十文字の御旗のもとに   作:るいぼすてぃー

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始まりの分岐点

 

 

 

理由はわからない、ただ動かなければという意思だけはあった。

周りは荒野にしか見えない

これは男の、北郷一刀の新たなる分岐点

 

「      」

 

何かが聞こえた、穏やかなものではないと感じつつもその方へ向かう。

 

「嬢ちゃん、こんな場所で一人とはいけねぇなぁ。」

 

黄色の頭巾を被った男が二人、そして少女が一人

現実感はあるのに現実味のないその光景に体は動き出していた、不意打ちで武器を奪う。

 

「ぐわっ!? な、なんだてめぇは!?」

 

重量感を感じる剣、以前見た模造刀とは違いを感じる、しかし今はそんな場合ではないと意識をすぐ相手に向け直す。

二人の男はこちら警戒しつつ下がっていく、一歩踏みしめ剣の構えると男たちは警戒しながらも去っていった。

 

「ふぅ。なんとかなった、君も大丈夫か?」

 

そう言いつつ少女に顔を向けると、不機嫌と困惑のような表情をしていた。

なにか、間違えたかと思いながら周囲を見回すがだだっ広い荒野だ、とても現代日本とは思えない。

考え事をしていると少女が意を決したように口を開いた。

 

「私、男という生き物が嫌いなの…だけど身と命を汚されなかったのはアンタの助けなのは理解してるわ。」

 

そしてまた沈黙したが汚れるのも厭わず膝をついた。

 

「感謝してる。」

 

そしてそのまま頭を下げる。

 

「いや、無事ならいいんだ 気にしないでくれ。」

 

そう言うと少女は立ち上がりまた不機嫌な表情をしつつ背を向ける。

ほんとに嫌いなんだなと思いつつ状況を知りたいという考えのもと口をを開く。

 

「すまない、嫌なのを承知で幾つか質問させてもらえないかな?」

 

少女は向き直る、その目にははっきりと嫌という感情が宿っていたが諦めたようにため息を吐いた。

 

「…分かったわ…ただし移動しながらね、いつまでもこんな場所に居たくないし。」

 

軽く歩きだす足について行きながら質問を頭でまとめながらとりあえず自己紹介することにした。

 

「分かったよ、とりあえずここは何処か聞いてもいいかな?」

 

「潁川郡」

 

単語だけの短い言葉、余程男性が嫌いなのだろうと思い先の礼はそれでも礼を尽くさなければという感情。

屈辱だっただろうと申し訳なささえ出てくる。

しかし今は現状把握が先だ、聞いても分からぬ場所なら分かりそうなことを探すしかない。

 

「君が分かる中で有名な人物を数人教えてもらえるか?」

 

怪訝そうな表情を浮かべながらこちらを見る、何が聞きたいんだこいつと思っているんだろうその雰囲気だ。

 

「何が聞きたいのか要領を得ないけど、話題の人物ってことなら曹操様や孫堅、金だけの袁紹あたりが有力かしら。」

 

面倒は御免だと言いたいのだろうが、こちらは藁にもすがらないとこの先ヤバい事だけははっきりしてきた、聞いて余計に増えた疑問を胸に当面どうするか天を仰いだ。

何事かという顔でこちらを見ている、流石に意味が理解できないからなのかさらに顔をしかめる。

彼女は自分を、男を毛嫌いしているだがこのままでは野垂れ死ぬしかない。

だが先に口を開いたのは少女の方だった。

 

「…命のお礼が言葉だけでは荀家の名に関わるわ、付いてきなさい」

 

「えっ?」

 

その言葉に思わず目を丸くする。

彼女の思わぬ提案は願ってもないことだが意外すぎて思わず声が漏れた。

 

「詳しい事情は知らないし、男のことなんて知りたくもないけど今のアンタは大きな迷子かなんかってことでしょ。」

 

「ああ、そうだね。」

 

現状食べるものにも休む場所にも困っている事実を看破され、思わず返事をする。

 

「なら食事と寝床くらいは何とかしてあげるわ。」

 

安堵の感情が込み上げてくる、考えることは山積みだがそれは一旦落ち着いてからかと思考をクリーンにする。

ならばまずすべきことは決まっている。

 

「…本当にありがとう。今さらだけど俺は北郷一刀、北郷が家名で一刀が名前だ。」

 

自己紹介済ます。

いつまでも君と呼ぶわけにはいかないからなんとか名を聞こうとする。

 

「荀彧よ。」

 

「えっ?」

 

予想外の名前におもわず口に出た、脳内で理解と疑問が増幅する。

荀彧は一々突っかかることはしない、家がある程度有名なのだ、聞いたことがあって不思議ではないからだ。

だがこの男の声色からはそれ以上の驚きを感じる、しかし頭を振って歩き始めた。

一刀は頭に浮かぶ疑問を頭でまとめていたが今は答えが出ないと悟ると移動に集中した。

 

 

荀彧は男嫌いである。それも筋金入りの男嫌いだ。

基本的には下半身でものを考える猿だと思っているに等しい。

見栄を張り、態度がでかく、無駄に自尊心が高い、極めつけは異性を見る目は性的な感情が隠せてもいない。

女であっても馬鹿は嫌いだ、考えない者は折角の策謀を無駄にする。

 

先の袁紹などはその筆頭だった、そうそうに見切りをつけ一度家に戻るその最中だった。

最近耳にするようになった黄色の頭巾を巻いた野盗に出くわしたのだ、身を汚されるくらいなら自分で命を絶つことも考えよぎった。

 

その際に現れたのが北郷一刀であった。綺羅びやかな服を着て野盗を追い返した。

荀彧でなければ王子様のようなその状況に惚れてもおかしくなかったかもしれない。

だが彼女は荀彧なのだ、その評価は他の男より高くなろうと基本的には低い。

軽く言葉を交わした限りは見栄も態度も自尊心も低くそこそこの教養を感じる。

だからこそ最低限の礼節を尽くそうと屋敷に案内した。

それがどのような噂を招くかは頭が回っていなかった。

 

「奥様! お嬢様が男性の方を連れて帰りました。」

 

屋敷に着くやいなやそう騒がれた荀彧は頭を抱えてしゃがみ込んだ。

街に入った際の視線はこれだったのかと後悔しても遅かった。

 

 

「まぁ、そのようなことが、桂花ちゃんのためにありがとうございます。」

 

そう言って誤解を解きつつも一刀たちは何があったか説明を終えた。

それを聞き深々と頭を下げる彼女 荀緄さんは荀彧の母親だ。

 

「そういうことでしたら、屋敷をお好きに使いくださいませ、幸い部屋は余っていますし、ゆっくり寛いでください。」

 

一刀としてはいつまでも世話になるわけにはいかないが当面の住む場所には困っていたのでありがたく受け取ろうと思い頭を下げる。

 

「自分のような素性の明らかでない男に…ありがとうございます。」

 

荀緄はそんな様子を見ながら考える、自分が見たことのない服を着ている、教養があるのである程度裕福な家の出のものだろうと、しかし一文無しな宿無しというアンバランスな状況。

取り敢えずは様子を見ながら調べを出そう、恩人には違いないので手厚くして悪い印象は無いだろう、何よりあの男嫌いの娘がわざわざ招待した男性だ、よもやがあるかもしれない。

 

「世話役をお付けしますのでお困りの際はそちらに申し出てください、できる限り対応しますので。」

 

そう言い横から頭を下げて自己紹介する若い娘、荀彧よりも上だろうか?という疑問を覚える。

 

「蔡春と申します。なんなりとお申し付けください。」

 

見た目以上の立ち振舞にを感じながら、流石に良い家柄なのだと感じた。

蔡春と名乗った彼女自身もおそらく良い家柄なのだろう、所作や雰囲気があまりに堂に入っている。

 

「北郷、恩人だからって屋敷内で精液を撒き散らさないで、男と同じ空気を擦ってるだけでも妊娠しかねないんだから」

 

急に荀彧から飛び出す恐ろしい発言に待て待てと思う。

 

「北郷さん、すみません普段からこんな発言ばかりする娘ですけど根はいい子なので仲良くしてあげてくださ「しないわよ。」

 

荀緄さんの発言にああなるほどと思った、大の男嫌いの彼女らしい発言なんだと改め苦笑する。

 

「こちらこそ、よろしくお願いします。男手が必要な時は遠慮なく頼ってください。」

 

そう言って頭を下げる。

 

「分かりました、その時は頼らせていただきますね。」

 

 

部屋に案内され布団などが運び込まれる、男物の服などが見受けられ、余計なお金などを使わせてしまっただろうかと申し訳なさが顔に出る。

 

「大丈夫ですよ、亡き旦那様が昔使っていらしたものですので奥様がどうせずっと仕舞われてましたのでそれならと。」

 

表情から察してかわざわざ買わせたわけでは無かったらしい。

 

「元々の衣類を含め部屋の入り口においていただければご一緒に洗濯させていただきます。」

 

確かに普段からこの現代の服を着ていては目立つし疲れそうだと思い、申し出をありがたく思う。

 

学園の制服、下着類も違う。手持ちにあるボールペンと手帳とハンカチ、いざという時に何かに使えるかもかと電源をOFFにしている携帯に使いようのない中身の入った財布。

財布の中身がこっちのお金になってればよかったなぁとぼんやり思いながら荷を確認する。

 

他にも考えることは多いが忽ちの衣食住を助けられ明日から考えようと決めたところで疲れが出たのが少し腰が抜ける。

 

「お疲れのようですしゆっくりとお寛ぎください、また夕餉の際などお声かけますが他にも必要な際はすぐに対応しますのでなんなりとお申し付けください。」

 

「ははっ…みっともない姿をすみません。」

 

体は思った以上に疲れている、あまりにも非日常に加えて先が見えない状況に精神的にも体力的にも参っているらしい。

 

「先に汗を流されますか? 良ければすぐ準備できるようにしますが?」

 

「…お願いします。」

 

そう言われ頭を下げながら今日はもう遠慮はやめてお世話になろうと頭を使うことを諦めた。

汗を流しご飯を食べるとすぐさま床についた、明日からまたたくさんのことを考えなければならないと思いながら一気に睡魔に意識を連れて行かれる。

 

 

「それでは報告を。」

 

一刀が寝たことを確認し荀緄は蔡春に問いかける。

 

「言動や態度はかなりの教養を感じます。目上やお世話になるのもあるでしょうがかなり丁寧な言葉でしゃべってらっしゃいますね。」

 

一刀が来て世話役を命じられた際に不審な点はないかと確認も仕事に含まれていた。

もし害をもたらすのなら対処しなければならないからだ。

 

「あまり隠し事向きの人間ではないように感じますね、顔に出やすいことなどを踏まえますと腹芸向きではないかと考えます。しかし何かを隠していることも事実ではありそうです。着ていた衣類や持ち物は見たことないものばかりです、雰囲気や言葉、また仕草などを踏まえますとかなりチグハグに感じます。」

 

荀緄はその言葉に思案する。 彼女も何となく会話や状況に同じ感想を抱いていたからだ。

 

「チグハグですか、隠そうとしてボロが出ているとかではなく?」

 

「話した感じ算術などの計算はできるようでした、しかし地域や法律はほぼ無知と言っていいほど知らない印象でした、あのような衣類や未知の品を隠そうもせずに部屋の机に広げていました、また洗濯しますので衣類をお預かりしますと聞くと普通に預けてくださいましたので持ち物も衣類も共に特別という意識はきわめて低いかと思います。」

 

荀緄はその言葉に謎は増えるが今のところ危険な人物ではないと判断した、無論調査やなどしつつ様子を見るが今は娘の恩人として手厚く歓迎しようと決めた。

 

「…では引き続き様子は見ますが現状は問題無しで対応をします、お世話をしつつ桂花ちゃんの婿候補として扱うようにしましょうか。」

 

危険でないなら男性嫌いの娘が唯一心を開きかけている男だ、あわよくばと考えつつ歓迎しよう。

 

 

 

「どうしたものかしらね…」

 

荀彧は自室でこれからのことを考えていた。

一つは仕官先、これに関しては決めてある。

曹操、優秀な人材集めに余念がない人物で本人もかなりの切れ者と言う噂だ。

袁紹は知を授けても意味が無かった、他の軍ならどこでもそんなことは無いと思い考えた。

孫堅軍は身内の軍、あそこには娘の孫策と共にいる周瑜の存在が大きいだろう…筆頭軍師は間違いなく周瑜になる。

曹操軍は多数の人材をを持つ、また曹操本人はかなり自分の好きな人物像だ…筆頭軍師になれるかは不明だが優秀な人材に目がないと聞いているので複数の軍事を重宝すると予想を立てる。

現状、今の時代的には乱世になると予想なら飛躍しそう軍はこの二人の軍だろう、他の軍がでてこないとは思わないが動くなら速いほうが良い。

一瞬あの男が軍を率いる姿が思い浮かぶ。

 

「ありえないわね。」

 

すぐさま頭からその考えを捨てる、しかし気持ち的には何か釈然としない。

 

「だめね、考えがまとまらないわね…明日ゆっくり考えましょう。」

 

今日は色々あったから頭が疲れているのだろうと休むことにする。

明日になればスッキリとした頭で最善の考えが浮かぶだろうと、また色々まとめることができるだろう。急ぎ今考えなくても一日二日くらいならまだ余裕はあるのだそれからでもいい。

そう考え床につけばすぐさま眠気に襲われ意識を手放すのだった。

 

 

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