その悪魔は嘘か真実か?   作:神剣狩刃

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第35話 鏡狼の計画

 レイエルとの出会いの夢から覚める。2つのキングベッドには百合畑を満喫した6人がすやすやと眠っている。僕に覆いかぶさっていたパワーちゃんを優しく退けて、シャワーを浴び────シャワーヘッドに伸ばした手が完全に銀色になっていた。もしやと思い覗いた鏡には、SF映画の宇宙人ように銀色になった僕が映っていた。

 

「……マジか」

 

 これではどうやったって隠すことができない。とりあえず体を軽く流して拭き上げ、公安のスーツを着て部屋を出る。

 

「よっ、お楽しみだったみたいだな」

 

 鏡狼のレイエルが壁に寄りかかって腕を組んで立っていた。色々言いたいことがありすぎるので問答無用で首を掴む。

 

「これから色々質問する。答えろ」

「も、元よりそのつもりだったぜ……ついに俺の計画について話す時が来たからな……ただ、彼女達に聞かれるのはマズいんで、河岸を変えようぜ……」

「この姿の僕を受け入れてくれる場所がどこにある?」

「マ、マキマさんの家だったら大丈夫だ……彼女は俺の計画の協力者だからな……」

 

 何か繋がりがあると前から思っていたがそういう関係だったのか。とにかく話をしないと色々収まらないので、レイエルを後部座席に放り込みマキマさんの家に向かう。彼が合鍵を持っていたおかげですんなりと入ることができた。

 

「マキマさーん? 王ちゃんと一緒にお邪魔するぜー?」

 

 堂々と入っておきながらあの犬合の衆が襲ってこないあたり、2人はそれなりの関係にはなっているらしい。リビングのソファーに向かい合うように座り座らせ話を始める。

 

「君の計画って何だ?」

「本来のチェンソーマンの力を再現できるようになる、だな」

 

 彼曰く、デンジくんが変身していたチェンソーマンは完全な姿ではなく、もっと禍々しく圧倒的な強さを持っていたという。力があれば行動の選択肢が増えるから欲しいとそれっぽい事を言っているが、彼の事だからもっと別の目論見があるかもしれない。

 

「王ちゃんを公安のデビルハンターになるように唆したのが第一歩だったな」

 

 僕の質問よりも先に始まりを喋り出した。様々な悪魔の情報が集まり、実力を示せばそれなりに無茶が効く場所など公安以外ないだろう。古今東西の悪魔を美味しく食べることができ、人がほとんど寄り付かない場所である『二枚舌』を作ることができたのが何よりもの証拠だ。

 

「その中でマキマさんはチェンソーマンの熱いファンだってことが分かったんだ。そこで計画を打ち明けたら協力関係になった」

 

 4課の人魔を散々巻き込みデンジくんになりすますという、道徳をポイ捨てしたような計画を彼女が易々と看過した理由はそれしかない。僕がパワーちゃんを愛するように、彼女もチェンソーマンを愛しているのだろう。

 

「で、しばらく公安で働いていたら……チェンソーの悪魔と契約したデンジくんと出会ったわけだ。そこで俺はマキマさんと話あって、デンジくんの中にいるチェンソーの悪魔……デンジがいうにはポチタと話す機会を作った」

 

 僕が天使くんとバディを組んでいた時期の話だ。レイエルが離れる事や天使くんの仕事への熱意の無さで、僕が仕事をほとんどしなくていいと油断していた裏で着々と計画を進めていたようだ。

 

「ただ、デンジの過去について聞くことは出来たが……肝心の本来のチェンソーマンの話は聞けなかった。だから今度は本来のチェンソーマンを良く知るビームから話を聞くことにした。マスターの体を乗っ取ってデンジになりすましたのはそのためだな」

 

 そこで天使くんを殺したのだろう。元バディとしてそこを追求しない訳にはいかない。

 

「どうやって天使くんを殺した?」

 

 彼は待っていましたと言わんばかりにフッと鼻で笑った。

 

「話は俺がデンジとの契約を打ち切った所から始まる」

 

 そこから始まった彼の話は、彼がロクでもない悪魔であることを証明するとんでもない話だった。

 

 

 デンジとの契約を一方的に破棄した俺は夜の闇を体に映しながらマキマさんの所に行った。

 

「まさか君が嘘の悪魔じゃないなんてね……すっかり騙されちゃった」

 

 誰も来ないマル秘スポットだからと言って動物がいないとは限らない。猫の子一匹でも置いておいて聞いていたのだろう。マキマさんに俺の正体がバレるのは面倒なので、今後の話をして適当にはぐらかすとしよう。

 

「ポチタから話が聞けなかった。ビームから話を聞くためにデンジになりすましたい」

「そうなるとデンジくんを何所かに長期間匿う必要があるね。プランはあるの?」

 

 俺は今まで得た情報から実現可能な案を即座に思いついた。

 

「デンジがいた山小屋がある。そこにあんたの監視を付ければいい」

「山だったら簡単にできるね。でも、どうやったらデンジくんを納得させられるかな?」

「レゼちゃんと一緒に住まわせればいい。あんたに監視されてると知ったら大人しくなるはずだ」

 

 マキマさんの正体を知っているなら"支配の悪魔による監視"がどれだけヤバいモノか分かるはずだ。俺も含めて1悪魔がどうこうできるものではない。彼女は悪くないねと微笑んで頷いた。

 

「パワーちゃんの血抜きが終わるからデンジくんのバディに戻そうとしていたけど……どうしようかな」

「王ちゃんのバディにしちまえばいい。王ちゃんは無条件で受け入れるだろうし、パワーちゃんも牛タンがあるから嫌がらない」

「天使くんはどうするの?」

「殺して牛タンフルコースかな。妙な所で察しがいい彼を排除できるし、俺を含めた4課の悪魔が強くなるし、王ちゃんが落胆する……一石二鳥以上だ」

 

 彼女が面白い夢物語を聞いたみたいに口元に手を当てて笑う。

 

「相変わらず君は悪魔みたいなことを考えるね」

「受け入れるあんたも大概悪魔みたいだぜ?」

 

 こうして作戦を考えた俺達は翌日、デンジが『二道』に向かったのを知って、天使くんを『二道』前のビルの上に呼び出した。スーツを着た彼は全く事情を知らず、あくびをしながら来ている始末だ。

 

「マキマさんに呼ばれてきたんだけど……何で君がいるの?」

 

 これから起こる惨劇をより楽しむために小粋なジョークを挟むとしよう。

 

「俺の女にならないか?」

「ならないよ。僕は示札さんのバディで忙しい────」

「じゃあ死ね」

 

 右腕を彼の首を切るようにヒュンと振るい、そのまま彼の長い髪を掴み頭だけを持ち上げた。取り残された体が力なくぐしゃりと倒れ、切断面から血が勢いよく噴き出て紅い水たまりを作った。全てを悟った彼の口が"嘘つき"と動いた気がするので、俺はギャリギャリと笑って答えた。

 

「王ちゃんの前じゃなきゃいくらでも嘘を吐けるんでな」

 

 見下ろした路地裏ではマキマさんとレゼちゃんが田舎のネズミを話していたので、彼の体を担いで飛び降りて存在を明らかにする。

 

「俺はどっちのネズミも好きだぜ。田舎のネズミを唆すのも、都会のネズミを騙すのも、どっちも楽しいからな」

「っ……君もマキマの手下だったんだね……」

 

 自分も彼みたいになりかねないと思ったのか、彼女が首元のチョーカーのピンに指をかけた。俺としてはここで大騒ぎを起こされるとヤバいのでさっさと本題に入る。

 

「デンジと一緒居たいんだろ? 別にいいぜ? ただし、俺達の指定した場所での監視付きっていう条件は受け入れてもらう。出来ないなら……彼みたいになるかな」

 

 ゆらゆらと彼の頭を揺らし露骨にアピールする。俺とマキマさんの2人を相手にするのは不可能だと悟ったのか、彼女が溜息をつきながらピンから指を離した。

 

「……故郷に戻っても任務失敗で処分されるだろうね。だったら……デンジくんと一緒に首輪をつけた方がマシかな」

 

 

 そこからは王ちゃんが知っている通りだと任されたが、想像するのも嫌なぐらいレイエルの思惑通りに事が進んでいるのは想像がついた。マスターの体を利用してデンジくんになりすまし、ビームから本来のチェンソーマンのアレコレを知り、全てが掌の上で進んでいたはずだ。相変わらずの手腕にもはや天を仰いでベッドに沈むしかなかった。

 

「……だから僕に話したと」

「もはや王ちゃん一人じゃ止められないからね。岸辺のオッサンと協力しても無理じゃないかな。もし止められるとしたら……マキマさんだけだろうな」

 

 ここまで進めておいて協力者が止めるとは考えにくい。僕に関係がなさそうなのがせめてもの救いか────

 

「それじゃあ今度は私の計画について話す番かな」

 

 いつの間にかマキマさんがティラミスと玄米茶をお盆にのせて持って立っていた。

 

「示札ちゃんもレイエルも玄米茶でよかったよね?」

「ああもちろんだ。マキマさんの淹れる玄米茶は美味いからな」

 

 コトリコトリと並んでいくそれらは2人の計画ように綺麗だった。もちろん味だって計画通りのはずだ。僕はうんざりしながら起き上がりティラミスを口に運ぶ。前食べた時よりも甘さと苦さのコントラストがはっきりしていて美味しかった。おかげで、よりうんざりしながらマキマさんの話を聞くことになってしまった。

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