キンイロの旅程 〜Stay Gold〜 作:キノとステイゴールド似てるよね
緑の海の中に、茶色の線が延びていた。
それは土を簡単に固めただけの道で、西へ向かってまっすぐ走っていた。辺り一面には膝ほどの高さの草が、風の通り抜けるさまを示すように、穏やかに波打っていた。近くにも遠くにも、木は一本も見えない。
道の真ん中を、一台のモトラド(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す)がなかなかの速さで走っていた。後部にあるキャリアには、薄汚れた鞄がくくりつけられている。
旅人の体軀は細い。ベージュのコートを着て、腰をベルトで締めていた。ベルトにはナイフやランタン、コンパスが繋がっていて、後ろにはハンド・パースエイダー(注・パースエイダーは銃器。この場合は拳銃)のホルスターをつけている。その中には自動作動式パースエイダーが一丁、グリップを上にして入っていた
運転手の特徴的な耳に配慮した特注の帽子をかぶっており、それをゴーグルのバンドが上から押さえつけていた。
ゴーグルの下の表情は若い。目の大きな整った顔立ちをしていた。
町の外壁が見えてきた時、モトラドが運転手に言った。
「つぎはどんな国だろうね、ステゴ」
ステゴと呼ばれた運転手はこう言い返した。
「そうだな。ごはんがおいしくて安全な国じゃないかな」
「それはただのステゴの願望でしょ」
その瞬間、両輪が路面のでこぼこにはじかれてバランスを崩しかけ、再びモトラドがぐらついた。ステゴがあわてて直す。
「うわぁ!」
「ごめんよ、ロディ」
ステゴは少し速度を落とした。ロディと呼ばれたモトラドがぼやく。
「まったく。町にたどりつくまでに事故でも起こしたらおいしいごはんもおいしくないごはんもたべられないよ」
ステゴは少し微笑みながら、
「そうだな。気をつけるよ」
と返した。
入国の審査を一瞬で済ませたステゴ達は灰色の建物が並ぶ中のよく整備された、まるで新品のような立派な道路をしばらく走っていた。
ステゴが呟いた。
「おかしい。入国の審査の時も機械だけだったし、町に入ってから人を一切見かけない」
「もうこの国滅んだんじゃないの?流行病とか、全員で他の国に引っ越したとか」
「いや、滅亡した国はいくつも見てきたけどそれらの国とは何か違う気がする。なんというか、空気がよどんでない」
会話をしていると、ステゴがレストランの看板を見つけたのでロディを道脇に止め、店の中に入っていった。
「食べた?」
「食べた」
ステゴは満足そうに答えながら、建物の前に止めたロディに戻ってきた。
「誰かいた?」
「誰も」
ステゴはロディに跨がって、走らせながらあたりを見渡した。
前も、左も、右も、建物しか見えない。その先はぼやけて見えなかった。ここから見るだけでも、この町は大変に広く、そしてひたすら真っ平らだということがわかる。
「レストランに誰もいないのに料理が出てきたの?」
「ああ、全て機械がやってくれた。おいしかった。それに驚くほど安い」
「おいしかったか。それならよかった」
しばらく走っていると、この国で初めて見た、自分たち以外で走っている車を見つけて追いついてみたら、無人の清掃車だった。ロディの残りの燃料がこころもとなくなってきたので、無人の燃料ステーションを見つけてただ同然の値段でステゴはロディに燃料を入れた。
さらに走っていると、大型のショッピングモールを見つけたので入ってみたが、やはり人の姿は見えず、ガラガラのモールの中で機械たちが働いていた。レストランで早めの夕食をとることにしたステゴは、注文を取りにきた車椅子にコンピューターを載せて腕を着けたような機械に、紫色の謎の麺と聞いたこともないような肉のステーキを頼んだ。しばらくすると猫のような機械によって料理が運ばれてきて、ステゴはそれを食べた。おいしかった。値段もやはり安かった。
満足したステゴはインフォメーションセンターにいる機械にこの町の地図をもらい、おすすめのホテルも聞いた。
案内されたホテルは……言うまでもなく人の姿が見えずに、値段も安かった。ステゴはスイートルームを即決した。
ステゴはロディを押しながらホテルの最上階の部屋に入った。いままでステゴが見たこともないくらい、とてつもなく豪華な部屋だった。町を見渡せる見晴らしの良い素晴らしかった。ステゴは上機嫌になった。
「この国はとても良い国だね、ロディ。ごはんがおいしくて安い。治安も良い。気に入ったよ」
「そりゃ人がいないもの。犯罪は起きないよ」
「見てよ、ロディ。この豪華で下々景色を見渡せる部屋を。まるでこの国の王様みたいじゃないか?」
「従うべき人はいないけどね。というか、分かりやすく調子乗ってるな?」
大きい部屋中を見回した後、ステゴとロディは、もらった地図をでかい絨毯の上に最大に広げてみた。
今いるホテルは、入ってきた町の入り口からすぐ近くの、『東ゲート・ショッピング街』と書かれたエリアにある。円形の町は広く、先ほどステゴ達が走ったのはほんの端っこだけに過ぎなかった。
町の中央部には『中枢・政治エリア』があり、町の北のはずれには『工場・研究所』エリアがあった。
そして、それら以外は全て『居住エリア』だった。それは町の面積の半分以上になる。
「なんだ、人住んでるじゃん」
「これだけ機械がいるならそりゃ機械を整備してる人はいる、ってことだろうね。けどどうして人がいないかわかる?ステゴ」
「さあ?そうだな‥全員昼寝が気持ちよくて外に出られないとか、全員吸血鬼と眷属で夜しか活動できないとか」
「真面目に考えてる?ステゴ。もしかして人がいてがっかりしてる?」
「いや、別に?」
ステゴは目をそらした。
…………
「……本当のところはここが『居住エリア』じゃないからだろうね」
「じゃあ、『居住エリア』に行ってみようよ!ステゴ」
ロディが興奮しながら大声を上げたが、ステゴが首を横に振りながら、
「いいや、もう今日は寝る。今から行ったら日が沈むまでに帰ってこれないよ。この町に入るまでの旅の疲れも残ってるし。それに」
「それに?」
「眠い」
「え、まだいつもよりだいぶ早いよ」
ロディが返事をするよりも早くステゴは勝負服を脱ぎながらすごくすごいふかふかのベットに倒れ込んでいた。
「ええい。余はもう決めたんだ!寝るぞ!おやすみ、ロディ」
「ははーっ。仰せのままに。おやすみ、ステゴ」
ロディが返事をしたときにはもうぐっすりと寝ていた。まったくもう、しかたないんだから。ロディがぼそっと言った。
翌朝、ステゴは夜明けと同時に起きた。日課となっているナイフやパースエイダーの点検を済ませて、豪勢な朝食を食べられるだけ食べた後、ホテルの機械達に礼を言って『居住エリア』へ向かった。
『居住エリア』は、ほとんど森だった。家と家の間隔が他のエリアと異なりかなり広い。数十メートルは離れているだろうか。舗装されてない道をステゴとロディが走りったり、止まって家の中の様子を見たりしつつ話していた。
「やっぱり人が外にはいない。中にはいるんだけどね。」
「おお、ほんとにいたんだ!それにしてもステゴは目が良いね」
「ああ、家の前に一人、普通の男の人だ。何か運動をしている。他の家にも一人。中年の女性だ。庭でなにかをしているんだ?……あ、家に入った。別の家は人の姿は見えないけど電気がついていて音楽もかかってる。」
「旅人と会いたくないんじゃない?旅人や外国人に厳しい国は多いし」
「その可能性も考えたんだけどね……」
「けど?」
「彼らはみんな一人だ。家族や友達と会って、楽しく過ごしたっていいだろ。この国には、彼ら同士で会っている形跡も全くない。出かけている人もいない。」
「なるほど。じゃあ今度見かけた人に聞いてみれば良いんじゃない」
「そうするか」
この会話のわずか数秒後、止めていたロディのエンジンをかけようとしたその時、かちゃかちゃと人工の音が聞こえてステゴはあたりを見渡した。道から少し離れたところに、家の庭らしく整理された草が生えている。そのそばで、一人の女がしゃがみ込んで、小さな機械をいじっていた。女は機器の修理に集中して、ステゴにもロディにも気がついていなかった。
「こんな近くで人間を見たのは久しぶりかもしれない」
と、ロディはまるで珍獣を発見したかのように小声で呟いた。
ステゴはロディを押しながら、ばれないようにこっそりと近づいた。そして、女に声をかけた。
「こんにちは」
「うわあぁ!」
女が跳ね上がって驚いた。ステゴとロディに振り向く。三十歳ほどの、髪が長い女だった。彼女の顔には、まるで幽霊でも見たような驚愕の表情が浮かんでいた。そして言った。
「な、ななななななななななななななあ、なな……」
女は完全に、ろれつが回っていなかった。
「すみません。ずいぶん驚かせてしまったようで」
「だだだだだ、だあだだえれだだ………。いいいいついつつついうつ……」
女の言葉は意味をなしていなかった。ステゴとロディが、驚かせるつもりはなかったんだけどね。いや驚かせる気マンマンだったでしょ。と話していると、女がやっと調子を整えながら
「ききあなたたち、私の思っていることが分からないの!?」
とステゴとロディを指しながら、いきなりそう叫んだ。
「はあ?」「よく分かりません」
二人は正直な返事を返した。
それを聞いた女は、興奮しきった様子で、まるで喜びのあまり狂死しそうな勢いで、たたみかけるように言った。
「そうだろう!!私にもあなたたちの思いは『聞こえ』ない!!……ああ、なんてこと!あなたたち旅の人ね!そうだよな!そうだろうな!いいいいい、一緒にお茶でもどう?頼むよ!」
「そうだな……少し休もうと思ったところです。ぜひご一緒させてください。あと、この国ではどうして人が外に出ないのか教えてくれませんか?」
ステゴの質問に女は大きく頷きながら走りよってきて、大声で叫んだ。
「もちろん!全部話してあげるわよ!」
ステゴとロディは明るくて広い部屋に案内された。大きな窓の向こうには森の中の大きな庭が広がっている。鮮やかな花や、ハーブらしい草がいくつも並んでいた。家には他に誰もいなかった。誰かがいる気配もなかった。
ステゴはコートを脱いで椅子に座った。ロディはその脇のセンタースタンドで立っていた。
「はい、どうぞ」
女がマグカップをテーブルに置いた。
「庭で取ったハーブで作ったハーブティよ。お口に合うかは分からないけど」
「すみませんが、あなたが先に飲んでくれませんか」
すると女は少し固まった後、笑いながら、
「あなたたちは本当に旅人さんなのねぇ。安心して。そんなに警戒しなくても毒なんて入っていないわよ。ほら!私ももう飲んだ!自分で言うのもなんだけど私が作ったハーブティーはお・・・いし・・い---------」
最後は言葉になっていなかった。話しながら彼女の顔は笑い顔から、普通の顔を飛び越えて泣き顔へと変化して、そしてとうとう声を上げて泣き始めてしまった。それを見たロディが、
「あーあ、ステゴが泣かした」
と責めるような口調で言った。ステゴは慌てながら謝ったが、
「ちがうの……他人とこうやって会話して笑い合うのは……十年ぶりくらいかな……だから嬉しくて……」
しばらくして、泣き止んだタイミングでステゴが言った。
「お話、お願いできますか」
女は涙を拭いて、鼻をかんだ。そして何度も頷いて、
「わかったわ。じゃあなんでこの国の人間はお互いに顔お合わせないのか今から説明するわ。そうだね……ここは人の痛みが分かる国なのよ。だから顔を合わせられないし、会わせようともしないの」
「人の痛みが分かる?」「なにそれ?」
女は少しだけお茶を飲んだ。
「あなた達も、昔親から言われたことがあるんじゃない?人の痛みが分かる人間になりなさいって。そうしたら相手の嫌がること、相手を傷つけることをしなくなる。もしくはこう思ったことはない?他人の考えが分かれば、それはきっととても便利で素晴らしいことだって……」
「あります。他人の心が分かれば他人の嫌がることをしなくなるんじゃないかって」
「ほんとー?ステゴがそんなに周りを気にしているとは思えないけどなぁ。むしろ他人の心が読めたら弱みを握って攻撃してそう」
ロディがステゴの発言にかぶせるように茶々をいれた。ステゴはロディを軽く蹴った。
「あー!他モトラドの嫌なことしないで!ステゴ!」
「私は他人の心は読めないから仕方ないね。……すみません。話を続けてください」
女は笑いながら言った。
「あなた達は本当に面白いわね。……この国の人達も、真剣にそう思ったの。ある時、人間の脳を研究していた医者グループが、ある画期的な発明をしてしまった。その発明とは、人間の脳の使っていないところを開発して、人間同士の思いを直接伝えることができるようになるという薬だった」
「思いを直接伝える?」「どういうこと???」
二人はそう質問した。女は話を続ける。
「例えば私が頭の中で『こんにちは』と思う。そうすると近くにいる人たちにその挨拶が伝わる。私が悲しい気持ちになった時、近くにいる人たちにその悲しみが直接伝わる。その人たちは私の悲しみを理解できて、私を慰めてくれたり、解決方法を一緒に考えたりできる。要はテレパシーってことよ」
「「なるほど」」
二人は同時に相づちを打った。
「国中の人が、素晴らしい発明だと褒めたえた。試しに薬を飲むことを希望した全身麻痺でしゃべることのできない患者と、その家族が服用した。もう話し合うことはできないと思われていた家族がテレパシーで会話ができた!国中がそれに感動した!これで人間はお互いに心の底を伝え合うことができる!もっとお互いをわかり合える!……みんなそう信じた。……それから全ての国民が薬を飲んだ」
「全員が?」
ロディがすかさず聞いた
「全員よ。みんな取り残されたくなかったのよ。自分だけ他人の考えが分からないのはみんな怖かったのよ」
「それで、どうなった」
ステゴが興味津々な様子で聞いた。女は悲しげな表情をして、話し始めた。
「ここからは、私の話をしましょう。私が薬を飲んだ次の日の朝、当時付き合っていた彼の家の前で、誰もいないのを確認して『分かる?』『分かる?』と頭の中で思っていたの。そしたら『分かるよ!』って感じが返ってきたの。『私今玄関にいるの』と思ったら伝わったみたいで彼が外に出てきたの。彼と私は嬉しくて嬉しくて、何度もお互いを思い合って『愛してる』と伝え合った。
女はそこで話すのをいったん止めて、ふーっと息を吐いた。
「私たちは世界で一番幸せだと思ってたわ……。その時はね。そのまま一緒に暮らして数日が過ぎた。そして……ある時、私はハーブに水をやっていたけど、あげすぎてしまったみたいね。彼は私を睨んでいた。そして直接脳内に彼の声が届いた。『あれ?この間注意したのに。何度言ったらわかるんだろうなあ?』って。私は申し訳なさも感じたから謝ろうと口を開こうとした時、こうも頭の中で思ってたのよ。『なによ!何度言ったらって?私のことバカだと思ってるのかしら!』ってね」
「……」「……」
「そう、彼に伝わって欲しくないことも伝わってしまったのよ。そうしているうちに『一体何なんだ?なんでそんなことで、こんなに怒られなきゃいけないんだ?』そう返事が来た」
女は言いづらそうに続きを話す。
「その後は、ひたすらテレパシーで喧嘩よ。お互いの心の内を伝え合うことができてしまったから、もう取り返しのつかないほど仲が悪くなってしまった。そうして分かれて彼と会うことはなくなったのよ。……でも私たちは笑い話ですんでまだ良かったのよ。手を組んでいた二人の政治家が、実は互いにいつか裏切ってやろうと思っていたのがばれて、議会で殺し愛を始めた。美談だったはずの全身麻痺の患者も、実はその家族が『看病が手間だから早く死んでくれないかな』と心の中で思っていたことが伝わって絶望し、安楽死を選んだ。中には若い女性に近づいただけで婦女暴行未遂と猥褻物陳列で訴えられた人もいるわ。」
「……」
「まあ、そのようなことがあちこちで起こって国中がパニックだった。……それから、私たちはようやく自分や他人の考えることがいかに恐ろしいかということに気づいた。『他人の痛みが分かればその人に優しくできる。もっと人はお互いを尊敬し合える』なんて嘘だったのよ!」
「解決方法はなかったんですか?例えば元に戻す薬とか」
ステゴが聞いて、女はそれに素直に答えるように、
「さあ?分からないわ。もしかして例の薬を開発した医師グループならできたかもしれないけど、彼らは逆恨みした国民達に殺されたわ。加害者達も医師グループが今際の際に思っていることが伝わって発狂したけどね。何を考えていたのかわかりたくもない。……まあでも、無理ね。この環境で協力して物事に当たるのは無理だもの。ただ確実な方法は一つだけあったわ」
「それは?」
「他人と離れることよ。数十メートルも離れれば遠くの音が聞こえないように、思いも伝わらなくなる……」
「なるほど。そういうわけだったのか」
ロディが感心した様子で言った。
「この国の事がわかったかしら」
女はそう言うと立ち上がって、後ろにある機械のスイッチを入れた。音楽が流れ出した。それは電子フィドルが奏でる、穏やかな曲だった。
ステゴはしばらく聴いて、
「すてきな曲ですね」
それを聴いた女は、ほんの少し微笑んで、
「いい曲でしょう。十数年前にこの国で流行った曲でね。彼が一番大切にしてた曲なの。この曲を聴いて、彼はいっつも幸せそうにしてたわ。私もよく一緒に聴いてて、すてきな曲だね。って彼に言ってたけど……本当のところ、私は『すてきな曲』だと「心の底から思っていたのかしら。彼の大切にしてた曲を『大していい曲じゃないわね』とかけらも思っていなかったのかしら。……他人の気持ちは否応なしに伝わるのに、自分の本当の気持ちはまだわからないのよ」
そうやって、目を閉じた。
しばらくして曲は終わった。
結局この後女の家に一日泊めてもらった。、一緒にしばらく暮らさないかという提案もされたがステゴが「旅をしたいので」と言い断った。
翌日の朝、ステゴはロディに跨がりながら女と話していた。
「じゃあ、ステイゴールドさん、ロディさん。道中気をつけてね。できれば一緒に暮らしたかったけど……ステゴさんがダメなら仕方ないわね」
女は微笑みながらそういった。
「泊めてくださり、ありがとうございました。お茶、おいしかったですよ」
ステゴも微笑みながら彼女に礼をした。それから前を向いて、ロディを発進させた。
モトラドが走り去っていくのを女はいつまでも見ていた。
そうして分かれたステゴは城門ではなく、市街地の方へ進んでいた。
「あれ?ステゴ、どこ行くの?城門と方向が違うよ」
「あの女の人が聞かせてくれた十数年前に流行った曲、この町同じ曲をですでに聞いたことあるから。もしかしてと思って」
そして昨日、同じ音楽がかかってた場所に着くと、道から少し離れたところに、家の庭らしく整理された草が生えている。そのそばで、一人の男がしゃがみ込んで、小さな機械をいじっていた。男は機器の修理に集中して、ステゴにもロディにも気がついていなかった。
「こんな近くで人間を見たのは昨日ぶりかもしれない」
と、ロディは小声で呟いた。
ステゴはロディを押しながら、ばれないようにこっそりと近づいた。そして、男に声をかけた。
「こんにちは」
「うわあぁ!」
男が跳ね上がって驚いた。ステゴとロディに振り向く。三十歳ほどの、黒縁の眼鏡をかけた男だった。彼の顔には、まるで幽霊でも見たような驚愕の表情が浮かんでいた。そして言った。
「な、ななななななななななななななあ、なな……」
男は完全に、ろれつが回っていなかった。
「すみません。ずいぶん驚かせてしまったようで」
「だだだだだ、だあだだえれだだ………。いいいいついつつついうつ……」
男の言葉は意味をなしていなかった。ステゴとロディが、驚かせるつもりはなかったんだけどね。いや驚かせる気マンマンだったでしょ。と話していると、男がやっと調子を整えながら
「きききみたち、私の思っていることが分からないの!?」
とステゴとロディを指しながら、いきなりそう叫んだ。
「はあ?」「よく分かりません?」
二人は返事を返した。
それを聞いた男は、興奮しきった様子で、まるで喜びのあまり狂死しそうな勢いで、たたみかけるように言った。
「そうだろう!!私にもあなたたちの思いは『聞こえ』ない!!……ああ、なんてこと!きみたち旅の人か!そうだよな!そうだろうな!いいいいい、一緒にお茶でもどう?頼むよ!」
「そうだな……少し休もうと思ったところです。ぜひご一緒させてください。あと、この国ではどうして人が外に出ないのか教えてくれませんか?」
ステゴの質問に女は大きく頷きながら走りよってきて、大声で叫んだ。
「もちろん!全部話してあげるよ!」
(中略)
同じように茶を出され、同じような話をした。
「この国の事がわかったかな」
男はそう言うと立ち上がって、後ろにある機械のスイッチを入れた。音楽が流れ出した。それは電子フィドルが奏でる、穏やかな曲だった。
ステゴはしばらく聴いて、
「すてきな曲ですね」
それを聴いた男は、ほんの少し微笑んで、
「僕はこの曲が大好きだ。十数年前にこの国で流行った曲でね。これを聴いて、僕はいつもとても感動してしまうのだけど、そんな時思うんだ。『他の人はこの曲を聴いたときに、自分と同じように感動するのだろうか』ってね。昔は恋人と一緒に聴いた。彼女も良い曲だって言ってくれたけど、本当のところ、彼女はどう思っていたんだろう?そして今の君、ステイゴールドさんはどう感じているんだろうね……でも、その答えは知りたくない」
「彼女もとても良い曲だと感じているだろうと、私は心の奥底から、思いますよ」
ステゴがそう告げた。男は、
「だと、いいけど……。ありがとうございます。ステイゴールドさん」
そうやって、目を閉じた。
しばらくして曲は終わった。
そうして同じように男とも別れたステゴ達の姿は今は国を出たぼんやりとした草原の道にあった。だいぶ傾いた太陽が、ステゴの視界に入りつつある。
「ステゴ。あの男の人に伝えた事。本当にそう思ってるの?」
「ああ。彼女も好きでもない十数年前の曲は聴かないだろう。それに私がそう感じたからそうなんだよ」
「うーん、やっぱりステゴの心の声は聞こえなくて良いね。,もし聞こえてたら我が強すぎてすぐ周りの人が影響されそう」
ロディの呆れたような物言いに、ステゴは笑った。
「それにしても、あんな数百メートルしか離れていない、お似合いだろう二人が心が物理的に通じ合ってしまったせいでうまくいかなかったなんて残酷だな。私とあの人は違う世界に居ても心は通じ合っているのに」
「また惚気?ステゴの大切な人の話もう耳にタコが出来るくらい聞いたよ!」
「いや、本当にそう思っただけさ。残酷だなって」
ロディがちょっとからかうような口調で
「それにしても、ステゴの事を好きになるなんてちょっと変わった趣味してるよね。そのステゴの大切な人」
ステゴは微笑みながら、きっぱりと言った。
「自分でもそう思うよ。だからこそ大切なんだ」
キノとステゴってめっちゃ似てるよね?という考えからクロスオーバーさせました。キノの旅の布教も出来たらいいなという思いもあります。ステゴが好きな人はキノの旅も絶対好きです。もし読んだことないなら、是非読んでみてください。もし仮にステゴが好きじゃなくても面白いのでキノの旅を読んでみてください。
ステイゴールド爆誕の日になんとか間に合って良かった!!!!お誕生日おめでとう!!!!
基になったお話 キノの旅 Ⅰ 第1話