人生もとい悪魔生で一番面白い事は何か? 俺だったら"唆して誰かの人生及び悪魔生を滅茶苦茶にする事"と答える。ではどうやったら滅茶苦茶にできるか? 色々手段はあるが、一番滅茶苦茶にできる出来事と言ったら恋だ。恋による感情の激動は人に限らず悪魔すらも大きく変える。そんな恋が、今まさにデンジの目の前で起きようとしているのだから面白くてしょうがない。
時は俺がデンジと契約した日の翌日、場所は通り雨に襲われたデンジが電話ボックスに避難した所から始まる。同じく避難してきた、黒髪と緑目と首の手榴弾のピンみたいな物がついているチョーカーがバチクソ可愛い女の子をデンジが励ました。すると、『二道』というカフェでお礼をしてもらう運びになったのだ。
(なあレイエル、お礼って何だと思う?)
(カフェで何か奢ってもらうのが普通だが……ワンチャンセックスもあるな)
(えっ!? い、いやいや! いきなりそれはねえだろ!)
とか思っておきながらメチャクチャ走って、彼女よりも早くカフェに着いたのだから面白い。お礼はありがちなコーヒーでちょっと残念だったが、彼女が笑いながらデンジに触ってきた。
(やたら触ってくるし、俺に笑ってくれるし、もしかしてこの娘、俺のコト好きなんじゃねえ……?)
そのほうが面白くなりそうだから俺もそう思う。
「私の名前レゼ。キミは?」
「デンジ」
「デンジ、デンジ君……デンジ君みたいな面白い人、はじめて」
デンジは無表情で平然を装っているが、内心ではどう思っているのだろうか。
(確定で俺のコト好きじゃん。どうしよう。俺は俺の事を好きな人が好きだ。マキマさん助けて。俺この娘好きになっちまう)
この有り様で、仕舞いにはレゼちゃんが輝いて見えだした。このまま背中を押してもいいが、この面白い状況を是非とも王ちゃんにおすそ分けしたい。だから俺はデンジに一つの提案をすることにした。
(ちょっと待ちなデンジ。がっつきすぎる男は嫌われるぜ?)
「うお!? そういやいたっけ!?」
俺を忘れるほどだったらしい。そんな大げさに声を出したらお前みたいなバカでも気づかれそうだ。
「誰と話してるのデンジ君?」
案の定レゼちゃんが質問してきた。俺の存在がバレるのは構わないが、必要以上に詮索されると面倒だから真実交じりにはぐらかしてもらおう。
(契約している悪魔が話しかけてるって言え)
「お、俺の契約している悪魔が心の中に話しかけてきてよ」
「……デンジ君、悪魔と契約してるの?」
(……嘘の悪魔と契約しているって言え)
「あ、ああ。嘘の悪魔レイエルって奴と契約しているんだ」
それを聞いてレゼちゃんの目線がデンジから見て右上に動く。聞いたことがある悪魔か思い出しているのだろう。しかし、思い当たる節がなかったのか目線を戻して質問してきた。
「……どんな悪魔なの?」
(嘘を言ったら舌が爆発する悪魔って言え)
「嘘を言ったら舌が爆発する悪魔だって」
レゼちゃんがふーんと鼻を鳴らしながら王ちゃんみたいに髪をジリジリと捻じる。言葉を選ばないといけないから色々考えているのだろうか。
「……やっぱりデンジ君って面白い人だね」
レゼちゃんの舌は爆発しなかった。
(ホントにそう思ってるじゃん。付き合っていいか聞いていいんじゃねえか?)
そうかもしれないが、こんな面白そうな恋を不意にしたくはない。しっかりと準備するべきだとデンジに伝える。
(……友達として付き合いたいか異性として付き合いたいかは別だ。ここは一旦冷静になって、王ちゃんに相談するべきじゃねえか?)
(それもそうだな)「んじゃ、礼はもらったから今日は帰るぜ。また来るわ」
「私のおかげで常連獲得だよマスター?」
「ううん……否定できないなあ……」
「またねーデンジくーん」
「また来てくれよデンジ君」
得意げなレゼちゃんとやれやれなマスターに見送られてカフェを後にする。
(めっちゃカワイかったなレゼちゃん)
(やっぱあの流れで聞けばよかったなあ~。でも、示札さんにアドバイスをもらうってのは悪くなさそうだな)
(真面じゃないとはいえ恋愛経験者だからな。私的な相談だからケータイにかけるといいぜ)
デンジに電話をかけさせ、19時以降ならいつでもいいとの約束を取り付けだ。類人猿よりもウッキウキになって『二枚舌』に向かうとしよう。
扉を開けるとバーテンの服を着た天使くんと公安のスーツを着た王ちゃんが座敷にいた。王ちゃんはデンジに気付くと、珍しく嬉しそうに笑ってこっちに来いと手招きをしている。
「待っていたよデンジくん。マスター、レモン特上牛タンとキンキンに冷やした炭酸水を」
「はいはい。適当にやらせてもらうよ」
頼まれた天使くんは心底面倒くさそうに立ち上がって厨房に向かっていった。浮ついた話だからこそしっかり腰を据えて話せと座敷に促し王ちゃんの正面に座らせる。
(示札さん、俺とのデートの時より笑顔じゃん……)
デンジは初めて見るであろう王ちゃんの嬉しそうな笑顔に困惑している。
(なんだっていいから相談しな。王ちゃんの機嫌を損ねたらアドバイス貰えないぜ?)
(そ、そうだけどよ……)「……えっと、それで相談なんすけど……」
「どんな娘だい? 詳しく聞かせてくれないか?」
「く、食い気味だなあ……ええっと、カフェで働くレゼって娘で……」
王ちゃんの滅多に見ない食い気味な態度に気圧されながら、今日あった出来事を説明していく。俺とデンジの中ではどう考えても気があるとしか思えないが、王ちゃんはどう考えるだろうか。
「……なるほど。イケるんじゃないかな」
どうやら王ちゃん的にもオールオッケーみたいだ。俺とデンジは心の中でハイタッチを決める。
(やったなデンジ! これでお前の人生バラ色だぜ!)
「だからあの場で好きって言っちまえばよかったのによお!」
「ただし……そのレゼちゃんが本当にいい娘かどうか実物を見てから決めたいね」
デンジの主観的な情報しか聞いていないからイケると思っている可能性も否定できないし、女からの評価が良い女は保証できるというのが一般論だ。王ちゃんが女を見る目はそれなりに肥えているので、実際に見てもらった方が良いのは間違いないだろう。しかし、当のデンジは不服そうに頭をかいている。
「示札さんがレゼと話すのかあ? なんか不安なんだよなあ~」
「何でだい? 僕が彼女と会うことに何の問題があるんだい?」
「なんつーか……示札さんって危なっかしい所があるんだよな」
「……否定はしないけど、面と向かって言う事じゃないと思うね」
(否定はしないのか。まあ自覚してるだけマシともいえるか)
「レイエルもそう言ってるぜ?」
王ちゃんが盛大にため息をついて、逃げるように厨房に向かって叫んだ。
「……マスター! 注文の品はまだ!?」
「初めて料理したから味の保証はできないよ」
かかった時間通りに火が通り過ぎ、フリーマーケットの品揃えよりも乱雑にレモンが散りばめられた牛タンがやって来た。
「……天使くん、今度からメイド服着てウェイトレスやってね」
「新人教育してない示札さんが悪い────」
「それ以上口答えしたらレイエルに頼んで"生きてる"状態にしてもらうからね」
「パワハラで訴えられないかな……でも、訴えるのも面倒だから受け入れるよ。服は用意しておいてね」
これで俺の天使くん女の子計画に一歩近づいた。天使くんの料理は素材が良いから美味しいと思えるレベルだった。王ちゃんが持ってきた冷えた炭酸水とよく合うが、だったら完璧な状態で合わせたかった。王ちゃんも同じように思っているようで、空になったジョッキをゴンと机に叩きつけた。
「いいかいデンジくん、まず女の子と話す時は基本的に頷いて同意するんだ。相手は答えを求めているんじゃなくて、自分が正しいと肯定してほしいんだ。そして何でも褒める。顔、服装、性格、仕事……なんだっていい、褒められそうなところは全部褒める。で、相手の愚痴には乗ってもいいけど、自分から愚痴は言わない。ついでに言うと──────」
そこからは王ちゃんの恋愛講座が始まった。色々教えてくれるのは良いが、俺がリアルタイムで教えられるから意味がないんじゃないかとも思った。ただ、いつになく王ちゃんが楽しそうだから止めるのは止めてあげた。