【完結】私、ジャブローのモグラ志望って言いましたよね??? 作:むにゃ枕
宇宙に上がったグレイファントムから、軌道艦隊のマゼラン改級に一隻の連絡艇が渡った。連絡艇と言うには大袈裟すぎるので
そこに乗っているのは、私とマシケ中佐である。バスク・オムという名前を聞いただけで、目の前の友軍に対する信頼度は地に落ちている。虎穴に入らずんば虎子を得ずと言う。リスクは承知の上だ。
「バスク・オム大佐。呼び出しに応えてくださり感謝します」
「単に呼び出しに応じただけだ。共闘するとは言っていない。しかし、グレイファントム隊やプロミネンスの勇名は知っている。一年戦争から活躍していたようだな」
「お褒めにいただき光栄です」
「英雄か、戦果などどうにでも偽れるだろう」
ゴーグルハゲは、もう、一言話しただけで面倒くさいのが分かる。明らかにコチラを見下している。
そもそも私は、バスク・オムが嫌いだ。バスクが嫌いと言うよりは、思想が優先される種類の人間が嫌いなのだ。人間は理性的で有ってほしい。
「単刀直入に言います。私としては、バスク大佐に是非ともプロミネンスと協力してほしいです」
「ほう。メラーラ
「……私の父は、統合参謀本部の第四局の局長です。オルト・メラーラ少将と言えば通じるでしょうか? 父はバスク大佐と会いたいと言っていました」
「む。メラーラ少将の娘だったとは失礼した。私も少将とは議論をしてみたいものだ」
はいクソ。男尊女卑のマチズモ野郎だ。知っていたけれどカスである。父親のコネを持ち出す私もカスだけれど。
「エギーユ・デラーズはギレン・ザビの熱烈な信奉者です。彼はギレンの考えたコロニー落としを再現したいと思っているでしょう。私と地球を守る英雄になりませんか?」
バスクの脳内で計算が行われていることがはっきりと伝わってきた。
「面白い言い分だな。腹芸という言葉を知らないように見える」
「もちろんタダとは言いません。十分な利益がバスク大佐にも渡ります」
「その見返りとはなんだ?? 軍律を破ってまで行動するのだ、それ相応の利益がなければならん」
「オーガスタ基地で研究されている強化人間。その運用権をバスク大佐に与えます。撃墜王アムロ・レイを筆頭としたニュータイプはご存じですね。人工的に生み出したニュータイプを部下として持てるのはとても魅力的だと思いませんか?」
ゴーグル越しにも彼の目元が歪んでいることが分かる。どうやら、納得したらしい。無論これは空手形であり、最悪の場合は後ろから撃って、全部なかったことにする。
「分かった。共闘と行こう。宜しく頼む。メラーラ少佐」
バスクのゴツゴツとした手と嫌々握手をする。このゴーグルハゲを利用するだけ利用して、骨までしゃぶってやる。
バスクの麾下に収まった艦隊は旗艦であるマゼラン改が1隻、モビルスーツが運用できるように小改造がされたサラミスが6隻だ。搭載しているモビルスーツはジムである。数も20に満たない。
ペガサス級2隻がいるためモビルスーツに関してはカバーできる。しかし、戦力としてはデラーズ・フリートの分遣艦隊であっても勝てるか分からない。
軌道艦隊はそれなりに練度を保っているが、運用モビルスーツはジムであり、歴戦のジオンとやり合ったら艦隊防空を抜かれかねない。
連邦軍の強みは数の暴力だ。9隻からなる艦隊であるが、不安だ。私は死にたくないので、もっと盾が欲しい。
エコーズのハイマン少佐との繋がりや、参謀本部とのコネクションを活用し、建造中のコロニーや、コロニー輸送について宇宙に上がる前に調べ上げてはいる。
一年戦争の災禍から復興するために、コロニー公社や様々な企業がコロニー建造に勤しんでいる。そのため、リストはそれなりの厚みになった。
巨大建造物であるスペースコロニーは、常識的に考えると簡単に組み上がるようには思えない。それでも、驚異的な速度で復興が成し遂げられているのは、破損したコロニーを再利用するなど、効率的に再建されているからのようだ。
コロニーの建造費を払っているのは実質的に連邦政府であり、この皺寄せが軍に影響している。
一年戦争で莫大な負債が発生したので、ここから立ち直るのは連邦政府の構造的に厳しいということは分かっている。
エゥーゴやティターンズも企業がスポンサーとなっているくらいだ。前世のソ連崩壊後のロシア軍レベルまで軍人に対する待遇は悪化していないが、いずれそうなりそうな予感はする。
閑話休題。
公社の行うコロニー輸送は、同時多発的に行われている。一つであれば、コロニージャックからコロニーを守ることも簡単になると思ったが、そう甘くはなかった。
デラーズ・フリートがコロニージャックを行う候補を、私は独断と偏見で2つに絞った。
1つ目がサイド2の新8バンチとなるコロニーだ。ニュー・イフィッシュと名付けられたコロニーである。地球に落とされたアイランド・イフィッシュの後継となるものであり、ギレン・ザビの思想を継承するデラーズならこれを奪い、地球に落とすことを考えるだろう。
2つ目は、旧サイド5宙域に移動される工業コロニーだ。ルウム戦役で吹き飛んだサイド5だが、アナハイムが目を付けており、幾つかのコロニーを新造しようとしている。
デラーズ・フリートの根拠地である茨の園も、サイド5のデブリ宙域にあるため、コチラの可能性も高い。そもそも茨の園が完成しているのだろうか?? 謎だ。
私が、選択したのは前者の監視だ。ニュー・イフィッシュが地球に落とされるのは非常に胸糞が悪い。ジオン残党ならやりそうな可能性が高い。
ということで、こちらを選択した。
バスクも納得したようで、さしたる抵抗もせずに艦隊を動かしてくれた。連邦軍はコロニーの移動を護衛するなんてことはしない。艦隊がコロニー付近にいたら不自然すぎる。
ということで、我々はコロニーの移動を追うような形で布陣していた。航法を慣性航行しているため、まず敵には気付かれにくいはずである。
「通信が入りました! 月付近の宙域にジオン残党が出現したようです! 敵指揮官はアナベル・ガトー! 目標は…ッ…おそらくフォン・ブラウン市です!!」
おいおいおい。マジかよ。アナベル・ガトーをここで使ったということは、フォン・ブラウンを破壊し連邦経済を吹き飛ばすことが、敵の主目的である可能性が高くなってきた。
フォン・ブラウンは巨大な都市なので核の1発では完全破壊は出来ないだろうが、隔壁に穴が空くことや、アナハイム本社を蒸発させることは出来る。
「メラーラ少佐、フォン・ブラウンに向かうぞ!」
「…………」
「どうした、早くしろ! デラーズ・フリートの目標はコロニーではない! アナベル・ガトーが出てきたのだ! 明らかに奴らの目標はフォン・ブラウンだ!」
ここで、フォン・ブラウンに向かうべきなのだろうか? アナベル・ガトーの行動が陽動である可能性も高い。
「我々はこのまま、ニュー・イフィッシュを護衛します。どのみちここからでは間に合いません。月面方面軍に期待しましょう」
「貴様ッ! 前線指揮官の分際で! 戦略の素人は黙っていろ! 戦略的な視野もないのに出しゃばるな!」
バスク・オムの言うことにも一理ある。単なる考えなしのテロリストであれば、フォン・ブラウンに核を使用し、その傷跡を広げることを考えるかもしれない。
だが、デラーズ・フリートは、ギレン親衛隊の流れを汲むれっきとした正規軍だ。これで終わるとは考えにくい。
「デラーズ・フリートは単なるテロリストではなく正規軍だと考えるべきです。エギーユ・デラーズを甘く見るべきではありません」
「黙れ! ジオン残党など卑怯なテロリストに過ぎん! 友軍を助けずして何が英雄だ!」
「バスク大佐、戦略的な視野を持つべきはあなたです」
「黙れ! 小娘! 貴様は少佐の分際で偉そうに口を利く! ええい!! 我が部隊はフォン・ブラウンへ向かう! 貴様らは勝手にしろ!」
ドブカスがぁぁぁ…!! デラーズの誘導かもしれないだろうが!!
クソ! 分からん! デラーズの動きが分からん!!
バスク艦隊は全速力でスラスターを焚き、フォン・ブラウンに転進した。仕方がない。向こうが大佐であり、私より階級が高いのだ。こうなることは予想できた。
「マシケ中佐、私は今、冷静さを欠こうとしています。プロミネンスは、このままニュー・イフィッシュの護衛を続けます。これで良いですか?」
「ああ。構わんよ。バスク・オムという男はああいう奴だ。相性が悪かったのだろう」
相性が悪い。確かにそうかもしれない。
「ああ!? マゼラン改、撃沈されました!! バスク大佐とも連絡が取れません!! バスク艦隊が奇襲されています!!」
今度は何だ!? 奇襲だと!! 進路は異なっているが、バスク艦隊とはそれほど離れていない。バスクとの諍いもあり、私は、敵の存在を全く察知出来ていなかった。
バスク艦隊は、地球軌道艦隊の一員であり、練度も高かったはずだ。それを一方的に奇襲したのか…?
「敵の識別は出来たか?」
混乱する私とは裏腹に、マシケ艦長が落ち着いた様子で、オペレーターに尋ねる。
「はい。敵の先頭はザンジバル級機動巡洋艦、リリー・マルレーン。所属は旧ジオン海兵隊です」
「アイランドイフィッシュにGGガスを注入した連中だな。精鋭と聞く。メラーラ少佐、モビルスーツ隊の発進準備を。バスク艦隊の救援に向かう」
コロニー・ジャックをデラーズ・フリートが行うという私の考えも、あながち間違いではなかったようだ。
さて、シーマ艦隊には八つ当たりに付き合ってもらおう。