Q.森岸が攻撃魔法使えたらどうなってたの?
A.こいつ弾切れと無縁だから最終的に最上位攻撃魔法がずっと飛んでくるようになる。
Q.他のヒーローで例えると?
A.エンデヴァーが最初から最後までずーっと最高火力を撃ち続けてくるようなもの。しかもどこから飛んでくるか分からないオマケ付き。
Q.ヤバくね?
A.ヤバい。
放課後。雄英体育祭に備えて準備をしようと考えていた1年A組。
中でもオールマイトから提案された通り、相澤の元を訪ねるつもりでいた緑谷はすぐに教室を出るつもりでいたのだが。
「うおおお……何事だあ!?」
「出れねーじゃん! 何しに来たんだよ」
いつもなら自分達と教師以外が通ることのない出入口を、多くの雄英生達によって塞がれてしまっていた。
そこにいるのは全員が一年生。好奇の視線を向ける者もいれば、明らかに友好的ではない目を向けている者もいた。
一体何故、という麗日や峰田の疑問に対し、眉間に皺を寄せた爆豪が答えた。
「敵情視察だろザコ」
「ザッ……!?」
「
「知らない人のこととりあえずモブと言うのはやめたまえ!」
「本当に口悪いなお前……」
不機嫌に吐き捨てる爆豪。ザコと言われた峰田は絶句し、他人への口の悪さに流石にツッコミをいれる飯田と森岸。それはそう。本当にそう。
さしもの彼らも初対面の人間に真正面から罵倒されるとは思っておらず、たった一人の同年代に怯まされてしまう。
「……どんなもんかと見に来たが、随分偉そうだなあ」
しかし一人。人混みの奥から気圧されることなく声を上げた男子が前に出てきた。
どこかダウナー気味に見える普通科の生徒。雰囲気に反して彼の目は爆豪を真っ直ぐに睨みつけている。
「ヒーロー科に在籍する奴は皆こんななのかい?」
「あ゙あ゙!?」
「んなわけあるか!?」
「こういうの見ちゃうとちょっと幻滅するなあ……」
それは外れ値も外れ値だぞ普通科の少年。後ろから森岸も抗議しているが聞き入れてはもらえなかったようだ。
曰く、普通科や他の科には『ヒーロー科に落ちたからこっちに来た』という者が結構多い。
それが諦観によるものか妥協によるものかはさておき、雄英はそうした者達にもまたチャンスを与える。
体育祭。そこで優秀な成績を残すことができれば、ヒーロー科への編入も検討されるというのだ。そしてその逆もまた然り。
「敵情視察? 少なくとも
「調子のってっと、足元ゴッソリ掬っちゃうぞ───って宣戦布告しに来たつもり」
あまりに大胆な宣戦布告。迷惑そうにしていたA組にも緊張感が走る。爆豪も普通科の男子も退く気配は無い。これが上を目指す者とそうでない者の違いというものだろうか。
僅かな沈黙が巻き起こる──が、長くは続かない。再び人混みの奥から誰かの声が上がった。
「隣のB組のモンだけどよぅ!!」
「あ?」
「敵と戦ったっつぅから話聞こうと思ってたんだがよぅ!!エラく調子づいちゃってんなオイ!!」
B組……同じヒーロー科だ。メタリックな体の男子の言葉に自分達が想像以上に注目を集めていることを自覚させられる。
とはいえだ。先の事件もあるだろうが、少なくともこの場ではどう考えても爆豪によるヘイトが大きい。
爆豪の後ろにいた飯田、緑谷、麗日から『お前……』的なニュアンスの視線が突き刺さる。
これに爆豪はノーリアクション。ちょっと待てい、と切島が引き留めようとするがそれでも彼の態度は変わらない。
「関係ねェよ……上に上がりゃ関係ねェ」
「く……! シンプルで男らしいじゃねえか」
「上か……一理ある」
「騙されんな! 無駄に敵増やしただけだぞ!?」
彼の言葉に納得を示す者もいるけれど、上鳴や峰田のように『いやふざけんなテメェ』と思う者も。
しかし爆豪が発言してしまった以上はどうしようもなく、体育祭までの二週間で腹を括るしかないのかとガックリ肩を落としていた。
◇
「どうした、遅かったな」
「やー……ちょっと他の学科の敵情視察があって……」
「ああ、毎年恒例のあれか。いつもならもう少し後にあるんだが……事件の影響で早まったみたいだな」
えっ、あれいつものことなの……? と困惑する緑谷と森岸を余所に相澤はテキパキと準備を進めていた。
雄英にはいくつもの訓練用施設が存在しており、授業の目的によって使い分けができるようになっている。
その中でもここは一際シンプル。セメントスによって考案された床一面がセメントでできた体育館γ、またの名を───
「『
「先生! 夢の国はシャレになりませんぜ!?」
「セーフだ。あくまで略称だし俺達が勝手にそう呼んでるだけだからな」
「いいんですかそれ……」
ちょっとD社がエレクトリカルな軍勢を率いて著作権料取り立てに来たりしませんかねその名前。大分屁理屈ですぜ相澤さん。
というか名前にツッコミをいれる時間はない。ただでさえ確認しなければならない【魔法】の数が多いのに、緑谷の個性制御問題というタスクまで増えてしまっている。
やっぱプロヒーローでも疲れるんだなあ、と思ったそこの貴方。単なる疲労ならそこの森岸が【ホイミ】か【ベホイミ】で帳消しにしてくれるぞ!
じゃあ何で相澤先生の目が死んでるのかって? それはね、身体は癒せても心は癒せないからだよ。
「……まあいい。森岸の【魔法】確認は体育祭の後でもできる。まずは緑谷、お前の問題から解決しよう」
「はいっ!」
「え、俺は?」
「負傷した時の治癒役……それと、お前も手伝ってやってくれ。ある意味緑谷はお前と同じくらい危なっかしい」
心外だ! と緑谷&森岸。お前らどっちもどっちだろ。相澤もため息ついてるし。
大前提、緑谷は個性を
まず当の本人がどんな感覚で扱っているのかを確認してみると、どうにも要領を得ない。普段の分析力はどこへやら、グッだのガッだの擬音を羅列して才能任せのような説明しかしてくれない。
「お前誰に教わったんだ……? よくそんな感覚で入試に挑めたな」
「うっ……」
「その人本当にプロヒーローか? もしプロヒーローならよっぽど教えるの下手くそだったんだな」
……勿論読者の方はご存知の通り、緑谷に【ワン・フォー・オール】の使い方(?)を伝授したのはオールマイトその人。No.1ヒーローボコボコに言われてますよ。
それもそのはず、名選手が名コーチとは限らないように、オールマイトは【ワン・フォー・オール】を受け取ってから個性の使い方に悩んだことは一ミリもない。
私は普通にできたよ? としか言えないコーチの元で大成できる選手がどこにいるというのか。その普通にできるようになる方法を教えろっつってんだろうが。
そりゃあ弟子としては師匠から言われた通りにしか語れないわけで。担任どころか同級生にまで『ないわー』と言われてもどうしようもない。
しかしそこはプロヒーロー教師。相澤はなんとなく緑谷の欠点を理解していた。
「そもそも……お前の使い方は極端が過ぎる」
「極端……ですか?」
「例えばパンチを打つとして、お前はパンチを打つ腕に個性のパワーを全部乗せている」
パンチとは極論拳を握って腕を振り回せば誰にでもできる動作である。
だが、子供が泣きわめきながらグルグルと振り回しているパンチと、空手を習い始めた子供による覚えたての正拳突き。この二つは同じ威力になるだろうか?
当然答えはNo。ただ何も考えずに振り回したグーと、構えをとって正しく力を伝えようとする拳が同じであるはずがない。
パンチとは何も腕さえ強ければいい訳ではない。踏ん張る足、反動に負けない腰、真っ直ぐに振り抜く関節、硬く握った拳……全てが揃って初めて強いパンチが打てるのだ。
だというのに緑谷は腕のみに力を込めてしまっている。あの超パワーを支える他の肉体を無視し、腕に全てを集約させてしまっている。
「あれだよ緑谷。3万円で服一式買ってこいって言われて靴下に3万円使う奴いたらどう思う?」
「何だその例え」
「……! そうか! そういうことだったんだ!」
「お前もそれで伝わるのか」
例えはアレだが緑谷はなんとなく理解できた。
今までは100の力を全部腕に注ぎ込み、100の力に耐えられず腕を損傷させていた。
ならばその100を全身に均等に配分すればいい。100の負荷を腕だけじゃなく、全身で請け負う。
「……待て。まだ使うな」
「え」
「お前の分配する、という考え方は間違ってないとは思うが……あの様子だとそれでもまだ危ないぞ。怪我の程度は下がっても全身を傷めることになる」
「【スカラ】使います?」
「それがいいだろうな。まずこいつの強化で安全性を確認してからの方がいい」
というわけで緑谷に【スカラ】を使用。それから緑谷は全身に【ワン・フォー・オール】を回していく。
傍から見ていても分かる、エネルギーが迸っていく光景。過剰なまでのエネルギーはやがてスパークのように全身を駆け巡り──緑谷の悲鳴が上がった。
「い゙っ……!?」
「んー、これでもダメか」
「…………?」
一度の【スカラ】で受け止められない負荷が緑谷の身体を襲ったらしい。骨折とまではいかずとも、全身が攣ったような感覚に苛まれた。
ならばもう一度【スカラ】を重ねるか、としようとして相澤がそれを止めた。
「さっきから見ていて疑問だったんだが……緑谷」
「は、はい……?」
「お前、何で
「…………え?」
相澤が緑谷の個性を使う瞬間を見るのは、個性把握テスト、対人屋内戦闘訓練の映像から続いてこれで三度目になる。
その度に何か違和感を覚えていた相澤だったが、今ようやくそれを理解した。個性の扱いに慣れていないというのもあるだろうが、緑谷は0か100かの使い方しか知らないのだと。
それはつまり、現時点で耐えられる出力を100~1の間にピンポイントで合わせようとしているということであり、あまりにも非効率的である。
「1ずつ上げていって無理のないラインを探ればいいだろう。制御が覚束ないというのなら、多少ブレても問題ない領域で留めればいい」
「…………確かに」
「ああ、そういうことか。0か100を更に一極集中させてたからあんな挙動になってたのか」
纏めるとこうだ。
緑谷の【ワン・フォー・オール】の使い方はオンかオフの二択しかなく、オンにすると負荷が強すぎて損傷が起こる。
その上でオンにした【ワン・フォー・オール】を身体の一部に集中させて使おうとする為、本来全身で受け止めるはずだった負荷が一部に集約される為重傷となってしまっていた。
ならば解決策も見えてくる。
まず【ワン・フォー・オール】をオンとオフの二択ではなく0から100までの段階を作る。そして【ワン・フォー・オール】を身体の一部に集中させるのではなく、全身で均一に扱うようにする。それだけでいい。
「ならむしろ【スカラ】邪魔になりますね。解除しときます」
「ああ、そうしろ。それじゃあ……やってみろ緑谷」
「っ、はい……っ……!」
結論から言うと、緑谷は無事に【ワン・フォー・オール】の制御に成功した。
これまで一点に集中させていたエネルギーを薄め、全身に回すことで負荷を解消。このまま続けても骨ひとつ筋繊維一本まで無事だろう。
問題はその後。やはり制御においては稚拙と言わざるを得ない為、発動させた状態で動くにはぎこちなさが残っていた。
「ぐっ……むず、かしい……っ……!」
「そう慌てなくていい。とりあえず一歩前進したんだ」
「そうそう。怪我したら治してやるし、そんな固くなるなって」
歩行や走行がやっとで、殴る蹴るには程遠い。物を掴んだり投げたりするには更なる時間を要するだろう。
とはいえキッカケは掴めた。ならば後は繰り返し積み重ねて物にするだけ。緑谷はそれを【フルカウル】と名付け、一層トレーニングに励んだ。
「……待って、今の何?」
「【ぺスカトレ】って言って踊りを封じ込める【魔法】だぞ」
「どこで使うの!?」
尚、その傍らでちょくちょく意味不明な挙動の【魔法】を見せられ途中からグダグダになっていたり。
「先生どうです? 踊れませんよね?」
「…………本当に踊れん。何だこの【魔法】」
「相澤先生今踊ろうとしたんですか!?」
楽しそうでなにより。
・ぺスカトレ
8にのみ登場した呪文。その効果は『踊りを封じる』というどう考えてもモンスターズに需要しかないもの。でもモンスターズにはない。なんでやねん。
感想でも『踊り封じ』という特技の方を思い浮かべていた方が見られた。むしろ【ぺスカトレ】分かる人いるんだと思ったくらいにはマイナー呪文。
ちなみに過去に10のゲーム内イベントの五択クイズにてこの【ぺスカトレ】の効果を問題として出題されていたが、その時の正答率は77.3%と以外にもそこそこ高かった。思ったより認知されてるのかこれ。
森岸「ちなみに何踊ろうとしたんです?」
相澤「〇ーラン節」
緑谷「何故!?」
相澤「唯一覚えてる踊りだったから」
森岸「もっとこう……あったのでは……?」