TCG世界の図書館受付 作:初心者カードゲーマー
「今日も閑古鳥が鳴いてら」
静寂が支配する場所…図書館で、受付窓口に頬杖を突いて座りながら、病人の様なボサボサの白髪頭の中性的な容姿の
「…まぁ、そもそも図書館に来る人なんて居ないしなぁ…なんせ…」
そう言って、少年は窓から外を眺める。
「来い!俺のエース!《騎士王・アルトゥーラ》!」
「うわーっ!?もう出されちゃった!!」
窓から見える公園では、少年少女が元気にを声を上げながら、カードゲームをしている。
街中を見ればカードショップやホビーショップが並び、街を歩く人々は当たり前の様に腰や内ポケット、果てにはベストを改造してまでデッキケースを付けている。
「カードゲームの世界だし」
カードゲーム【メモリー・エレメンツ】
ここではない、別の世界やあり得たかもしれない可能性…それらをカードに刻印し、プレイヤーはそれぞれ《テーマ》として別れているカード群からデッキを組み、戦う…そんなカードゲーム。
「…まぁ、カードゲームの勝敗が極論…人生を左右するレベルな時点で、ここはTCGの世界なんだけど」
誰も人が来ないのだからと、少年は椅子の上で胡座をかき、欠伸混じりに独り言を呟く。
少年の言う通りで、図書館に備え付けられた古臭いテレビに映るのは、カードゲームの大会が大々的に放送され、合間に挟まるCMは新パックの宣伝、ホビーショップやカードショップの宣伝…とカードゲーム一色だ。
少年が欠伸したままチャンネルを変えても、ニュースでは
『今期もやって来ましたね、新パックの発売です!今回は新パックに登場する新テーマの解説を…』
『カード強盗団、グリードが新米町に…』
「うーん、相変わらずつまらない」
少年はテレビの電源を切り、背もたれに寄りかかる。
少年がこんな態度で図書館の受付をしているのは理由がある。
それは単純なもので、暇過ぎて死にそうだからだ。
カードゲームが日常の一部になっていると言うのに、わざわざ図書館に来る様な人は居ない。
カードの情報が知りたい?カードショップやホビーショップに行こう!
古いカードのデータが欲しい?ショップに行けば実物はあるし、ネットで調べれば有志が纏めたデータが転がってるよ!
…と、ネットが発達している上にカードの事ならショップに行けば大体解決してしまう上、大半の人々は昔の事が書かれた書物なんかに興味がないのである。
それ故に、図書館はほぼ人が居ない…精々来るのは夏場の暑い日に避暑地兼対戦する場として使う子供程度である。
人が来ない上に、業務も細々とした書物管理。一日中暇な時間になるとなれば、飽きも来る。
しかし、客が誰一人として来ないとしても、本の管理はしなくてはならない。
「…まぁ、借りる人が殆どいない上に、本の管理はやってくれてるしな…ここで座ってるだけで良いのは楽だけど…」
図書館のあちこちには、せっせと業務に勤める人影が複数居た。
のっぺりとした人影の様な存在はチェックリストを頼りに棚に仕舞われた本を一冊づつ確認し、並びが違う本や別の場所の本を元の場所へ戻す作業を黙々と行なっていた。
それ以外にも貸出カードと貸出日数を比べ、登録情報から返還を催促するハガキを書く人影
ほつれや破れた書籍を修復する人影
…など多数の業務を行っている人影
この人影は、《カードの精霊》の
【メモリー・エレメンツ】では、まことしやかに語られている話がある。
カードが人を選ぶ、そして、強い絆が結ばれるとカードに刻印された《精霊》が現れる…と
《精霊》はカードに刻印されているモンスターが実体化した姿とも呼ばれ、《精霊》を従えるプレイヤーは総じて強者が多い…という話だ。
「…ま、図書館に人は来ないし、『護身用』でデッキも何個か持ってるけど、そもそも使う機会がないからなぁ…」
少年もデッキを持っているが、唯一対戦相手になるであろう夏場に来る子供達は身内対戦しかしないという有様で、持っていても使う機会がない。
そんな中、閑古鳥の鳴く図書館に、お客が来た事を知らせる鈴の音色が響いた。
その鈴の音が響くと、人影達は煙の様に消え去り、そこには作業の途中と分かる痕跡が残るのみ。
少年は体を起こし、受付窓口から入り口を見る。
入り口には、燃える様な赤髪を渦を巻いた様な独特な髪型にした少年と、そんな少年とは正反対な青髪のロングヘアの少女が居た。
そしてそんな二人は夏場に来る子供として図書館に来たという記録はない。完全に初見さんだ。
「ね、ねぇ…辞めようよ、オバケなんている訳ないって…」
「いーや!友達が見たって言ってたんだ!絶対に居るはずだ!」
どうやらこの図書館を肝試しスポットだと思われている。
「ここは図書館であって、幽霊屋敷じゃないんだけど」
「ひゃぁぁっ!?」
「うおっ!?いつからそこに!?」
少女は悲鳴を上げ、少年は少し驚いた後に少女を守る様に前に出る。
「最初からだよ、というか見えるでしょ、ここ入り口からすぐの受付窓口だよ?」
「い、いえ…全然見えませんでした…椅子があるだけで…」
少女が少し震えながらも答えた事で、少年は一つの原因に辿り着く。
「…あぁ、このデッキのせいか」
そう言って、カウンターに灰色のデッキケースを置いた。
「お!お前もやるのか!?メモリー・エレメンツ!」
デッキケースを見て、赤髪の少年は目を輝かせて質問した。
「実際やってる訳じゃないし、そもそもコレ護身用のデッキだから」
「なんでやってないんだよ?」
「やる相手が居ないからだよ、図書館にずーっと居る訳だし」
そう言って欠伸混じりに答えた。
「つまり…友達居ないのか?オレが友達になるよ!」
「…それは嬉しいな、学校じゃ友達も出来た事ないから、初めての友達だ」
「オレの名前は、レン!
「よろしく、レン。僕は…
「おう!よろしくな!ココロ!」
「…あっ…えっと、私は
赤髪の少年はレン、青髪の少女はスイと言うらしい。
「なぁなぁ!ソレどんなデッキなんだ!?もしかして新パックのデッキか!?」
「…拾ったカードだよ、割と強いんじゃないかな。対戦した事ないから分からないけど」
「なら、対戦してみるか?オレもスイもデッキは持ってるし!」
「だ、ダメだよ!?ここは図書館だよ!他の人も居るかもしれないし、騒いだりしたら迷惑になるよ…!」
「あぁ、ここほぼ人来ないからそう言う心配ないし…机はあるから対戦は出来るよ」
「えっ…こんなに本があるのに…人が殆ど来ないの…?」
スイの言う通りで、図書館にある高い天井に届く程の本棚にはぎっしりと本が詰まっている。
そんな本棚が柱の様にズラリと並ぶ様は思わず息を呑みそうになる程だ
「そう、来るにしても夏場に避暑地兼対戦する場として来る子供しか居ないから…」
ハハッ…と笑うココロに、レンとスイは少し気まずくなった。
「よ、よし!ならオレ達と対戦しようぜ!分からない所も多いだろうし…一つ一つ覚えればいいしさ!」
そう言って、レンがデッキケースからカードを出そうとした…その時。
乱暴に、扉を開ける音がした。
「へへへ、ここか、あの書物があるって図書館はよぉ」
黒いローブに身を包んだ男がデッキを片手に現れた。
「な、なんだお前!?」
「あぁ?ガキか…帰ってミルクでも飲んでろ」
面倒くさそうにしっし、と手を振る男に対して、レンはデッキをセットして答えた。
「この図書館で何かするつもりか!?オレが相手に…!!」
「あぁ、いいよ。こう言う時の為の僕だし」
いつの間にか、ココロがレンと男の間に立っていた。
「うおっ!?このガキ…いつからここに…!?」
「最初から居ました。所でお探しの物はなんですか?」
ココロの問いに、男はごほん、と咳をした後に答えた。
「世界で唯一、この図書館に眠る。世界が記された書…《エレメンツブック》だ。さっさと寄越せ!」
「なるほど、なるほど…」
男の言葉に、ココロは目を閉じて頷いた。
「残念ながら、貴方にそれを手に取る資格はない。回れ右して帰ると良い」
鋭い目付きと淡々と冷たく鋭い声音で、ココロは言い放った。
「上等じゃねぇか!勝負しろ!勝ったら《エレメンツブック》を寄越せ!」
「おい待て!ココロは対戦なんてした事ないんだぞ!!」
レンの物言いに男はニヤリと笑う。
「なら丁度いいじゃねぇか!オレがボッコボコにしてやるよ!」
そう言うと男はデッキからカードを抜いた。
「ボコボコに出来るといいですね」
そんな男へ、ココロは貼り付けた様なにこやかな笑みを向けた。