その悪魔は嘘か真実か?   作:神剣狩刃

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第17話 凶行・僥倖・逃走

 ついに祭りの日がやって来た。一応王ちゃんと天使ちゃんも誘ったのだが、2課の訓練に行くため断られてしまったので、俺とデンジとレゼちゃんの3人で絶賛青春を謳歌している。景品がしょぼい輪投げ、甘いだけの綿飴、掬えない金魚掬い、どれもこれも安っぽいが万華鏡のように青春を彩っていく。そして彼女の案内で花火が一番見えて、誰も来ないマル秘スポットに案内される。

 

(これはもうセックスだな。覚悟しとけよデンジ)

(だな)

「ねえデンジ君」

 

 俺達の高鳴る期待に応える様にレゼちゃんが話しかけてくる。

 

「いろいろ考えたんだけどさ、やっぱり今のデンジ君の状況おかしいよ」

 

 確かに一般的な16歳からはかけ離れている生活をしているが、本人が楽しんでいるから別に良いと俺は思う。しかし、恋する乙女としては放っておけないのだろう。なんとも甘酸っぱい────彼女が彼の両手を両手で握った。

 

「仕事辞めて…………私と一緒に逃げない? 私がデンジ君を幸せにしてあげる。一生守ってあげる……お願い」

 

 彼女曰く知り合いに頼めば絶対に公安に見つからない場所があるらしい。なぜ彼女がそんなことできるかは知らないし、そもそも現実的かどうかも怪しい。しかし俺としては2人が一緒になるのは好都合だ。いつも通りに彼を唆す。

 

(逃げちまえデンジ。愛の逃避行なんて最高じゃねえか)

(で、でもよお……)「なんでレゼがそんなコト……」

「だって私……デンジ君が好きだから」

 

 これで断る理由がどこにもなくなり、俺がとやかく言う必要もなくなった。後はデンジが頷いたら俺との契約を解除してもらい────デンジはうつむいて悩んでいた。彼女も不思議がっている。

 

「なんでそんなに悩んでいるの? デンジ君は私の事嫌い?」

「好きイ! だけど…………最近仕事が認められてきてさ……」

 

 そのままパワーちゃんやアキくんや仕事と色々と言い訳をならべ始めた。好きな女のためならそれ以外の全てを捨てるぐらいの気概を見せろよと言いたかったが、それよりも先にレゼちゃんが動いた。

 

「そっかわかった……デンジ君、私の他に好きな人いるでしょ」

「え?」

 

 恋する乙女と見透かされたバカを大輪の菊が照らす。それと同時に2人の唇が重なり────身の毛もよだつような痛みが襲ってきた。

 

 

 折角の祭りを台無しにされた憂さを対魔2課の訓練施設で晴らす。連続でかかってくる訓練生達を片っ端からボディーブローで床に転がしていく。

 

「これだったら輪投げやってたほうがよっぽど楽しいや……」

 

 立っている人間が誰もいなくなったのでこれで訓練終了だ。今から車で行けば祭りに間に合うだろうか。

 

「やり過ぎですよ示札さ~ん……これじゃ訓練になりませんって……」

 

 今回依頼してきた野茂という僕の嫌いなチャラそうな男が話しかけてきた。この不機嫌さに加えて男に絡まれたら、コイツも床に転がしそうなので適当にあしらってこの場を後にしよう。

 

「最近悪魔と魔人の訓練していたから人間相手への加減の仕方を忘れちゃった」

「じゃあしょうがないですね……アキに未来の副隊長が2課に戻ってこいって言ってると伝えてください」

「会った時に記憶が残っていたらね。じゃ」

 

 訓練部屋を出て、待っていてくれた天使のような悪魔のメイドバディと合流する。

 

「ねえねえ早川君が2年以内に死ぬことは言わないの?」

「僕にとっては恋のライバルが減って嬉しい事だから」

「……そうかい。僕は早く死にたいけど、どうせ死ぬなら君のメイド服姿を見てから死にたいな」

 

 見た目もあってか彼とは男と接している感覚があまりない。これならレイエル以上のバディに────

 

「示札さん!! 下に来てください! すぐ!!」

 

 先の野茂という奴がうるさいので指示に従う。するとそこには打ち上げ花火が直撃した時みたいにボロボロのデンジくんと彼を庇うように同じぐらいボロボロのビーム君が倒れていた。あまりの状況に思わず駆け寄ってデンジくんを揺さぶる。

 

「デンジくん!? 何があったの!?」

「し……しめす、ふだ、さん……?」

 

 かろうじて意識があるぐらいで真面な返事ができていない。となったらビーム君に聞いた方がよさそうだ。説明しなければ殺すと言わんばかりに睨みつけると、相変わらずバカそうな声で情報提供しだした。

 

「ボムが来る……! ボム……銃の悪魔の……仲間!」

 

 銃の悪魔の仲間と言えば以前のモミアゲウーマン一派がいた。そのボムという奴もチェンソーマンの心臓を狙っているのだろうか。でもそれ以上に気になっていることがある。デンジくんの舌先がないのだ。

 

「レイエルは!? 舌を切られたならレイエルの真の姿になっているはずだよ!?」

 

 レイエルの真の姿になる条件は"舌を切除する"で、レイエルと契約しているデンジくんも同じだ。だからレイエルは何らかの危機が迫ったら、間違いなくそれをデンジくんに教えるはずだ。なのに舌先を切られてデンジくんの姿でいる今のデンジくんはおかしい。その矛盾を打ち抜くシンプルな答えがビーム君の口から放たれる。

 

「レ、レイエルが……チェンソー様を見捨てた……!」

 

 一瞬何を言っているんだと思ったが、僕の恋の事情を知っているアイツだったらやりかねない事だ。祭りで悪魔に襲撃されて巻き込まれて死ぬ、デビルハンターと言えど休暇の不意を突かれたらそれぐらいあり得る話だ。真の姿になればレイエルの判断で契約を打ち切ることができるから、デンジくんを唆してその場で契約を打ち切ったのだろう。だとすると不思議なことがある。

 

「レゼちゃんは!? デンジくんの近くにいた女の子────」

「あ! キタ! キタ! ボム来た!!」

 

 サメが吠えた先には────レゼちゃんがいた。つまりボムは彼女ということだ。2人きりの時に言っていた2つの発言がどちらも嘘ではなかったからすっかり油断していた。

 

「すいませ~ん!! 助けてくださ~い!! 悪魔に襲われてま~す────やあっ!?」

 

 ずいぶんと嬉しそうに叫ぶ彼女の舌が爆発した。

 

「アレが噂の嘘の悪魔の力ですか……今の内に逃げてください」

「お言葉に甘えるよ。行くよ天使くん」

「僕は彼らを運べないからね」

 

 最初から僕が運ぶつもりだと彼らを米俵のように担いで車に運ぶ。後ろでドンパチにぎやかにやっているが構わず、相変わらず趣味の悪い黒ベンツに米俵二つを納品する。運転席についてエンジンを起動しながら天使くんに指示を出す。

 

「車走らせないの?」

「先に応援を呼ばせて欲しい。もしもし暴力さん? 今2課の訓練施設で────」

 

 ハイビームの先に頭部が円柱状の爆弾で、両手に黒いオペラグローブをし、胸部は黒いトップスとダイナマイトや爆竹を連ねたような前掛け服装をし、その前掛けの両側から白い下着がちらりと見える、まさに魅力的なダイナマイトボディーな爆弾の悪魔が現れた。

 

「……こりゃ彼も惚れるわけだ。もっとも、プレゼントのセンスは壊滅的だけど」

 

 彼女の両手には2人の男性の生首があった。

 

「私の力を見せるために殺して見せた。できるだけ人殺しはしたくない。デンジ君を車から降ろして去りなさい」

 

 やはり彼女の目的はデンジくんの心臓のようだ。ここで彼女にデンジ君を差し出せば無事に逃げれるし、恋のライバルが明確に一人減る。win-winの最高の取引になるだろう。だから────

 

『何だコレ!? 柔らけえのにゴリゴリしてる!? めっちゃうめぇ!!!』

『いいなそれ! 俺の金玉蹴りは早パイのお墨付きだからな! でも初っ端で潰すなよ示札さん!』

『んなもんウマいモン食って寝りゃいいだろ? 俺だったらこの紅茶とチーズケーキで立ち直れるな』

『こんなに背中押してもらえるのは初めてだから嬉しいぜ。ありがとよ2人とも』

 

 ────思い切りアクセルを踏み込んで全てを振り切る。

 

「君はチェンソー君のことが嫌いじゃなかったのかい?」

「今更だけど! 僕の心が変わった、いや分かったんだ! だから言える!」

 

 すうと一息吸って覚悟を決め、心の内を叫ぶ。

 

()()()()()()()()()()()()()()!!!」

 

 後方から彼女が追いかけてくるボンボンボンという音が響き、それから逃げるようにブウウとエンジンが唸る。聞こえた音はそれだけだった。

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