弟が女Vしていたので愛を伏せてターンエンド   作:遺書の切れ端

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弟が隣に引っ越してきた推しのVtuberだったけど俺は異世界転生して無自覚に努力チートでハーレムしてたらモテ過ぎて元の世界が現実ダンジョンでなんか帰還したら滅びてた件について

 

 これは弟の弟を弟する話である。

 

「本当にシーニャ可愛い、は? マジで可愛い」

 

 自室の壁一面のプロジェクタースクリーンに映し出されている彼女は太陽のように輝いていた。

 そう、俺という月に光を与えてくれる存在。(まさ)しく『推し』。

 

「もはや可愛すぎて俺がシーニャのような気すらしてきたな……」

 

 クローゼットの扉裏等身大ミラーに向かって手を伸ばし、決めポーズをしてみる。実質シーニャが俺にファンサしてくれたという判定だ。

 

「ん゛ん゛っ! みんにゃあー! こんにゃんにゃんー!!」

 

 声を作り元気よく無邪気そうな顔で左手で猫の手を作り、右の手で(かぎ)爪を作って軽く前に向けてみる。

 

「…………」

 

 そっとクローゼットを閉じた。

 

「やっぱ俺は俺だったか」

 

 そんな俺の哀しみと不条理で心のドアを深く閉ざしていたら物理的に自室のドアが優しく控え目にノックされる。

 

(おかしい……家には俺とシーニャしか居ないはずだが……?)

 

 シーニャは目の前に居るから2人目のシーニャなのか? シーニャなんてなんぼ居てもいい。

 

「兄貴ぃ、またシーニャ見てるの? よく飽きないね……」

 

(またニシヤか)

 

 はっきり言って実の弟のニシヤとは仲が悪いんだよなぁ。

 実家住みの時にいつもいつもタイミングが悪く、これからシーニャの配信だと言う時に限って隣のニシヤの部屋から喋り声が聞こえてきたし。

 何度壁ドンをしたことか。

 その気持ちがシーニャにも通じたらしく、俺が壁を叩く度にシーニャの声が大きくなっていき聞きやすくしてくれた。

 必死に何かを隠そうとしている辺りも大変に可愛いらしい。

 

「俺が飽きる!? こちとらアーカイブを何回聞いたか分かんねえ! それなのに毎回新曲に聞こえる!! 今回の新曲の新曲が凄いんだって!! てめえも聞け!」

 

「な、なんだっけタイトル……わた、僕そういうのきょ、興味ないんだよね……」

 

 一言で3回もキョドるなんておかしい。

 新曲が出て数分で毎回家庭内チャットに長文を貼っているのに、ずっと適当に相槌(あいづち)していたというのか? 弟への好感度down↓↓せざる得ない。

 

「今回のテーマは『キミは林檎すらも口付けない』。これはアダムとイヴが食べた禁断の果実がリンゴのイメージだった、俺的な解釈はこれを食べて知恵が身に付き裸なのが恥ずかしくなった、恥を知る。つまり無知を認識した上で、それを選ぶ勇気。口を付けれるのに選ばないを選ぶ、それはもう知恵が「曲の感想……?」

 

 毎回家に押しかけては感想を直接求める割に作品のバックグラウンドから説明すると『早くメインディッシュ食べたい』みたいな物欲しそう顔をし出す。

 これだからリスペクトの無い奴は音楽を気軽に消費しやがる。

 シーニャに謝れ。作詞作曲に謝れ。

 

「今日はその手には乗らないぞ、どうせ裏で『兄貴がただの絵相手に興奮してたwww』みたいなスレを立てているんだろ? 俺は絶対に5ch民には負けないからな!!」

 

「そ、そんなことしないよ! そのわた、僕も! 嫌いじゃないよ、ぼ、シーニャのこと…………あともちろんファンも……」

 

「長年の俺の思いが遂に届いたのか、長かったな。同時接続数一桁の時からせこせこと布教し続けた……何回、お前もファンニャにならないか? とお前の枕元に立ったことか」

 

「ええ!? 勝手に僕の部屋に入らないでよ……そ、その準備とかあるしさ! 変なところとか無かったよね!?」

 

「なんかやけにPC機材が多かったけど。思春期はネットゲームで回線切断したくなるもんな、分かるぞ」

 

「そ、そうだね! 別にVtuberとかやってないからね!? 私全然してない! ネットゲームだから!!」

 

(何を焦ってるんだ、そういう年頃なのか? 今日完成羞恥心というヤツかもしれん、今日何かが完成したんだろう)

 

「別になんでもいいぞ。弟のオカズとか興味無いし、それよりシーニャだよ!! この歌声! 普段の明るい陰キャが無理して陽キャになっているような声のトーンと違って、歌声はクールでプリティーでキュアキュアな感じが至高だよな!? 普段の馬鹿みたいな天然ももちろん大好きだが! もはやヴァーチャルじゃない!! ゴッド! ゴッドチューバーだ!」

 

「うっ♡そ、そんなに///」

 

 病気か? 伝染(うつ)すなよ。

 

「お前もファンニャになったんなら今度一緒にライブ行こうぜ、いい加減さ、兄孝行してくれよ! な! な!」

 

「ごめん、その日は予定があってさ……」

 

(まだ日程も言っていないのに断られた……? まさか、もうニワカを卒業してちゃんと入信したのか……? ライブを把握した上で行かない信者、つまり好き避けタイプか同担拒否か。だがリアルイベントでしか味わえない一体感、配信では映らない地味な一瞬一瞬が明日を生きる糧になるんだよ、この逆ブラコン野郎が。二度と誘わねえ)

 

「ふん、(ノー)ブラ。もう用が無いなら実家に帰れよ。俺は無限視聴編は入っているから邪魔をするな」

 

「わ、わかったよ……そんなシーニャばっか大事にしないでもっと……本当の僕とかを……」

 

 何かをゴニョゴニョ言っているが全く聞き取れない。

 きっと夕飯の野菜炒めに焼肉のタレをぶっかけようとかその程度だろう。

 

「か、え、れ! か、え、れ!」

 

「帰宅コールやめてよー! か、家族なのに! た、たまには泊まらしてくれても……」

 

「俺の家族はシーニャだけだ!! 去れ! 邪悪なる者よ! エクスペリアームス!」

 

 俺はやっとの思いで弟(悪)を追い払い、シーニャの続きを見る。そして俺は死んだ。

 

 オリジナルMVの補給過多に依る睡眠不足での脳卒中辺りだろう。

 不思議と後悔は無い、シーニャの柱として生を真っ当できたと思うから。

 

 俺はよくやった。

 

 きっと神様も褒めてくれるはずだ。

 

「普通そんな死に方するかな?」

 

(なんだこの女)

 

 俺の深層心理死後世界に勝手に入って来やがって、新手の弟かよ。

 

「神様です、褒めないよ」

 

 はぁ……新しい闇バイトか、よくこんな方法を思いつくなぁ。

 逆に関心してしまうぜ、さあて寝よう。寝る前にオリジナルMVでも流すか。

 

「違うって。さっきから喋っても無いのに会話が通じてるでしょ。というか死因から学習をしないんだね君……」

 

(は? シーニャも俺が喋らなくても会話してくれるんだが? 部屋で叫んだら動画越しに返事返ってくるし、そう女友達? みたいな関係だから。あっバイトには分からないか、ごめんな? あとシーニャが唯一神な)

 

「……えーっと、異世界転生って知ってるかな?」

 

(シーシャが吸えるならシーニャも吸えるんじゃないか……?)

 

「チート欲しいよね? もう話を聞かないならそのまま異世界に突っ込ませるよ」

 

(わーったわーった、つまり親とデパートに買い物に行って好きなシルバニアファミリーが1体もらえるわけだな)

 

「もうそれでいいけど、なんの能力が欲しい? さっさと答えてさよならしようか」

 

(シーニャのマイクになりたい)

 

「うん、バイバイ」

 

 

 俺はチートを渡されずにそのまま異世界に突っ込まれた。

 

 だから、あの闇バイトに復讐するために。

 

 もう一度シーニャと再会することを生き甲斐に魔術を極め、剣術を極め、無自覚ハーレムも無自覚に極めた。

 

 

──そして遂にこの日が来た。

 

 

「キンキンキンキン!!」

 

 一度キンキン言ってみたかった。

 

「ええ? なんで戻って来れるの?」

 

「次元を斬ったんだよ、本当に殺す気なら異世界に飛ばさずに何も無い空間に転移させた方が良かったと思う」

 

「降参。武器を降ろして? シーニャの居る世界に帰すから許してくれないかな?」

 

「いいとも!!!!!!」

 

 そうして俺は無事に帰還した。

 

 だが世界は無事では無かったようだ、戻ってきたら俺の部屋どころか賃貸のマンションごと粉々にされていた。

 

(でも懐かし日本だ、俺は戻ってきたんだ)

 

「久しぶりの日本の景色……きっと皆はもう子供が居て、大晦日に顔を見せに帰省していたりするんだろうな」

 

 あのまま異世界に居た方が幸せだったか? そんなことねえよな、現実の自分をこれから取り返す。

 こっちで駄目だからあっちで上手くやろうだなんて尻軽な想いで生きてねえ。推してねえ。

 

「あ、兄貴!? 生きてたの!? もう三日も連絡が付かないから心配してたよ!」

 

 悪だ、悪が勢いよく駆け寄ってくる。

 

「俺の賃貸を壊したのはお前か? まさかここまでして俺の偶像崇拝を阻害するなんて……見損なったぞ……ノーブラ!!!!」

 

「違うよっ! 僕じゃないからね!? 僕だって最近はブラを……って! あれから大変だったんだって!! ダンジョンがっ、と、とにかくここだと魔物が危ないからシェルターに避難するよ! ついてきて!!」

 

(危ないと認識が有るなら、どうしてお前は態々(わざわざ)俺の家に来たんだ? 別に毎日、甲斐甲斐しく俺が心配で捜索していた訳じゃあるまいし。やはり悪とは分かり合えない、このさっき帰還した時に瞬殺した雑魚と同じで理解できないな)

 

「魔物って、これのことか?」

 

 俺は家跡地の隣の残骸を指差す。

 

「こんなデカいのを一人で倒したの!? SSSSの討伐対象だよ!?」

 

「?一人なんて当たり前だろ」

 

 というか、驚くぐらいデカいのなら一番に気づけよ。Sを増やすぐらいなら下限のローマ字を下げようぜ。

 

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