【完結】私、ジャブローのモグラ志望って言いましたよね??? 作:むにゃ枕
完璧な奇襲だ。これほど見事な奇襲を決められたのはシーマ・ガラハウの軍人としてのキャリアの中でも今回が初めてだった。
シーマ・ガラハウの率いる
シーマは自分の部隊がGGガスの注入をさせられることを知らなかった。
シーマ・ガラハウ自身の想像力の欠如と言ってしまえば、それで終わってしまう。しかし、一週間戦争当時の彼女には催眠ガスと告げられたものが毒ガスであるとは想像していなかった。
もっとも、深層心理では気が付いていたが、彼女はその直感を無視したのかもしれない。
GGガスをコロニーに注入した下手人となったシーマ艦隊は、アクシズへの参加を拒否され、地球圏を彷徨う艦隊となった。
商船や連邦軍の小艦隊を攻撃するなどし、日々の糧を得ていた。しかし、それも限界に近づいていた。未来が無いのである。
そのため、シーマは、エギーユ・デラーズの誘いに渡りに船とばかりに乗り、コロニージャックを行うこととしたのだ。ジャックするのは、因縁のあるアイランド・イフィッシュ。その後継コロニーである。
かつての悪夢のような光景がフラッシュバックするが、シーマは脳内に浮かんだそれを無視する。
デラーズがシーマに提示した、艦隊参加への交換条件は、コロニー落とし後に残存部隊を収容するアクシズ艦隊との合流だ。
アクシズに逃げ延びさえすれば、シーマ艦隊は一息つける。
エギーユ・デラーズは、アナハイム社の
バランサーを気取るアナハイムからすれば、連邦軍の猟犬であるプロミネンスは都合が悪い存在である。そのためジオン寄りであるグラナダ支社を通じ、戦後のバランスを取るために核弾頭をジオンに与えたのだ。
ちなみに、グラナダ支社は、フォン・ブラウン本社を吹き飛ばすことを条件にデラーズ・フリートへと核を供与した。本社はこのことを全く想定していなかった。
シーマがグラナダへと進路変更させるコロニーも、エネルギー供給を受け、進路を変え地球に向かうことになっている。
裏事情を把握していないシーマとしては、自分の役割を熟すことしか頭になかった。
彼女に課せられた任務は、無防備な輸送中のコロニーをジャックし、内部にいるコロニー公社の協力者に、グラナダへと進行方向を変えさせるだけだ。
これは元ジオン海兵隊には、簡単な仕事だった。
「ん…? ありゃあパトロール艦隊かい? だとしたら随分数が多いねぇ」
放棄された岩礁を盾にし完全停止したまま、待ち伏せを行っていたシーマ艦隊が捉えたのは、連邦軍艦隊だった。
急いでいるのかスラスターを全開にしているその艦隊はよく目立った。
「パトロール艦隊のスケジュールとは異なりますね。そもそも、ここにはこの艦隊は本来存在しないはずです」
「連邦に侵入していたスパイが寝返ったのかもね」
「どうします? このままのベクトルであれば、我々から離れて行くようですが?」
「コロニーの進路が変わればバカでも気付くよ。モビルスーツを出す。久々の大物相手だ。アタシも出るからね」
シーマ・ガラハウのゲルググマリーネは、最小限のAMBACで、進路を連邦艦隊へと向けた。
海兵隊のMS乗りは粒揃いである。バーニアを派手に焚くようなバカはいない。
無線封鎖を施した上で、ハンドサインのみで意図を伝える。敵地にいの一番に飛び込む海兵隊にとっては、なんでもない技術である。
それぞれが小隊単位で、一糸乱れぬ編隊を組み連邦艦隊へと向かっていく。
「ん? 気が付いたみたいだね!」
紡錘陣を取っていた敵艦隊の中で、最右翼にいたサラミス級からジムが上がってくる。
「バスク大佐!! 敵です!! ゲルググがすぐそこまでッッ!!」
「
敵の旗艦であるマゼラン改は、紡錘陣の先頭である。分かりやすく艦隊司令官が命令を飛ばしている。
「練度は悪くないみたいだけど、こっちのフネに気付かないのは致命傷だよ」
シーマ艦隊の旗艦であるザンジバル級機動巡洋艦リリー・マルレーン。その砲門から伸びた光の輝きが、マゼラン改を貫いた。
マゼラン改は艦隊戦に特化した戦艦である。その頑強な装甲は、多少の打撃では破れない。
被弾したマゼラン改の対空砲火が薄くなったのを見計らったシーマは、部下と共にマゼランに接近する。
「冥土の土産だよ。喰らっときな!」
ビームライフルは、マゼランの艦橋を貫き、その巨体をスペース・デブリへと変えた。
「シーマ様、コイツら中々手強いです!」
「やっぱりね。潜入していたスパイが裏切って呼んだ艦隊だ。手強くて当たり前さ。頭はやったんだ。ジオン海兵隊の強さを見せてやりな!」
敵艦隊の旗艦であるマゼラン改は沈めたのだ。ジムとサラミス相手ならシーマ艦隊が負ける道理がない。
「リベ、スカー。隊長機を鹵獲する」
「………………は……ぃ」
「えっ、殺さないの??」
戦場に相応しくない女子供の声が、混線した無線から聞こえる。
「新手か。舐め腐っっっごっ」
一瞬、敵機が煌めいたと思ったら、ゲルググマリーネは被弾していた。ダメージレポートを確認すると左腕が消えている。
耐ビームコーティングがされたシールドもない。盾ごと持っていかれたのだ。角度が良かったため辛うじて弾けたのだろう。
「遠距離特化型か…! 距離を詰めて、数で押す! お前たち行くよ!」
「あぎゃっ……」
「なんで、子供がっっ?ぇ??」
そこにいるのはシーマの随伴機ではなかった。部下のゲルググのコクピットには、ビーム・サーベルが突き刺さっている。
無機質なバイザーを付けた2機の敵モビルスーツが、至近距離まで迫っていた。
「アイランドイフィッシュの恨みッッ!! お父さんとお母さんの仇!! みんなを返してよぉぉ!!」
敵機に乗っているのは少女だ。そして、聞こえる怨嗟の籠もった声に、シーマは何も出来なかった。
ゲルググマリーネは、コクピットユニットを残して切り裂かれていく。
「死んじゃえ!! 死んじゃえ!! 死んじゃえ!! どうしてみんな殺されなきゃいけなかったの!? 私が悪いことしたの?? お父さんもお母さんも、コロニーごと地球に落とされて骨一つ残らなかった! 私はたまたま家にいなくて助かったけど……私って悪い子なのかなぁ? おい!! 答えろよ!! 人殺し!! シーマ・ガラハウ!!」
「…………知らなかった! 知らなかったんだよ!!」
虐殺の記憶がフラッシュバックし、シーマはヘルメット内に吐瀉物をぶちまけた。
ストレスにより生じた迷走神経反射により、シーマの血圧が低下していく。
「リベ、それ以上はソイツ死んじゃうよ。仇ならまだたくさんいるじゃん! みんな殺そうよ!」
「……そうだね。醜悪な害虫は駆除しなくちゃ」
リベと呼ばれた少女からは、強烈な憎悪が漂っていた。もう1人は海兵隊に対して特に何も思っていなそうである。
「シーマ様、今助けます!!」
「……来るな、こいつらは…普通じゃない」
シーマはそう呟いて、意識を失った。
「マシケ中佐、バスク大佐が戦死したので彼の艦隊は私が運用して良いのでしょうか?」
「理論的にはそうなるな。で、海兵隊とは一時停戦したがどうするんだ?」
「こちらは指揮官を捕虜にしていますからね。このまま殲滅するか、降伏させるかでしょう。もしくは戦力として活用するということも考えられます」
「は?? メラーラ少佐、気でも狂ったんです?? コイツらはGGガスを注入した戦争犯罪者ですよ! 俺は反対です! コイツらは皆殺しにするべきです!」
「ジャス君、なかなか過激なことを言うじゃないか。目覚めているようだし、本人に希望を聞いてみれば良い」
シーマが気絶から目覚めていることは、メラーラと呼ばれた少佐には分かっていたようだ。
ジャスと呼ばれた男が、シーマの脇腹を蹴飛ばす。よろめいたシーマは椅子から転げ落ちる。
シーマは思わず、うめき声を上げた。咳が止まらない。手で口元を抑えようにも、シーマの手は後ろ手で結ばれており、動かすことが出来ない。
「降伏する。南極条約に基づいた扱いを願いたい」
「コイツ……ぬけぬけと!」
「ジャス君、気持ちは分かるけど暴力はいけないよ。シーマ・ガラハウ中佐、貴官には情報を提供して欲しい。その上で見逃そう。ついでにもし良ければやって欲しいこともある」
「信用できないね。アタシらに何をさせようって言うんだい?」
メラーラは口元を歪めた。床に転がっているシーマからは、目の前の女が不気味な存在に見えてしかたなかった。
「アクシズの内部を混乱させてほしい。なんならシャア・アズナブル、あー正確にはキャスバル・レム・ダイクンおよびハマーン・カーンを殺害してほしい」
シーマ・ガラハウは目の前の女の言葉に、動揺を隠せなかった。