Q.皆一回目はあんな感じなの?
A.疲労や負傷の度合いによる。あとは【ホイミ】よりも【ベホイミ】、【ベホイミ】よりも【ベホイム】の方がそんなリアクションになる。
Q.つまり【ベホマラー】をすると……?
A.まあそういう事になる。
Q.弾丸飛んできたりしなかったの?
A.聞かれてたら飛んできてた。
寮生活が始まってから四ヶ月。当初は敵連合やら仮免試験やらと考えることが多くて不安も何もあったものではなかった生徒達も、今やすっかりハイツアライアンスを我が家と認識しきっている。
12月も終わりを迎え西暦が一つ増える目前。冷たい風と白い雪の中でも世間はとあるイベントで大盛り上がり。
「「「MERRY Christmas!!」」」
それは雄英も然り。一階の共有スペースを飾り立てたハイツアライアンスにて1年A組はクリスマスパーティーの準備中である。
テーブルの上にはピザにフライドチキン、オードブル。そこへ更にわっせわっせと口田と障子がチーズフォンデュのセッティングがされたテーブルを持ってきている。
生徒達の多くも準備万端。クリスマスといえば、な赤と白がトレードマークのサンタ服に身を包んでおり、真面目な飯田はそこに大きな袋と豊かなつけ髭までつけてすっかりサンタ気分。
後はキッチンで戦っている砂藤が来るのを待つばかり……というところで雑談中。話題に上がるのはホームルームでされた話について。
「インターン行けってよー……雄英史上最も忙しない一年生だろコレ」
「行くなって言う先生もいたり制限かけられたりしたのにな」
ヒーローインターン。これまでの雄英の方針は『万が一があるからやめとけ。でも強くなって欲しいから信用のある事務所限定で行っていいよ』というものだった。
それが今日になっていきなり『全員インターンに行ってもらう』になった。未だインターン未参加の者は勿論のこと、またインターンに行きたいと思っていた経験者達もこれには驚かされた。
しかし悩むのはインターン先。経験者は一度訪ねた事務所を再び訪ね、未経験者であっても体育祭後に指名を貰っていればそこでインターンに参加できるのだが、どうも今回はそうはいかないようだ。
例えば緑谷。彼のインターン先はサー・ナイトアイ事務所だったが、連絡を取ったところ『諸事情あって今は難しい』という返事だった。
例えば爆豪。未だインターンに参加できていない彼はベストジーニストの下で職場体験を行った。その縁を頼りにインターンを申し込むつもりだったのだが、そもそも連絡がつかない。
「二人はまたリューキュウだよね」
「そやねぇ。耳郎ちゃんは?」
「それがさー……何か色んな所から『うちの事務所に来ない?』って来てて悩んでるんだよね」
「え、そうなの?」
耳郎はその逆。職場体験と同じくギャングオルカの所に行こうと思っていたのだが、何故かここに来てスカウトが増えているという。
本来インターンは生徒側の任意で参加するものであり、事務所側からのスカウトは何年か前からご法度になっているのだが……何故かいくつかの事務所が匂わせるような形でグレーゾーンなスカウトをかけているという。
ちなみにその事務所はレディ・ナガンやホークス、エンデヴァーと何か共通点が見えてきそうな所ばかり。何でやろな。
「おオい!! 清しこの夜だぞ! いつまでも学業に現抜かしてんじゃねえ!!」
「斬新な視点だなおい」
「まあまあ、峰田の言い分も一理あるぜ? ご馳走を楽しもうや」
「「「料理もできるシュガーマン!!」」」
が、それはそれ。これはこれ。クリスマスの夜くらいは小難しいことを考えなくてもいいじゃないかと峰田の意見に賛同した砂藤がローストターキーをもって現れた。うおっ、デッカ……。
そこへタイミングよく入口のドアが開かれる。遅くなったことを詫びながら入ってきたのは相澤。流石に相澤はサンタ姿ではなく捕縛布をマフラーのように巻いたいつものスタイルだ。
一瞬入り込む冷たい空気。しかしそれも気にならないほどのゲストが相澤の後ろに控えていた。
「とりっくぉあ、とりとー……?」
「違う混ざった」
「サンタのエリちゃん!」
A組の皆と同じくサンタ服を着込み、僅かに頬を赤くした小さな女の子……エリちゃんがポテポテと前に出てきた。
これにはA組も仰天。フワモコな装いのエリちゃんを見てにわかに騒がしくなる。
「かっ、可愛い〜!」
「似合ってるねえ!」
「おにわそとおにわうち」
「それも違う」
これまでがこれまでだった為か、どうもイベントに疎い様子。ハロウィンや節分まで混ざっているし、なんならタマゴに絵を描いたよとイースターエッグまで用意していた。あら可愛い。
サンタ帽の下からひょっこりと覗く角も大きくなっているけれど、あれから個性制御の練習を頑張っており、今は暴走の懸念もないと言う。
「それじゃ、ピアノよろしくね」
「おう。こっちからだよな?」
「エリちゃんもいるからね。子供向けの方からやんないとついてこれないし」
メニューも役者も揃った。楽しい楽しいクリスマスパーティーの始まりである。
「あれ食べてみたい」
「これかな?」
「オイラのが近いから取ってやるぜ」
「何で俺までこんな格好しなきゃなんねェんだよ……」
「まあまあ、ほれ。チキン美味いぞ」
「ジュースいるか?」
「けっ……」
「相澤先生。飲み物をどうぞ」
「ん……ああ、悪いな。ありがとう」
「先生もサンタ服着ませんか!?」
「いや俺は流石に……まて八百万、創ろうとするな」
『フミカゲコレモ食エ。美味イラシイゾ』
「待てまだチキンがある。というか勝手に取りに行──モガッ
「……大丈夫か?」
「
「【黒影】に口の中に捩じ込まれてる……」
耳郎のギターと森岸のピアノを伴奏にクリスマスソングを歌いながら、或いはBGMにしながら。今日という夜を楽しんでいる。
エリちゃんは初めてのクリスマスパーティー。何もかもが新鮮に映る中、美味しそうな料理に目を惹かれていた。
やや不貞腐れたような爆豪も無理やりサンタ服を着せられており、宥めるように砂藤や切島が飲み食いを勧めている。
一歩分ほど引いた場所に座っていた相澤には障子が飲み物を持っていくと、それに気づいた麗日にサンタ服を着ないかと誘われる。やんわり断ろうとした時には既に八百万が【創造】し始めていたので渋々着ることになった模様。
「それでは……プレゼント交換の時間だ!」
「お、待ってましたァ!」
粗方料理を楽しんだ頃、やはりクリスマスといえばプレゼント。しかし残念ながら雄英のセキュリティは万全なのでサンタクロースとて入り込むことは不可能である。
なのでプレゼントは自前で用意。それに紐を結んでシャッフルし、選んだ紐に繋がっていたプレゼントが貰えるというクジ形式のプレゼント交換会に。
尚、うっかりエリちゃんに峰田あたりが用意したプレゼントが当たるとマズイと判断し、エリちゃんの分だけは仕込みを入れることに。資金提供は相澤、プレゼント選びは森岸と麗日と梅雨ちゃんの三人だ。
「紐は持ったな? それじゃ……せーの!」
いざ結果発表。一斉に紐を引っ張りプレゼント交換会。
「カエルの手鏡……梅雨ちゃんのかな? あ、耳郎に俺のやついったのか」
「ダンベルだー! 重ーい!」
「お、セーター……って、何だこのキャラ!? ガンリ、キ……ネコ……?」
「バスケットボール……山田がやってたりするか?」
「きき、金塊……!? 八百万君! ちょっと話したいことがあるんだが!!」
「お餅だ! ん……?」
「オールマイトストラップ! へ?」
「…………え、えっと……」
「え、えへへ……?」
「エリちゃんはどうだった?」
「ぬいぐるみさんだった!」
「あら可愛い。よかったねぇ」
「レックスさんは……?」
「俺? 俺はこれ。でっかい剣」
「カッコイイ……!」
素直に喜ぶ者、微妙な顔をする者、何か照れくさい事になった者……結果は様々。
相澤からは『GANNRIKI NEKO』なるキャラクターがプリントされたセーターが提供されていたらしく、上鳴が見事にそれを引き当てた模様。うわ何だこのサイケデリックなカラーリング。
自分の趣味やセンスで選んだらしい物を受け取って喜ぶ者もいれば、ちょっと想定外というか金額的にマズイ物を受け取った委員長がいたりとワイワイガヤガヤ。
「青山……お前……」
「僕のブロマイド☆嬉しいでしょ?」
ちなみに峰田はとびきりの大外れを引いていた。流石にちょっと同情する。
◇
「やー……楽しかった」
「やっぱ腕鈍ってたな俺。どっかでちゃんと錆落とししとかないと……」
「そう? 結構良かったと思うけど」
クリスマスパーティーが終われば後片付け……なんだけども。何故か芦戸さんと葉隠さんから『いーからいーから!』って免除された。何でだ。
今は響香の部屋から持ってきた楽器を片付けてそのまま響香の部屋でくつろぎ中。サンタ服嫌いじゃないけど静電気がちょっと……。
文化祭のライブではヤオモモがキーボードやってたし、しばらく触ってなかったからやっぱり腕が鈍ってた。事前に練習してなかったらもっと悲惨だったかも。
「……クリスマス、恋人と二人きり。何も起きないはずもなく」
「それ自分で言う?」
「そういうのって女子より男子のが欲求が強いと思ってたんだけど、詠士はどうなの?」
「あー……あるにはあるし、相澤先生からの忠告がなかったらしてた、かも?」
「疑問形かあ」
いきなり何を言い出すのかな響香ちゃんや。
まあそういう事をしたいのかと言えばしたいけども。流石にクリスマスだからで許されるラインでもないし。
ついでに言うとそういう雰囲気にもならないというか……それこそクリスマスに恋人と部屋で二人きりとなればもうちょい甘い雰囲気になりそうなもんだけど。
こうしていつもみたいに膝の上に座ってもらってるだけでも満足しちゃってるしなあ。ここから性欲にいかないのも我ながら変だとは思うが。
「そういやインターン先どうすんの? 何か色々来てたらしいじゃん」
「んー……ちょっと気になるのはレディ・ナガンとエンデヴァーかなあ。やっぱ強い人の所で鍛えたいじゃん?」
「ホークスは?」
「なんかヤダ」
酷い。否定はできないけど。
ちなみに俺はエンデヴァーの所行くよ、と伝えたら「じゃあウチもエンデヴァーんとこで」と言い出した。それでいいのか。
どうせ行くなら俺と行った方が気楽だからとは言うけども。まあ俺としても響香が来てくれるなら嬉しいし、いっか。
「詠士こそミルコとかホークスとかじゃなくていいの?」
「エンデヴァーのとこでのインターンが不完全燃焼に終わったからね。もう一回いってちゃんとしたインターンを最後までやりたいかな」
「そういえばそうだっけ」
それで言うとナガンさんには少し申し訳ないな。いつかインターンに行きますって言ってこれだし。二年生になってからでも大丈夫だろうか。
ホークスに関してはノーコメント。そもそもあの人の所に行ってもどうせどっかで公安が噛もうとしてくるのが目に見えてる。
「……そっか、もうすぐウチら二年生になるのか」
俺の言葉にふと思い出したのか、響香はそんな事を呟いていた。色々あったもんな。まるで実感がない。
今日のパーティーも楽しかったし、A組の皆といるのはとても居心地がいい。それでもいつか終わりの時が来る。雄英生から一人のヒーローとして巣立つ時が来る。
まだあと二年もあるのにそんな事を考えてしまう。それは響香も同じだったようだ。
「……俺は最後まで一緒にいるよ」
「ん、知ってる。でもありがとね」
それでも俺と響香が離れ離れになる事はない。多分というか確実にヒーローデビューしても同じ事務所でやるだろうし。
……どっかで一回ちゃんと響香のご両親に挨拶しに行くか。何か『娘はやらん! って下りを一回やってみたいんだよね』とか言ってたし。
「そろそろ俺も部屋に戻るわ。もうすぐ女子の風呂の時間でしょ」
「あ、本当だ」
さて……後は男子棟に戻った時の峰田をどうすべきか。そんな事を考えながら俺は響香の部屋を後にした。
芦戸「で、どうだった!?」
葉隠「ついにヤったか!?」
耳郎「いや流石にしないから」
芦戸「ちっ」
葉隠「ちっ」
耳郎「おいコラ」
峰田「リア充死すべし慈悲は無い」
上鳴「やめとけよ。勝てねえって」
森岸「【スピオキルト】使いまーす」
峰田「男には引けねえ時があるんだよォ!」
上鳴「絶対今じゃない」