魔法って言うならもっとこう……あるだろう!?   作:南亭骨帯

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 Q.【イオナズン】の被害はどのくらい?
 A.食らったヒーローが軽い火傷を負ったり骨にヒビが入ったりした。どちらかというと吹き飛ばされて落下した際の骨折の方が痛い。

 Q.本当に【ギガデイン】だったの?
 A.ナインが使えるデイン系の最高出力なので【ギガデイン】だったのは間違いない。

 Q.【シュガードープ】並って弱くない?
 A.元の個性に+αで増強型が増えたようなものなので充分強い。なんもかんもオールマイトのせい。





119.Lv差はどうしようもない

 

 

 

 人間とは慣れる生き物だ。

 

 

 どんなに素晴らしい体験をしようとも、それを二回、三回と繰り返していくうちに感動は薄れ、いつしかそれが当たり前にすら感じられるようになる。

 

 逆もまた然り。どんなに辛い経験をしようとも、同じく繰り返していればいつの間にか何も感じなくなってしまう。

 

 

 しかしこれはあくまでも感覚の麻痺でしかない。飽きるほど食べたご馳走であっても腹は膨れるし、痛みに慣れていても致命傷を受ければ絶命する。たとえ受け取る感覚が鈍っていてもそれに伴う結果まで軽くなるわけではない。

 

 つまりだ。どんな事柄に対してもそうだが"慣れ"と"耐性"は別物。感覚が鈍った事と身体が耐えられているかはまた別の話。そのはずだ。

 

 

 

「馬鹿な……!? 何かの間違いだ!」

「いや……こっちのセリフなんだが。強そうな奴来たと思ったら入学当初の上鳴より弱いって……」

「今俺しれっとディスられた!?」

 

 

 

 超常前であれば誰もが鼻で笑うような理論。例えば『ちょっとずつ毒を摂取すれば耐性がつくやろ』というような暴論。

 

 実際はただ身体が毒物の影響に慣れてしまう事で反応が鈍くなるだけで、毒物自体はしっかり効いてしまう。何なら毒物の影響に気づけないまま死ぬことすら有り得る。

 

 しかし超常社会。個性発現前の常識が今も通用するかと言われるとそんなはずもなく。【魔法】を10年以上自分に使ってきた森岸に対して【魔法】で攻撃したらどうなるのか。

 

 答えは簡単。森岸はこの世で誰よりも【魔法】耐性がついた存在。他のヒーローであればそれなりのダメージになっていたであろう【ギガデイン】を受けたとて……

 

 

「【ベホイミ】一回分くらいのダメージにしかなってないんだけど……え、お前本当に幹部? 名も無き構成員じゃなくて?」

「貴様ァッッ!!」

 

 

 心の底から本当に、本当に困惑していた。

 

 だってそうだろう。奪われた自分の腕から個性を複製され、それを持った敵が現れた。

 

 どう考えても絶望やら怒りやらがはち切れそうなシチュエーションだというのに、いざ攻撃を受けてみれば今の同級生よりも弱いくらいの威力だった。肩透かしなんてものではない。

 

 

 

 本人達も知らぬ事だが、もうひとつの理由が【スピオキルト】や【スクルト】にあった。

 

 それらの【魔法】の共通点は『防御力を上げる』という効果。酷く曖昧な説明だが森岸としてもこう説明する他ないもの。

 

 だが、それがナインにとって致命的なものとなっていた。

 

 というのも森岸の【魔法】によって起こる防御力の強化は、同じ【魔法】によるナインからの攻撃に対してあまりにも効果があり過ぎたのだ。

 

 同じ魔力から生じた現象故か、通常の個性や物理的な攻撃よりも更に大幅にダメージが軽減されており、実際には雄英入学当初の上鳴の放電をも下回る程度のダメージしか届いていない。

 

 某ポケットなモンスターで例えるなら、森岸には【魔法】による攻撃が『こうかはいまひとつのだようだ……』で、そこへ防御力強化を行うことでダメージを更に半減されている。

 

 つまるところ森岸はナインにとってあまりにも天敵が過ぎた、相性最悪の存在だった。

 

 

 

 で、それを把握していない森岸は本気で困惑しており、逆にナインは馬鹿にされたと思い顔を赤くするほど怒りを滲ませている。

 

 

「ふざっ、ふざけるな!!? 今のは何かの間違いだ!! 喰らえ【バギクロス】!!」

「!」

 

 

 当然受け入れられるはずもないナインは怒りのままに次の【魔法】を発動。圧縮された巨大な竜巻の塊を森岸目掛けて放ち──ハエでも追い払うようにペチンと叩き落とされた。

 

 受け入れられないを通り越して悪夢を疑い始めたナインの目の前で、森岸は眉間に皺を寄せながら手の甲を掻いてボソッと呟いた。

 

 

「……痒い。長く拍手した後みたいな痒さ」

「っ…………!! っ、っ……!!」

 

 

 森岸からすれば一言一句余すことなくただの本音。ナインを煽るつもりなど毛頭なく、素直な感想をそのまま口にしているだけなのだが……それが余計にナインを苛立たせる。

 

 ならばこれはどうだ、と次から次へと今の自分が使える【魔法】を片っ端から森岸へと向けて放った。

 

 

 【ベギラゴン】と唱える。ナインの手から閃光が迸り、灼熱となって森岸へ襲いかかる。森岸に衝突したあと火の粉を残して消え去った。

 

 【マヒャド】と叫ぶ。巨大な氷塊が現れ、冷たい大質量でもって押し潰さんと解き放つ。顔色ひとつ変えぬまま腕の一振りで砕かれた。

 

 【イオナズン】と唱える。数度の瞬きの後に強烈な爆発が巻き起こる。モクモクと漂う黒煙が晴れた後に煙たそうな顔をした森岸が立っていた。

 

 【ドルモーア】と声を張り上げる。常闇が好きそうな見た目をした闇のエネルギーの塊が生み出され、隕石の如く森岸へと放り投げられた。森岸は呆れたように溜息をついて一言。

 

 

「……【マホカンタ】

「なっ────ぐおおおおおっ!?」

「なあ、わざわざ【魔法】対策用の【魔法】作った時間返してくんない?」

 

 

 かつて爆豪の【榴弾砲着弾(ハウザーインパクト)】を完璧に跳ね返した【アタカンタ】の【魔法】専用版。そのままの名前な【マホカンタ】で【ドルモーア】を跳ね返した森岸はつまらなさそうに吐き捨てた。

 

 今の一撃だって森岸からすれば普段の【黒影】のパンチ以下のダメージにしかならない。受け止めた所で大したダメージにもならないが、使いどころがなくなったと思われる【魔法】を試す為だけにわざわざ跳ね返したのだ。

 

 するとナインにとってはまあまあ普通にヤベー攻撃だったらしく、闇のエネルギーが爆ぜた先で満身創痍で倒れており、奇妙な形のマスクも砕かれて有り得ないものを見るような目でこちらを見つめていた。

 

 

「ええ……めっちゃ効いてる……」

「ぐぅ……っ……!? な、何故だ……!?」

 

 

 ここまでくるといっそ哀れみすら覚える。恐らく森岸がいなければそれなりに脅威に思われたであろう男は、よりにもよって出撃直後に一番の天敵とかち合ってしまった。

 

 きっと森岸がいない環境ではその【魔法】を武器として暴れ回っていられたのだろう。実際、今までの戦いを見ていた他の解放戦士は信じられないものを見るような目を向けている。

 

 しかし残念なことにトップティアにはなれなかった。ここに『ナイン絶対殺すマン』みたいなメタカードがいた。生まれてからナーフまでがあまりにも早すぎない?

 

 

 よろよろと立ち上がるナイン。対して森岸は【ギガデイン】の僅かなダメージも回復して元気いっぱい。どう見ても既に決着は付いているのだが、ここで大人しく降伏できるのなら敵になんぞなるわけがない。

 

 ズタボロの身体に鞭を打って立つナイン。その目だけはギラギラと殺意に輝き、真っ直ぐに森岸を射抜いている。

 

 そしてナインはゆっくりと喋りだした。

 

 

「……確かに貴様は強い。どういうわけか、私の【魔法】がまるで通用しない」

「…………」

「故に、切り札を使わせてもらう……!」

 

 

 本当なら止めるべきなのだろうが、森岸はナインを哀れんでいた。だってその切り札とやらも多分大して効果がないと思っている。

 

 どんな【魔法】を使う気か知らないが、そもそも【魔法】という時点で森岸にはほとんど通らない。困るとすれば自分以外を巻き添えにするような超大規模攻撃くらいか。

 

 さあ、何が来る……森岸は無言でナインを睨みつけていた。そして。

 

 

 

───【ドラゴラム】!!

 

 

「……ん?」

 

 

 

 ナインの切り札は森岸の予想を大きく裏切るものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 昔……というか割と最近まで攻撃魔法というものに憧れがあった。

 

 その理由はあまりにもくだらない、子供の感性からでたもの。『補助や回復よりもそっちの方がヒーローっぽい』と思っていたから。

 

 実際ビルボードチャート上位にいるのはそういう『ヒーローらしい』個性を持ったヒーローばかり。ド派手な攻撃や映えるような技はカメラ越しでも人を惹きつけていた。

 

 

 攻撃魔法なんて使えなくてもいっか、と思えるようになったのはつい最近。具体的な時期をあげるなら仮免取得から文化祭あたりだろうか。

 

 派手なものがなくても人助けはできるし、皆に頼ってもらえるんだとようやく自覚できた。ついでに【ウイングブロウ】を始めとした派手なものも習得できたし。

 

 その時の判断は間違ってなかったんだなあ、とナインとかいう奴を見て思っていたのだが。

 

 

「……これで実質リューキュウの上位互換だ、ってか?」

『グルルルル……!!』

 

 

 いざ目の前でこういうのを見るとちょっとだけ心惹かれるものがある。俺の【魔法】と何がくっついたらこんなもんが生えてくるんだろうか。

 

 

 ナインが【ドラゴラム】と唱えた瞬間、急激にナインの身体が変化し始めた。

 

 まず最初に起こったのは膨張。まるで風船のようにナインの身体が膨らんでいき、次にその体から四つの脚が生えた。

 

 太く短い脚はお世辞にも見栄えが良いとは言えず、膨れた身体と相俟ってあまりにも醜かった。

 

 そこから更に変化が起こり、膨れた身体から五つの頭が生えた。およそ正気とは思えない真っ赤な目をした龍のような頭が五つ、全てが同時におぞましい雄叫びをあげた。

 

 その体躯は大体高さ10メートルくらいだろうか。控えめに言って怪獣映画に出てくるようなものに成り果てている。

 

 当然、戦場のど真ん中にそんなものが現れれば周囲の目も集まる。他の解放軍を相手していた響香や常闇、上鳴も慌ててこちらへと戻ってきていた。

 

 

「詠士! アレ何!? 何があったの!?」

「なんだあの怪物は……アレも脳無か?」

「すっげえうるさいんだけど! 何アイツ!?」

「えーと……さっきまで戦ってた奴がアレに変身したんだけど……何なんだろうな、アレ」

 

 

 名前からして『ドラゴンに変身する』的な効果なのだろうが、ドラゴンというにはあまりにも歪で不自然だ。

 

 ドラゴンっていうなら翼とかあってもいいだろうに、どっしり四足歩行。尻尾もあるにはあるが太い上に短いせいであってもなくても大して変わらない。

 

 頭が複数あるからヒドラとかヤマタノオロチ的な方面なのかとも思ったが、だとしたら頭の数が中途半端。五て。ヒドラなら九あるべきだし、ヤマタノオロチなら八いるだろ。なんだその半端な数。

 

 それに胴体部分がドラゴンってよりカエルっぽい。四足歩行で丸々としてるからカッコ良さよりキモイが先に来る。

 

 

「ドラゴン名乗る割にはセンスねえなアイツ」

「言ってる場合か! アレどーすんだよ!」

「どうって……そんなの決まってるだろ」

 

 

 確かに見た目は変わっちまったし、明らかに化け物になってるけども。その本体はただの敵だ。

 

 だったら俺達ヒーローがやる事なんて一つしかないだろう。

 

 

「あのデカブツをぶっ倒そう。ちょっとお前らも手伝ってくんね?」

「……いけんの?」

「いけるいける」

 

 

 俺の【魔法】と皆の協力があれば全然余裕で勝てる。だからちょっと耳貸してくれる?

 

 

「……思ったよりだいぶ現実的な案だった」

「アレ、何でだろ。急にいける気がしてきた」

「問題はどこに行けばいいのかだが……」

「小型無線あるから問題ないよ。常闇が行ってくれ」

「了解した」

 

 

 さーて、ちょいと古臭いかもしれんが……英雄譚と言えば『ドラゴン退治』は外せないだろう。

 

 ヒーローを目指すのならこれ以上なく絶好のシチュエーション。燃えないわけがない。

 

 

「んじゃ、行くぞ皆!」

 

 

 なってやろうぜ、ヒーローに。

 

 

 






・マホカンタ

 Ⅲにて初登場した『魔法を反射する』魔法。跳ね返ったものは術者に向かうようになっている。
 Ⅷまでは味方の回復や補助まで反射してしまうという欠点があり、相手の攻撃を跳ね返す以上のデメリット故にあまり使われなかった。【マホカンタ】状態になった本人が自分に使うものに限っては反射されずに効果が発動する。
 本作においては『魔力を消費して発動した効果全て』が対象。効果時間も【アタカンタ】と同じでとても短い。ちなみに【マホカンタ】使用前の補助魔法については無効。
 残念ながら本人の耐性の高さが仇となってほとんど使われない。というか今回の件が片付いたら二度と使わなくなる。


上鳴「【ギガデイン】どんな感じだったの?」
森岸「体育祭の時のお前のが強かった」
耳郎「個性伸ばし前より弱いのか……」
上鳴「思ったより全然効いてなかった」
常闇「唸ってなかったか?」
森岸「痛くないのに『痛い!』って声に出ちゃったのと同じ。身構えてたから変な声出た」

ナイン「」
ドクター「」


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