弾倉に祈りを込めます 作:覚め
「…まあ、分かってて空けたんだけど。」
そう置いてから話し始める。館の主人は館がこうなるのを見越して留守にしたらしい。腹いせに天井に向けて一つ放つ。感情を込めて撃つのだから当たり前なのだけれども、撃つとある程度スッキリする。都合が良い。私の奇行に対してもすでに見ていたかのような反応を示したレミリアは魔女への審判を下した。…館の修繕と、今後の協力関係。猟銃を握る手が強くなるのを感じた。ので、放した。理由もあるらしいが、詳しく聞く気はない。猟銃の銃口に指を引っ掛けて自室へ戻る。
「…どうしましたか?私に着いてくる訳は?」
「気になったからです。館の主人と認めていなくても実力は目の当たりにしているはずですからね。言うことも聞かずに出るのはどういった理由が?」
「別に。それでは、私は着替えますので。覗きは勘弁してください」
「あ…私、女性でも抱けるとかは」
「そもそも妖と人ですから。」
扉を閉める。汚らしい。シスター服を脱ぎ、普段着に変わる。銃口に引っ掛けた指を戻し、猟銃を優しく置く。十字架を持たなくなって何日経っているのか。考えたくもないことを考えてしまう。あの魔女と結んだ協力関係の意味も。レミリアが協力関係などと言ったせいで銃口を向けられなくなった。魔女に何かをさせた後に関係を打ち切る、と言うのはなさそうに見えた。館の修繕はさせるかどうかにすら上がらないと思っていたからそこは良し。…実際、あの魔女がしたいことを考えれば協力関係は結びやすいのだろうけれど。
「失礼」
「あら、死にに来たのですか?」
「そんな訳ないでしょ。貴女がここで一番この建物に詳しいそうじゃない。修繕を手伝ってくれる?」
「…断ります。苦しみながら直せば良い。」
「そんなに嫌なことした?」
放っておく。今の私には協力できない。魔女はそれを察してかどこかへ消えた。気分転換がしたくて外に出てみる。猟銃も無しに。廃れた村に変わりはなく、まあ粗探しをするように見れば蜘蛛の巣が張ってあるくらい。熱心に教会を訪れていたお爺さんの家に入る。いつも…そう、いつもであれば、私はこの家に入ったら面白い顔をしながら出迎えられていた。他愛もない話を聞かされていた。元々は牛を捌いていたとか、小さい頃の初恋、死んだ奥様の話。神父が招かなければ…。いや、神父が招いていなくても死んではいた。このお爺さんも元々はそこまで健康的ではなかった方だったから。…でも、それでも少しは長く生きていたはずだった。
「…はぁ…」
「おや、こんなところで何を?」
「おや、門前はどうしました?」
「…休みですよ」
「そうですか」
何を聞き返すこともなく話が終わる。美鈴はそんな状況でも私の真向かいに座った。…そこは、お爺さんが座っていた場所だ。いや、今も座っているべき場所だ。私の座る場所の真向かいにお爺さんが座り、興味深い話をする。私の記憶が目の前の妖怪によって破壊されたような感覚になる。猟銃はない。お爺さんの話を思い出しながら家の中を物色する。親しい人間の遺品が有れば埋める。そんな素振りで探す。…あったのはナイフ。お爺さんが言うには、牛を捌く時も狩りをする時も、この頑丈なナイフがあれば出来たと言っていた。お爺さんの言う通り、いやそれ以上に。錆も刃こぼれもしていないナイフ。
「っ」
「お、結構頑丈ですね。」
「…」
「こう見えても私は武術の達人なんですよ。ナイフを取ったのも見てましたけど、後ろに立たれたら分かりますから」
どんな理屈なのか。筋の通った理屈なのだろうけれども、私にはわからない。しかし頑丈なナイフは一切歪むことなく離された。てっきり壊されるものだと。ナイフを机に置き、美鈴とは対極の席に座る。私自身ここに座ることはあまりしたくない。それ以上に美鈴が目の前にいる状況であの席に座りたくない。気を抜けば何か喋り出しそうだったから。私の中の記憶さえ蝕もうとしているように見えるから。…私が食べられていないという事実に対して、一体どう思えば良いのかもわからない。
「…そうですね。お嬢様からこの話はやめておけと話されていたのですが…」
「喋らなくて良いですよ。私も聞く気は無いので」
「何人かの神父からお願いをされているんですよ。」
「喋らなくて良いですよ」
「…マレンさんを」
ナイフを投げる。運良くかわからないけれども、口に刺さる。教会の中には、当然悪事を働いたことのない神父もいる。何人の神父が何人のシスターや女性とそのような関係に至ったのかは知らない。だから誰が清い神父なのかは分からない。私が慕っていた神父なのか、私が敬遠していた神父なのか。それを明らかにさせられるような気がした。そしてそれは当たっていたらしく、美鈴は喋るのをやめた。門を出てもこのようなことが起きる。私があの館にいるべき理由なんて食べなければないだろうに。
「マレンさんにいて欲しい、と言うわけではないと思いますがね。マレンさんのような人にいてほしいのでは?」
「余程人が足りていないのですね」
「…まあ、真意は私にも測りかねますがね。人が足りないのか、面白い玩具を見つけたつもりなのか」
「丁度良い保存食」
「それもありますね…あっいや」
この後パチュリーは死ぬ気で内装を思い出しながら修復した