その悪魔は嘘か真実か?   作:神剣狩刃

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第5話 シエンヴィー

 夢を見る。どこかのラブホテルの一室に190㎝のヒョロガリ坊主で釣り目の元カレこと日乃門(ひのもん)(じん)と一緒にいる。悪魔に家族を殺されてどうしようもなくなった私を、大学の教室で優しく抱きしめただけで惚れて付き合ったんだっけ。展開が分かっているから早く目を覚ましたいが、毎回あのタイミングでしか目を覚ませない。

 

「それじゃあ……セックスしようか、ワンちゃん」

 

 奴からは『王だから』という理由でワンちゃんと呼ばれていた。この時の僕はその特別扱いみたいな呼ばれ方ががとても嬉しかった。

 

「は、はい……! 日乃門先輩……!」

 

 何も知らない僕は憧れの先輩との初体験に色めき立っている。そして初々しく初体験を終えてあのシーンがやってくる。

 

「ワンちゃん……君にしか頼めないお願いがあるんだ……」

「な、何ですか……? 日乃門先輩の頼みなら何でも聞きますよ……?」

 

 今考えてみれば、この時すでにライエルと契約していたから軽はずみすぎる発言だった。

 

「僕の口におしっことうんちをして欲しいんだ」

 

 そう、奴はスカトロジーの趣味があったのだ。それを知って僕の恋は一気に冷め、男との恋愛が嫌になった。早く関係を終わらせようと奴の顔にまたがり下腹部に力を入れ────そこで目が覚める。この夢を見た時のお決まりの展開だ。びっしょりとしているのがただの寝汗であることを確認してベッドから出る。

 

「……ギリ最悪じゃないな」

 

 以前この夢を見た時、寝大小便をやらかしたことがありレイエルに滅茶苦茶からかわれたことがある。それも一度や二度ではなく五度もだ。もはや僕の中でトラウマになっている。目覚まし時計を10時半にセットしていたはずだが、ひしゃげてボロボロになっており目覚ましとしても時計としても意味を成していなかった。

 

「……最悪に片足突っ込んだ」

 

 こっちはやらかしたかと落胆して携帯を見ると、もう正午過ぎだぞと言わんばかりに不在着信が届いていた。発信元はマキマさんからだった。あの人に呼ばれる時は大体ロクな事を頼まれない。だからといって無視するともっとロクなことにならなのでマキマさんに折り返しのお電話をする。

 

「何の用ですか?」

「1課と2課と3課と4課が襲撃を受けて4課に合併されることになったの。それで私が指揮を執ることになって、まずはデンジくんとパワーちゃんの訓練をしたいと思ってるんだ。明日から()()と一緒に指導してあげてくれないかな?」

 

 この飲み屋の唯一の常連のあの先生が一緒だったら何かあっても止めてくれるので問題ないだろう。

 

「死ぬほど厳しい指導にしますよ」

「それならよかった。また今度飲み会しようね」

 

 電話を終えて、とりあえず昨日の後片付けをしようと店の外に出ると────店前の畳や座布団に混じって頭や腕や脚などの人間のパーツが数人分散らばっていた。路地裏にある人通りのほぼない立地で助かった。血の匂いの中に硝煙の匂いが混じっていたから銃撃戦があったとは思うのだが、どんな銃を使えば人間をバラバラにできるのだろう。そもそもそんな威力の銃を使えばかなりの音が響くはずだが、僕も目覚めなかったし警察も来ていない。とりあえず、営業再開のめどが立たなくなったことは分かった。後片付けはレイエルが帰って来てからやることにして、僕はニヤリと笑う。

 

「……彼女に会えるから何があっても最高だ」

 

 何故かレイエルが帰ってこなかったので店の前の惨状はそのままだが、時間になったので呼ばれてやってきた墓地にやってきた。そこには金髪のツーブロック、両耳の黒いピアス、無気力な目と顔つき、左口元の縫い目、194㎝という高身長の50代の男性がいた。彼こそが僕を公安で鍛えてくれた先生こと岸辺(きしべ)だ。右手のスキットルに入っているのはこの間レイエルが密造した何故か甘いウォッカだろうか。一杯を邪魔しないように必要最低限の挨拶にしよう。

 

「お久しぶりです、先生」

「……示札の方か? だとしたら久しぶりだな。最近お前とレイエルの区別がつかなくなってきてな」

「舌が爆発しないってことは本当にそう思っているんですね」

「歳は取りたくないもんだ」

「歳を取れるのが羨ましいです」

 

 なんて世間話をしている間にマキマさんがパワーちゃんとデンジを連れてやってきた。彼女ら2人は先生のいくつかの質問に答えて100点を貰っていた。僕は90点だったのに。ムカつくから合算して10回は殺すとしよう。マキマさんに帰ってもらい早速指導を始める。僕は首をコキコキ鳴らして溜息を一つ吐いた。

 

「僕は先生に教えられたから先生のやり方で君達を鍛える」

「あ?」

「は?」

 

 棒立ちしていた2人の首目掛けて両腕でラリアットを放つ。ボキリと首の骨がへし折れる感覚が伝わってきた。何が起きたのか分からず地面に2人がドッと倒れる。それを見た先生はフッと嬉しそうに笑いながら懐から輸血パックを取り出して、2人に中身を飲ませた。

 

「俺は最強のデビルハンターで彼女は俺の下で2年修業した。俺はアルコールで脳がやられているが、彼女はレイエルと契約して脳がイカれた」

 

 おかげで僕はデビルハンターとしては上から数えた方が早い実力者だが、先生には一度たりとも勝てたことはない。それぐらい先生は強く、レイエルだって先生相手じゃないと本気で戦えないと言うほどだ。思い耽っている内に立ち上がった二人に対し、僕は人差し指をクイクイする大衆酒場のレモンサワーの様に安っぽい挑発をする。

 

「先生曰く、僕を倒せるならデビルハンターとして一生食っていけるらしいよ。だから……僕に一発でも攻撃を当てられた人がいたら、お望みの量の牛タンを食べさせてあげるよ。しかも僕のあーんで」

 

 その言葉を聞いてパワーちゃんはデンジに血で作った金槌を投げ渡し、デンジはそれを受け取って笑顔で振り上げた。

 

「言ったからな! 嘘はつかせんぞ!」

「それぐれえであの牛タンが食えるなら頑張っちゃうっ────!?」

 

 あまりにも隙だらけだったのでデンジの股間を右足の甲で蹴り上げた。ぐちゃりとナニかが潰れ、バキバキと骨が折れ、奴は声にならない悲鳴を上げながら蹲った。

 

「それだけの痛みで動けなくなるなら僕には勝てないし────」

 

 後ろから嫌でも感じる敵意を放つパワーちゃんに振り返って両手両足で抱き着き、全力で締め上げて背骨と骨盤を粉砕する。

 

「それだけの動きで虚を突けたと思っているなら食前の運動にもならない────」

 

 頭部にコンと硬い何かが当たる。振り返ると先生がスキットルで僕の頭を小突いていた。

 

「これで牛タンが食えるな」

「……こんなことしなくても先生ならいくらでも食べさせますよ。育ててくれた恩がありますし」

「だからお前は90点なんだ。変にマトモな所が残ってるとやっていけないぞ?」

「やっていけなくなったら『二枚舌』の店主に専念しますので」

 

 こうして僕は日が沈むまでパワーちゃんとデンジを殺し続けた。途中で数えるのが面倒になったので詳しい数字ではないが、累計で20回は殺した気がする。

 

 

 約束を果たすために先生を『二枚舌』に連れていく。店前はいつの間にか跡形もなく綺麗になっていて、特に立ち入り禁止のテープが張られている事態にもなっていなかった。レイエルがやったんだろうと勝手に納得してドアを開けると、バーテンダーの服を着たレイエルが嬉しそうに太った背の高い坊主の男性と話していた。

 

「ってな感じで猫目の女のアソコにキスしたわけよ! 上の口は堅いくせに下の口はもうめっちゃガバガバでさあ!」

「その気持ちわかるなあ……女の子とキスするなら下の口に限るよね」

 

 メチャクチャ猥談で盛り上がっていた。そういう席だから構わないが、あの坊主の男性に嫌な既視感を覚える。

 

「どうした示札? 顔色が悪いぞ?」

「……先生、何かあったら僕を止めてください」

 

 僕は坊主の男性に向かって歩みを進める。盛り上がっていて全く気付いていないようなので、肩をトントンと叩いてこちらに意識を向かせる。振り返った釣り目を見て、今日あった最高の事を全て打ち消して最悪になるほど嫌な気分になった。禍福は糾える縄の如しというが禍が2に対して福が1では釣り合わないと思う。振り返った奴はハッと何かに気付いてジョッキを落として割った。これで禍が3になった。ついに堪えきれなくなってその名を呼んでしまう。

 

「日乃門……仁……」

「…………ワンちゃん?」

 

 奴が僕のことを覚えていたので禍が4になった。

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