その悪魔は嘘か真実か?   作:神剣狩刃

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第6話 ウォッカ・果汁・炭酸水

 僕の人生を滅茶苦茶にした元凶の1人を前に様々な感情が沸き上がってくる。憤怒、失望、諦観、衝動、悲哀と今僕の心は小中学生が遊びで作ったドリンクバーの末路みたいになっている。言葉を選ばないと一気に吐き出してしまいそうなので、一旦深呼吸をする。ほんの少しだけ冷静になれたからまずは質問をしてみる。

 

「……何でここにいるんですか?」

「ダイエット前に美味しいものを食べようと思ってね。十分食べたからもう行こうと思ってたんだけど、レイエルがもっと喋っていけって」

 

 余計なことをとレイエルを睨みつける。僕と彼の因縁を知っているはずだが、知っているが故に嫌がらせとして────

 

「悪いなヒーちゃん。今日はもう店仕舞いだ」

 

 拍子抜けな程にあっさりと退店を促した。

 

「無理矢理お店を開けてもらってたからね、そういわれたら素直にお暇するよ。お釣は要らないよ」

 

 彼もレジに万札を数枚置いて店を出ようとした。その時、先生とすれ違いざまに肩を置いて一言呟いた。

 

「ワンちゃんの事よろしくお願いします、新しい彼氏さん」

 

 今更彼氏面して何を言ってるんだと一発ぶん殴ってやりたかったが、そのまま暴れて先生の手を煩わせてしまうかもしれないので何とか抑えて見送る。先生は顔色一つ変えずにスキットルの中身を(あお)って質問してきた。

 

「何者だアイツは……?」

「史上最悪の元カレです」

「俺の一番のダチです」

「なるほどな、ロクでもない奴だってことが分かった」

 

 

 先生を席に案内し、レイエルと一緒にアイツの割ったジョッキを片付け、牛タンと濃い目のレモンサワーを用意し、先生に牛タンをあーんさせる。師弟の絆よりも介護っぽいなと思いつつ近況報告を始める。

 

「特異課が襲撃にあったみたいですね」

「ああ……1から3課は壊滅、4課も荒井っていう新人がやられたらしいな」

 

 先日の飲み会で聞いた名前な気がする。しかしほとんど面識がないため、テレビ越しの交通事故ぐらいの関心しか湧かなかった。

 

「その件なんだがよ……昨日の情報収集で良い情報が手に入ったんだ」

「だからいなかったんだ。店前が惨状だったっていうのに」

「さっきヒーちゃんと一緒に片付けたから良いだろ? とりあえず襲撃犯の女こと沢渡(さわたり)アカネを薬漬けにして上下の口から色々吐かせたんだ」

 

 何をしたのかは想像がついてどうでもいいのでレイエルの話を聞き続ける。今回の襲撃の目的はデンジとマキマさんとを殺して、チェンソーの悪魔の心臓を手に入れる事だという。デンジはレイエルが近くにいたから、マキマさんはすごい力があるから大丈夫で、向こう方の目標がまだ達成できていないからまだ安心できないらしい。僕と先生は引き続きパワーちゃんとデンジの指導をするが、レイエルはどうするのだろう。また情報収集でもするのだろうか。

 

「明日はアキ君とゲロ女唆して未来の悪魔と契約させっかな」

 

 あまりにも無遠慮な発言に先生の持っているジョッキの持ち手にひびが入る。

 

「……俺の飼い犬を何だと思っているんだ?」

「人間である段階で俺の殺人衝動を抑える生贄かな」

 

 例外はいるが悪魔は本能的に人を殺す。ライオンがシマウマを食うようなもので、そういうものだからとしか言いようがない。しかしレイエルは本能的に人を殺しているかというとそうではなく、僕の知る限りだがレイエルは1度しか殺人を犯していない。その代わり、"人を騙して人生を滅茶苦茶にする"という方法で実質的に人を殺している。僕も被害者の1人だからよく分かるが、フリッジやトロフィエの様に捻じれて歪んでいて実に"嘘の悪魔"らしい。

 

「安心しな岸辺のオッサン。俺の計画が成就するまでは人類の味方でいるからよ」

「……敵になった瞬間、お前を殺してやるよ」

「挑むのは勝手だが返り討ちにするのも勝手だからな? オッサンが死んだら王ちゃん悲しくて死んじまうかもな」

「泣いて悲しみはすると思うけど、僕には彼女がいるから死んでいられないね」

 

 誰しも心の底からそう思いながら言った発言のようだ。いっそのこと、誰か一人ぐらい嘘を吐いてでも雰囲気を良くしてほしかった。

 

 

 ならば無理矢理変えてやろうと先生に一つ質問をしてみる。

 

「先生、今日の僕の指導を見て何かおかしなところはありませんでしたか?」

 

 そうだなあと相変わらずの分かりにくい顔で考え、そう言われたらぐらいだがと何か思いついた。

 

「デンジの奴にやけに厳しく当たっていたな。何かあったのか?」

 

 ご名答という代わりにレモンサワーを一気に流し込んでジョッキをテーブルに叩きつける。

 

「アイツ、彼女の胸を揉んでいたんです。僕だって揉めていないのに、アイツが揉めているのが心底ムカついたので」

「そういやお前も女が好きだったか。それに関してとやかく言うつもりはないが、意外とやきもちとか焼くんだな」

「かっかっか、デンジくんも災難だなあ。よりにもよって王ちゃんが目を着けてる女に手を出しちまうとは」

「先生と彼女の手前やらなかったですけど、いなかったら確実に殺しきっていましたね」

 

 口の中に牛タンを入れて八つ当たりして、酒の勢いで増している威勢のままにデンジへの悪口を吐き出す。

 

「バカだしエロいし口悪いし義務教育受けてないし……彼女の周りを飛び交ううるさいコバエ、いや尻尾垂らして媚び(へつら)う犬畜生だ。不死身ぐらいしか取り柄がないから死んじゃえばいい」

 

 不平不満と牛タンとレモンサワーが止まらない。もうがまんしなくていいやいろいろいっちゃえ。

 

「らいたい、ぼくはりぇいえうにかぞくをこおさえてからぁきおくがないんだぞぉ? そんなかでであえたかのじょぐらいぼくぼくぼくのものにぃ……」

「こりゃレイエルストップだな。特別個室に寝かせてくるからそれまで適当にやっていてくれ」

「そうさせてもらう。お前とも少し話したいからな」

 

 りぇいえうがぼくをかかえておいだそうとする。

 

「やーめーろーぉ……ぼくはまだいいたりないんだぁ……」

「それ以上は夢の中で言うんだな。ほら、目覚ましも直しておいたから安心して眠りな」

 

 べっどにおかれてふとんをかけられ、ぼくはねむった。

 

 

 酔い潰れた王ちゃんを特別個室において酒の席に戻る。相変わらず岸辺のオッサンが仏頂面で牛タンとレモンサワーを楽しんでいる。俺も粒とおろしと粉上のニンニクをトッピングした最強牛タンを原液50%のレモンサワーと一緒に楽しむ。ガツンと来るニンニクのパンチとやや生っぽいゴリゴリした牛タンがベストマッチだ。ネギ塩やレモンよりもニンニクの方が牛タンには合う。それをこれまたガツンと来るレモンサワーで────

 

「……お前は示札をどうしたいんだ?」

 

 お楽しみを遮るようにオッサンがモネの画のようにぼやっとした質問をしてきた。俺はモネよりサルバドールダリの方が好きなので超現実的な答えをする。

 

「王ちゃんには理不尽になって欲しいんだ」

「公安職員が兼業なんて十分理不尽だと思うが」

「好きな人の為に人を殺せるぐらい理不尽になって欲しい。そういった意味じゃ、あんたは王ちゃんを真面にしているから邪魔かもな」

「もし示札がそうなったら……お前と同類になって、俺が2人とも殺さなきゃいけなくなる」

 

 いくら俺でもオッサンと戦うとなったら本気を出さざるを得ないだろう。そうなったら俺の計画に支障が出かねない。王ちゃんにはまだ恋する乙女としていてもらうとしよう。

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