弾倉に祈りを込めます 作:覚め
ちなみに時が経ちます。
私が私の体に違和感を持ち始めた頃、館の主人が誰かわからない子供を連れてきた。教会は魔女の修復、及び主人であるレミリアの改修でもはや全く別の姿になった。なぜ今更子供を連れてきたのか。考えに考え、猟銃の手入れをする。正しいのか、必要なのかもわからないが、とりあえずしておいて損はないはず。ちなみに子供の名前は十六夜咲夜と言うらしい。和名だろうか。レミリアは満足そうに紹介した後、メイドとして雇うこととメイドとしての行動以外の躾を私にさせるように宣言してどこかへ行った。目の前にいた大人に見える人間が、やさぐれていたら驚くのも無理はない。そんな顔を咲夜はしていた。
「よ、よろしくお願いします」
「そんなに畏まらなくても良いですよ。私自身人間としての教養を備えてるわけではありませんから」
「…?」
「ひとまずは…貴女の一日を見せてもらいますか。」
一日。排泄、入浴、食事。後は知らない。勿論躾ける義務も必要も私にはない。ただ、私が抱いた体に対する違和感の正体を突き止める為に躾ける。咲夜が育ち切るような年齢になるまでには体の違和感も確信になるはず。そう思って一日を見ていた…だが。転ぶ、漏らす、ぶつかる、泣く。レミリアが連れてきた理由は私の困る姿でも見たいからか、嫌がらせか。弟妹が出来たからしっかりしろと言い聞かせるような感覚なのかもしれない。どの道わからない。人手不足だからなのか。困っている様子は見たことがないはずだが。
「…こんにちは、パチュリー」
「どうも、シスター。何年振り?姿が変わらないのは」
「用件が一つ。育児本はありますか?」
「…あぁ、あの子供のことね。ちょっと待ってて」
「…今はメイドの時間でしょう。何をしに来たのですか?」
「お、お茶を…」
「これはどうも。」
本来では注ぐ側なのに、どうもこの立場は落ち着かない。紅茶を一口、それでも味はわからない。昔から豪華な食事、味の濃い食事とは無縁だったからか、食べ物に関してはあまり味を感じない。いや、本来はそれでも味はするはず。ここでの生活が原因だろうか。まあわからないか。戻ってきたパチュリーにも出すように促し、飲ませる。パチュリーの評価は中々とのこと。良くも悪くも中々。個人の好みなど私が知る由もないが、パチュリーにとっては当たらずとも遠からず、といった味だったようだ。育児本を受け取り、数枚見る。…教会の聖書でさえ、紙の質はここまで良くなかった。角張らず、ほどほどにやわらかい。…素晴らしい、の一言。
「こちらは有用に使わせてもらいます」
「返すのはいつになるのかしら」
「…さあ。私は今日の日付も分かりませんので」
「そう。返すつもりがあるならそれで良いのよ」
館の主人は全く返してくれないとかなんとか。口から溢してきたが聞く気は無い。咲夜は賢明にも聞いているが、私はその横を通って図書館を出る。ちなみにフランはパチュリーが来ると同時に地下室を作って籠ったらしい。あんなに活発だった吸血鬼が籠るとは。何をしようと言うのか、私には判別できない。そんなことを考えても意味はないが、まあ考えれば暇つぶしくらいには捉えられるはずだ。…恐らくではあるが、私が何をしようとほぼ筒抜けのはずだ。美鈴にしろレミリアにしろ、ある程度の推測ができているのか読まれているのか。それくらいの精度で出会う。
「今の心の中当ててみましょうか」
「『紅茶の味は温かい』ですね。レミリアの予想は?」
「『咲夜の躾にやりがいを感じている』じゃない?」
「ならば私も推察してみましょうか。ふむ…『当てられるわけがない』、とか」
「それはズルよ」
「ならば貴女もズルでしょう。」
黙る。図星か、別か。私はその現状をあまり見ずに、見習いメイドの咲夜を見る。ギリギリ机の上に物を置ける程度の身長に合わせる器量をレミリアは持ち合わせていないようで、苦しそうに持ち上げている。…私でさえ足のつかない椅子に合わせた机。教会にはなかった物だ。改装でもしたのか、それとも趣味で置いたのか。よくわからないけれども、私はあまり考えないようにした。何せ、今いるここが教会に元からあったのかさえわからないのだから。咲夜が紅茶を置いた音で視線が机に戻る。
「まあ、マレンが楽しくやっているならそれで良いのよ。」
「そうですか」
「…ところでその本は?」
「育児本です。何故か魔女が持っていたので」
咲夜に対して生活の躾をするのは朝と夜。私が昼間に育児本を読み、夜に教え、朝に起こす。私より早く起きれば良し、起きなければ私が叩き起こす。吸血鬼に合わせる必要はない。何故なら吸血鬼が妙な合わせ方をしてくる為だ。夜行性の彼女達は本当に何故か知らないが昼間には起きている。本人達からすれば早起きらしい。そんなこんなで教えている最中、咲夜が催したと言い出した。漏らさずトイレでしてきなさいといって待つ。さて最寄りのトイレまでは子供の足で何分かかるのか。スカートを濡らした昨夜を想像し、濡れたタオルでも用意しようとした瞬間に咲夜が現れた。
「速いですね」
「急ぎました」
「…次からは催す前に行きましょうか。私としてもそちらの方が助かりますから。」
まともな育児?あるわけないでしょ。咲夜だぞ?