僕こと嘘の悪魔レイエルと兄貴こと真実の悪魔アヴダイムーンは『二枚舌の悪魔』として地獄でまあまあ有名だった。悪魔を騙して嘲笑っている日々の中、兄貴が面白い情報を持ってきたのが始まりだった。
「チェンソーの悪魔が地獄からいなくなった」
あの地獄のヒーローとして悪魔から恐れられ、僕達ですら手を出さなかったアイツがいなくなるのかと驚いた。
「だから俺達も現世に行って奴の力を手に入れる」
やっぱり兄貴と一緒にいると退屈しなくて済むものだ。そこから僕と兄貴は今回の計画"兄貴がチェンソーマンの力を手に入れる"を考えた。見届け人として人間の悪魔に話を持ち掛けて依り代にする人間の情報を貰い、代わりにメイドさんがいる飲み屋を作るという約束をした。こうして僕達は現世に舞い降りて示札家を襲撃し、僕は嘘の悪魔としての記憶を失って兄貴の都合のいい駒になった。因みに僕が同性愛者になったのは計画には無く、大した影響もないだろうと兄貴は考えていたらしい。
「……言っておくけどこれはまだ序章だよ。ここからは兄貴にバトンタッチするよ」
「妹に頼まれちゃしょうがねえな。次は現世に降りてからの俺達の動向だな」
「悪魔は地獄で死んで記憶を失ってからじゃないと現世に来れないはずですが……」
会話を遮って来たマキマさんの質問に礼儀正しく答えるとしよう。
「地獄の悪魔にヒーちゃんお手製の生贄を渡して3人で現世に来たのよ。おかげで地獄の頃の記憶もばっちりさ。話を戻すぜ」
そこで俺はもう一つの計画を思いついた。それは"支配の悪魔を出し抜く"というものだ。死、飢餓、戦争の悪魔と並んで4人の騎士なんて呼ばれていて、そんな奴を欺いたとなれば最高に楽しいだろうと思ったからだ。なので表向きは彼女に協力することにして、その水面下で妹以外の協力者を探すことにした。最初の協力者はデンジだ。
「オレェ~? もしかしてチェンソーマンになれるからかぁ~?」
「そもそもの俺の計画は"チェンソーマン"の力を得る事だからな。チェンソーマン本人と協力関係にならねえと話が始まらねえからな」
彼を引き込むこと自体はそこまで難しくなかったが、マキマさんから引き剥がす手段を考えるのが大変だった。なにせ彼女が求めている存在で、彼女と俺の目と手の届く範囲に置いておかないといけなかった。とりあえず彼の体に入ってポチタから情報を集めつつ、彼と彼女を隔てる手段を考えていた。そこでまさかの2人目の協力者候補が現れた。爆弾の悪魔ことレゼちゃんだ。
「私がデンジ君の事を好きだと思ったから?」
「それもあるが……俺が嘘の悪魔じゃないと気付いたかつ、マキマさんが欲しがりそうな人材だったからだな」
彼女は俺のチェンソーマン計画を聞いた上で、デンジを地獄のチェンソーマンにする事を諦めていなかった。レゼちゃんはデンジを幸せにできる存在であり、いざとなったら支配して都合のいい駒として扱える存在だったのだ。故に俺と彼女はあの山小屋でデンジとの共同生活を提供したのだ。
「あん時はスッゲェ驚いたぜ……カフェでレゼ待ってたらレゼと一緒にマキマさんとレイエル……じゃなくて、アヴ……なんとかがやって来てよ……」
「アヴダイムーンだね。あの時に目の前でマスターを殺して乗っ取ったのは中々衝撃的だったよ」
「マスター行方不明の真相はやっぱり兄貴のせいだったのか。身内としてはお悔やみ申し上げるしかできないね」
「レゼちゃんとの共同生活編の話は後でデンジに話してもらうとして、その後の話をするぜ」
マスターの体に"俺はデンジだ"と宣言してデンジに成り代わった俺は、デンジのふりをしてアキくんやビームと一緒に生活をした。その中であの刺客騒動が起きて、更に協力者を見つけることができた。元中国からの刺客にして現『二枚舌』のチャイナメイドガールズリーダー、クァンクァンちゃんことクァンシさんだ。
「まさか従業員が欲しかったからだけな訳ないだろうな?」
「ハロウィンハロウィン!」
「まさか。俺の欲しかった悪魔と仲が良く、マキマさんの目を盗んでデンジの居場所を伝えられる唯一の存在だったんでな」
地獄で支配の悪魔の力に頼ってしまった俺は、近い内に彼女の支配下に置かれることを確信した。なので真実の悪魔に戻って支配から逃れる作戦を考えるべく、あの屋上で牛タンパーティーを開いた。そこで見つけたのが岸辺のオッサンのメモだ。俺は1ページに『二枚舌』の住所とデンジのいる山小屋の場所を書いてクァンシさんに渡した。
「まだ行くなと書いてあったから行かなかったが……行っていたら私達が牛タンになっていたのだな」
「ハロウィ~ン……」
「サブプランは用意してあったが……その辺りはちょっと賭けになっちまったな。我ながらちっと杜撰だったぜ」
「それでもここまで上手くいったから兄貴はすごいよ」
妹からの称賛を受けて鼻が天にまで届きそうだ。上機嫌のまま全てを繋げるアリアドネの糸を指差す。その先には────妹のフィアンセであるパワーちゃんがいる。
「やはりワシかあ! 最強じゃからのう!」
「妹の女を見る目は間違いないな。俺を全く知らずに自由に操れる存在を見つけちまうんだから────うっ」
脇腹に妹からの鋭い肘によるツッコミが入る。
「操るだなんて失礼だな。僕はパワーちゃんに与えられる限りの愛を与えて、彼女は出来る限り愛に応えてくれただけだよ」
「示札さんってパワ子の事好きだったのかあ!?」
「う~ん……お似合いの2人だね。でも、女の子同士で付き合うってどうなのかな?」
「4人の女と付き合っているが……とても良いものだ」
色恋話は後でしてもらうとして、俺は"支配の悪魔を出し抜く"作戦の締めくくりを話す。
「チェンソーマンの力を持つデンジ、俺の正体に気付きつつあったレゼちゃん、デンジの居場所を知るクァンシさん、妹の危機に動いてくれるだろうパワーちゃん……すべてが揃ったから俺は本来のチェンソーマンに変身して戦ったんだ。観衆の目を引くように、盛大に街を破壊しながらな」
「……チェンソーマンをヒーローとして見てもらうためにマスコミを配置することも話しましたものね」
マキマさんも"人間が抱く本来のチェンソーマンに対しての恐怖を薄れさせて倒す"という計画を立てていた。俺はその計画を逆手にとって異常事態を伝えるメッセージに変えた。
「そうじゃ! ワシはそれをテレビで見て王とデンジが戦っていると思ったんじゃ!」
「それで私はあれは店主とレイエルが戦っていると言ったら、パワーがなら本物のデンジはどこじゃと騒ぎ出してな。思い当たったのはまだ行くなと言われた場所しかなかったから、弓の悪魔の力を使ってパワーと一緒に飛んで行ったんだ」
「アレはマジでビビったぜ……知らねえヤツがパワ子の首を抱えてお前がデンジか? なんて聞いてきたからな……」
「私はすぐにピンを抜いて臨戦態勢を取ったよ。デンジ君との生活が邪魔されると思っちゃったからさ」
好きな人との同棲生活をしていたら同僚を捕まえた魔人がやって来た。彼らにとっては平穏を壊す障害にしか見えなかっただろう。
「でもパワ子がデンジがここにいるなら王と戦っているあのチェンソーマンはなんじゃって言った瞬間によぉ~……レイエルの力で変身させられた偽物だってすぐに分かったぜ」
「ポチタが言ってた通りになったって言ってたもんね」
流石にデンジの知能で正体に気付けるとは思えず、俺はデンジにいる間にポチタに2つの計画を話した。デンジが幸せととある約束を守るなら協力すると理解してもらえたので、これからチェンソーマンが現れたら俺が関わっているとヒントを伝えた。
「それでレイエルが関わってるって言われた時、夏祭りの時に言われた言葉を思い出したんだ。"
「思い返せば嘘を吐いて舌が爆発した時には必ず示札さんがいたからなァ~……んで、この事を伝えるためにレゼに運んでもらったって訳よ」
しかし、2人が真実に到達した所で俺の力によって"生きてる"状態になっているから示札王から嘘の悪魔に戻せない。そこで活躍するのが俺の力に全く関わっていないパワーちゃんだ。彼女なら正体を宣言できれば妹を真の姿に解く事ができる
「つまり! 全てワシの手柄ということじゃ! ワシの手柄! ワシの手柄! レイエル! ワシのおかげじゃぞ!」
「本当に助かったよパワーちゃん……ありがとう。パワーちゃんを好きになって本当に良かった」
新婦新婦の熱い抱擁とキスを見届けマキマさんに目を戻す。
「さて……ここまでが肉料理だ」
「主菜ではないのですね。これ以上何をするというのでしょうか?」
「ここまで完璧に出し抜いた以上、俺を支配する事は出来ないだろ?」
「……悔しいですがその通りですね。見事にしてやられました」
発言に対して比較的余裕そうな笑みを浮かべている彼女だが、次に出す俺からの提案でその笑みが消える事だろう。
「なあマキマさん、俺と付き合わねえか?」
「……え? あっ、え……?」
思いもよらぬ告白に彼女は珍しく瞬きを繰り返している。
「アンタは顔も体もいいし悪魔として強い……俺にピッタリだと思わねえか?」
「…………何を言っているのですか?」
「じゃあ端的に言うぜ? 好きです付き合ってください」
「騙した存在と付き合えると思っているのですか? それに私はあなたの事が────」
「それじゃあ言い方を変えるぜ、付き合わなきゃ死んだほうがましな状態にしてやるよ。カモンハロハロちゃん!」
ギャンギャンと手を鳴らし、事態が分かっていなそうなハロハロちゃんを呼ぶ。
「紹介するぜ。ハロハロちゃんこと宇宙の悪魔だ」
「……ッ!」
その名を聞いて俺が何をしようとしているのか悟ったらしく、彼女の顔から冷や汗が流れ出始めた。
「確かにアンタへの攻撃は日本国民に肩代わりされちまう……だが、
宇宙の悪魔は森羅万象を相手の脳に送り込んでハロウィンの事しか考えられなくさせるというヤバい技がある。この世の全てをたかが1億数千万程度の脳で受け止めれるとは到底思えない。
「全日本国民がハロウィンのことしか考えられなくなったら……パワーちゃんを大統領にするのは簡単だろうな」
「せっかくだし国名もパワー合衆国にしようよ。
「ワシの国か! それはいいのう!」
「パワ子ばかりズリィぞ! デンジ合衆国も作ってくれよぉ!」
「合衆国だからデンジ州を作ってもらえばいいんじゃないかな? ついでに隣にレゼ州も作って欲しいなあ」
「なら私達の州も作ってもらうか。そうすれば中国に帰る手間が省ける。やれコスモ」
「ハ~……! ロ~……! ハ~……! ロ~……!」
何かの漫画で見たことあるポーズで宇宙の悪魔が力を溜める。そして────
「それは通らねえな」
「ウィン!?」
公安のスーツを着た高身長な初老の男性が彼女の両手を蹴り上げて、本気のハロウィンが空に放たれた。思った通りの登場に俺は拍手で歓迎をする。
「もうちょっと早く来て俺達の手助けをしてくれると助かったんだがなあ?」
「千切ったページの下のページにわざとらしく跡が残っていたからな。気付いた時にはもう遅かったが、まだ最悪の事態にはなってない……人間の意地の悪さを見せてやるよ、真実の悪魔」
4課の隊長にして妹の師匠、岸辺が俺達の前に立ちはだかった。
「因みに銀鏡反応ってマジで現実にある化学反応なんだぜ。詳しくは各自で調べてくれ」
「この反応を知った時、作者は心の底から驚いたらしいよ。西村英堵の件然り、偶然の産物にもほどがあるね」