その悪魔は嘘か真実か?   作:神剣狩刃

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第39話 嘘の悪魔の真実

 突如として視界にノイズが走り始める。次いで立っていられない程頭が痛み、蹲ってしまう。これは僕の記憶が流れる時の諸症状だ。なぜこのタイミングで────さっき食べた武器人間達だ。レイエルに瞬殺されたが、一般的な悪魔から見たら普通に強い悪魔のはずだ。それを5人分も食べたら記憶を取り戻してもおかしくない。

 

「本当は違うが……まあ走馬灯になるんだ、しっかり見とくんだな」

 

 ギャリギャリと耳障りな笑い声と共に僕の五感は蘇る記憶に支配された。

 

 

 僕は崩壊した僕の家で僕を見下していた。意味不明だが本当にそうとしか言えなかった。

 

「食事中だったか。まあ、人間の都合なんざ悪魔には関係ねえけどな」

 

 隣から割れた鏡を擦り合わせたようなギャリギャリという不快な音が響いた。レイエルと初めて会ったあの日だ。そして僕は逆立った銀色の毛が生えた左腕で僕を掴んだ。

 

「地味で僕好みの女じゃないけど……君が一番都合が良いからね」

「な、何を────」

 

 僕の言葉を遮って銀色の右腕が僕の喉を貫いた。このままだと出血多量と窒息のどちらかで死ぬだろう。僕はその血を楽しそうに浴びた。

 

「血の味はまあまあか……兄貴、準備はできた?」

「ああ。お前を"生きてる"状態にしようとすると結構な力が必要だからな。家族は美味しくいただかせてもらったぜ」

 

 口元を血のリップで真っ赤にした彼がギャリリと笑う。そして彼が僕を視界にとらえて宣言をする。

 

「"レイエルは生きている"」

 

 その名前はあまりにも衝撃的だった。

 

「一応確認させてもらうよ。本当に"生きてる"状態にした?」

「可愛い妹に嘘を吐くわけねえだろ? "生きてる"状態にしたよ」

「……舌が爆発しなかったから本当だね」

「会話の中で嘘を吐いた奴の舌が爆発するなんて、とんでもねえ妹を持っちまったもんだ」

 

 今の会話の中で誰の舌も爆発しなかったということは、全てが真実ということだ。つまり、僕は"レイエル"であり"嘘の悪魔"であるということだ。そういえば彼の口から"俺はレイエルだ"とか"俺は嘘の悪魔だ"なんて一度も聞いたことがなかった。衝撃の真実に打ちひしがれる間もなく、僕は僕の舌に向かって入り込んだ。そして視界が僕のよく知る高さになった。

 

「んー……もうちょっと胸が大きかったらよかったんだけどなあ」

「贅沢言っている暇はねえぜ。早く記憶喪失になってもらわねえと人が来た時に面倒だ」

 

 これから僕は彼の手によって記憶喪失になるのだろう。

 

「良いか妹よ、お前が失う記憶は"噓の悪魔"として強くなる度に取り戻していく。俺の本当の名前を知った時、記憶喪失が解除されたとみなされる。それまでは示札王として生きていくんだ」

 

 それを利用して先の状況を作り出したらしい。だから計画外というのが嘘だったのか。

 

「どれぐらい強くなったら兄貴の名前を知れるの?」

「そうだな……計画の都合で必ず出会う地獄のチェーンソーマンの肉を食えば知れるだろう。でも、いざとなったら俺が解除するから安心してくれ」

 

 だとしたらかなりまずい。そのいざとなった状況が今なのだが、彼はマキマさんに協力していて彼女の言いなりになっている。計画の終わりである僕と彼の真実を闇に葬るはずだ。しかもそれはチェーンソーマンの力を利用して僕達を食べれば簡単にできる。

 

「それじゃいくぜ。"示札王は記憶を失う"」

 

 

 記憶と視界が戻った頃にはすでに遅く、僕は地面に転がされてチェーンで体を拘束されていた。

 

「やっぱり偽物じゃダメだったね……万が一の保険としてデンジくんを匿っておいたのは正解だったよ」

 

 声に釣られて見上げると、血まみれのボロキレになったスーツを纏ったマキマさんが僕を見下していた。飛び掛かろうにも体のチェーンを千切ることができない。もがく僕を見て彼女がしゃがんで目線を近づけてきた。

 

「今は彼の力を使って私の知っている地獄のチェーンソーマンを再現しているからね。示札ちゃんの力じゃ絶対に無理だよ」

 

 顎をクイと動かされて移った視線の先には、首にマキマさんの腹部から出ている鎖が繋がっている黒いチェーンソーマンがいた。その彼の四本の腕から出ているチェーンが僕を拘束していた。

 

「示札ちゃんは物事を知るのが嫌だったんだよね? だから色々教えてあげる。私は支配の悪魔なんだ。さっき示札ちゃんが記憶を取り戻したのは私の肉を食べたからだよ」

 

 彼は僕が彼女を食べて回復することを見越していたようだ。あとは時間が経てば勝手に記憶を取り戻してチャンスができるという計算だったようだ。今回もしてやられたと露骨に舌打ちをして彼を睨みつける。

 

「そして私は内閣総理大臣との契約によって、私への攻撃は適当な日本国民の病気や事故に変換されるんだ。2人の攻撃を受けて無事なのはその契約があるからだよ」

 

 だとしたら日本の人口分殺せば勝てたのか。仮に日本の人口を1億人と仮定し1秒に1回殺したとしても1億秒、規模が大きくてよく分からないが少なくとも1年はかかりそうだ。

 

「もっと言うと3年はかかるね。それも不眠不休でやった場合だから、実際はもっとかかると思うよ」

「僕の領収書を片付けているだけあって計算は早いですね」

 

 僕の嫌味に我関せずで彼女の説明が続く。

 

「彼は地獄で私の力を使ったのを知ったから支配できたけど……示札ちゃんは私を便利な道具としか見てなかったから格下だと思えなかったんだ。やることなすこと全部滅茶苦茶だったっていうのもあるけどね」

 

 そこから彼女は支配の悪魔の力を説明した。もはや聞く気にすらなれなかったが、支配した彼の力を使って彼をチェーンソーマンに変えたらしい。これによって彼女の知識と解釈で再現されたチェーンソーマンが生まれ、彼女が命令して僕を完全に動けなくしたようだ。一通り話して満足した彼女は僕に向けて止めを刺しに来た。

 

「チェーンソーマンに食べられたら……パワーちゃんも示札ちゃんの事を忘れちゃうだろうね」

「ッ……!」

 

 僕はパワーちゃんと結ばれる為に頑張ってきた。その末路がその人から忘れられるという残酷な物ならば、今までの努力の意味がなくなる。僕の唯一の気がかりを露にされて顔が歪む。

 

「パワーちゃんだけじゃなくて、デンジくんも忘れるだろうね」

「ッ……!? なんで……!?」

 

 不意に出されたその名前に思わず噛みついてしまう。すると彼女は比較的嬉しそうに笑って答えを話した。

 

「彼から全部聞いたよ。示札ちゃんや彼の正体も────示札ちゃんがデンジくんの事をどう思っているかも。デンジくんに憧れていたんだよね?」

 

 僕の表に出さなかった感情が引きずり出される。

 

「純粋過ぎて何でもすぐに信じて……それを利用されて騙されてもすぐに立ち直って……どんなに下らない目標でも真剣になって……そんな()()()()()んだよね?」

 

 彼女の言う通りだった。彼は僕にないものをたくさん持っていた。僕は女の子が好きだから彼を恋愛対象として見ることはなかったけど、人間としてはとても魅力的だった。だから彼がどこかに行ったと聞いた時はとても動揺した。だから安全に生きていると聞いた時はとても安心した。だからもう会えないかもしれないと思った時はとても寂しかった。だからそれを埋め合わせるようにパワーちゃんにのめり込んだ自分がいた。

 

「全てを捧げて愛し彼女からも、憧れて輝いて見えた彼からも、そして実の兄からも忘れられる……嘘吐きには持ってこいの結末だね」

「……僕は一度も嘘を吐いたことはありませんよ」

「でも真実を隠し続けてきたよね? それって嘘を吐いたのと同じじゃないかな?」

「……騙したっていうのは認めますけど、嘘吐きというのは認めませんね」

「……最期まで示札ちゃんを支配することは出来なかったね。じゃあね示札ちゃん。"彼女を食べなさい"」

 

 ヴヴンとエンジンが唸って彼がヴァッと口を開く。チェーンが蠢いて僕を彼の口へと運んで行く。確実に近づく死がこうも恐ろしいものだとは思っていなかった。

 

 

 今際の際によぎったのは最愛のパワーちゃんではなく、僕のデンジくんへの唯一の後悔だった。

 

「なんか悩みあんのか? 奢ってくれたお礼に相談乗ってやるぜ?」

 

 あのデートの時は君が嫌いだったから言えなかったけど、憧れている今だからこそ言える。

 

「助けてデンジくん……」

 

 君に助けてほしかった。パワーちゃん2は見せられない僕の抱えている全てを君に打ち明けたかった。それでバカみたいなことを言って笑わせて欲しかった。彼ならなんと言うだろうか。きっと────

 

「特上牛タン奢ってくれるなら喜んでやってやるぜ!!!」

 

 こんなことを言ってくれるだろう。

 

「だからァ!!! 俺達の邪魔するならァ!!! マキマさんだろうと死んでもらうぜェ!!!」

 

 ヴヴンと一際大きなエンジン音が鳴り響く。そしてギインと何かが切れる音がして僕の体が地面に落ちる。

 

「……え?」

 

 何が起きたのか分からなかった。そしてボンと大きな爆発音とともに僕が宙に舞い上がる。回転しながらチェーンが解かれていく。

 

「私はあのままデンジ君と一緒に過ごしたかったんだけど……どうしても示札さんの牛タンが食べたいんだってうるさいからつい助けに来ちゃったよ」

 

 火薬の匂いと共に誰かが呆れたように喋る。

 

「……何で……?」

 

 誰がいるのかはなんとなく分かってきたが、何でここにいるのかが分からない。

 

「王!!! 大丈夫か!!!」

 

 落ちていく僕を誰かが受け止める。こんなことをしてくれるのは彼女しかいない。

 

「パワー……ちゃん……」

 

 そこには頭頂部に2本の赤い角が生えている美少女がいた。

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