その悪魔は嘘か真実か?   作:神剣狩刃

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第25話 岸辺に咲いた二輪の白百合

 今日の朝ご飯はデン早コンビによる牛タンスープだ。じっくりと煮込まれたタン先と野菜の旨味が優しく体にしみ渡る。

 

「チェンソー様料理上手!」

「アキくんが家庭的っていうのもあるけど……デンジくんも中々良い腕してるね」

「なぜ牛タンと野菜を一緒にするんじゃあ……牛タンが台無しじゃあ……」

「それじゃあパワーちゃん分のスープは僕が飲むから、僕の血を飲んでいいよ」

 

 パワーちゃんが首元に遠慮なく噛みつく。二度目にもなれば興奮しすぎて意識を失うなんてことはない。もっとも、興奮して血の出る勢いが増すのはどうにも防げない。それを補うためにもいっぱいスープを飲まないと。

 

「だからと言って1人で10杯も飲むかね?」

「この人、見た目に反して大食女だな」

 

 デビルハンターは体が資本なのだから仕方がないだろう。

 

 

 護衛の最中、昼飯はデパートにしようと入った時だった。日下部が魔方陣を床に書いて、入ってきた入り口を向いてしゃがんだ。そしてデパートに入って来た腕が剣のようになった人間達に向かって息を吹きかけ、あっという間に石像にさせた。日下部が契約している石の悪魔の力らしい。

 

「アレは人形の悪魔によって人形にされた人間だ。触れられたら人形にされてしまうぞ」

「だったら私のゴーストの独壇場(どくだんじょう)だね」

「知ってっか姫パイ? 独壇場って誤用で、正しくは独擅場(どくせんじょう)が正しいんだぜ……あっ」

「こんな時にレイエルみたいなこと言わないでよ~」

 

 僕の力でも触れずに倒すのにはかなり力を出さなければならない。必要以上に消耗するのは良くないのでここは日下部に任せて────ライブ会場に入るドルオタのように大量の人形が雪崩れ込んできた。陣の上でしか力が使えない日下部では役に立たないため、咄嗟に上の階にパワーちゃんを放り投げる。

 

「ンアアアアア!?」

「投げるなら俺を投げええ!?」

 

 その勢いのまま回転してデンジくんを上の階に蹴り上げる。回る視界で皆が上の階に行ったのを確認し、歯を食いしばって力を籠める。

 

「何をしているんだ!?」

「勢いが必要だったんだ。文字通り一蹴するために」

 

 更に回転して回し蹴りを放ち、その衝撃波で人形を吹っ飛ばしながら階段をぶっ壊した。

 

「デンジくんを護衛しろとは言われたけど……条件は特に聞いてないからね。器物損壊に伴う費用は公安に持ってもらうとしようか」

「な、なんてヤツだ……巡回ルートにあるビルにいるデビルハンターが巻き添えを喰らっちまう……」

「だが、サンタクロースを仕留めるまたとないチャンスだ。今日で全てを終わらせるぞ」

 

 今回の任務で一番の障害なのはドイツからの刺客サンタクロースらしいが、僕にとって一番の敵は────本能がヤバイと叫ぶ何かを感じた。

 

「「全員構えろ!! 死ぬぞ!!」」

 

 僕と早川くんが同時に叫んで武器を構える。瞬間、何かが僕の横を駆け抜け凄まじい衝撃が走る。

 

 

 僕はふらつく程度で済んだが、隣の早川くんは受け身を取り損ねて頭を打ってしまった。後ろを振り返ると、僕よりやや輝いている銀髪を首の高さで結んでいて、姫野さんと同じ右目に眼帯で僕と同じような死んだ目で、僕よりも明らかにスタイルの良い美女がいた。僕の女を見る目が確かであれば、この人がクァンシさんのはずだ。僕は天使くんのナイフを取り出しながら声をかけた。

 

「……初めましてクァンシさん。岸辺先生は酒に溺れて元気そうですよ」

 

 彼女はタッと踏み込んで僕を蹴り上げようとした。何とか腕で受け止めたが、体が浮き上がるほどの威力だった。

 

「……なるほど、岸辺も良い指導者になっていたか」

 

 そのまま流れるようにデンジくんと日下部と玉置を蹴ってダウンさせた。姫野さんは構えた状態で立っていたが、何故か同じく蹴られていないはずのパワーちゃんは倒れていた。恐らく死んだフリをして機会をうかがっているのだろう。素晴らしい作戦だと心の中で感心しながら、意識をクァンシさんに戻す。

 

「……女性には優しいんですね」

「女は優しく扱うものだ……もっとも、お前を女として扱っている余裕はなさそうだがな」

 

 キインと鋭い金属音が首元で響いて離れていった。彼女は顎を狙ってくるだろうとナイフでガードしたのだが、容易く蹴り飛ばされてしまったのだ。

 

「私の蹴りで壊れないなんて、いいナイフじゃないか」

 

 身長の差はリーチの差であり、リーチの差は戦力の差である。明らかに彼女は格上で、普通に攻めたら間違いなく負ける。なら僕にしかないアドバンテージを利用するべきだ。踏み込んで一気に詰め寄る。彼女の蹴りは小柄な僕なら姿勢を低くして躱せる。彼女の眼帯の死角に入り込み────目前には彼女のナイフがあった。

 

「「そう来ると思った」」

 

 ナイフを取ろうとしたお互いの手がナイフを挟んでぶつかり合う。ナイフは見事に木っ端みじんになり僕達の手に破片が刺さった。僕はその拳を彼女の開いている左目に向けて振るい、彼女は僕の伸ばした手を掴んだ。彼女の左目に血が入ったと同時に、僕の視界から彼女が遠ざかっていった。そして背中からパリンと何かが割れる音が聞こえ────窓から投げ落とされたと理解した時には体が落ちていた。手も足もビル壁に届かない。下を見ると黄色い車があった。

 

「……後で持ち主に謝ろ」

 

 車をマット代わりにしながら受け身を取る。車はメチャクチャに潰れ、走ることはおろか修理するのも無理なほどに壊れてしまった。何とか立ち上がり、落ちてきた階を見上げる。壁面をよじ登っていけば早く着きそうだが、今の落下の衝撃で少し体が痛めたのか少し体の動きが鈍い。無理せず車を武器にして入り口から行くとしよう。

 

 

 示札さんが窓の外に投げ飛ばされた直後、オレ達の後ろからよく聞いたカッコいい声が響いた。

 

「クァンシ、久しぶりだな」

 

 岸辺の先生が変な丸いポニーテールの女とパワ子みてえな角の生えた女を人質に取りながら現れた。

 

「デンジ、パワー、姫野、この2人を拘束しろ。暴れたら殺せ」

「オレ一人で十分っすよ。パワ子はダウンしちまってるし、姫パイはこの戦いについてこれなさそうだし」

「ワシは生きておる。死んだフリでチャンスをうかがっておったんじゃ」

「酷いこと言うなあ……それじゃあ、私はアキくんをっと」

 

 オレは角の生えた女を、パワ子はポニテの女を、姫パイは早パイを担当した。先生とクァンシが窓際のテーブル席に着いて話を始めた。確か昔に関係があったとか言ってた気がする。バディだったか体だったか、なんにせよ久しぶりの再会で積もる話があるんだろう。ただ、先生がメモ帳を取り出してクァンシに見せながら話し始めたのは気になった。先生の聞かれたらマズい話ったなんだろ? もしかして示札さんとイケない関係になったとか? でも、示札さんはパワ子が好きだから先生が無理矢理襲ったのか?

 

「この世でハッピーに生きるコツは無知で馬鹿のまま生きる事。岸辺、てめえは大人しく首輪つけときな。元バディからのアドバイス」

 

 バカなことを考えている間に話が動いたらしく、よく分からないが先生の思惑通りにはいってなさそうだ。パワ子のあくびに釣られてオレもあくびが出て────一瞬の緩みをついてオレの捕らえていた女が動き出したので、瞬間的に首を絞めて地に伏せさせた。

 

「ぐっ!?」

「ワリぃな。オレにとってマキマさん以外の女はどうでもいいんだ」

 

 そのままうなじにナイフをちょっとだけ刺した。ぷっくりと血が滲み出てきていい警告になった────瞬間、ヤバイ何かを感じたので咄嗟に女を盾にした。パリンと音がした直後、女の顔の横にして直前にオレの頭があった場所にはクァンシのおみ足がピタリと止まっていた。

 

「そういやアンタも示札さんみてえに女が好きだったか。女好きの女ってロクな人いねえな」

「……それ以上彼女に手を出してみろ。お前の頭の保証はしない」

「オレに言われてもな~……コイツに暴れるなって言ってくれねえか?」

「クァンシ……!! コイツ、情報以上に強いぞ……!」

 

 ちょっと本気出し過ぎたか? でも、このクァンシって奴も間違いなく聞いている以上に強い。さっきまでいたはずの先生がいつの間にか無くなっているのが証拠だ。多分、さっきのパリンという音は先生が窓から落とされた音だろう。戦うよりも逃げた方がよさそうだ。今回はどれだけ犠牲を出してもオレが生きていればいいから、やることはたった一つだ。

 

「姫パイ! 倒れてるヤツ全員起こしてくれ! そいつらを盾にしてオレが逃げる隙を作る!」

「ええ!?」

「少なくとも姫パイは"生きてる"状態で死なねえだろ!? 特別に早パイと一緒に逃げてやるからよお! 行け、ビーム!」

 

 俺は女を手放してクァンシに向けて、どこぞの特撮ヒーローのように腕を十字に組んだ。

 

「そんな子供のような技が効くとでも────っ!?」

「チェンソー様あああ!!!」

 

 地面からのビームアタックでクァンシの体勢が大きく崩れた。その隙に一気に走り出し、早パイの襟元を掴んで引き摺りながらこの場を離れる。

 

「お前……!? どういうことだ……!?」

「どうもこうもねえだろ! アイツらはオレの護衛のコマなんだろ!? だったらいいように使わせてもらうぜ!」

 

 足元に散らばる人形たちを踏み潰して、血の足跡を作りながら進んでいく。このままいけばこのデパートから脱出でき────

 

「お前、デンジじゃないだろ」

 

 その言葉に振り返ったせいで、足元の何かに気付くことができなかった。足の痛みで感知したそれは、先日に金髪碧眼女から刺されたあの釘だった。

 

「やっべぇ……確かあの女が刺した回数は3回……今ので4回になるから……」

 

 俺の身体が浮く。この後に起こる事が容易に想像できる。早パイもその悪魔を使っているから分かったはずだ。

 

「待て! お前は一体何者なんだ!?」

 

 早パイの質問に答えるよりも言うべきことがある。体がハリツケになる。

 

「早パイ! この後すぐにオレに血を飲ませてスターター引っ張って────」

 

 その言葉を最後にオレの意識は消えた。

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