Q.耳郎から森岸には話さないの?
A.極秘情報過ぎてどう扱っていいかわからないので話せない。どちらかと言うとオール・フォー・ワンの方を警戒しているのもあって優先度低め。
Q.最適な状態って具体的には?
A.身体にかかっているあらゆる負荷を取り除いた健康な状態。青山の【ネビルレーザー】による腹痛やエンデヴァーに溜まった熱も消える。
また筋繊維の修復による成長等も考慮した回復なので回復魔法の使い過ぎで育たなくなる……なんてことも無い。つまり滅茶苦茶都合のいい回復。
Q.もしかしてOFAの残り火も?
A.頑張れば延命くらいは可能。一日の活動時間を一時間程度に抑えておけばあと二年くらいは保つ。
Q.グラントリノも呼んだ方がよくない?
A.ナイトアイ経由で伝わったので後でしばかれた。
やあ。物間から滅茶苦茶恨めしそうに睨まれてた森岸だ。
対抗戦は全戦全勝。A組のオールパーフェクトで完全勝利という結果に終わった。うん、結局最後まで一人も捕まらなかったんだよねA組。
B組はとても悔しそうにしていたが、むしろ俺達からすればちょいちょい拍子抜けする時もあった。今ので倒れちゃうの? 的な。
当然B組はそのまま黙っていられるはずもなく。すっかり暗くなった頃にA組の寮に何人かが訪ねて来た。ちょうどいいとばかりにA組もB組を交えた反省会の延長戦を開始。それぞれ戦った相手と試合のことを思い返しながらああでもないこうでもないと話し合っている。
俺達が戦ったのは骨抜と回原、鉄哲と角取さんだったんだが来たのは鉄哲一人。その鉄哲は切島と肩を組んで何やら楽しそうに話している。
まあ無理して話すような事もないし部屋に戻ってくつろいでいようか……とも考えたんだけども。
「ねーねー、森岸だったらどうやって爆豪達相手する?」
「……それは取蔭さん達のチームでって話? それとも俺が戦う場合の話?」
「そりゃもちろん私達。ああも完全に押し切られちゃったから流石に悔しくてさー」
何故か取蔭さんに絡まれて戻るに戻れなくなった。何でこっちに来たんだこの人。
聞けば元々は響香と話したかったようだが見当たらず、爆豪は論外として瀬呂と砂藤も一足先に部屋に戻ってしまったものだから相談するにも困っていたのだとか。
そしたら一人でソファに腰掛けてぼんやりしている俺を見つけたから俺に話しかけてきた、と。背後から急にニュッと顔出されてビビった。
取蔭さん達で爆豪達に勝つ…………無理では?
「…………無理なの?」
「相性が悪すぎる。ぶっちゃけ響香と爆豪の組み合わせが凶悪過ぎた」
爆豪は響香の索敵能力を信用してるから絶対守ろうとするし、響香も爆豪の強さは知ってるから索敵に引っかかったらすぐ情報共有するし。
そこに使い勝手のいいシンプルな増強型の砂藤、機動力拘束力に優れた瀬呂。どうしても戦って投獄するという手順が必要な以上取蔭さん達に勝ち目はなかったんじゃないかこれ。
「やるとしたら逃げながら凡戸と泡瀬で罠を作りながら取蔭さんが撹乱、チャンスがあれば鎌切に地形破壊させて巻き込む……くらいかな」
「……戦うことに拘った時点で負けだったかあ」
「多分な。爆豪への偏見が悪い方向に働いたのもあるけど、勝てないと分かってる相手に搦手だったとしても戦おうとしたのは良くなかった」
相澤先生も良く言ってるもんな。勝てない相手と戦おうとするな、って。それこそ心操に言ってたのもそういう事だろうし。
まあまあキツいこと言ったけど大丈夫かな……と思ったら後ろから首に手を回してきた。え何これ。何かいい匂いするしドギマギするからやめて欲しいんだが。
「もー……A組変わりすぎだよ。爆豪といい耳郎といい……」
「……何か変わったっけ? 強さ以外」
「あの爆豪が味方信用して動くとは思わないじゃん。じわじわストレスを与えて瓦解させるつもりだったのにさあ……」
あー……この人あれだ。ナチュラルに距離が近い人か。何とは言わんが柔らかいの当たってるから反応に困るんですが。
半分くらいしか話が入ってこない。思春期の男子なんだから彼女いてもそういう所には反応しちゃうんです。
「……ははーん?」
「おい待て何だその反応」
やっべこれさては気づかれた?
「そうかそうか……アンタにはこういう手の方がキくのか」
「効くは効くよ? 峰田程じゃないけどそういう欲もあるし。取蔭さん可愛いしスタイルいいから普通に効く」
「あ、そ、そう? ふーん……」
そういう時は隠そうとするから詰められるのだ。敢えて開けっぴろげに話せば割と引き下がってくれる。おい待て何だその可愛い反応。褒め言葉が返ってくると思ってなかったなさては。
とりあえず揶揄う気は失せてくれたらしく離れてくれた。響香が戻ってくる前に離れてくれて助かったぜ。怒られはしないだろうけど拗ねられそうだしな。
「……あ、そうそう。物間から伝言あったんだった」
「伝言?」
あの物間から? ろくなもんじゃなさそうなんだが。
「『自主トレのメニューとかあったら教えてくれ』……だってさ」
「……今度放課後に付き合ってやるって言っといて」
まあまあ真っ当な伝言……というか頼み事だった。さては今回の対抗戦の結果が余程堪えたなアイツ。
◇
対抗戦翌日。B組の訓練に打ち込む熱量がかなり上がった日の放課後。教員寮に四人の生徒が集められていた。
そこにいたのは緑谷と森岸、それから通形に物間。何故? と問いたくなる組み合わせの中に一人、森岸に抱き抱えられたエリちゃんがポカンとした顔で物間を見つめていた。
「ゆうえいの……ふのめん……」
「アハハハ何言ってんのかなこの子ォ! 何言ってんのこの子ォ!?」
「文化祭の時に君のこと『雄英の負の面』と教えたんだ」
「僕こそ正道を征く男ですけどォ!? 何を吹き込んでるんですかね先輩ィ!」
「うるさい。エリちゃんが怯えてるだろ」
基本的にエリちゃんに関わる人物は優しく穏やかに振る舞うものだから物間の立ち振る舞いがどうしても怖い様子。森岸にしがみつく力をほんの少しだけ強めていた。
森岸と緑谷はこれから何をするのかを聞かされていない状態で呼ばれており、物間がいる事でますます何をするつもりなのか分からなくなっていた。
するとここにいる全員を呼んでいた人物……相澤が合流した。
「悪いなお前ら。呼びつけて」
「あ、先生。これ何の集まりなんです?」
「物間に頼みたい事があったんだが……如何せんエリちゃんの精神と物間の食い合わせが悪すぎるんでな」
「僕を何だと思ってるんです!?」
見たまんまでは。森岸は訝しんだ。
外で話していても始まらないし、と相澤に促される教員寮へ。一階のエントランスのソファに腰掛けながら相澤は物間にこう言った。
「よし、やってみろ」
「はい」
「何を……?」
相澤に言われた物間はそっとエリちゃんに触れ【コピー】を発動。物間にエリちゃんの【巻き戻し】が【コピー】され、エリちゃんと同様に額から特徴的な角が僅かに顔を覗かせた。
それから数秒程、考え込むような素振りを見せた後物間は角に手を触れながらこう告げた。
「……"スカ"ですね。残念ながらご期待には添えられませんイレイザー」
「そうか……残念だ」
「……"スカ"って?」
一体何をしたのか、物間の言う"スカ"とは何なのか。湧き上がる疑問に対し口を開いたのは物間だった。
物間の【コピー】は個性の
何かしらを蓄積してエネルギーに変えるような個性だった場合、その蓄積までは【コピー】できないという。
例えばファットガム。脂肪を溜め込む事が前提の【脂肪吸着】を物間が【コピー】しても標準体型である物間ではファットガム程の防御力を得ることはできない。
例えば森岸。魔力を消費して【魔法】を発動する個性。物間が【コピー】しても肝心の魔力を持たない物間では【魔法】を扱うことはできない。
「たまにいるんだよね。僕がエリちゃんを【コピー】したのに使えなかったのはそういう理屈」
「なるほどねえ……」
「しかし何故【コピー】を?」
【コピー】の疑問は解消された。ならば次は何故そんな事を試したのかについてを知りたい。
通形の質問には相澤が答えた。
「エリちゃんが再び個性を発動させられるようになったとしても、使い方がわからない以上暴走する可能性は否めない」
「…………!」
「だから……物間が【コピー】して使い方を直に教えられたら彼女も楽かと思ってな。そう上手くはいかないか」
【巻き戻し】の暴走。それは相澤にとって何よりも避けるべき事態だった。
死穢八斎會の件で得た情報の中にはエリちゃんが個性を暴走させた結果、巻き戻し過ぎて人を跡形もなく
もし再び【巻き戻し】が暴走した時、危険性はもちろんの事ようやく笑えるようになったエリちゃんの心に暗いものを落としてしまう。
それ故相澤は可能性があるのなら、と物間に頼んだのだが結果はご覧の通り。今できることは相澤の【抹消】か森岸の【ベホマ】で止める対症療法だけだ。
「……ごめんなさい。私のせいで困らせちゃって……」
「……?」
エリちゃんは申し訳なさそうに続けた。
「私の力……皆を困らせちゃう……こんな力、無ければよかったなぁ……」
「エリちゃん……」
エリちゃんにとって【巻き戻し】とは諸悪の根源でしかなかった。
【巻き戻し】があったからオーバーホールに目をつけられ、身体を切り刻まれて酷い目に遭い続けた。【巻き戻し】があるから今、優しい人達を困らせてしまっている。
超常社会では一人に一つが当たり前の個性が、エリちゃんにとっては無価値を通り越して負債にすらなっている。
失言した相澤を物間が軽く肘で小突く。相澤も自覚があったのか申し訳なさそうに目を伏せ、少し焦りを見せていた。
どう言葉をかけるべきか……と通形と緑谷が悩んでいると、先に動いたのは森岸だった。
「困ってないよ。大丈夫」
「レックスさん……?」
しゃがみこんで視線を合わせ、森岸は続ける。
「俺達はヒーローを目指してるからね。俺達がエリちゃんの事を救けたくてやってるんだ」
「…………」
「それにエリちゃんは何も悪いことはしてないんだから謝らなくていいんだよ。俺達はごめんなさいよりもありがとうが聞きたくて頑張ってるから」
「そうだよエリちゃん!」
それに緑谷も続く。
「それに、使い方だと思うんだ。ほら、例えば包丁だって危ないけど……よく切れるものほど美味しい料理がつくれるんだ。だから君の力は素晴らしい力だよ!」
「うん……!」
「そうそう。その意気。俺達はエリちゃんの頑張りを応援してるから」
だから、生まれ持った自分の力を嫌いにならないで欲しい。森岸と緑谷はそう伝えた。
ちゃんと伝わったのか、なんて言うまでもない。
「私、やっぱりがんばる」
「うん、応援してる」
キュッと握られた手を見れば分かることだろう。意気込むように持ち上げられたグーを見て相澤達も穏やかに笑っていた。
『……それで? 何の用かな?』
「ああ……なんてことはない、よくある話さ」
「業務提携と行こうぜ解放軍」
『……話を聞こうか。
通形「森岸君えらい好かれてるね!」
緑谷「一番落ち着くのかな?」
森岸「何ででしょうね?」
エリちゃん「……(頭を擦り付けてる)」
森岸「猫みたいになってるし」
エリちゃん「……♪」
相澤「物間に怯えた分甘えてるんだろ」
物間「酷いなァ!? アハハハ──キュ!?」
相澤「うるさい」