「貴方も呼ばれたの?」
「も?なら、駄目だよ、こっちには来ちゃだめだね」
桃色の髪を持つ少女、多分同じ学校のそれも同級生かな、先ほど助けてと言われて、ここに来た。目も合わせずに干渉してくる存在は、いろいろとマズイ、だって
案の定、現世側の人間が一人ここに来てしまった。呼んだ本人はまだ来ていない、ならまだ大丈夫だ、早く帰ってもらえれば、
私を起点に、周りに影響を与えてしまうから、
「後ろを向いて、振り向かずに帰ってくれるかな、君はここに居ちゃいけない。まだ―――ボトッ―――」
どうやら遅かったみたいだ、でも焦る必要はない、音の位置からして、確実に僕の後ろに落ちて来た、ならまだ見えていない。まだ戻れる。
少女の目をふさいで私は、忠告を始める。
「見ちゃだめだよ、戻れなくなる。喋るのもだめ、君は隠世側に来てはいけない、」
「でも……」
「駄目だよ、戻れるうちに戻らないと」
「私が助けておくから」
「分かった……」
目をふさいだまま、私は彼女の向きを変える。これで彼女が隠世側のモノを見ることはない。逃げれる、離れられる。
さて、これは何かな、偉業ではあるけど、姿形は可愛らしい、相手を油断させるための姿だろうか、それでも隠世側ノ存在が現世側の存在に触れるのは駄目だよ。
君はそれを防ごうとしてるのかな。
「ここにピンク髪の子が来てたはずだけど」
「帰らせたよ、君は隠世側に片足を突っ込んでいるみたいだね、ソレ、対処するつもりならお願いできるかな、あの子戻ってきそうだから」
「貴方、何者?」
「さぁ、強いて言うなら、あちらとこちらをつなぐ、案内人かな……間が悪いね、」
「そうね、此奴は私がやっておくわ、傷つけたら容赦しないから」
「もちろん」
まだ話のわかる子でよかった、そろそろ、私も限界だ、安全弁としての役割はあるけれど、僕もそのへんの領分はあるし、案内人としての目利きなら、僕の方が得意だから。
目を開ける、私は眠ってしまったようだ、それは僕の眼が必要だということを指す、あまり使いたくはないけど、巻き込まれた人がいるのなら、早めに戻さないと。
僕みたいに、なる前に。
隠世は人間の住む場所じゃない。
異形の怪異の住む世界だ。
僕の眼は隠世も現世も見ることができる、見鬼と言うやつだ。この眼はいい事ばかりではない。触れてはいけないものに、強制的に触れられる。
普通なら見えないし、触れない、でも見鬼は隠世の者たちにも、より濃く視える。干渉が多いのだ。
そして、時たまに、あちらとこちらを行き来する異形もいる、其れ等が現れる時は、視界がゆがむ、空間が捻れるように、混ざり合う、
「見つけた、」
「あっ…………さっきの……」
「逃げ切れなかったみたいだね、まだ間に合う、付いて来て、こっちだよ」
「まって、何なの?アンタ、」
「変わってるね、隠世の呼びかけには簡単に応じるのに、現世側の呼びかけには応えないなんて」
「僕は、案内人、早くしないと、本当に戻れなくなるよ」
「……分かった」
「まどか!?」
「行くよ、さやかちゃん」
まどかに、さやか、多分同じクラスだ、あの特徴的な髪色は何度か見たことがある。でも、それは置いておこう、現世の気配が強い方へ、隠世の気配が薄い方へ
僕は案内人、戦う術は持ち合わせていないわけじゃないけど、それは私の役目であって、僕の役目じゃない。
甘い香りのする道を通り抜けて、ぐにゃぐにゃと、揺れ動く空間の先に、現世側の建物が視える。ここを進めば戻ることが可能だ。
あ、タイミングが悪い、彼女なら、助けてくれる、けどそれじゃ隠世からは離れられない。でも、空間の変異が激しいから、ある意味として、良かったと言えるのかもしれない。
ごめん、挨拶できなくて、こっちは任せて、倒すことだけに集中して、
「ごめん……」
「えっ?……」
「いや、さっきの子は?」
「隠世側の人間だよ。君たちは現世側、関わっちゃ駄目だ。まだ大丈夫」
「あちらとか、こちらとか、どういうことなのよ」
「言葉のままだよ、人間が普段生活している日常を現世、怪異とかの異形が住む場所を隠世と言う」
「現世に入れるならそうすべきだ、こんな世界に人がいていいわけがない」
「それじゃあ、今日のことは、忘れることだね」
僕は二人の少女とは反対側に歩みを進める。そう、隠世へとつながる方へだ。たぶんそろそろ、やっぱり終わった。どうやら、本命は逃げてしまったみたいだけど、それでも、十分かな。
「やっぱり、駄目?」
「えっと……」
「付いてきてたのか…この人は、先輩だよ、見滝原中学校の三年生、そして隠世側に近しい人間かな」
「巴マミって言うの、本来なら、説明したいんだけどね、辞めたほうがいいって、つばさが言うから」
「そうだね、踏み込まないほうがいいよ」
まどかと言う名の少女には三度目の忠告、さやかと言う名の少女には二度目の忠告。聞き入れてくれることを願うけど、それは叶わないかもしれない。
「一つ聞いていいですか?」
「なに?」
「私を呼んでいた子はどうなったんですか?」
「君が知る由のないことだよ、まぁ、助かったと言えばいいのかな」
「なら、いいんだけど……」
嘘だ、僕はアレが助かるところを見ていない。記憶共有ができないのは問題だけど、君達がこちらに来ることのほうが問題なんだ。分かってくれ
「そっか…、ありがとう」
「どうも、僕はできることをしたまでだよ」
「じゃあね、」
「会わないことを願うよ」
これで、終わり、案内人としても隠世側の人間としての仕事も終わり、今日という一日が終わる、逢魔が刻の茜色に僕は居場所のない空間へと帰る。
「本当にだめなの?」
異形を倒した少女がそう言ってくる。名前は巴マミ、魔法少女として隠世に片足を突っ込んでいる人間、その質問に対しては僕はこう返すしかない。
「駄目だよ、こちら側の人間が、あちら側の人間を引き入れちゃ駄目だ……」
「一人にしちゃうけど、それでも、彼女達はまだ戻れるから。戻れるうちに、手を引こう」
「こちら側に片足突っ込んだ僕たちが言えることじゃないけどさ、それでも、今現世にいる、普通を生きる人達には、普通を生きて欲しいんだよ」
「だから、お願い、手を引こう。これ以上、こちら側の事に巻き込まないように、被害者になる前に、加害者になる前に」
「僕達は、関わるべきじゃないんだよ」
普通はいいことだ。異形を知らぬ普通が一番良い。無知の知なんて恥で無意味なものだ。なら無知の無知のほうがいい、こんな世界、関わるべきじゃない。
マミのことは、しょうがなかったと割り切るしかない、でも、それでも儂が起きる前に、飛び出す前に、線引きはしないと。
「ほら、挨拶したい子もいるみたいだよ。僕は此処から先は御暇させてもらうよ、そろそろ門限だし……じゃあね」
「ええ」
帰ろう、現世側にある家に。まだある居場所に。いるけど気づかれない。気づかれないように過ごすあの家に。