その悪魔は嘘か真実か?   作:神剣狩刃

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第34話 嘘つきだあれ?

 銃の魔人と廃人になり果てた姫野さんと面倒な後始末を公安に任せ、パワーちゃんの待つ『二枚舌』へ戻る道中だった。

 

「ぐっ……!? がっ……かっ……!」

 

 息も真面にできなくなり地面に倒れてしまった。地獄で感じたあの感覚が頭に走る。しかも今回はかなりひどく、脳から走る何かに網膜や鼓膜を支配する────────前と同じく地獄でレイエルと人間の悪魔と楽しそうに話している。

 

「君たちが何をするか……僕もちょくちょく現世に行って楽しませてもらうよ」

「ああ、しっかり見ていてくれよ。なにせ嘘の悪魔と────の悪魔の()()()()()だからな」

 

 ()()()()()? レイエルには兄弟がいる?

 

「僕と兄貴が組めばどんな奴だって騙せる……だって嘘と────の"二枚舌の悪魔"だからね」

 

 ギャリギャリとレイエルの笑い声が響き、それに共鳴するようにキリキリと金属が擦れるような笑い声が響く────そこで視界が元に戻る。誰にも見られていなかったようだが、またも頭の中にはち切れそうなほどの情報が残される。

 

「……歩きながらだったら少しは考えが纏まるかもしれない」

 

 立ち上がってご自慢の銀髪をじりじりと捻じりながら考える。レイエルは嘘の悪魔ではないから、今の映像が本来の嘘の悪魔のモノのはずだ。僕が嘘の悪魔の力を使える以上、僕は本来の嘘の悪魔と契約しているはずだ。あの僕が激昂した時の銀狼姿が本来の嘘の悪魔だろう。ただ、僕はその嘘の悪魔本人と話した事も会った事もないし、そもそも嘘の悪魔に関しての情報や記憶がない。

 

「……そろそろレイエルと本格的に話す必要がありそうだ」

 

 これも彼の計画の一端なのだろうか。そろそろその計画とやらに踏み込む時期が来たのかもしれない。面倒な事を後回しにするとロクなことにならないと、何度思ったか分からない人生の教訓を噛み潰しながら歩みを進める。

 

 

 戻って来た店内にはすでに肉と脂とレモンサワーの匂いが漂っており、僕の凱旋を祝う雰囲気が漂っていた。

 

「王! 戻って来たか! 早くこっちに来るんじゃ!」

「お帰り示札ちゃん。話はレイエルから聞いているよ」

「彼女の要望ですでに始めさせてもらっている。悪く思うなよ」

 

 それは別に構わないのだが一つ気になることがある。

 

「何でさも当然みたいにマキマさんがチャイナドレスを着てウェイトレスをやっているんですか」

「レイエルに言われてね。銃の悪魔に勝った示札ちゃんを労ってほしいって」

 

 やってくれたのはありがたいが、僕としてはマキマさんは顔しか好きな所がない。だったらもっといい労い方があるはずだ。

 

「だったらパワーちゃんが着た方がよっぽど嬉しいですね」

「そっかあ……それじゃあパワーちゃん、着てきて」

「わ、分かった……」

 

 相変わらずパワーちゃんはマキマさんには敵わないらしく、牛タンを前にしてバックヤードに消えていった。マキマさんは成果に伴った要望を聞いてくれる都合のいい上司なのに。

 

「先に言っておかなきゃいけないことがあるんだけど……結婚式はちょっと待ってね。式場の予約とかプランとか何も決まってないから」

 

 僕とパワーちゃんの断りなく進めてたら殴るぞ、と脳内でマキマさんの胸にコルクスクリューを決めた所でパワーちゃんがやって来た。

 

「どうじゃ? 似合っているじゃろ?」

(かわい────!!)「カワイイ!!」

 

 鮮血のように紅いチャイナドレスが彼女の魅力を何倍、いや何百倍にも引き上げる。思わず手を出そうと右手を伸ばし────その右手がうっすらと銀色がかっているように見えたので思わず引っ込めた。

 

「我慢せずいつも通り襲ってきてもいいんじゃぞ?」

「いや……まずはパワーちゃんに牛タンを食べさせてもらおうかなって」

 

 適当に取り繕ってパワーちゃんに膝枕をしてもらって牛タンを食べさせてもらう。寝ながら食べるのは行儀が悪いと言われても、銃の悪魔を倒した善行で帳消しにした上でお釣がくるから問題ない。

 

「ウマいか?」

「最高だよ……銃の悪魔に感謝しないと……クァンクァンちゃん、レモンサワーストロー付きメイド全員付きで」

「追加料金が発生するがいいか?」

「領収書を切って公安に払わせるから大丈夫」

「日本の公安は随分太っ腹だな。お前達、持ってくるぞ」

 

 チャイナメイド全員から差し出されたレモンサワーを、まるで子供がジュースを飲むように無邪気に啜る。金に糸目を付けず、個性豊かな美女を囲って行う豪遊はストレス発散に最適だ。公安をやっていてよかったと心の底から思える。

 

「示札ちゃんって公安を何だと思っているのかな」

「職場兼財布」

「公安で一番領収書出してるのは示札ちゃんだからね。経費として認められているからいいけど、もう少し自重した方が将来のためだと思うよ?」

「公務員は将来が安定していていいですよね。しかも、デビルハンターだったらなおさらですよ」

 

 死なない身体ならデビルハンターが天職になるだろう。死ぬまで働くことができるので未来永劫無職になる事はない。

 

「いくら有能な示札ちゃんでも不正を働いたら懲戒免職もあり得るからね」

「僕抜きで大丈夫なんですか?」

「一応代わりはいるからね。あまりやり過ぎないようにしてね」

 

 僕の穴を埋めるような存在がどこにいるのだろうか。先生が頑張っただけではどう考えても足りないし、『二枚舌』のチャイナメイドシスターズは僕の従業員だから渡すつもりはない。しかし、酒が回りつつある浮かれた頭で考えた所で考えが浮かぶわけがないのでここまでにしよう。

 

「よーし、今夜はこのまま特別個室も使っちゃおう! メイドさん達も楽しんじゃおう! 費用は全部公安が持ってくれるから!」

「ならそこに私達の分の食事も含めてもらって良いか?」

「良いに決まってるじゃん! この場にマキマさんがいるから接待費で落としてもらおう!」

「……まあいいか。しっかり楽しんでね」

 

 マキマさん公認になった乱痴気騒ぎはそれはそれは凄いものになるだろう。こうして僕達は愛の巣へと消え、凱旋のフィナーレを開幕した。

 

 

 夢を見る。テーブルにご飯、焼き魚、おひたし、みそ汁と一般的な和食が並んでいる。それが4人分あり、どこかの家庭の食卓のようだ。

 

「さあ皆で手を合わせて……いただきます!」

 

 黒髪の角刈りの男性から溌溂とした声が響いた。僕の父さんだ。

 

「「「いただきます!」」」

 

 それに続いて3人の女性の声が響く。今思えば、父さんは妻に娘2人とずいぶん恵まれた家庭を築いていた。

 

「しかし王もこの春から大学生か! いやー、お父さん嬉しくてついついご飯が進んじゃうなあ!」

 

 父の発言から察するに、この夢は僕の失った記憶の1ページらしい。

 

「ちょっとー! 私も王と一緒に大学行くんですけどー!」

 

 黒髪のボブヘアーになった僕そっくりの女性が魚を頭から齧りながら怒っている。僕の双子の姉さんだ。

 

(れい)ちゃんは推薦でとっくに受かってたでしょ?」

 

 同じく黒髪のロングストレートの女性が優しくたしなめた。母さんだ。

 

「……おかわり」

 

 僕が空になった茶碗を控えめに母さんに差し出す。

 

「あらあら……相変わらず王ちゃんは一杯食べるわね?」

「……母さんの料理はおいしいから」

 

 このころから僕は大食いだったらしい。

 

「でも生の大根は嫌いな癖にみそ汁の大根は食べれるから不思議だよねー」

「……生の大根は辛くて臭くて嫌い」

 

 このころから僕は生の大根が嫌いだったらしい。

 

「所で王は大学デビューに何をするんだ? 父さんは角刈りにしたぞ」

「……まだ明確にこれにしたいって決まっていないけど、髪を染めたいかな」

 

 このころから僕は────銀髪ではなく黒髪だ。僕の元の髪の色は黒だったはずだし、最近になって灰色から急に銀髪になった。

 

「あと……できれば彼氏が欲しい────」

 

 その言葉を遮るように爆風が巻き起こる。いつの間にか仰向けになっていた僕の視界には青空が映っていた。何かが降ってきて家が無くなったのだろうか。理解しようとしている頭の中に、よく知る声が入り込んできた。

 

「食事中だったか。まあ、人間の都合なんざ悪魔には関係ねえけどな」

 

 割れた鏡を擦り合わせたようなギャリギャリという不快な音が響いた。

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