その悪魔は嘘か真実か?   作:神剣狩刃

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第33話 ならんだ ならんだ あか しろ きいろ

 僕の人生経験上にはなるが、『二枚舌』の黒電話が鳴る時は大体ロクなことが起きない。まして銃の悪魔討伐の前日に鳴ったら、黒猫が十三日の金曜日の丑三つ時に鏡を割ったのと同じ意味を持つだろう。なのでクァンシさんに応答を任せた。適当に断ってもらってパワーちゃんとイチャイチャして────

 

「もしもし、『二枚舌』だが……おい店主、マキマからだ」

 

 どう考えても逃れられなさそうなので諦めて電話に出る。

 

「謹慎中ですよ?」

「手短に言うね示札ちゃん。銃の悪魔が突然現れて、姫野ちゃんが乗り移られちゃったの。さっき早川くんが殺されちゃって、今度は示札ちゃんの所に行っているみたいなの」

 

 どういうことがあればそんなことになるか分からないが、こんな時に嘘を言うわけがないから本当なのだろう。僕は覚悟を決めてい言い放った。

 

「討伐報酬はパワーちゃんとの結婚式、それも500万はかけた盛大なヤツで」

「費用は後で言い値で決めていいから、必ず倒して」

 

 姫野さんには悪いが僕とパワーちゃんのウエディングの礎になってもらうとしよう。ただ、相手は"生きてる"状態の銃の悪魔だ。僕でなければ戦いのスタートラインにすら立てないだろう。そうなったら、チャイナメイド五人衆にはパワーちゃんを死ぬ気で護衛してもらおう。

 

「銃の悪魔を倒してくるから店を守って。出来なかったら君達の首を引き千切る」

 

 あの僕の怒りを見ているならただの脅しではないと分かっているはずだ。クァンシさんは余裕そうにフッと笑ってみせた。やはり愛する存在がいるというのは最高だ。彼女達に僕の全てを預け、店の扉を開ける。店前の細い通りにはまだ来ていないようだが、大通りから断末魔に近い悲鳴が響いてきた。すでによーいドンは済まされているようなので、駆け足で悲鳴の発生源に躍り出た。

 

 

 そこには頭から拳銃を生やし、両腕がアサルトライフルの様な長銃になった、スーツ姿の姫野さんが民間人に右腕を向けていた。

 

「死なないから遠慮しなくていいね」

 

 一気に踏み込んで彼女の右腕を蹴り上げ銃身をひん曲げ、『二枚舌』から離れるように回し蹴りを腹部に叩き込み吹っ飛ばす。そのまま追いかけ────視線の先で何かが光ったので咄嗟に跳び上がる。ものすごい速度の何かが通り抜け、直線状の建物や民間人を紙屑のように吹っ飛ばした。もっと離さないと『二枚舌』が巻き込まれかねないので、着地の勢いを利用して弾丸のように彼女に近づく。

 

「美人の顔を殴るのは気が引けるけど……もう人じゃないからいいよね」

 

 彼女の鼻を正面から殴り抜ける。ボキボキと鼻骨が折れる感覚が伝わり、次いで彼女が転がりながら吹っ飛ぶ。それに追いつき更に追い打ちで蹴り飛ばす。当たりどころが良かったのか彼女の左腕が吹っ飛んだ────先から機関銃が生えてきて、キュルルと嫌な金属音が回り出す。

 

「僕も死なないけど……ダメージは受けるんだよね」

 

 反射的に顔を腕で覆うと同時に、全身に銃弾が叩き込まれる。肉が抉れて貫かれ、吹き飛ばされながらもなお撃ち込まれる。骨こそ折れないが衝撃が全身を揺らし、激痛が顔を歪ませる。

 

「機関銃でこれなら……拳銃やアサルトライフルじゃ腕が折れる、いや、下手をすれば吹っ飛ぶか」

 

 体内の銃弾を抉り出し、巻き込まれた民間人の血を飲んで回復する。相手が人型である以上、首や頭部への攻撃を狙った方が良い。ただ、相手は遠距離戦の代表みたいな存在だ。先は不意打ち気味だったからあそこまで近づけたが、敵と認識されている以上相手も本気で迎撃してくるだろう。しかも相手は姫野さんを乗っ取っているから、未来の悪魔の力が使えても不思議ではない。未来が見えるスナイパーの弾丸などどうやっても避けられるわけがない。

 

「……この際、左腕は犠牲にしよう。パワーちゃんにお世話をしてもらう口述にもなる」

 

 左腕を前に構えながら彼女に向かって近づいていく。バババババと映画館以上の音圧の銃声が鼓膜を揺らし、左手を射撃訓練のように簡単に打ち抜いてくる。わずか数秒で動かなくなったが、肩を振るってなんとか盾として活用しながら距離を詰める。

 

「ついに近づい────」

 

 彼女の両腕が散弾銃に変わった。彼女にとって戦う距離など大した問題では無い様だ。捨て身で彼女に飛び込んでレッグラリアットを決めようとしたが、ほんの数センチ届かずつま先が首の皮一枚を切っただけだった。それが視界に映ると同時に絶望を確信した。そしてズパパアンと派手な炸裂音が響き、全身の骨が軋んで折れ、僕の視界は瓦礫だらけの地面に染まっていた。

 

「……車椅子生活で済むかな。最悪、寝たきり生活も考えないと」

 

 ここまで明確に敗北を感じたのはいつぶりだろうか。先生との戦闘訓練以来な気がする。一生苦痛を味わい続けるというのは、死よりも残酷な末路に違いない。人を弄んできたのだから僕にはお似合いだろう。諦めて叶わぬ願いを口にする。

 

「……助けて────」

「忘れ物だ、店主」

 

 

 ピシュンと何かが空を裂く音と共に、前方で何かが吹っ飛ぶ音がした。首を動かして前を見て見ると、美しい藍のチャイナドレスを着て、両腕の前腕部から弓が生えていて、矢のようにトゲトゲとした頭部の女性、いや、ボディラインから言ってクァンシさんがいた。

 

「な、何で……店は……」

「店は私の女たちに任せてある。それと助言を一つ……愛する女は自分の手で守れ」

 

 まさかそんな小言を言うためだけに────誰かが僕を仰向けにする。そこには僕のパワーちゃんがいた。

 

「王! 王! 起きてるか!? 大丈夫か!?」

 

 いつもだったらパワーちゃんがいるなら大丈夫だと言えるが、今は今際になりかねないので素直に答える。

 

「……ゴメン、大丈夫じゃない」

「じゃったらワシの血を飲むんじゃ!」

 

 彼女が自分の手首を齧って僕の口元に当てた。彼女の温かな鉄味の液体が口に入ってくる。咀嚼して嚥下し、食道や胃にも届ける。これが彼女の味。僕のために流してくれた愛の味────一口の飲むたびに砕けた骨が繋がり、体中に力が戻ってくる。それどころか、今まで以上の力が湧いてきている。そうだ。僕をつき動かしているのはいつだって彼女だ。そんな彼女が血を惜しまずに僕を奮い立たせてくれるというなら、僕がやるべきことなど一つしかない。

 

「……ありがとうパワーちゃん。おかげで生き返ったよ」

 

 スッと立ち上がり彼女の頬にお礼のキスをする。

 

「僕が帰ったら盛大に牛タンパーティーを開こうね」

「おう! 待っておるぞ!」

「用事が済んだなら帰るぞパワー。巻き込まれたら私達でも敵わない。今から帰ってすぐに肉を常温に戻すから早く帰ってこいよ」

 

 彼女達からの激励に背中を押されて、再び銃の悪魔に乗っ取られた姫野さんに立ち向かう。狙いは変わらず、彼女の首以上の場所への攻撃だ。僕は首をコキコキ鳴らして左の手の平に右拳を打ち付ける。

 

「未来が視えようとも不死であろうとも……僕のパワーちゃんへの愛に勝てると思うなよ」

 

 地面を思い切り殴り瓦礫と砂煙を巻き上げる。いくら未来が見えても砂煙を見ていてはどうにもならないだろう。そしてこちらには瓦礫という飛び道具がある。発砲音や銃弾の軌跡からおおよその場所は分かるから、そこ目掛けて瓦礫を弾丸のように飛ばす。僕の想定通り彼女の銃の軌道がブレブレになって来た。痕跡を文字通り煙に巻いている僕を捉えきれなくなってきている。そして渦を描くように距離を詰めていき、止めに落ちていた電柱を山なりに彼女に向かうように投げる。

 

「縦横の同時攻撃にどうやって対応するのかな」

 

 この煙の中ではまず分からない。未来を見るしかないはずだ。そして落ちてきた電柱が銃弾に打ち抜かれた時、僕はすでに彼女の懐にいた。

 

「未来を見るってことは……現在を見ることは出来ないはずだ」

 

 彼女の顎に右アッパーを叩き込み、そのまま流れるようにこめかみに左フックを撃ち込み、止めに首にハイキックをめり込ませる。ゴキリと重く鈍い音が足から脳に伝わり、彼女は倒れて動かなくなった。完全なる決着のために、僕は彼女の頭部の銃と四肢を踏み潰した。

 

「レイエルに"生きてる"状態を解除されるまで公安に飼われ続けるんだな……もっとも、アイツがこんな楽しい玩具を見つけておいて手放すとは思えないけど」

 

 砂煙が晴れ辺りの惨状が明らかになる中、僕の横では未来の悪魔が高笑いしながら立っていた。そういえば彼は早川くんと姫野さんは最悪な死に方をすると言っていたはずだ。この結末に満足しているかと聞いたら、それはそれは嬉しそうに答えた。

 

「愛する者をその手で殺し、未来永劫自由になることなく苦しむ……人間として死んだも同然だろう?」

 

 彼はレイエルの友達の悪魔の1人だ。やはりロクでもないような奴だった。

 




「そう言えば君は早川くんの目に住む事を条件に力を貸してたんじゃないの?」
「あんな面白い結末を見せてくれたからサービスだ!」
「気前がいいね。その気前の良さで僕は諦めかけたんだけど」
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