その悪魔は嘘か真実か?   作:神剣狩刃

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第32話 鏡狼・共謀・強行

 翌朝、ゲロ女の冷蔵庫にある物を勝手に拝借して適当に朝飯を作り、2人でベランダに出て貪りながら話す。

 

「それでアキくんの事で話があるって言ってたけど……何?」

「アイツは2年以内に死ぬ」

 

 今は俺自身に天使くんの能力を付与しており、デンジに変身しても俺の本質として残っていたため、彼の襟元を掴んで素肌に触れた際に寿命を知ることができた。

 

「……もしかしてどうにかできるの?」

 

 そんな分かり切った話をしに来たと思っていない彼女は、ミーちゃんの力で見たかのように話の流れを当ててきた。

 

「公安を辞めて一緒に民間に行くんだろ? 女の子の恋路程応援しがいのあるものはないんでね」

 

 恋は人を狂わせる要因ランキングで金と同率でトップになるから大好きだ。まして一度は俺にトラウマを植え付けたなので、その恋を盛大な物にしてやりたい。悪魔である俺としては当然の考えだった。

 

「ただ……かなり無茶苦茶な方法を取る」

「な、何をするつもりなの……?」

「呪いの悪魔を殺す」

 

 彼は呪いの悪魔との契約で長生きすることは出来ない。ならば呪いの悪魔を殺して契約を無しにした上で、"生きてる"状態にすればどうにかできるかもしれないというのが俺の建前だ。これを聞いて彼女は目を閉じて唸り始めた。

 

「……まだ何か話してないことあるでしょ? それだけだったらもっと早く言ってたはずだよ」

 

 流石俺と程々に付き合っている女だ、俺が都合の悪い部分を隠しているのを見抜いてきた。俺はわざとらしくフッと笑って白状する。

 

「お前に新しい悪魔と契約してもらわないと勝てねえ」

「レイエルだけじゃ勝てないの?」

「アレの攻撃を4回喰らったら即死だ。いくら俺でも被弾を3回以内に抑えるのは無理だ。なら"生きてる"状態のお前が無理矢理戦った方が良い」

 

 実際に喰らっているから分かるが、あの感じなら"生きてる"状態なら滅茶苦茶痛いだけで死ぬことはないと俺は確信している。それでもなお彼女は首を縦に振らない。

 

「合理的だけど……どんな悪魔と契約するかにもよるなあ……」

「それなら問題ない。暴力の奴と契約してもらうつもりだ。アイツなら大した条件も出さないで契約してくれるはずだ」

 

 早速ケータイを開いて暴力の奴と連絡を取る。

 

「もしもし暴力? ちょっと協力してほしいことがあるんだけど」

「悪い事じゃなきゃ協力するぜ?」

 

 呪いの悪魔を殺す計画を話した所、乗り気ではあったが懸念点もあったようだ。

 

「俺も女の子の恋は応援したいからな~。契約に関しては俺から求める物はとくに無えけど、マキマさんが許してくれるかどうかが不安だな」

「確かにそうだな……俺がマキマさんから都合が良い日を聞いて、話し合いの場を作るとするか。アキくんには内緒にしてくれよ」

「当たり前だろ? それじゃ、よろしく頼むぜ~」

 

 いい感じに話がまとまったので電話を切る。俺の交渉術を見みたかと彼女にギャリと笑ってみせる。

 

「言うまでもないがお前もアキくんには言うなよ?」

「もちろんだよ。マキマさんが許してくれるといいけどなあ……」

 

 そこも俺の交渉術があれば問題ないだろう。

 

 

 銃の悪魔討伐の前日、やっとマキマさんの都合が付いたので4人で話すことになった。マキマさんに呼ばれた浜辺に姫暴の2人を連れて歩く。もちろん、俺の両手には4人分の牛タン弁当と烏龍茶とビニールシートがクーラーボックスに入っている。

 

「暴力~、重いから持ってくんねえ? このマス……老人の体だと力が出ねえんだ」

「じゃあ何でその人にしたの?」

「まあいいじゃんかよ。ほらよっと」

 

 駄弁りながら進む道の先には黒い長袖の服とスカートを纏ったマキマさんが手を振って迎えていた。舌を噛み切って鏡狼になり手を振り返して駆け寄る。

 

「お待たせマキマさ~ん。奮発して特上牛タン弁当作っちゃいましたよ~」

「甘い声でご機嫌取りするぐらい本格的な話なんだね。とりあえず色々聞かせてほしいな」

 

 シートの上に座って牛タン弁当を食いながら、先日の呪いの悪魔殺害計画を話す。そうしたらマキマさんはゲロ女を見つめて微笑んだ。

 

「それよりももっと確実な方法があるよ。私と契約しようか」

「えっ……」

 

 突然の提案にゲロ女が箸を落としたので空中で掴む。めっちゃ反射神経いいじゃんと弁当を食いきった暴力が場違いな事を言っていたが、それに構わずマキマさんは話を続ける。

 

「姫野ちゃんの全てをくれるなら私が力をあげる」

「な……何を言っているんですか……?」

「姫野ちゃん、これは命令です。契約すると言いなさい」

 

 マキマさんの言葉の圧が強くなると同時にゲロ女の目が虚ろになる。まるで糸を持たれた操り人形のようだ。

 

「契約する」

 

 ゲロ女が肯定して契約が────

 

「マキマさん……姫野ちゃんに何したんですか!?」

 

 暴力がマキマさんに掴みかかろうとしたので掴んで止める。何をするんだと振り解こうとする暴力に笑って答える。

 

「ゲロ女はマキマさんに支配されたんだ」

「は……? 何言ってんだレイエル……?」

 

 知らない言語で説明されたように理解できていない暴力に説明するべく、マキマさんを見て許可を求める。

 

「ここまで来たら全部言っていいですよね、マキマさん?」

「いいよ。ここで言わなかったら知る機会がないだろうからね」

 

 彼女がいつもの不思議な微笑みで返したのを確認して、俺は真実を話す。

 

「マキマさんは支配の悪魔なんだ」

「支配の……悪魔……?」

 

 そのまま支配の悪魔の力を喋る。彼女は自身より程度が低いと認識した者を支配して操ることができる。例えば下等生物を自分の目や耳に出来る。『二枚舌』にニャーコちゃんを除いた愛玩動物やネズミや虫を入れていないのはそのためだ。また、記憶を改竄したり暗示をかけることもできる。アキくんのマキマさんへの好意や天使くんの記憶喪失がそれらに該当する。その他にも色々あるが、今はゲロ女を支配して強制的に契約を結んだのだ。

 

「なんだよソレ……待て、レイエルお前は────」

「そう。マキマさんと契約しているんだよ」

 

 暴力を全力で蹴り飛ばし、右手の人差し指を銃のように構える。そして俺の身体とマキマさんの身体から放たれた鎖が繋がる。

 

「ぱん」

 

 俺の無邪気な一言と共に指先から衝撃波が飛ぶ。奴は両腕を膨らませて十字に組んで防いだが、その両腕が千切れ飛ぶ程の威力だ。お試しに一発程度のつもりで放った割にはかなりの威力だが、うっかり出力を間違えて奴をミンチにしてしまっては食うのが難しくなるので気をつけない。

 

「レイエルお前……! 俺まで食うつもりか……!」

「天使とサメ……いや、エンジェルとビームの肉を食わせたんだから当たり前だろ暴力……いや、カルガリ?」

 

 奴の本当の名前もすでにマキマさんから教えてもらっている。知識でも実力でも上回っている俺とマキマさんを前にして、奴が勝つことは不可能だ。俺は計画遂行の目途が立ったことに高笑いしながら口を滑らせる。

 

「俺とお前の仲なんだ、最後に俺の計画で一番重要な所を教えてやるよ。それは俺が銃の悪魔の肉を食うことだ」

「仲間を騙して……食ってまでして……何をするつもりだ……」

「地獄から見てな」

 

 奴の衝撃波で胸をぶち抜いて決着をつける。奴の象徴だった腕を拾い上げてブチリと噛み千切る。想像通り筋張っていてとても生で食えたものではないので、手早く牛タンに変えて胃に収める。銃の悪魔に挑むには悪くないエネルギー補給になった。

 

「来たよレイエル」

 

 彼女の指さした方には、下半身は数本の弾帯で、上半身には開いた胸骨一杯に人の顔が詰まっており、両腕は幾つもの中が組み合わさっていて、頭から銃の生えた、いかにもな銃の悪魔がいた。俺は暴力の頭を拾って彼女に投げ渡した。

 

「銃の悪魔倒した後に使うんで取っておいてください」

 

 

 明日はついに銃の悪魔討伐決行だ。俺の家族を殺したヤツを殺し切ることは出来ないが、レイエルに『尊厳と自由を奪ったら殺したも同然』と言われ少しは溜飲が下がった。ここでヤツを殺せたらどんな死に方をしてもいい。そう覚悟を決めて呪いの悪魔の刀を手入れしていると、自宅の黒電話が鳴り響いた。こんな時に誰だろうと電話に出ると、やけに上機嫌なレイエルの声がしてきた。

 

「ようアキくん。君を守るために姫野ちゃんが新しい悪魔と契約したってよ。その紹介に行くって息巻いていたから迎える準備をしてくれ」

 

 姫野先輩の好意は嬉しいが、なぜ今そんなことをしたのだろうという疑問もある。だが、ヤツを倒すためにそこまでしてくれたのは嬉しい。ピンポンピンポンとインターホンが鳴ったので電話を切ってドアを開けた。

 

「アキ……くん……」

 

 そこには頭から銃の生えた姫野先輩がいた。それが俺の最期の景色だった。

 

「ふふふ……早川アキ……お前は最悪の死に方をしただろう……愛する者を仇に奪われ、全てを捨てた復讐を果たせなかったのだからな……」

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