先生や警察の人と一緒にビルを包囲している中、ビルの壁面に亀裂が入り、上部が吹っ飛んだ。見えた限りだとチェンソーマンになったデンジと軍服をきた頭と両手から刀が生えている奴がいた。壁面の亀裂は真の姿のレイエルが本気を出したものだから別にか構わないが、刀マン(仮称)がデンジをきっちり殺せるかは不明だ。そちらの方が僕にとっては重要なので、2人の方を見ながら先生に確認を取る。
「あっち見てきてもいいですか?」
「ダメと言っても行くつもりだろ?」
「じゃあ行ってきます」
2人が電車に乗り込んだのが見えたのでちょっと本気を出して走る。建物を飛び越え線路内に立ち入り、走って電車に追い付く。流石に電車よりも早く走るのは大変だが、緊急停車してくれたおかげで最後尾の車両の正面からぶち破って入ることができた。まだ避難していない車掌が僕に気付いたので質問する。
「乗客は避難した?」
「あ……はい……」
「ありがとう。君も早く避難した方が良いよ」
警告を残し車両を進むと両腕を無くしたチェンソーマンの背中がドアの窓越しに見えた。このまま見守っていれば死ぬだろう。見なかった振りをして遅れた乗客っぽく出て────
「お前は……絶っ対に許さん!!」
刀マンが僕に気付いてチェンソーマンとドアごと右手の刀を横一文字に振り抜いた。僕は腕で防げたが、チェンソーマンは大学によくある胸像みたいになった。
「ぎゃああああアア!!」
「いい気味だ……『二枚舌』に飾っておきたいね」
「お前のせいで俺達はなあ!」
刀マンが生石像を蹴り飛ばして僕に襲い掛かってきた。
「情報を吐いた沢渡も許せねえが、吐かせたお前だって許せねえんだ!」
「……ああ、レイエルが言ってたモミアゲマンって君の事?とりあえず、僕はレイエルじゃないよ」
「嘘を吐くならましな嘘をつけ! 悪魔だから義務教育も受けてねえくせに!」
「受けた記憶が無くなったからレイエルから教えてもらったよ。後、僕はレイエルじゃない」
刀マンの連斬を両手でいなしながら誤解を解こうと弁明をする。しかし、頭に血が上っている今の刀マンには何を言っても無駄だなことが判明した。ならば一度頭を冷やしてあげるとしよう。
「死ね!」
腰を落として放ってきた居合を両手で真剣白刃取りをして、そのままバキインをへし折る。
「は?」
「武器を扱う時は相手に取られるな……基本中の基本だよ」
へし折った刃で横一文字返しをする。それと同時にヴンと音が鳴る。すると刀マンは十字に四等分されて地面に落ちた。
「戦う時は背後を取られるとよオ~……示札さんや先生レベルじゃねえと対応できねえみてえだからなア~!」
いつの間にか五体満足になっていたチェンソーマンが足からチェーンソーを生やして後ろからぶった切ったようだ。
「……どうやってスターター引っ張った?」
「首と口が動きゃ引っ張れるぜ? ほら」
そう言って奴は上半身を揺らしシャツからちらりとスターターを覗かせ、器用に咥えて引っ張ってヴウンとご機嫌に鳴らしやがった。余裕の音だ、馬力が違いますよと言っているようにすら思えた。そんなデンジの言う通りに手の刀を抜いたら奴の体がくっついたので、刀マン改めモミアゲマンに変わった奴をチェーンソーのチェーンで縛って電車外に出してパンイチにする。そしたら奴はギャンギャン喚きだした。
「ふううう……殺してやっ……ぶっ殺してやるうア!!」
「負け犬の声はデケえなあ。どうする示札さん? このまま警察に渡すか?」
僕達の目的はコイツを生け捕りにして渡すことだが、それでは僕の腹の虫が内臓を食い荒らしてしまう。いい案はないかと思い巡らせたところ、悪魔的発想が思い浮かんだ。
「コイツさ、僕とレイエルを間違えたよね」
「そういやそうだな。2人は目しか違いが無えからな」
「二度と間違えないようにするためにはどうしたらいいと思う?」
彼がない頭を捻って考えて唸り始めた。
「うーん……忘れねえような出来事を体験させるとか?」
「人間の感覚の中で一番記憶に残るのって痛みだと思うんだよね」
「あー……確かにそうかもな。示札さんに金玉潰された事は死んでも忘れられないぜ……」
股間を蹴られた痛みは男女関係無しにヤバい。以前こっぴどく酔った時、レイエルと股間を蹴り合って先に降参した方が負けというゲームをやったからよく分かる。
「だから僕達を覚えてもらうためにコイツの金玉をお互いに蹴り合う」
「いいなそれ! 俺の金玉蹴りは早パイのお墨付きだからな! でも初っ端で潰すなよ示札さん!」
「それじゃあ誰かが来たらぶっ潰すか」
その後、僕とデンジでモミアゲマンの金玉でハットトリックを決めた。程なくしてやって来た早川くんと姫野さんがドン引きして、僕の姿に戻っていたレイエルが吐くほど笑ったから次で最後にするとしよう。
「決勝点は僕が決める! 公安のロナウドは僕だあ!」
「ヤッ……」
バグった配管工のオッサンのような声を上げて奴は意識を失った。これで刀マン改め刀ウーマンになった事だろう。
事後処理はお偉い様達に任せて、今夜は『二枚舌』で新4課の凱旋牛タンパーティーだ。暴力の悪魔に手伝ってもらいながら席を準備し、4課の人魔を席につかせ口上を唱える。
「────今宵始まりますは人魔の隔て無き無礼講。噛むは牛の舌か己の舌か、飲むは美酒か紅血か。胃に入れば何でも一緒ですが、吐くぐらいなら嘘を吐きましょう。何故ならここは『二枚舌』ですから」
一礼と共に会場は大盛り上がりを見せる。
「よっ! 二枚舌最高の女将さん!!」
「レイエルと彼女しか従業員いないのに最高とかあるの?」
「で、でも示札さんは比較的良い人ですからあ……」
「チェンソー様と牛タン! チェンソー様に牛タン! 最高!」
「んだよこのサメ!? 鬱陶しいんだよ!」
「早くワシの分の牛タンを持って来るのじゃ!」
実はここに4課全員はいない。早川くんと姫野さんは何故か食べる気になれないと言い、先生は後始末で忙しくて、レイエルはマキマさんと話があると牛タンだけ置いていき、蜘蛛の悪魔は五月蠅さに癇癪を起こしかねないと断った。とは言えこれだけの盛り上がりを見せているのだから問題ないだろう。
「いやー、王ちゃんがいるからマスク外していいって言われてるからな! 牛タンがマジでウマい! 濃い目のレモンサワーも最高! レイエルも来ればよかったのになあ!」
「牛タンはおいしいけど噛むのが面倒なんだよね……これは仕方がないか」
「ここの牛タンよりおいしいものを食べたことがないです……!」
「チェンソー様の分の牛タンを持ってこい!」
「それには賛成だぜ! このネギ何とかって奴が良い!」
「ネギ塩牛タンじゃな!? それはワシの大好物じゃ!」
この間出したけどネギ塩の部分が邪魔って言ってたはずだ。それでも万が一にも食べるかもしれないので提供はしてみる。
「何じゃこれは!? ネギが乗っておるではないか!? ネギ塩の部分が邪魔じゃ!」
「ダメじゃねーかよ! てか何でパワ子の舌は爆発しねえんだ!?」
「パワーちゃんの頭は本気でそう思っているからかな。嘘かどうかは発言者次第で決まるから」
こんな楽しい空間にいないレイエルが少し残念に思えた。
ここはデビルハンター東京本部の一室。俺は戦いを終えてマキマさんと話をしている。コンビニで買った安っぽいレモンサワーとビーフジャーキーでは気分が全く乗らない。
「それで……
「その前に……"これは塩牛タンだ"」
袋の上に広げておいたビーフジャーキーが同じ体積のおいしそうに焼けた牛タンに変わる。箸がないのでわざとらしく熱がりながら素手で掴んで口に入れる。
「俺の状態変化は……変化先の状態を知っておく必要が……ゴクリ、あるのは知ってるだろ?」
「それで悪魔の死体を高級牛タンに変えてるんだよね」
「ゲロ男とゲロ女はそれで二枚舌に来れなくなったが……ゴクリ、
「他の悪魔に聞いたらどうかな?」
「計画に感づかれると面倒……アレ?」
袋の上のタンがもうなくなってしまった。仕方がないのでレモンサワーを一気に飲んで空き缶を握りつぶし、話を終わらせる意図を見せる。
「ともかく────