【完結】私、ジャブローのモグラ志望って言いましたよね??? 作:むにゃ枕
13 シャア・アズナブルの帰還
いったいいつから運命は狂ったのだろうか。がっつり自分の手を握り、逃すまいという気概を見せつける少女の存在を保留し、シャアは自身の経歴を振り返った。
ジオン・ズム・ダイクンの息子として生まれ、波瀾万丈の幼少期を送った。それから、ジオン軍に入り、ホワイトベースを追い、ガルマ・ザビを殺した。本当にそれが正しいのかは分からなかったが気が付いたらシャアはガルマを殺していた。
そんな軍人生活の中でララァ・スンという少女との出会いはシャアにとって、運命であった。
しかし、彼女は連邦軍のアムロ・レイにより殺された。ララァ・スンが死んだ原因は、シャアだ。シャア自身の弱さが彼女を死に追いやったのである。
連邦軍に占拠されたソロモン宙域で、エルメスの試験飛行を行ったことがそもそもの間違いであった。ララァがエルメスに不慣れだったこともあってか、エルメスのビットはその殆どが連邦軍のスナイパーにより落とされた。
それから、何かがおかしくなったのだ。ア・バオア・クーでも、シャアはそのスナイパーに会っていた。あろうことか、ジオングのインコムはコイツにより落とされた。
インコムを片方失ったジオングで、シャアはアムロ・レイとやり合った。アムロの乗っていたガンダムは、異常なまでに機敏であり、シャアはなすすべななくアムロに敗北した。
ジオングから命からがら脱出したシャアは、部下や味方を犠牲にし、なんとか生き延びたのである。
シャアの運命を狂わせたその女は、悪名高き、
アクシズは、小惑星帯にある。地球圏とは距離により隔絶された宙域であるが、全く情報が入ってこないというわけではない。
時たま訪れるジオン共和国内のシンパや、逃げ延びてきた残党が、情報を齎すのだ。
メラン・メラーラの名は、ジオン共和国の武官からシャアに齎された。遠距離から回避不能な射撃をしてくること、強化人間を飼っていること、ジオン残党には容赦しないこと、など様々な情報がシャアに渡った。
幾つかの特徴がシャアの記憶にあるスナイパーと一致したため、シャアはメラン・メラーラこそが歪みの原因であると考えるようになった。
もしメラーラが、ソロモン宙域でララァのエルメスに対して損傷を与えなければ、ララァは急遽改装したエルメスではなく、100%の状態でガンダムと戦えたのではないか?
メラーラがア・バオア・クーで横槍を入れなければ、アムロ・レイのガンダムと万全の状態で戦い、自分は戦闘の中で満足して勝利出来たか、満足して死ねたのではないか。
そんなことが、シャア・アズナブルの頭の中を渦巻いていた。
シャアの運命が揺らいだ決定打となったのは、デラーズ・フリートの残党をアクシズに収容した時のことである。デラーズ・フリートの残党の中には、シーマ・ガラハウとその麾下の艦隊がいた。
焦燥した様子のシーマは、エンツォ・ベルニーニやアサクラといったギレン親衛隊系の将校を出会い頭に殺害したのである。
それから、シーマ艦隊は、ギレン親衛隊と関係があった面々を次々と襲撃した。
シャアはハマーンと協力し、なんとかシーマの身柄を確保した。シーマ艦隊による反乱でアクシズには多くの犠牲が生じてしまった。
シーマの話したこの凶行の動機は、復讐であった。自分を騙しコロニーにGGガスを注入させたアサクラや、彼と関係するエンツォといったギレン親衛隊系列の人間を、生かしておけないとシーマは語った。
そして、自分に憎しみを向けてくるメラン・メラーラの部下の少女の声が、ずっと頭の中に残っていると叫んだ。
「私とハマーンの排除だと?」
「メラーラは、キャスバル・レム・ダイクンとハマーン・カーンを排除しろとアタシに言った。あの女が、何を考えているかは分からない。アタシはそんなことよりもアサクラとそのお仲間を殺してやりたかった! 頭の中でずっと声が離れないんだ……」
「そうか…。メラン・メラーラについて詳しく教えてもらえないか?」
シーマが話した内容は、ジオン共和国の武官から聞いたことと殆どが同じであった。しかし、シャアのことをキャスバル・レム・ダイクンであると看破している謎が浮かび上がった。
「あの女、撤退するアクシズ艦隊にも襲いかかってきた……停戦を無視して撃ってきやがった」
「なるほど。ハスラー少将はその奇襲により亡くなったのか。停戦を無視し、捕虜の存在も歯牙にもかけない。奴を野放しには出来んな」
アクシズ艦隊への奇襲は、一撃離脱で行われたようで、連邦軍や連邦政府はメラン・メラーラの処罰を行えなかったという。
シャアはシーマに同情したが、シーマはアクシズの将校を殺害したため、ここで情けを示すことはしなかった。
シーマを含む艦隊の将校には、終身刑が課せられることとなった。処刑とならなかったのは、アクシズ総督であるマハラジャ・カーンが、主戦派に忖度し処刑をしては、彼らを勢い付かせると判断したからである。
このシーマ事件とシーマを無期刑とした結末により、アクシズの主戦派は暴発こそしなかったが、暴発が考えられるほどに沸き立った。これは明らかにマハラジャの失策である。
そんな折に、マハラジャ・カーンは宇宙放射線病により体調が悪化し死亡した。彼の死には過度の疲労が含まれていたとも考えられている。
これにより、マハラジャとシャアが主たる人物であった穏健派は追い詰められた。
シャアは、主戦派に対してマハラジャの娘であるハマーン・カーンの監督権とミネバ・ザビの摂政権をカードとして提示した。
主戦派はそれに同意し、ハマーンを傀儡の摂政としその周囲を主戦派が固めることで騒動を収めた。ハマーン・カーンの意思はこの合意プロセスのどこにも無かった。
そもそもシャアはハマーン・カーンやナタリー・ビアンキといった女性と深い関わりは無かった。
ハマーンとシャアらによるサイド3への訪問といったことをマハラジャは考えていたようだ。しかしそれは、エギーユ・デラーズの決起が早まったことで、台無しになっている。
シャアのハマーンに対する印象は、あくまでもニュータイプの素養がある恋に恋する少女といったものだった。シャアの余裕の無さから鬱陶しいとすら思っていた。
ナタリー・ビアンキについては、優秀なオペレーターであるという認識しかシャアに無かった。
シャアはハマーンを主戦派に譲渡し、自分がアクシズから離脱しても全く問題がないと考えていた。
ハマーンには知らせずに、就任セレモニー当日にアクシズを退去し地球圏で活動する。それが、シャアの今後の指針であった。
しかし、現実はシャアの予想を裏切った。ハマーンは就任セレモニーから逃げ出した。それから追っ手を振り切り、ナタリーと共にアクシズからモビルスーツで脱出したのである。
そして現在、シャアの手をきつく握っている。
「ねぇ、別の女のことを考えているでしょ??」
濃桜色のツインテールを揺らす少女が、シャアの手に爪を食い込ませた。その瞳の色は暗い。
「ハマーン、君はララァの代わりにはなれない。この手を離してくれないか?」
「……嫌よ。ララァ・スンがあなたの心を染め上げているなら、私がその色を上から塗り直してあげる。だから、もう一人にしないで…! 私を置いていかないでよ!」
「(面倒くさいな)」
ニュータイプであるハマーンはシャアの内心を読み取った。そのあまりの言い草に涙を溢す。
ニュータイプでなくても、シャアがハマーンを厄介だと思っていることは見て取れるだろう。
ハマーンにも同情すべき点はある。彼女は幼いころから親元から離されニュータイプ研究所で生活していた。アクシズに戻ってもハマーンはカーン家のお姫様であり、ナタリーを友とし孤立した生活を送ってきた。
そんな中で出会ったシャアは、ハマーンの憧れであり恋人になるべき人であった。シャアが曖昧な態度を示したのも良くなかった。
だからこそ、ハマーンは若さゆえの瞬発力と向こう見ずさを発揮し、シャアが自分を見捨てることはないと信じ、ナタリーと共にシャアの艦隊に飛び込んだのである。
待っていたのは、そこそこ冷酷な態度を示すシャアである。少女の瞳が澱むのも無理はない。
「ハマーン。君はサイド3に着いたらフネを降りてくれ。私はエゥーゴと合流し、ビスト財団からラプラスの箱を受け取らなければならん。君のような子供を巻き込むことは出来ない」
「嫌よ…! そうやって私を置いていくんでしょ! 私も一緒に行くわ! 置いていったって追いかけてやるんだから!」
シャアは深く溜め息をついてから、ぽろぽろと涙を溢すハマーンの同行を許した。アクシズの主戦派との分裂はもはや避けられないだろう。
デラーズ・ショックから3年ばかりが過ぎたが、ジオン共和国は依然として脆弱だ。こうも内ゲバばかりしていては、連邦政府を打倒する前にジオン残党が滅びかねない。