王ちゃんからの許可を貰った俺は、ダチの悪魔に電話してデンジくんがどこにいるかを聞いた。現在アキくんとパワーちゃんと姫野ちゃんと一緒に中華を食べに行く途中らしい。姫野ちゃんとの情事の話するからその場所まで車で送って欲しい、と頼んだら快く引き受けてくれた。電話を切って30秒も経たない内に俺の目の前に白いワゴン車が現れ、開いた窓から太った坊主の男性が挨拶してきた。
「やあ、元気にしてたかい?立ち話もなんだから乗りなよ」
お言葉に甘えて助手席に座り、目的地までの時間潰しの会話をする。
「ヒーちゃんダイエットは?」
「人間の食べ物が美味しくて不可能だね。今度地獄に戻ってダイエットするよ」
「俺の能力で痩せるのは?」
「誘惑に負けるのも、努力して結果を得るのも人間の醍醐味だよ」
「ははは、らしいや。お、いたいた。送ってくれてありがとな。今夜20時ぐらいに電話するからよろしく」
「オッケー。地獄に戻るのはそれからにしよう。その前に一杯美味しいもの食べておかないと」
車から降りて叫びながら四人に駆け寄る。
「おーい! お四方ー!」
「あれは……どっちだ?」
「白目と黒目が逆だからレイエルの方だ」
「ワシは最初から分かっておったぞ!」
「うーわ……ちょっと会いたくなかったなぁ……」
「立ち話もなんだから飯食いながら話そうぜ!」
ということで中華料理屋に入って話を始める。俺はチャーハンと唐揚げを頼み、他の皆はラーメンと餃子を頼んだ。程なくして品が揃い楽しい食事が始まる。ここのチャーハンはいたって普通のチャーハンだ。米、卵、ネギ、チャーシューをラードで炒めたありきたりな奴だ。特別うまい訳ではないが、無性にこれが食いたくなる時がある味だ。
「知ってっかデンジくん? チャーハンは炊いた米を炒めて作るけど、ピラフは生米を炒めてから炊いて作るんだぜ?」
「へーそうなのか。初めて知ったぜ」
「ワシは知っておったがの」
「つーか何で来たんだよレイエル? 俺達に何か用があるんじゃねえのか?」
「無いならお代出すから早く帰ってくれないかな……今君の顔見たくないんだ……」
続いて唐揚げを齧る。こういう店の唐揚げにしては珍しく塩味ベースだ。ジューシーなモモ肉にシンプルな塩の味が相まってとても美味しい。
「知ってっかデンジくん? 唐揚げは肉に味を付けてから揚げるけど、フライドチキンは衣に味を付けてから揚げるんだぜ?」
「それも初めて知ったぜ。レイエルって物知りなんだな」
「もちろんワシは知っておったぞ」
「それ前に聞いたなあ……サラダ記念日は本当はカレー味の唐揚げ記念日っていうのも聞いたかな」
「まさか自慢するためだけに来たわけじゃ────」
外からパンパンパンと乾いた音が響く。これは間違いなく銃声だ。
「なんだこん音……」
「知らんとは愚かじゃの……太鼓の音じゃ」
「祭りか……」
「な~ホントにウヌら昨日女同士で交尾したのか?」
「思い出させないでパワーちゃん……」
そんなバカなこと話している場合じゃない。ダチの悪魔の手下に電話して情報を────
「ここのラーメンよく食えるな……味酷くないか?」
隣のテーブルに座っていたもみあげが目立つ男が無礼なことを言い出した。飲食店従事悪魔として腹が立ったので、そいつの前の丼をかっさらって麵とスープを同時に啜った。醤油ラーメンだとは思うが、麺は柔らかすぎるし味もボヤっとしていてはっきりしなかった。
「……お前の言いたいことは分からなくはねえ」
「……舌は悪くないが常識は無い様だな」
「店の中で堂々と商品の悪口を言うお前が言うなモミアゲマン」
そのまま持っていた丼をモミアゲマンの頭に叩きつけて地に伏せ、ナルトとチャーシューとメンマとスープと麺と丼の破片をトッピングしてやった。
「……モミアゲマンっていうともみじ揚げ饅頭みたいだな」
「な、な……なにやってんだ……何やってんだてめえ……」
「何やってんだよレイエル! ラーメンがもったいねえだろうが!」
「ワ、ワシは何もやっとらんぞ!? レイエルが勝手にやったんじゃ!」
「パワーちゃんが真面なこと言ってる……初めて見たかも」
どうやらコイツ等は事態の把握ができてないらしい。俺は意識を失っているだけであろうモミアゲマンの懐を弄り、あって欲しいものをカチャリと取り出した。
「さっき外で聞こえた銃声で妙に気が立ってたんだ。
「……そいつが死んでたらどうするつもりだ?」
「頭を強く打って死ぬのには数日かかるから大丈夫だ。不安だったら今の内に俺の能力で"生きてる"って状態にして延命かな」
蘇生不可の状態になるまでは生物として認識できる。指摘されて解けるまでの姑息な手段だが、それで始末書を逃れられるなら御の字だ。俺はモミアゲマンの呼吸と心音を聞いて生きていることを確認し、下手に動かさないようにと指示を出して救急車を呼び、レジに万札を1枚置いた。
「釣りは要らねえ。迷惑かけたな」
「あ……ありがとう、ございました……」
「後醤油ラーメンには薄口醬油をつかって
「さ、参考にしてみます……」
皆で中華屋から出るとパーカーを着た猫みたいな目をした目つきの悪い女が立っていた。多分ここのチャーハンと唐揚げを食べに来たのだろうが、たった今『二枚舌』の様に経営どころではなくなったのでそれを伝える。
「悪いなお嬢さん、この店で怪我人が出て臨時閉店なんだ」
「……えっ?」
目つきの悪い女が心底驚いたようにマヌケな声を出した。
「きょっ、こいつがラーメンの丼をモミアゲマンに叩きつけたんじゃあア~」
「マキマさんの前で俺に擦り付けようとした時みてえなこと言うなよ!」
「でもホントの事なんだよね~……すぐに救急車も来ちゃうから、ここじゃ食べれないと思うよ」
「本当にすみません……ウチできつく叱っておきますので、なにとぞご容赦を────」
「ヘビ、丸飲み」
ヤバい言葉が聞こえたので咄嗟に両手を上にあげて全身に力を籠めた。瞬間上下からものすごい負荷がかかり、辺りが暗く生暖かくなった。
「あ、なっ、辺りが急に暗くなったよオ~!?」
「狼狽えるでない。皆既日食という奴じゃ」
「んな訳ねーだろパワーちゃん! 蛇の悪魔に食われかけてるんだよ!」
おそらくあの女が蛇の悪魔を呼んで、俺達を茹で卵の様に丸飲みにしようとしているのだろう。しかし、舌を使わず口の中の物を嚥下をするのは幾ら悪魔と言えど不可能だろう。とは言え悠長に筋トレをしている場合ではないので四人に指示を出す。
「どうにかできる奴いねーか!? 俺は舌抑えるので動けねえ!」
「だったら俺に任せてくれよレイエル! 悪魔ン中から脱出するのは得意だからなあ!」
そう言ってデンジくんは公安のスーツボタンをいくつか外し、胸からちらりとチェーンソーのスターターのような紐を覗かせた。
「ここ出たら示札さんの店で牛タンパーティーな!」
そしてその紐を引っ張るとヴウンという先日聞いた起動音とともに、彼の頭と両手からチェーンソーが生えてきた。そしてその刃を振るい蛇の悪魔の口を切り、血と共に一筋の光が差し込んだ。
「そういや示札さんが言ってたけどよお~! あの牛タンただの牛タンじゃないらしいなあ~!」
昨夜に一体何があったのかは知らないがそれを知ったか。別に公安の人間はある程度察しているから構わないが、あまり声を大にしていわないで欲しい。
「コイツを全部牛タンにしたらどんだけの量の牛タンになっかなあ~!?」
彼は王ちゃんみたいな事を言いながら蛇を切り刻んでいき、そしてついに蛇の口が切り開かれた。そこにはあの目つきの悪い女が再び信じられない物を見るかのような目で立ち竦んでいた。
「……これが銃の悪魔が欲しがっていた────」
「コン」
アキ君が右手で狐の形を作りそう呟くと、顔にいくつも目がある狐の悪魔が女を丸のみにした。
「こいつは悪魔と契約している人間か……飲み込んでいい?」
「いや、重要参考人として本部で尋問する。だから吐き出してくれ」
狐が残念そうにぷっと女を吐き出して俺達の足元に転がした。俺はその女の全体を視界にとらえて宣言をした。
「"お前は生きている"」
そしてさっきモミアゲマンから奪った銃を女の胸に向けて悪魔の数である6発撃ち込んだ。ドンドンドンドンドンドンと重く鈍い音が響き、女が叫びながら悶える。
「あぐああああ!!!???」
「先に言っとっけど、死ねない身体って便利だぜ? どんな激しいプレイにも耐えれるからな。首絞め、水攻め、蝋燭、むち打ち……死ななきゃグローリーホールだって作れる」
俺は苦痛にのたうち回る彼女を強く優しく抱きしめ耳元で囁いた。
「銃でパンパンされるのと俺にパンパンされるの、どっちで情報吐きたい?」