。視界が一瞬、かすむ。

 

(まずい……本当にまずい……)

 

 焦りが頭をよぎる。この数では、通常の攻撃では太刀打ちできない。各個撃破しようとしても、他の個体に阻まれてしまう。

 

(……『とうこん討ち』なら……)

 

 決断が頭をよぎる。今の状況を打破するにはそれしかない。

 

 意を決し、精神を集中させ特技を発動する。

 

──『とうこん討ち』!

 

 瞬間、全身が通常時よりも明らかに力が漲ってくるのを感じる。

 

 直ぐに左腕に絡んだ舌を振り払い、その先にいた1体の態勢を崩す。その勢いに任せて最も近いフロッグ・シューターめがけて、杖を振り下ろす。

 

 杖が、魔物の頭部を直撃する。鈍い音と共に、眼球が破裂し、体液と魔石が飛び散る。一撃で灰と化し、消え去った。

 

(よし……!)

 

 しかし、喜んでいる暇はない。まだ残り6体だ。しかし力は湧くものの、これまでにないほどの痛みが体に違和感与え覚え感覚を鈍らせる。

 

 ならば――

 

()()()()

 

 その瞬間、呪文を表すであろう淡いの幾何学模様な文字が周りを一瞬取り囲み、自身の体に光が降り注ぐ。

 

 リイマジンドやドラクエシリーズで見たことがある、お馴染みのエフェクトだ。

 

 痛みが一瞬で消える。

 

 他のフロッグ・シューターたちは一瞬動きを止め、仲間が一撃で倒されたこと、こちらのその姿に驚いたように見える──隙ができる。

 

「次!」

 

 叫びながら、次の一体に狙いを定める。跳びかかってくる魔物の腹部めがけて、杖を突き出す。

 

 鈍い手応えと共に、杖が体内深くまで貫通する。悲鳴のような鳴き声を上げながら、その一体も灰へと変わる。

 

(あと4体……いや、5体! なら!)

 

『足ばらい』!

 

 今まで使ってこなかった特技だが、なんとなくどういうものか感覚で分かる。導かれる感覚に従いで近くにいた1体の足元を金魚すくいを彷彿させる動きですくい挙げるような薙ぎ払い。そのフロッグ・シューターはひっくり返って宙を舞い、1回転。背中から大きな音を出して落ちる。その衝撃は強力なようで、手足をバタバタとする。

 

 残り4体が再び動き出し、警戒しながらも包囲網を縮めてくる。しかし、先ほどのような余裕は彼らの動きから消えている。

 

『足ばらい』!

 

 自分から仕掛ける。最も近い別の1体に踏み込み、杖を振りぬく。また大きく宙を舞い、ひっくり返って無力化される。

 

(……残り3体ならいままで通りで!)

 

 残り3体。彼らは互いに鳴き声を交わし、同時に襲いかかってくる。

 

 右、左、正面から。三方向からの攻撃。

 

 一瞬の判断が迫られる。正面の一体をまず倒すことに決め、杖を構える。叫びながら、正面から跳びかかってくる一体に杖を突き立てる。そのまま背後へと抜ける。灰と化し、消え去る。

 

 残り2体。左右を過ぎ去ったそれらは背中を見せている。

 

「っシ……!」

 

 追い打ちをかけるように、近くの1体に杖を振るう。鈍い音と共に、胴体が潰れて、灰へと変わる。もう1体は前と前進していたが、直ぐに追いかけトドメを指す。

 

 もうその時にはさきほどひっくり返っていた2体は復帰していたが、もう大丈夫だ。直ぐに向き直して、冷静に対応し倒す。

 

 静寂が戻る。自分の荒い息の音だけが洞窟に響く。周囲には七つの魔石が微かに光を放っている。

 

「はあ……はあ……」

 

 その場に膝をつき、息を整える。『とうこん撃ち』の効果も消えた。その瞬間、レベルアップの音とは違う音を確認しメニュー画面を開く。

 

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【シキ】

レベル:6

HP:55/55

MP:28/30

職業:武闘家★★☆☆☆☆☆☆

かけもち:僧侶★★☆☆☆☆☆☆

習得呪文・特技:

→とうこん討ち

→あしばらい

→ホイミ

→キアリー

→バギ

→スカラ

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(やっと、僧侶もランク2……)

 

 しかし、最初の部分はまずかった。やはり数の多さに対しての対応は今後の課題だろう。

 

 とはいえ、咄嗟とはいえホイミの検証もできた。HPも全て回復しており、痛みもすっと消えたのを見るに戦闘中でも使えることは確認できた。

 

(しかも……新しい魔法はバギ)

 

 ドラクエお馴染みの風魔法。説明部分を確認してみる。

 

ーーーーーー

消費MP:4

小さな竜巻が敵を切り裂く

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 消費MPもリイマジンドと変わらず、しかし確か何体かにランダム的なことが書かれていたはずだ。それの記載がなくなっている。これはこの世界に合わせた調整な感じなのだろう。

 

(とはいえ……もう今日は離脱しよう)

 

 流石にダンジョンに潜り過ぎたと判断し、帰還を始める。それなりに道を覚えるのは得意なので、3階層への階段へ道は迷わず進む。

 

 しかし、その過程で分かれ道の通路で、4つの影が蠢いている。フロッグ・シューターの群れだ。その距離はまだ安全圏内。

 

(逃げることもできるが……)

 

 ちょうどいい機会だと。新しく習得した『バギ』の威力を試してみる。

 

 距離を十分取り、杖を構える。心の中で呪文を唱え始める。集中する。精神を一点に絞り込む。

 

「──バギ!」

 

 瞬間今までで一番MPの大きな減りを感じるものの、体の周りに淡い光の粒子が舞い、幾何学模様のような魔法陣が一瞬浮かび上がる。

 

 すると、群れの中心に小さな渦が発生した。最初はただの風の動きかと思ったが、すぐにそれが猛烈な勢いで成長していく。

 

 目の前で小さな竜巻が形成され、4体のフロッグ・シューターを飲み込んでいく。真空の刃が彼らを切り刻む──そんな表現がぴったりな光景だった。

 

 奴らの悲鳴が洞窟に響き渡る。しかし、それはすぐに竜巻の音にかき消された。竜巻は数秒間だけ存在し、その後は何事もなかったかのように消え去った。残されたのは、微かに光る魔石だけ。

 

「一撃……?」

 

 息をのむ。予想以上の威力に、自分でも驚いてしまう。しかし、その驚き以上に気になることがあった。手に握った杖が、明らかに熱を持っているのだ。加えて体と杖が一体となって何かが流れる()()もある。

 

(……もしかして)

 

 『ホイミ』を使った時も、同じような感覚があったもかと思い出す。あの時は戦闘中の緊張感もあって、気に留めなかったが……。

 

 すぐ画面を呼び出し黒鉄の杖の装備を付け替えて、ステイタス値の変化を確認してみると『こうげき魔力』と『かいふく魔力』が少しだけ上昇していることが分かる。

 

(これやっぱり……魔法使いの杖ってことか)

 

 この杖が作られた経緯の話は本当だった。少なくとも、棒術にも使えて魔法の補助具ともなる。これほど頼もしい武器は他にないだろう。

 

「ほんとゲパルドさんに足向けて寝られないぞ、これは……」

 

 勘だが、少なくとも駆け出し冒険者が持てるような武器ではない。明らかに業物だ、恐らく適正価格はもっと高い。それでも破格の値段で、しかも防具まで仕立てくれた。なぜそんなに親身になってくれるかは分からない、ローズさんの名前を出したからか。

 

 ……少なくとも、きちんとした形でお返ししなければならない。

 

「……帰ろう」

 

 

ーー✳︎ーー✳︎ーー✳︎ーー

 

 

 無事地上へと帰還し、直ぐにギルドへ向かう。鑑定を済ませたときにはすでに時刻は夕暮れの前に差し掛かっていた。

 

 ギルドの受付でローズさんを見つけ、今日の成果を報告する。

 

「魔石とドロップアイテムで3()3()0()0()0()ヴァリス……朝からこの時間帯まで探索して?」

 

 昨今の情勢で相場は上がっているとまた手続きの際言われたが、流石の自分でも昨日今日での額に驚いている。およそ4倍だ。まあ、そもそもひのきのぼうという非効率な手段で戦っていたというのもあるが。

 

「はい、とはいえ帰りは苔の重さがかなりあったので戦闘は避けてゆっくりと戻ったのでちょっと時間が掛かってしまって」

 

 苔に関しては全て背中のバッグパックに布袋に入れて運んだ。とにかく体も鍛えないとこの先やっていけないからだ。最後のフロッグ・シューターの群れとの戦闘以外ではこれがかなり体に響き、なんとも情けない感じになってしまったが。

 

 ローズさんはこちらをじっと観察する。彼女の指先がわずかに震え、羊皮紙の上で小さな影を揺らめかせる。数秒間、無言が続いた後、彼女ははっとしたように顔を上げると、急に態度を改めた。

 

「……4層のモンスターはどうだった?」

 

「あー、数が多すぎると流石に対処が難しくて……」

 

 表情をいつも通りだが、目は笑っていない。

 

「このペースだと、下の階層にも挑戦できるようになるかもしれないなわね……けど、あなたはまだ冒険者2日目。ダンジョンの基本も全然知らないでしょ」

 

 彼女はため息をつくと、強気な口調で言い放った。

 

「明日から部屋を借りて、授業(レクチャー)してあげる。ダンジョンの構造、階層ごとの特性、モンスターの生態……教えることは山ほどあるわ」

 

 その声には、いつもより少しだけ力強さが宿っているように聞こえた。

 

「え? ですが、それっていいんですか? そんなにお時間を割いてしまって……」

 

 驚いてローズさんを見つめる。まだ会って2日目だが普段の態度とは裏腹に、遠目では窓口の裏で忙しそうにしている彼女が個人授業を申し出るとは、予想もしていなかった。

 

「いいから、そう決まった。しばらくの間、朝から1時間。いいわね?」

 

 彼女の口調は強硬で、拒否の余地はないようだった。その目は一瞬だけ自分をまっすぐ見つめる。

 

「い、いえ……ありがとうございます。ぜひお願いします……あっ! それで申し訳ないですけど相談がありまして……」

 

 その後は今利用している安宿からもう少しちゃんとした宿屋を利用したいことと、探索に必要な雑貨購入を考えていると相談したところ、お金の使い方は大丈夫そうねとおすすめを教えてもらう。加えて、苔の納品先のお店ではポーションも取り扱っているのでそこで購入すべきと教えられる。

 

 それらが記載されメモを受け取り、今日はおしまいと言ってローズさんは窓口を去っていった。いつもの彼女に戻ったようだったが、ほんの一瞬、視線が泳いだような気がした。気のせいだろうか。

 

 そんなことを思い返しながらギルドを出て、街路を歩く。夕暮れの前の光が街並みを淡く染め、人影もまばらになっていた。今日のダンジョン探索で疲れた体が、重くのしかかってくる。

 

 とはいえ、まだ苔の納品が残っている。彼女が教えてくれた納品先を探しながら、しばらく歩くと、目当ての店を見つけた。看板を見ると、『青の薬舗』と書かれている。

 

 店の外観はじんまりと古びているが、きちんと清潔感はある印象だ。

 

 店内は魔石の照明でしっかりと明るく、ガラス瓶が所狭しと並べられている。様々な色の液体が瓶の中でゆらめき、いかにもファンタジーな薬局の気配を漂わせていた。店員らしき女性が一人、帳簿をついている。彼女は年配のエルフで、銀色の髪を後ろでまとめ、細い眼鏡をかけていた。

 

「すみません、ギルドの依頼(クエスト)で納品したいのですが……」

 

 女性は顔を上げ、少し驚いたようにこちらを見る。その瞳は緑色で、深い森のようだった。

 

「見かけない顔だね……新人さん?」

 

「はい、そうです」

 

 そう言いつつ手元から依頼書を出し、バックを地面に落とし中から苔の入った袋を取り出す。すぐに窓口へやってきて依頼書を確認してその中身を見て笑みを浮かべる。

 

「助かるわ、近頃色々物騒で納品数自体少なくなってから……()()()()! 検品よ! 運んで!」

 

(……!)

 

 店の奥から現れたのは茶髪の犬人(シアンスロープ)の女の子だった。年齢は昨日遭遇した『アイズ』より少し年上だろうか。

 

「んー分かった、これ……結構量多いね」

 

 と言いつつも、それらを体格に見合わずにひょいと持ち上げる。その異質さから、恐らく神々の恩恵(ファルナ)を宿している眷属の1人だと分かる。

 

()()()()、ベルに偽装ポーションを売り付けていた……)

 

 昨日に引き続きまた、ダンまち本編の登場人物だ。偶然とは思えないと考えこむが、そもそもこの時代ではオラリオで有名な医療系ファミリアとして【ディアンケヒト・ファミリア】と競い合っていたとあったのでたまたまだろうと判断する。その後、彼女の負傷の治療がきっかけで没落することになるという悲惨な結果も思い出したが。

 

 そう、ここは在りし日の【ミアハ・ファミリア】が経営する道具店だったのだ。

 

「……あの、実はポーション購入を考えてまして……検品が終わるまで何を売っているか教えて頂いても?」

 

 とはいえ、それは胸の内に仕舞っておく。この世界が例えダンまち本編の道筋通り進んだとしても、自身の目的はエデンを探し、日本に帰ること。干渉はすべきではない。そんな余裕も今の自分にはないのだ。

 

「!……そう、何が欲しいかしら?」

 

回復(ヒール)精神回復(マインド)、それぞれの購入を考えています」

 

 より生き生きとした店員は、その他にも色々なポーションを並べて効果とその違いを丁寧に説明してくれた。そうして最後に提示された低級や中級、上級の値段は……少なくとも買えるのは低級だろう。

 

回復(ヒール)精神回復(マインド)、低級のものを1つずつください」

 

「はい、10000ヴァリスね……」

 

(回復(ヒール)は1000だけど……精神回復(マインド)は9000……低級でもこの価格差って)

 

 彼女は棚から青色とオレンジ色、2本のポーションを取り出し、丁寧に包んでくれた。その動作は流れるように滑らかで、長年この仕事をしてきたことを物語っていた。

 

 値段に関しては昨今の治安悪化で色々な物価が上がりこの値段が最低ラインだと説明を受ける。最悪、ホイミがあるから良いとして問題はMPだ。このMP回復手段は今のところきちんとした休息や睡眠、レベルアップ時でしか確認できていないのでこの精神回復(マインド)ポーションがMP回復するか検証したい。痛い出費だが、必要経費だ。

 

 そうしているうちに、ナァーザが再度検品した苔を持ってきて袋をカウンターに乗せる。

 

「あの……検品終わりました、15000ヴァリスだそうです」

 

「まあ、そんなに……」

 

「在庫が少ないのと、丁寧に採取されていたからって」

 

 一応、納得できないなら断ることもできるがどうするということだが少なくとも例によって紹介してくれたローズさんを信じるべきだ。了承し、ヴァリスを受け取る。最後に2人に挨拶し……なぜかナァーザはこちらを見て目を()にしていたが、店を出る。

 

 その後、さらにローズさんから紹介された別の店を見つけ追加で水筒や包帯、干し肉、他にも替えの衣服やブーツといった、ダンジョン探索に必要なものを購入することにした。結局、今日の収入の半分近くを使うことになってしまったが、命には代えられない。

 

 

ーー✳︎ーー✳︎ーー✳︎ーー

 

 

 最初に利用していた宿を引き払い、紹介された新しい宿に到着し、ひとまずまた数日分の宿泊費を払う。これまでの宿とは3倍ほど値段が違うが、表通りにありセキュリティ面もしっかり。内装のベッドもまともで、食事も朝・夕とまともな食事を提供してくれるようで久々にゆっくりできそうだと安堵。

 

 夕食はまともなパンとスープ、鳥肉付け合わせと3日振りに文明を感じさせる食事に感動を覚えた。

 

 部屋に戻ると、直ぐに今日買った品物を整理し始める。ポーションは……『どうぐ欄』にしまい、雑貨類はバックパックに入れた。今日の戦いで傷ついた武具の手入れもしておかなければならない。慣れない手つきでゲパルトさんメモに従い、杖と防具、ナイフを整備する。見た目は多少汚れてしまったが、全く傷はついていない。

 

 それらが終わった後、窓の外では月が昇り始め街に静かな夜が訪れようとしていた。ベッドに腰かけ今日の出来事を振り返りながら画面を開き、『パラメータ値』を確認。再度このシステムの考察をしてみる。

 

(さいだいHP、さいだいMP、こうげき力、しゅび力、こうげき魔力、かいふく魔力、ちから、みのまもり、すばやさ、きようさ、みりょく……やっぱりレベルアップ時じゃないと増えていない)

 

 この2日間、レベルアップした際の細かい数値を見て定期的に確認していたがこれらレベルアップ以外で『パラメータ値』に変化はない。本来、この世界における神々の恩恵(ファルナ)は定期的の更新が必要だが積み重ねた経験値(エクセリア)を主神が抽出して、神聖文字(ヒエログリフ)に変えて()()に刻む。これによって、眷属達は日々『基本アビリティ』である力、耐久、器用、敏捷、魔力の値を上げていた。

 

(しかし、作中で語られていたようにそれら項目にあった経験を詰まないといけないと言われていた……見た限り全体的に上がってはいるから『パラメータ値』の上昇とこの世界の『基本アビリティ』上昇ルールが同じか判断できない)

 

「……そういえば」

 

 ふと、この世界における神々の恩恵(ファルナ)()()に刻まれているとを思い出す。ベッドから立ち上がり、部屋を見渡すが……鏡といったものは置いてないので、さきほど整備したナイフを取り出す。体をくねくねと捻り、首を限界まで後ろを向けて──傍から見れば滑稽な格好だが、ナイフの反射で背中にあるのか確認してみる。

 

 が──何もない。

 

(ウラノス様はあるといっていたので、作中で語られていたように普段は見えなくなる(ロック)が掛かっていると信じたい……)

 

 そもそも『パラメータ値』やレベルという全く違う形となっているからそれが露見するとどうなるかは、考えるだけで憂鬱だ。

 

(やっぱり何かが違うんだろうな……) 

 

 神々の恩恵(ファルナ)は、刻まれた者、それぞれに最適化された形で発展アビリティやスキル、魔法が発現する。しかもスキルや魔法といったものは同じものが発現したりとどう扱うべきなのか先人が築いてきた取説(マニュアル)がある。しかし、このドラクエシステムにはそんな()()()()がない。経験値を得て一定値に達するとレベルが上がり、自動的に全能力が上昇……加えて戦闘を重ねて熟練度を貯めて職業の特技や魔法を開放していくだけ。まあ、職業には武器扱いの補正もあるようだが。

 

 しかもこの()()()。オラリオ……ギルドが長い歴史の中で築き上げた、それぞれの階層やモンスターに合った『Lv.帯』や『基本アビリティ』のダンジョン攻略の指針がある。が、これでは自身の『レベル』と『パラメータ値』の照らし合わせができない。これは少しずつ自分で検証し、それらを当て嵌めていかないといけない。

 

 また発展アビリティ、例えば『耐異常』、『幸運』。作中で語られていたこれらの有無は明確な差だ。まああれも、経験と積まないと発現するのもその人次第という感じだったが。……そもそもドラクエの状態異常耐性はアクセサリーで対応という形だった……ふと『よろずや』を見てもラインナップは変わらない。これらのラインナップは変わらない限り、やくそうを買うくらいしか使い道がない。

 

 逆に利点は、レベルアップ時の全回復と『どうぐ欄』の存在、職業の()()()()くらいだろうか。レベルアップ時の全回復が四肢欠損やら臓器損壊にも効果があるかは……検証はできない。というかそれができたら本当に()()()の類だろう。

 

 また『どうぐ欄』ポーションや装備品を即時に取り出せるこの機能は、実際の戦闘では計り知れない利点となる。いざという時にすぐに取り出せ、切り替えらえる安心感は、何物にも代えがたい。

 

 しかし──。

 

「バーストの発動条件が分からない」

 

 画面の職業欄に記載されている『バースト』の文字が、ひときわ目に付く。リイマジンドと同じく、これらの記載もあった。ゲーム中ではピンチ時に発動することが多かったが、そもそもはっきりとした条件は分からなかったし、この画面を探しても発動条件が分からなかった。命の危険を感じた時か、それともHPが一定以下になった時か。判断基準が全く見えない。一応はこの世界における()()()に該当しそうだが。

 

(試してみるにもリスクが大きすぎる)

 

 今日のフロッグ・シューター戦を思い出す。群がり襲ってきた時のあの緊迫感──あの状況ですらそれらの兆候もなかった。となると、もっと深刻なピンチを迎えないとダメなのかもしれない。だが、そんな状況を意図的に作るなんて、自殺行為にも等しい。

 

(後考えるべきは……()()の存在だ)

 

 そして今まで考えることを避けていたことを思い返しながら、ため息を吐きながらベッドへと横たわる。

 

 神々の恩恵(ファルナ)を刻まれた者が扱える魔法は()()までという法則がある。

 

 今日の戦いを振り返ると、初めて使った『ホイミ』と『バギ』、加えてまだ使っていない『キアリー』、『スカラ』のことが頭をよぎる。今の自分にはその限界を感じないし、感覚的に使えるのは分かる──すでにこの枠組みを超えた()だが。

 

(これは本当に明確に、他の人達とは違う点)

 

 記憶を辿る。本編で知っている情報──【ロキ・ファミリア】のレフィーヤ、リヴェリアというエルフ達……例外はいる。しかしその彼女たちですら、魔法を使うには決まった形式が必要で並列詠唱、詠唱時間、消費精神力(マインド)を色々条件付けで扱っていた。そんな彼女達はこの世界では最たる異端で、魔法王国(アルテナ)から目を着けられていたと説明があった。

 

(これは本当に不味いことなんだよなぁ)

 

 職業の組み合わせ、加えてランクの進捗具合によるが文字通り色々な魔法を自由に扱えてしまう。数はまあ、レフィーヤの同族の魔法を扱えるという幅広さから劣るかもしれない……しかしそれでも明らかに異常だ。

 

 さらに、()()()。魔法名を言う必要な点は同じだが、ベルが扱う詠唱なしの無詠唱魔法も異質であると言及されて目立っていた。また今日の戦いで、魔法を発動させた瞬間に周囲に浮かび上がった複雑な光の模様──この世界の魔法をまだ目撃していないが、恐らく違うものなのだろう。明らかに異質なものとして目立つ、直ぐに気づかれる危険性は十分にある。

 

「エルフですらない自分が、こんな魔法を使っているところを見られたら……」

 

 この世界における日本人顔の自分はヒューマンに該当する、疑念を抱かれるのは必然。少なくともこれが魔法の扱いに長けたエルフだったら誤魔化せそうだった。一瞬先祖にエルフが──と嘘をつけばとも思ったが神相手にはそれは()()しない。

 

 しかしながら、魔法なしにダンジョン攻略は無理ゲーもいいところ。やはりしばらくは露呈しないようにソロ攻略が基本になりそうだ。そして何よりも早く、誰からも追及されることのない()()を手に入れなければ、エデンを探すどころではなくなってしまう。

 

 ──考えれば考えるほど、この世界での自分の立ち位置の厳しさに、思わず眉をひそめてしまった。生き残るためには力を行使しなければならないのに、力を使えば使うほど、自分がこの世界にとっての()()()()()であることが露呈してしまう――二律背反な状況に苛まれるのだ。

 

 ──そして自分はこの先の未来に起こる出来事も知っている。いや、まだその通りになるとは限らない。しかし先ほど出会ったナァーザしかり、昨日見かけたアイズしかり、確実にダンまちの歴史を辿っているという感覚――そんな知識があるのなら、この先訪れるはずの悲劇を未然に防げるのではないか――そんな淡い期待が胸の奥に芽生えている。

 

 ──それ故にこの世界に迷い込んだ『異物』だという自覚も積もっていく――そんな大きなリスクを負う価値は本当にあるのか? ただ逃げ出して自分だけ生き延びるべきではないのか? 心の中でそんな問いが繰り返し響いていた。

 

「……明日に備えよう」

 

 思考を振り払い、そう呟きながら無理やり目を閉じる。月明かりが部屋を優しく包み、静かな夜が更けていく。明日への期待と不安が入り混じり、ゆっくりと眠りについた。




誤字・脱字ご指摘ありがとうございます。評価・感想も本当に嬉しいです。毎日のように各話を読み返してますが、誤字・脱字が無限のように湧いてしまい、修正ばかりで申し訳ないです。
牛歩ペースな展開ですが、次回から本格的に色々登場人物を出したい……。
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