昨日の辛気臭い飲み会を終え、俺は朝一でご飯と牛タンだけの夢の牛タン弁当を四人分作っていた。岸辺のオッサンに言った通り、アキくんとゲロ女を未来の悪魔と契約させるためだ。タッパーに詰めて冷ましている間に2人に連絡するとしよう。新しく手に入れたケータイでアキくんの電話番号を確認しながら、レジ横の黒電話をジコジコ回していく。そしてケータイの方ではゲロ女の番号にかけて繋がるのを待つ。先に出たのはアキくんの方だった。
「もしもしアキくん? 銃の悪魔を倒すために新しい力欲しくない? 俺のダチに未来の悪魔ってのがいるんだけどさ、そいつと契約すれば未来が見えるからどう? 今なら俺特製の牛タン弁当付きだぜ?」
マジの悪魔の誘いに会話が止まり三呼吸分の沈黙が流れる。
「……なぜそんなことをする?」
「建前は親切心で本音は俺の遊びと牛タンの在庫処分かな。ちなみにゲロ女にも同じ話をする予定だ」
王ちゃんと違って復讐に燃えるアキくんなら、俺のお望みの結果が帰ってくるはずだ。
「……分かった。どうすればいい?」
「とりあえずこのまま電話切らないでくれ。そろそろゲロ女に繋がるはずだが────」
「もしもしぃ……? 誰と電話してんのレイエルぅ……?」
あからさまに寝起きなゲロ女の声が聞こえてきた。これなら二言返事でいけるかもしれない。
「今からアキくんとお揃いの悪魔と契約しに行かない? 今なら俺特製の牛タン弁当付きだぜ?」
「そんなケータイの契約じゃないんだから……でも、
意外と頭は目覚めていたようだ。お互いの了承を得たので、今から指定した場所に向かうように伝え二つの電話を切る。これで数時間も経たない内に面白いものが見れるだろう。
公安が生け捕りにした悪魔がぶち込まれてる施設で2人と落ち合う。丁髷と眼帯の美男美女コンビで目の保養になるなあ、と思いつつ未来の悪魔の下に向かう。
「俺の牛タン弁当があるからとはいえ、何を代償にさせられるか分からねえ。1人は寿命半分、もう1人は両目と味覚と嗅覚を差し出したって聞いたぜ」
「えー……胸を差し出せって言われたらどうしよう……」
「レイエルじゃないからそんなことされないでしょう」
「俺は尻派だからそんなことは言わねえ」
「ツッコむところそこなの?」
駄弁りながら奴のいる独房のような厳重な扉の前に到着する。面倒なロックをガチャガキ鳴らしながら解いて奴とご対面する。そこには目が六つで、人型の樹木のような姿で、腹部が開いていて、そこから大きな瞳がぎょろりと覗いている奴が楽しそうに踊っていた。
「イェイイェイ! 未来!! 最高!!」
「イェイイェイ! 牛タン!! 最高!!」
俺も奴のテンションに合わせて踊りながら牛タン弁当を差し出す。奴はバレエのようにくるくる回りながらやってきた。
「待っていたぞレイエル! 目だけじゃ牛タンは楽しめないからな!」
「ったりめーだろミーちゃん! つーことで本日のゲストを紹介しに来たぜ!」
ニヤリと笑って連れてきた2人の方を向く。ゲロ女はぽかんと口を開けていたが、アキくんは無表情だった。この場のノリの手本を見せたはずだがいまいち伝わってなかったらしい。仕方がないから口で直接説明する。
「お前達も言うんだよお!! 牛タン最高ってなあ!!」
「その前に未来最高と叫びなさい!!」
「み、未来最高! ぎゅ、牛タン最高!」
2人の悪魔に気圧されてゲロ女がやけくそ気味に叫び出した。
「俺達はお前と契約をしに来た。お前は俺達の何が欲しいのか言え」
対しアキくんは淡々と要件を言ってきた。このままだとミーちゃんの機嫌を損ねかねないので、2人に弁当を渡して両手を合わせて頼み込む。
「まずは腹ごしらえにしない? 上手く話を進めるには美味い飯って相場が決まってるじゃん?」
「そうだぞ! 過去最低のノリで、飯も食えないヤツとは契約しないぞ!」
「ここは素直に食べておかない? 私お腹空いちゃった」
いくら反抗的なアキくんでも民主主義には従うようで、諦めたように座って胡坐をかいた。
「飯食ったら話をするぞ」
冷めた弁当も俺の能力で"これは出来立てだ"と宣言すれば熱々で食べられる。この頃噂の加熱式駅弁のなど俺の敵ではないのだ。
「知ってっかミーちゃん? 加熱式駅弁の始まりは神戸の駅弁が始まりらしいぜ?」
「昔は牛タンは捨てられていたというのは聞いたが、それは知らなかったぞ!」
「お前悪魔に対してもそれやってるのかよ」
「でも、レイエルがいたらどんなお弁当でも出来立てが食べられるのはロマンあるなあ……」
俺の能力を悪用すれば適当な人間も"お前は俺だ"と宣言すれば俺に出来るので、いつの日か一家に1レイエルの時代が来るかもしれない。そんな思いを巡らせながら皆で食べる牛タン弁当は中々おいしかった。閑話休題になったので、まずは俺からミーちゃんの瞳がギョロついているお腹に頭を突っ込み未来を見てもらう。
「レイエルの未来はいつ見ても面白いぞ」
「何が見えても何も言うなよ。未来は知らない方が面白い」
「近い内にそこの女を介抱することになるぞ」
「だから言うなって。ほら、大丈夫だから見てもらえ」
頭を引っこ抜き2人に未来を見てもらうように促す。2人分の未来を見てミーちゃんはムフフと嬉しそうに笑い始めた。
「契約はこうだ! 男の方の右目に俺を住ませろ! そうすればお前達の力になってやる!」
ほぼ損害無しで2人が力を得られることになったが、当の本人たちはそれだけでいいのかって顔をしている。
「なぜならオマエ達は未来で最悪な死に方をする!」
最高に面白い結末が確定しているなら、変な代償で契約を不意にする必要はない。実に悪魔らしい発想で俺も思わず拍手してしまう。
「絶対に言うなよミーちゃん。俺もリアルタイムでそれが見たくなった」
「いやいやいや! そう言われて聞きたくないほうがおかしいって! 死なないように努力したいじゃん!?」
ゲロ女が俺の肩を掴んでグワングワン揺さぶる。俺がゲロ悪魔になるのを止めるべく、納得するような案を出す。
「そんなに死にたくねえなら俺の力で"生きている"状態にしてやろうか? 俺が解除するまで死ね無くなるからいいと思うぜ?」
「やってよ!」
「"ゲロ女は生きている"」
「言っておくがそんなことをしても無駄だ! その上で最悪な死に方をするからな!」
「私そんな未来信じないからね! ねえアキくん!」
「俺は自分の死に方に興味ありません。殺したい奴を殺せれば後はどうなってもいいんです」
ヒートアップしているゲロ女をよそにアキくんはゆっくりと目を大きく開いた。
「さっさと目に入れ」
こうしてミーちゃんはアキくんとの共同生活を楽しむことになった。イケメンとの生活がどんなものかいつか聞いてみたいものだ。
「そうだレイエル! アキくんを"生きている"状態にできないかな!? そうしたら呪いの悪魔の力を使いたい放題に出来るかも!」
ゲロ女らしからぬ悪くない提案だが、それは出来ないと首を横に振る。
「俺の変化はその状態で固定するんだ。"生きている"状態になると死に至るような状態変化は無効化されるが、死ななきゃ変化は起こる。例えば体の欠損程度じゃ人は死なないから、普通に両手両足両目両耳が無くなったり────」
「要は
「そういうこったい。まあ、狐の悪魔は不老不死のイケメンとか好きそうだけどな」
「そうかあ……名案だと思ったのになあ……」
俺の能力も万能ではない。そう考えると、1市町村に1ライエルが妥当かもしれない。