その悪魔は嘘か真実か?   作:神剣狩刃

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最終話 その悪魔が嘘であれ真実であれ『二枚舌』に変わりはない

 あの戦いから数日、僕達は『二枚舌』で様々な物を兼ねたパーティーを開くことにした。鏡狼姿の兄貴がギャンと咳払いをして演説を始める。

 

「えー、この度我々『二枚舌の悪魔達』は支配の悪魔を打ち倒し、それに伴って彼女が率いていた特異4課及び日本内閣総理大臣への干渉権限を得ることができました。これは俺の計画の果てに手に入れた素晴らしい成果であり」

 

 相変わらず兄貴は得意気になると話が長くなる。パワーちゃんが牛タンをつまみ食いし始めたので、身内である僕が話を切り上げるとしよう。

 

「長話は良いから乾杯の音頭を取らせてよ」

「そうじゃそうじゃ! 牛タンが冷めてしまうじゃろうが!」

「パワ子! 勝手に食うなよパワ子! オレだって我慢しているのにズリィぞ!」

「デンジ君が可愛そうだから早くしてくださーい」

 

 じゃあしょうがねえなと兄貴が頭を搔きながら話をすっ飛ばしてこのパーティーを開いた目的を言う。

 

「祝賀会及び『新特異4課』設立及び新人歓迎会を開始する! 妹よ! いつものアレを頼む!」

 

 やっと兄貴からバトンを渡されたので全力でいつもの口上を始める。

 

「────今宵始まりますは人魔の隔て無き無礼講! 噛むは牛の舌か己の舌か、飲むは美酒か紅血か! 胃に入れば何でも一緒ですが、吐くぐらいなら嘘を吐きましょう! 何故ならここは『二枚舌』ですから!」

「「「「お召し上がりくださいませご主人様お嬢様達!」」」

「ハロウィン!」

「「「イェーイ!」」

 

 

 僕withチャイナメイド五人衆の宣言に釣られてグラスのかち合う音と歓声が響き渡る。あの戦いで何がどう変わったのか、牛タンと共に噛みしめていくとしよう。

 

「はい、パワーちゃん。あーん」

 

 僕は適当な死体を拝借して嘘の悪魔の魔人になり、兄貴の力で示札王になって活動している。名前変更による諸手続きを省けたので非常にありがたい。

 

「むぐむぐ……ほれ、王も食べるんじゃ。あーん」

 

 パワーちゃんは魔人の姿に戻って日本初の大統領になった、と言いたかったがとある問題が起きてまだそれは叶っていない。なので僕のしばらくの目標は"パワーちゃんを大統領にする"になった。

 

「相変わらず示札さんの牛タンはウメエなあァ~! オレ酒飲めねえからレモンの炭酸水だけど十分合うぜェ~!」

 

 デンジくんは引き続き公安で働くことになった。週一以上の頻度で牛タンが食えると提示したら、夢みてぇだぜと喜んでくれた。

 

「はいデンジ君あーん……後で私にもあーんしてね」

 

 レゼちゃんはソ連に帰っても真面な処遇をされないだろうということなので、日本の公安で匿うことになった。デンジ君と一緒に暮らせるなら可能な限りの仕事をすると言っていたから大丈夫だろう。

 

「見せつけてくれるな……私達も後でやるぞ」

「はい! 楽しみですクァンシ様!」

「クァンシからのあーんか……ふふふ……」

「……」

「ハロウィンハロウィン!」

 

 クァンシさん達も任務失敗で中国に戻るわけにはいかないので、『二枚舌』で匿うことになった。衣食住を確約しているから、最低賃金でも文句を言わずに働いてくれるからいい従業員だ。

 

「まさに万魔殿(パンデモニウム)になっちまったな……まっ、俺の計画が上手くいったからなんだっていいか。次の計画を考えなきゃいけねえしな」

 

 兄貴は先の長話の通り4課と日本政府への干渉権を手に入れてまた新たな計画を考えている。"パワー合衆国設立"という素晴らしい計画なので僕も全力で協力したい。

 

「そん時は手伝ってもらうぜ、お二人さん」

 

 そう言った兄貴の目線の先には────不服そうにレモンサワーを飲むマキマさんと両腕に包帯を巻いた先生がいた。

 

「こうなるならあの場で死んだほうがましでしたねハロウィン」

「初めてお前に同感を覚えるよハロウィン……」

 

 2人がふざけたような語尾になっているのには理由がある。あの戦いの最後にマキマさんは本気のハロウィンを喰らったのだが、連発で放ったため本来の威力にはならなかったらしい。それを全日本国民に肩代わりさせた結果、"全日本国民の語尾にハロウィンが付く"という珍事になってしまった。そして僕は"僕達の邪魔をするなら先生だろうと死んでもらう"と言ったので、"僕に全てを委ねて邪魔をする気が無くなった先生"を殺すのを止めた。その結果が今の2人のハロウィン様である。そんな2人を見て兄貴はギャリギャリと笑う。

 

「まあ生きてりゃいい事もあるさ。それに……4課に待望の新人さんが入るんだからいい顔で迎えようぜ!」

 

 そう言って兄貴はギャンギャンと手を鳴らし、『二枚舌』の扉が開いてスーツ姿の男女を見せつける。一人は目尻や口元の黒子がセクシーだが薄幸そうで辛気臭い顔の女で、もう一人は190㎝のヒョロガリ坊主で釣り目の男だ。

 

「にゃ、にゃんで戻ってきちゃったんだろう……」

「大丈夫だよ。何があっても僕が守るよベニちゃん」

 

 元公安の東山コベニと、人間の悪魔である日乃門仁だ。東山さんの方は先日ハンバーガー屋でパワハラを受けていた所を助け、お礼はいいから公安に戻れと圧をかけて戻らせた。日乃門仁は今度は生で僕達の計画を見たいと言って自ら入って来て、東山さんを見つけて一目惚れして交際関係を築いている。

 

「まずは僕の力で語尾を治してあげたんだ。事中にハロウィンなんて言われたら台無しだからね」

「なっ、治してくれたのは嬉しいですけどぉ……そのお礼に付き合ってほしいって少し強引というかぁ……」

 

 そういう経緯で付き合い始めたのか。僕としては彼の被害者を増やさないために東山さんには犠牲になってもらいたい。

 

「付き合って良いと思うよ。優しくて悪魔に理解のある存在ではあるから」

「そ、それは分かるんですけどぉ……少し得体の知れなさがあると言いますかぁ……」

「僕を信じてベニちゃん。僕は君のためなら死ぬこと以外の人間に可能な事なら何でもできる」

 

 本当にそうだから質が悪い。とりあえず彼を理解してもらうために特別個室に行ってもらうか。ただ、彼の好みのプレイを考えたらあの一組しか入れないだろう。残りの3組は座敷かホテルか愛車でお楽しみをすることになるだろう。

 

「おいおい、俺とマキマさんは外でお楽しみしろってことか? 面白そうじゃねえか、なあマキマさん?」

「……何故私とあなたでそのような事をしなければならないのですかハロウィン?」

「アンタは完璧に負けた俺たちを支配できない。これなら対等に付き合えるだろ?」

「アヴダイムーン……それってポチタが言ってた……」

 

 兄貴がデンジくんに向けてギャリンと左目でウィンクをして笑った。

 

「ポチタと約束したんだよ。"支配の悪魔と対等な関係を築いてほしい"ってな。だったら裸の付き合いをしちまうのが一番手っ取り早いだろ?」

 

 実に兄貴らしいとんでもない考えにマキマさんがレモンの皮を噛んだような顔をした。そんな彼女に一言助言を送る。

 

「先に言っておくけど兄貴は超テクニシャンだよ。伊達に公安の女をつまみ食いしてないからね」

「断る前にまずは一発ヤってみたらどうだ? それで俺を負かすことができたらもう一回支配できるかもしれねえぜ?」

 

 一縷の望みが見えたのか彼女は覚悟を決めたように口を開いた。

 

「……分かりました。あなたの策を打ち砕いてあげましょうハロウィン」

「つーことでこの後俺は彼女とイイコトするんで朝まで帰ってこないぜ。お楽しみは食器片づけてからにしてくれよメイドさん達?」

 

 そう言って兄貴はマキマさんの手を引いて夜の街に消えていった。雰囲気と酒に流されてそういうことしか考えられなくなっててきたので僕からお開きを促していく。

 

「ぼちぼちお開きにしますかね。僕はパワーちゃんと一緒にデンジくん達をホテルに送ってくるよ。2人とも、領収書の切り方は分かる?」

「りょ~しゅ~しょ~? ンだソレ?」

「金銭の受け取りを証明するための書類だよ。それがないと私達がお金を払うことになっちゃうんだよ」

「それはよくねェな……可能な限り節約しねェと大変だからな……示札さん、教えてくれ」

 

 僕は嫌な顔一つせず頷いた。

 

「当たり前だろ。友達なんだから」

 

 僕が言いそうもない言葉だったのか、デンジくんはアルミ缶が入りそうなぐらい口を開けていた。

 

「トモ……ダチ……?」

「ああ。あれだけの事を一緒にやり遂げたんだ、僕とデンジくんは友達だろ?」

 

 頭の悪い彼でも分かるようにかなり噛み砕いて言ったが、数秒の空白が生まれてしまった。その上で彼は相変わらずの笑顔で答えた。

 

「……そうだな! 俺と示札さんは友達だな! 友達としてよろしく頼むぜ!」

 

 彼が差し出してきた右手をガシリと握る。こうして僕は憧れの人と友達になることができた。それは90%以上のスピリタスの様に澄み渡った爽快感だった。

 

 

 顔を赤くするほど酔ったパワーちゃんを背負いながらデンジくんとレゼちゃんを近場のホテルまで歩いて送った帰り道、僕はパワーちゃんに一つの質問をした。

 

「パワーちゃんは僕の事好き?」

「聞くまでもないじゃろ~? ワシは王の事が大好きじゃぞ~」

「……恋愛の対象として?」

「当たり前じゃろ~」

「……エッチしたいぐらい?」

「今すぐにでもエッチしたいぞ~」

 

 いくら前後不覚に酔っているとはいえそう言ってもらえるのはとても嬉しい。僕は上機嫌になりながら愛車の後部座席に2人で座ると、彼女がポツリと言葉を溢した。

 

「……ワシは嘘を言っておらんぞ」

 

 それぐらい分かっている。酔っている時の心の内など当てにならな────

 

「今のワシは酔っておらん。顔を見ろ」

 

 彼女の言う通り顔を見るといつの間にか赤みが消え去っていて、いつになく真面目な顔をしていた。血を操るとアルコールが早く抜けるのかと思っていると、彼女が言葉を綴った。

 

「……ワシは命は平等に軽いと思っていたんじゃ。ワシの命も、王の命もじゃ。でも……でも……いつの間にか王には死んでほしくないと、失いたくないと思うようになったんじゃ」

 

 それって。もしかして。

 

「だって王は初めてできた恋人じゃからの」

 

 正直な所、彼女が僕に付き合っているのは都合が良いからだと思っていた。無条件に色々な物を差し出す存在、好きだと肯定していればなんでもしてくれる存在、そんな程度のものだと思っていた。でも、彼女の中で僕は大切な人になれていた。その事実に視界に映る彼女の顔が滲んで揺れる。

 

「……そんなに嬉しかったのか?」

 

 僕は彼女に抱き着つき、その体に身を全てを委ねて頷いた。

 

「……うん。すっごく嬉しい」

 

 そして彼女の顔を見て何を言う訳でもなく唇を重ねた。夜を照らす今日の満月の様に優しく温かな物で胸が満たされた。唇を離し、情熱に浮かされた顔を見つめ合って宣言する。

 

「今夜は寝かせないよ」

「それはこちらのセリフじゃ。今日こそは王に勝ってやるぞ」

 

 パワーちゃんがニヤリと笑って僕を押し倒す。その際に窓から見えた満月はあまり綺麗ではなかった。僕の前に違い手を伸ばせば届く、月よりも美しくて魅力的な彼女がいるから当然だろう。




 あと1話だけ設定や裏話を書いて完結です。
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