その悪魔は嘘か真実か?   作:神剣狩刃

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第27話 逆鱗・虎の尾・堪忍袋の緒

 地獄から戻って来た俺達だったが、説明する間もなくビルの屋上に何者かがやって来た。脚が人の顔で、胴体は顔があること以外は普通で、腕8本で、長い黒髪をした化け物だ。恐らく闇の悪魔の力を宿したからこのような姿になったのろう。

 

「はじめましてマキマ」

「えっ、マキマさんいんの!?」

「……あなたはマキマではないのですか?」

 

 そういえばマキマさんになっていたか。解除して俺の真の姿を見せる。

 

「あなたは誰ですか?」

「……デンジになりすましていた悪魔だ。おたくは?」

「サンタクロースと呼ばれていますね」

 

 俺の知る限り、闇の悪魔の力を持つ存在は闇の中での攻撃は一切通じなくなる。ここにいる戦力でコイツを倒せるか? 縫合直後の人間達は戦力外で、ここにいる悪魔及び魔人達の力ではとても及ばない。パワーちゃんに至っては泣いている始末だ。彼女の涙を見た俺は顔に手を当て天を仰いだ。

 

「……マジか……終わったじゃねえか……」

「そうでしょう。闇の悪魔の力の前に────」

「お前か」

 

 言葉を遮るように誰かがゆらりと歩き出す。コツコツと言う靴の足音が次第にキンキンと甲高い金属音に変わっていく。

 

「おや……あなたはだれ────」

「お前がパワーちゃんを泣かせたのか」

 

 その言葉と共に人形の悪魔の姿が無くなっていた。遅れてガキャアンと工事現場でも聞かないような激しい金属音が響き、向かいのビルにボゴオンと何かがめり込んだ。

 

「お前がパワーちゃんを泣かせたのかあああ!!!!!!」

 

 辺りの窓ガラスをぶち割る叫び声が轟く。それは俺の横にいる銀で出来た狼男、いや狼女から発せられていた。そして彼女は一瞬にして向かいのビルに向かって跳んで、更に壁面をめり込ませて崩壊させた。俺は咄嗟にケータイを取り出して岸辺のオッサンに繋いだ。

 

「今すぐ公安の包囲網を解け! そしてこの都市一帯に避難警告を出せ!」

「……何言ってんだ────ああ、そういう事か分かった。一旦、お前の所に行った方がよさそうだな」

 

 通話が切られて数秒、手摺をよじ登って岸辺のオッサンがやって来た。屋上の人魔の状態を見て、俺と同じく顔に手を当てて天を仰いだ。

 

「示札がブチギレちまったか……流石に相手に同情するな」

「闇の悪魔怖いぃ……」

「示札さんがブチギレた? どういうことですか?」

「っていうかあの銀の狼男は王ちゃんなの?」

「ありゃあ仮面外した俺よりやばいぜ……」

「あ、あの狼……レイエルと匂いが似ていた……」

「や、やっぱり示札さんは人間じゃなかったんだあ……」

「……私と戦っていた時は本気ではなかったのか」

「あ、アイツはヤバい魔人ですぅ……わ、私達じゃ絶対に勝てないですぅ……」

「クァンシ……いざとなったら奥の手を使うかもしれない」

 

 一同がざわめき出したので事情を説明する。

 

「アレは……王ちゃんのとっておきだ」

 

 

 俺の中で一生で絶対に忘れる事の出来ない事と言えばこれだ。時は『二枚舌』開店一周年記念のパーティーの日、俺と王ちゃんは店を閉めてパワーちゃんを呼んで最高の酒盛りをしていた。酔うに酔って店の牛タンの在庫を食べ尽くすほどの勢いで、最後の牛タンを俺が食べた。

 

「あ~!? レイエルがワシの牛タンを食べおった~! ワシのじゃぞ! 返せぇ~!」

 

 パワーちゃんはかなり酔っていてふざけ半分で泣いたんだ。その時、王ちゃんが徐に立って俺の肩を叩いてこう言った。

 

「それじゃあおひらきに~さいきょうのげ~むしようよれいえる~」

「どんなゲームだ?」

「おたがいにこかんをけって~さきにこうさんしたほうがまけっていうげ~む~」

「面白そうじゃねえか。良いぜ」

 

 王ちゃんも顔を真っ赤にして酔っていて、俺も結構酔って気分が良かったから引き受けちまったんだ。そして俺は舌を噛み切って鏡狼の姿になって、ガニ股で足を開いた王ちゃんの股間を思いっきり蹴った。テーブルや酒瓶が吹っ飛び、店の壁に亀裂が走るぐらいだった。でも、王ちゃんは失禁するぐらいで普通に耐えた。

 

「あはは~おもらししちゃった~でもこうさんはしないよ~」

「それじゃあ今度は王ちゃんの番だぜ。思いっきり蹴りな」

 

 俺もがぱっと足を開いてウェルカムポーズを取ったんだ。そしたら王ちゃんから笑みが消えたんだ。

 

「ぱわ~ちゃんをなかせるな」

 

 その瞬間、王ちゃんの姿が銀狼になって俺の下半身を粉々に砕いた。その余波で店が倒壊して大騒ぎになった。処理にやって来たのが岸辺のオッサンで、当然何があったのか聞かれたからこう答えたんだ。

 

「王ちゃんをブチギレさせちまった」

 

 王ちゃんとパワーちゃんはかなり酔って覚えていなかったが、俺と岸辺のオッサンは恐怖するほど刻み込まれた。この件によって『二枚舌』は人通りのない場所に移転し、公安御用達の完全予約制店舗になった。

 

 

 話を聞いた全員が全く話を理解していないように目をパチクリさせていた。信じる信じないは任せるとして、今の状況がどれだけヤバいかを説明する。

 

「いいか? 今の王ちゃんは素面の状態でああなった。三大欲求で止まるとは思えねえから、王ちゃんかアイツが死ぬまで止まらねえ。そして王ちゃんは俺によって"生きてる"状態になっているから死なねえ。そしてアイツは闇の悪魔の力で闇の中だと死なねえ。不死身同士で決着がつかねえように見えるが、アイツの方はなんとか光の中に放り出せば死ぬかもしれねえ。ただ……」

 

 俺は赤く焼けた夕暮れの空を見みて、諦めて笑った。

 

「あの2人の戦いに巻き込まれたら、死ぬか死んだほうがましな状態になる」

 

 俺はビル内に入って動かなくなった人形を何体か持ってきてBBQセットと牛タンに変え、火をつけて肉を乗せていった。

 

「だから……今夜はここで牛タンパーティーだ」

「お前……!? 敵の前だぞ……!?」

「私……色々あって疲れてもう何も考えたくないや。お腹空いちゃったなあ」

「もう嫌だ……公安辞める……」

「まあまあ。牛タン食ってから考えようぜコベニちゃん」

「偽物のチェンソー様って分からなかった……」

「怖いから牛タン食べるぅ……」

「折角だから酒も用意してくれないかレイエル?」

「クァンシさんご一行もご一緒にどうだ? 日本の牛タンは旨いぜ?」

 

 いくら岸辺のオッサンに勝てる刺客とはいえ、脂がパチパチ音と次第に漂ういい匂いに抗えるとは思えない。

 

「……そうだな。ここで下手にお前達と戦うより、そのバカな誘いに乗っておいた方が良いだろうな」

「ほ、本気ですかクァンシ様ぁ……?」

「でも、あの戦争が終わるまではここが安全だと思うよ」

「ハロウィン!」

 

 なんか脳と眼球が飛び出た女の子が増えているが、今更驚く気にもなれない。アレコレ準備している間に完全に日が沈み、闇の悪魔の力も最大限に発揮される時間になった。それぐらいであの王ちゃんが止められるとはとても思えないが、王ちゃんのいいストレス発散にはなるだろう。俺は岸辺のオッサンに酒を渡しながら、さっきクァンシさんに見せていたメモ帳をさりげなく抜き取って読んだ。

 

『会話はマキマに聞かれている』

『言う通りにすれば安全は保障する』

『マキマを殺す協力をするなら全てを教える』

 

 飛んできた岸辺のオッサンの拳を受け止め、腕を引っ張って顔を引き寄せて耳打ちをする。

 

「クァンシさんを逃がす宛がある。公安の監視がつくが、それだけに一番安全だ」

「……何だと?」

 

 俺は1ページにとある住所を書いて千切り、クァンシさんご一行に渡した。

 

「牛タン食ったらそこ行きな。公安の包囲網の無い今夜がチャンスだ」

「……何のつもりだ?」

「気まぐれかな。乗るかどうかはあんた次第だが、お嬢さん方を死なせたくないだろう? だったら何も知らずにここに行きな。このまま公安に捕まったらアンタらはマキマさんに殺されちまう」

「……いいだろう。アレが来たら私の女達のためにこの身を捧げるつもりだった。だったら僅かでも可能性がある方に賭けよう」

 

 俺の計画も順調に進んできた。今は轟音と共に崩れていく夜景を見ながら牛タンを楽しむとしよう。

 

 

 私は闇の悪魔の力を得た。闇の中に入ればどんな傷も一瞬で治り、人形たちも頭部を壊されたぐらいでは動きが止まらなくなり、全てを理解しつつある。なのに。

 

「死ね死ね死ね死ね!!!」

 

 目の前にいる銀の狼女はなぜ止まらないのかが分からない。人形たちは彼女の叫び声1つで吹き飛ばされ、拳と脚によって粉々にされる。

 

「一秒でも早く死ね!!! 一度でも呼吸をするなあああ!!!」

 

 私の体が宙に浮いたかと思えば瞬きする間に地面に埋まっており、次の呼吸をするまでにはビルの壁面に叩きつけられていた。

 

「い……一体何が……」

「早く死ねよおおお!!!!!!」

 

 今度は雲の上にいた。地球と言える場所の中で一番月が近く見える場所だった。

 

「パワーちゃんのために死ねえええ!!!!!!」

 

 彼女の言うパワーちゃんとは一体何者なのだろう。私は髪を掴まれながら連続で殴られている。これすらも理解できるのに彼女の何もかもが理解できない。

 

「死んで地獄でパワーちゃんに詫びろおおお!!!」

 

 重力に抗えず落ちながら殴られる。そのまま地面を抉りながら着地する。闇の中にいるのにも拘らず人形に肩代わりしないと死にかねない。死にかねない? この私が?

 

「私は闇の悪魔の力を────」

「闇闇うるせえんだよおおお!!!!!!」

 

 髪を両手で掴まれてジャイアントスイングの要用で振り回され、空気との摩擦熱で体に火が付いた所で投げ飛ばされる。燃料がなければすぐに消え────何かにぶつかると同時に爆発が起こる。飛んで行った文字にはレギュラーとハイオクと書かれていた。彼女は私をガスステーションに投げ込んだのか。

 

「燃えちまええええええ!!!!!!」

 

 彼女は火を纏いながら私を殴り続けている。怖い。一体何なんだ。

 

「ですが……私は人形の悪魔と契約しています。そして私の人形達は世界中あちこちに────」

「パワーちゃんに手を出してみろおおおおおお!!!!!! 何度だってぶっ殺してやる!!!!!! こんな風になああああああ!!!!!!」

 

 私の頭部が砕かれた。ダメだ。彼女にパワーちゃんなる存在がいる限り勝てない。夜でこの様なのだから昼では話にならない。いくら進化しても彼女に勝てる気がしない。私の人形達に伝えないと。今回の任務は失敗だと。そして、パワーちゃんには絶対に手を出してはいけないと。

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