【完結】私、ジャブローのモグラ志望って言いましたよね???   作:むにゃ枕

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おまけ エドワウ建設

 閉鎖型コロニーの空はいつもなんとなく暗い。実際にはそんなことは無いのだが、少女はいつもそう感じてしまう。

 

「オードリー姫様、また明日お会いしましょう」

「それ、やめてくださる。私は姫じゃないのよ」

「オードリーはとっっっても可愛くて、いつも礼儀正しいじゃない! 実はお姫様なんでしょ?」

「私はエドワウ建設の看板娘ですけど、姫ではありません」

「えーめっちゃ姫っぽいのに! じゃあね!」

「ええ、また明日」

 

 友達と別れ、家へと帰るオードリー。実は少女には、ちょっとした秘密がある。庶民的な制服に身を包んだオードリー・マスは、ザビ家の姫なのだ。

 とはいえ、その事実に何の意味もない。ザビ家の生き残りを祀り上げるようなテロリストは碌に残っていないし、連邦軍もミネバ・ザビを探そうとはしていない。名誉称号とするには、ザビという家名の罪は重すぎる。

 

 アクシズ崩壊事故によって、少女の生活は一変した。事故が発生してからオードリーはすぐにノーマルスーツを着せられた。それから侍女に手を引かれ、必死に逃げた。

 コロニーは崩壊していく。次々と人が宇宙へと吸い出されていった。そんな状況の中で、侍女が己の命と引き換えに、オードリーを誰もいないシェルターに押し込んだ。

 

 孤独になったオードリーは、ひたすら耐えた。そして、アルコールの臭いをぷんぷんさせたエドワウと名乗る男に助けられた。

 

「君、名前は?」

「…………オードリー」

「オードリー。君が生きていてくれて良かった…! 私は、この惨禍を招いてしまった…! 君が生きていてくれて本当に良かった……」

 

 男は、顔を涙でぐしゃぐしゃにしながらオードリーを抱き締めた。

 

 オードリーは、男になんとなく見覚えがあった。しかし、記憶の中の彼は身綺麗で酒の臭いなど漂わせていない。他人の空似だろう。

 

「嫌な記憶だわ。これも今日の天気が悪いからね」

 

 予定された天候であって、コロニーの空は人工物だ。それでも、人は天気を気にしてしまう。まだ人類は地球から離れられないらしい。

 

「エドワウさんのお客さんかしら?」

 

 オードリーの家の門扉に、少女がもたれかかっていた。髪は白く、全体的に痩せている。連邦軍の軍服を羽織っているが、前は開いている。キャミソールには薄く肋骨が浮いており、少女の脆さがはっきり見て取れた。

 

「あなた、誰かしら?」

「ん?? あー、ボク?? ボクは連邦軍の軍曹だよ」

「連邦軍がうちに何の用ですか??」

「んー、家宅捜索??」

 

 家宅捜索とはただ事ではない。オードリーは目の前の少女に向けていた警戒心を更に高める。

 

 緊張状態は、ぐーという音が少女のお腹から鳴ったことで緩和された。

 

「あっ、やば……低血糖……うっ」

 

 へたり込む少女をオードリーが支える。彼女は、ポーチから角砂糖を取り出して口に放り込んでいた。

 

「ボク燃費が悪くてさぁ。なんか食べるものあったりする? ちょっと倒れそう」

「……顔色が悪いですし、ちょっと椅子で待っていてください。エドワウさんが作った余り物ならあるはずです」

 

 ザビ家の姫として育てられてきたオードリーであっても、エドワウと共に庶民的な生活をしてきたのだ。残り物を温める程度は出来るようになっている。

 

「はい、これ」

「あ、ありがとう。君はボクの命の恩人だよ!! とっても感謝してる。ボクはパプテっ、いや、なんでもない。あー、シロです。うん。ボクはシロ。連邦軍の兵隊さ。なんか怪しい気配がしたから軍艦を抜けてここに来たんだ!」

 

 それは脱走なのでは? と、オードリーは思った。そもそも、目の前の少女が軍人であることも疑わしい。少し変わった子なのだろう。

 

「シロちゃんの家はどこなの?」

「んーーー。あー、アルビオンってフネだよ。ボロだけど地球でも飛べるんだよね」

 

 この時点でオードリーの思考は、この変わった少女を無事に家に届けることに変わった。

 

「家に帰った方が良いんじゃない? 家族の人が心配するわ」

「そう。家族。ボクは、とても強い気配をここに感じるんだ。シャア・アズナブルという人のことを知っているかな?」

 

 オードリーは、エドワウのことを思い浮かべた。エドワウは建設業の社長としてはとても優秀な人物である。それに、建設用モビルスーツや機械の扱いがとても上手い。

 エドワウはオードリーの記憶にあるシャア・アズナブルとは合致しない。酒臭いし、どこか草臥れている。

 

「ふ〜ん。エドワウって人か。今は近くの会社にいるんだね」

 

 シロは立ち上がり、家から飛び出そうとした。しかし、外にいた2人の女性軍人が、シロを受け止めた。

 

「そこの女の子、もしかしてこの子の面倒を見てくれてたの? ごめんね。ありがとう。軍の方から何か謝礼をするわ。

 まったくもう。スゥ・シロッコ軍曹。脱柵ですか?? 場合によっては処刑ですからね!」

 

 癖っ毛と金髪は、連邦軍の軍人のようだ。

 

「私はリタ・ベルナル。こっちがアミリア・レイ。この子を探していたの。この子はちょっと変わった子で、手が離せなくて」

 

 オードリーは、ぎこちなく笑顔を浮かべる。あまり事を荒立てたくないのだ。ミネバ・ザビが生きていると連邦軍人に知られたら、面倒なことになりかねない。

 

「ボクはちょっとパパに似た気配を感じたんだ…! だから、会わなきゃいけないと思って」

「パプテマス・シロッコに似た気配??」

 

 パプテマス・シロッコは、己のクローンを量産した。未成熟だったクローン技術は、結果として多種多様なクローン体を生み出した。スゥも、その一例である。

 シロッコのコピーは全てがプロト・ハイロゥの部品に加工された。しかし、エラー・コピーに対して、彼は寛容だった。

 

 アミリア・レイも、こういったシロッコのエラーコピーとはやり合ったが、なかなか強力だったと感じている。

 

「ララァ……?? 違う、ララァは死んだはずだ……」

「っ…! こ…この人、気持ち悪い」

「ララァ!!! いや、アムロの再来か??? この出会いは運命だ。私は……かつて……いや、なんでもない。すまなかった忘れてくれ」

 

 サングラスを掛け、アミリアに向かってくる男は、ひどく狼狽えていた。

 

「そこのおじさん! アミリアに何の用なの!? 私は地球連邦軍のリタ・ベルナル准尉よ。変なことをする不審者には、法に則って刑罰を受けてもらうわ!」

 

 シャアは内心でおじさんと呼ばれたことに、小さなショックを受けていた。そして、不審者と思われていることにより、多大なショックを受けてしまった。

 

「エドワウさん、あの人とは知り合いなんですか?」

 

 オードリーの問いにエドワウは、沈黙で返す。シャアは、ララァのようにもアムロのようにも感じられる存在が目の前に現れたことに混乱していた。

 

「えっ? ボクが感じたのってこのキモいおじさんなの…?? ちょっと期待してたのに」

 

 エドワウは単なる土建屋の社長であり、軍人でもなければ政治家でもない。なので、特に返す言葉がなかった。

 

「私は単なる建設会社の社長だよ。そしてそれ以上でもそれ以下でもない。昔の知り合いに似ていたから少し驚いてしまった。すまなかった」

 

 エドワウは頭を下げる。もう夢を追うような年齢ではないのだ。現実を見なければならない。彼は、オードリーの義父として堅実に生きねばならないのである。

 

 この奇妙な邂逅で、特に何かが生じることはなかった。シャア・アズナブルはもう死んだのだ。ここにいるのは単なるエドワウ・マスである。

 

 

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