その悪魔は嘘か真実か?   作:神剣狩刃

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第20話 可愛すぎる娘

 店の牛タンの在庫を全て食べる程の宴を開いた翌日、僕は先生に呼ばれて事件現場の捜査に参加していた。労いの言葉を程々に貰った所で、先生が不思議な話を始めた。

 

「ソ連の母親が子供を叱る時にするおとぎ話がある」

 

 なんでも軍の秘密の弾薬庫で非人道的な実験に付き合わされるというおとぎ話だが、その部屋が本当に実在したという。レゼちゃんはそのソ連が国家に尽くすために作った戦士、『モルモット』の内の一人らしい。それならばレゼちゃんの行動の全てに納得がいく。ハニートラップでデンジくんを誘い、そのチャンスをいとも簡単に作った。しかし、その中で芽生えてしまった恋心と任務への責務で葛藤し、その結果があの大喧嘩と言った所だろう。

 

「彼女も1人の女の子だった、と……恋する乙女の気難しさはよく分かりますよ」

「お前がそうだからな。所で一つ聞きたいんだが……お前の新旧バディはどうした?」

 

 あまり考えたくないことを聞かれたが、答えたくないとはぐらかせそうもないので正直に話す。

 

「レイエルは昨日から行方不明、天使くんは今朝にマキマさんに呼ばれてどこかに行っちゃいました」

 

 僕の答えに先生はいつものようにスキットルの中身を呷って溜息をついた。

 

「レイエルが一人になったのか……ロクでもないことを企んでいそうだな」

「いよいよ天使くんを女の子にするんですかね? それだったら嬉しいんですけど」

 

 アイツがそんな平和なことで済むような奴ではないというのは分かっているが、情報が何もないので動きようがない。牛タンの在庫もなくなったので店を開くこともできない。しばらくは休業するしかないかと肩を落とす。

 

「デビルハンターとして働け」

 

 もっともな指摘を受けたので捜査を続けたが、言ってもこれといった情報もなく退屈な捜査だった。そろそろ日が傾きだしそうな昼下がりになり、僕のケータイが早く出ろと震えだしたので、珍しくワンコールで通話に出た。誰からの連絡であろうと何かしらの情報を引き出したい。

 

「もしもし示札ちゃん? 今回の件で色々話がしたいんだけど……今から『二枚舌』で話せないかな?」

 

 一番情報を持っていそうなマキマさんだ。牛タンも無ければ断る理由もないので二言返事で快諾する。

 

「もちろんいいですよ。ただ、牛タンが在庫切れしているのでおつまみは自分で買ってくださいね」

「そうなんだ……それじゃあちょっと遅れるかもしれないから、いい感じのお酒準備して待っててね」

 

 急ぎ足で店に帰り濃い目のレモンサワーを準備していると、店の扉が開いて来客を知らせた。

 

「お待たせ。牛タンって意外と手に入りにくいんだね……お肉屋さん何軒かハシゴしちゃった」

 

 そう言っている割にはクリアファイル1枚しか持っていないマキマさんと、

 

「王ぅ~……ワシの牛タンを焼いてくれぇ~……」

 

 両手に袋一杯の荷物と飼い猫のニャーコちゃんを抱えているパワーちゃんがやって来た。思わぬ来客にジョッキを落としそうになったが、女店主の意地で何とか堪える。

 

「ええっと……とりあえず座ってください。とんでもない話が始まりそうなので」

 

 

 女3人と1匹で1つのテーブルを囲みながら話を始める。

 

「まずはレイエルと天使くんの事なんだけど……この手紙を見てほしいんだ」

 

 クリアファイルに入っているA4の紙が取りだされ、はさりとテーブルに置かれた。

 

『王ちゃんへ。天使ちゃんとアブない事をするのでしばらく借りて旅行に行きます。帰宅予定は何も考えていません。P.S お土産は期待しないでね』

 

 その手紙を見て思わず仰向けに倒れてしまった。

 

「何やってんだアイツ……牛タンの在庫ないっていうのに……」

「牛タンは定期的に送ってくれるみたいだから、在庫はすぐ来ると思うよ」

 

 そういう問題ではないが、牛タンがきてくれるに越したことはない。何とか起き上がって、分かり切っている質問をする。

 

「何でマキマさんは許諾したんですか……」

「一週間ぐらい不自由にさせちゃったからね。それなりの事はさせてあげないと」

「ですよね……アイツが一週間分のストレスを発散するのにどれぐらいかかるんだ……‥」

 

 再び倒れそうになったが、やけに静かなパワーちゃんが気になったので何とか留まった。

 

「そう言えば、何でパワーちゃんがいるんですか?」

「示札ちゃんの新しいバディだよ」

「っ!!!」

 

 心の内にほとばしる衝動を何とか抑えて拳を血が出るぐらい握り締める。

 

「な、なんじゃ、王……? そんなに嫌じゃったか……?」

 

 不安がるパワーちゃんの手を握り締めて強く答える。

 

「そんな訳ないじゃないかパワーちゃん! 僕、パワーちゃんの事が大好きだから喜んでバディを組むよ!」

 

 僕はパワーちゃんが大好きだ。嘘の悪魔の能力が効かない滅茶苦茶な思考、その思考と同じぐらい滅茶苦茶な態度、一目惚れした可愛さ、とにかく彼女を構成するありとあらゆるものが大好きだ。出来る事なら彼女が母になって僕を育てて、姉になって僕の服を見立てて、妹になって我儘に振り回され、娘になって世話をしてあげたい。僕の彼女への好意が伝わり、パワッと笑顔が咲き誇った。

 

「そ、そうか! ワシの事が好きか! ならまずはウマい物を作ってくれ!」

「任せてパワーちゃん! 何でも作っちゃうよ!」

 

 パワーちゃんの頼みならなんでも受け入れるつもりだ。財布を持って店の外に飛び出し、近場のスーパーで肉類とキャットフードを大量に買い込んで戻ってくる。

 

「まずは肉100%ハンバーグかな! その間に肉だけカレーも作って! ステーキも焼いちゃおう!」

「良いな良いな! バディ結成祝いじゃ!」

「……示札ちゃんの意外な一面を見ちゃったな」

 

 マキマさんなんかに構っている暇なんかない、パワーちゃんが満足する料理を作らなきゃ。

 

 

 ということで僕と彼女の夢の同棲生活が今夜から始まる。晩御飯はスイーツが良いと言ってくれたので、再びスーパーに行き打っている全てのスイーツと製菓材料を買ってきた。

 

「何が良いかな!? アイス、シュークリーム、羊羹、わらび餅……ここにないものが食べたかったらすぐに作るよ!」

「とりあえず買ってきた物全部じゃ! 後は食ってから考える!」

「良いよ! はいパワーちゃん! あーん!」

「ムグムグ……早く次をよこすのじゃ!」

「ごめんね! はい! あーん!」

 

 好きな子にあーんをする幸せはこんなにもいいものだったのか。アイドルを追いかけで身を滅ぼす人間の気持ちがよく分かった。ニャーコちゃんが羨ましそうににゃーんと鳴いたので、キャットフードを4種類ほど並べてあげた。どうやら缶タイプの物がお気に入りらしいので、明日いっぱい買ってきてあげよう。かくしてスイーツの山が無くなり、満足そうな彼女が大きなあくびをする。

 

「くああ……眠くなってきたから寝るぞ」

「その前にさ! 一緒にお風呂入らない!?」

 

 彼女はたまにしかお風呂に入らないため、近づくと血と汗の混じったウッとするような匂いがする。そんな所も魅力的なのだが、折角なのだから一緒にお風呂に入るという貴重な経験をしておきたい。

 

「全部洗ってげるからさ!」

「う~む……そこまで言うなら入るかのお……」

 

 ということで特別個室の浴室に一緒に入る。彼女は胸が大きくなって面白いという理由で胸パッドを使用しているので、本来の胸のサイズは僕と同じで控えめだ。それに加えてストレスなど感じたことも無さそうな思考なので、肌はモチモチすべすべの最高のコンディションだ。髪も意外とシャランと靡く程度には手入れがされており、僕の理性にミシミシとヒビが入っていく。

 

「誰かが洗ってくれるなら風呂も悪くないのう……これからは王がワシの体を洗ってくれ」

「やったあ!」

 

 これもうプロポーズだよね。今は同性婚が認められていないけど、将来では認められるだろう。僕と彼女がその気になれば日本の法などいくらでも変えられるはずだ。最高の未来を描きながら彼女の髪をドライヤーで乾かす。彼女から僕とお揃いのシャンプーの匂いがしてヤバい。このままだといつ彼女を襲ってもおかしくない。一緒に寝たら子供ができてしまうので、何とか避ける方法を考える。

 

「セッ……角だから今日は広いベッドで、ニャーコちゃんと2人きりで寝たらどうかな?」

「いい考えじゃのう! じゃが、王はどこで寝るんじゃ?」

「2人の邪魔したら悪いから座敷で寝るよ」

「そうか! いい夢見るんじゃぞ!」

 

 そう言って僕は彼女たちと別れた。こんな幸せな生活がいつまでも続けばいいなと思いながら夢の世界に旅立った。




「所でパワーちゃんはこの一週間は何食べてたの?早川くんは悪魔討伐の遠征に行ってたみたいだけど……」
「デンジがレイエルに教えてもらいながら作った飯を食っていたぞ。意外とウマかったが、王の作る飯に比べたら大したものではなかったのう」
「レイエルって女を誑かすために家事能力を鍛えているし、人を騙すために説明上手だったりするんだ。性格に目を瞑ればいい旦那さんになるかも」
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