弾倉に祈りを込めます 作:覚め
何もなかった。襲撃から一日と少しが経ったくらいの今、私は目が覚めた。その間は何もなかった。横を向けば美鈴が座っていた。どうやら寝ているようだ。…猟銃があったとしても、私はもう構えることはしないと思う。それがどう言うことかは理解する気にはなれない。起き上がり、傷の具合を確かめてからベッドを出る。シスターの服から私服に着替える。神父から、シスターを辞めた時用の服と言われて受け取っていたもの。今思えば、教会の悪事が露見した時の罪滅ぼしをした気分になりたかったのかもしれない。
「…はぁ。」
「あれ、随分と印象が変わりましたね」
「…さぁ?私には良く分かりませんね」
「そうですか」
短い会話を終え、部屋を出る。猟銃は何処だろうか。せっかく直ったのだから、墓標代わりに土に埋めたい。私なんかに墓標を建てられるのは嫌かもしれないけど、他に建てる人はいない。…人を撃った猟銃なんて、尚更墓標には向かない。でも私は、もう村民の死体を見ることはできない。吸血鬼か、美鈴という妖怪か。誰かが食べたのか、捨てられたのかわからないけれども、消えていた。私の鼻に残る血の匂いだけを残して、全員消えてしまった。
「もう起きたの?まだ寝てても良いのに」
「そうですか」
「…?ちょっと」
「はい?」
「フランが会いたがってたから、後で会いに行って。用事はそれだけよ」
そう言われても、そのフランと言うのが誰だったか。…あの紅い吸血鬼のことだろうか?さて、そうだとして何処にいるのか。私が寝ていた1日で、元教会は私の知らない建物へと変貌していた。一体何があったのか。吸血鬼に対し案内出来ずにいた所、あの吸血鬼が覚える気もなくして改築にでも踏み切ったのか。堪え性のない吸血鬼。まあそんなこと考えてもあまり意味はないかな。しかし見つからない。私の知らない部屋でもあるのか、その場合は増築だろうか。探すのを諦め、大広間の隅で座り込む。
「何よ、お姉様から聞いてるでしょ?」
「ええ。」
「じゃあなんで来ないのよ…あ、私の部屋を知らないのか」
「寝ていましたから」
「…はぁ。私の部屋はこっち。お姉様は使えないものを集めるのが趣味でね。使えもしない魔導書をよく集めるのよ。」
「…?何故今その話を?」
「私の部屋がその魔導書が積まれた部屋にあるからよ。これから先もお姉様はそう言うものを集めるわ。その度に消える。ま、いない時は私が主人。黙って従いなさい」
どうやらフランと言う吸血鬼は表に出るつもりはないらしい。ここに閉じこもる気でいるようだ。そんなフランは、私に対して信仰はもう良いのかと聞いてきた。…神父を信じられなくなったからといって、神を信じないわけではない。私は、少なくとも神だけは信じている。信仰を捨てるつもりはない。…ただ、祈るつもりにはなれない。私は結局神を信じなかったシスター達や神父達と同じだった。いや、それ以上に人を殺しているのだから、シスターや神父達以下だった。私に信仰の資格はない。
「だからもう私たちに歯向かわないってこと?」
「はい」
「ふーん…諦めね。思ったよりもつまらないのね、お前」
「元からつまらない人間でしたから」
「自覚はあり…ね。シスター、お前はこれから誰に就くの?」
「…」
答えなかった。そのまま部屋を出て自室に赴く。そこにはまだ美鈴がいた。門番、とやらはどうしたのか。…寝ていた。一つ椅子を取り出して横に並ぶ。…随分と座高が高い。妖怪というものをよく知らないからわからないが、妖怪というのは全員が全員、この美鈴と言う妖怪のように大きいのか。…そこまで大きければ何が出来ただろうか。猟銃も滑らず、もしかしたら一人は助けられたかもしれない。もしかしたら、もっと声が大きくて注意を引けたかもしれない。吸血鬼二人と妖怪一人なら、ある程度は注意を引けたかもしれない。…私は小さいから、考えても意味はないか。
「そんなに気分を落とされては、隣で眠れませんよ」
「私の部屋で眠る方がおかしいのですが」
「…ああ、元からこの部屋でしたね。」
「まあ、はい」
「シスター、お嬢様が認めた以上は我々は家族に等しいんです。是非、気軽に話しかけてもらっても構わないんですよ」
「その割には私の名前を訊ねないのですね」
「あっ」
妖怪と人間の価値観だろうか。シスターはシスターだ、といった認識かもしれない。私の名前をシスターだと認識していることも…いや、ない。あの目はない。忘れていたのだろう。少なくとも美鈴と言う妖怪は。吸血鬼はそれこそ興味がないのかもしれない。まあ、この建物の中にいるシスターが私以外にいないのだから、それでも通じてはいる。人間でも通じるだろう。私の名前を呼ぶ人ももういないだろうから。せいぜい逃したシスターくらいか。それも大体四人程度だろうから…
「あの、聞いてます?」
「はい?」
「あの、お名前は?」
「…ああ。マレンです」
「マレンさん、ですね。覚えましたよ」
そう言われ、美鈴が何処かへ行く。恐らくは門番業務に戻ったのだろう。自分の仕事をするのは良いことのはずだ。…しかし、この場合私の仕事とは何なのか。奉仕か、それとも迎撃か。迎撃はないか。それこそ、私は必要のないことだろう。美鈴がいれば良いし、吸血鬼も二人いる。噂に聞くような吸血鬼の強さをしていない。目撃者を食って来た吸血鬼なのだろう。言葉通りの意味で、生還者ゼロ。そんな吸血鬼の二人がいる。ならば奉仕となるが、そのような話は一切ない。
「…わからないな…」
今更だけど、教会じゃなくて修道院だ。間違えてました。お許しを…