Q.罰緩くない?
A.まあまあ緩い。普通なら完全に除籍案件。でも雄英以上に爆豪を教育できそうな所がないので除籍できない。代わりに卒業するまで爆豪だけ管理が厳しくなる。
Q.森岸とか耳郎とかはいいの?
A.采配の時点で最前線なので特にない。ちなみに爆豪や緑谷が採用されなかったのは協調性の問題。もう少し会話ができるor冷静だったら最前線に採用されてた。
Q.正解って何だったの?
A.爆豪は論外として、緑谷と轟は素直にミッドナイトやセメントス辺りに報告しておけばよかった。もしくはホークスに言われた時点で引き返すか。
「……向こうもケリがついたそうだ」
殻木球大を捕縛布でグルグル巻きにした相澤はため息混じりにそう呟いた。
群訝山荘からの通信は蛇腔総合病院側全域に伝えられている為、わざわざ口に出さずともヒーロー達にはある程度伝わっている。
それを敢えて口に出したのは聞き漏らしたヒーロー達にも伝わるようにという意味合いと、殻木に悪足掻きが無駄に終わったという現実を突きつける為だ。
しかしその表情はお世辞にも明るいとは言い難く、むしろ眉間に皺を寄せている。どう見ても不機嫌である。
ニュースの内容と表情があまりにも噛み合わない。戦闘の最中で無線機を落っことしたプレゼントマイクは恐る恐る相澤へと尋ねた。
「あ、相澤……? 顔が怖えーけど……どうした?」
「………………帰ったら説教だな」
「本当にどうした相澤!?」
オールマイトと同じかそれ以上の気迫を出し始めた同僚にマイクは悲鳴を上げそうになった。
相澤は聞いた話をそのままマイクへと話す。群訝山荘側で本来前線に出る予定のなかった爆豪、緑谷、轟の三人が勝手に前線に出てきてしまった事を。ヒーローの指示をガン無視してリ・デストロに戦いを挑みにいったという話を。
マイクは頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。何してんだアイツ。
「今年度の一年生は一人も除籍されねえまま終わるかなーって期待してたのによぉ……最後の最後でやってくれたな爆豪リスナー……」
「……まあ、思えばあのベストジーニストですら矯正不可能な問題児だ。時間の問題だったよ」
ショックではある。しかしそれ以上に『まあいつかやるだろうな』とも思っていた。
元々教師から見た爆豪は自尊心と向上心の塊という評価。そんな彼の目の前に森岸や緑谷といった自分と同じかそれ以上に優秀な同級生がいれば、どこかで何かしらやらかすだろう……とも。
それがよりにもよってこんな大規模かつ重要な役割作戦で起こるとは。流石の相澤達でもこればかりは予想できなかったらしい。
ついでに言えば緑谷もそうだ。合宿の時にも似たような事をやらかしていたし、教師達も薄ら危惧してはいた。
緑谷の『救けを求める人を見かけたら体が勝手に動いてしまう』というのは美徳ではある。でも時と場合くらいは選べるようになって欲しい。
轟については多少同情の余地はある……というか前二人が酷すぎて相対的にマシに見える。強いて言うなら『大人を頼ってくれ』としか。
今回の後始末だけでもやる事が山積みになっているというのに、余計な手間を増やさないで欲しい。教師の生々しい悩みをため息と共に吐き出しながら、二人は顔を上げた。
二人の視線の先にあるのはハイエンド脳無やウォルフラムとの戦いで散々に破壊された跡が残る研究室。
相澤は地面に転がっていた比較的無事なケースを一つ手に取ると、縛り上げた殻木の目前へと突きつけた。
「で、どれが何だ? さっさと吐け」
「……そこら辺に転がっとるのは複製培養しとった個性因子じゃ。培養液が漏れたヤツは使い物にならんよ」
「うえ、これ全部個性かよ」
イレイザーヘッドとプレゼントマイクに任されたのは殻木球大の尋問。研究室内の残骸から正体を確認しつつ、危険なものや脳無が残っていればその場で処分を許されている。
今しがた相澤が手に取ったのは【エアウォーク】とラベリングされたケース。中に入っている個性因子の名前だろう。
「こっちのデケェ培養カプセルは?」
「脳無のデータ採取 兼 維持装置じゃよ。起動や調整を行う設備でもある」
「……これで作ってるわけじゃないのか」
「当たり前じゃ! 適当な薬品に漬け込んでできるような代物ではな──痛たたたた!?」
「聞かれたこと以外を喋るな」
何かを知る度に怖気が走る。同じ人間がやる事なのかと疑ってしまう。人の命をなんだと思っているのかと胸ぐらを掴みあげたくなる。
だが既に戦いは終わっている。殻木の身柄をどうこうする権利は相澤達にはない。後は法の下で裁いてもらう以上のことはできない。
ただでさえ黒霧……白雲朧の遺体を弄ばれた身だ、許されるのならばこの場で全身の骨をへし折ってやりたいとすら思っている。
それをグッと堪えつつ、二人は淡々と尋問を続ける。これはなんだ、あれはどういった用途なんだと一つずつ情報を集めていた。
もう何個目かのケース。しかし明らかに特別な何かだと思われる、雰囲気が異なるケースを相澤が手に取った途端、殻木の雰囲気が一変した。
「あああああああ! それから手を離さんか愚か物が!!」
「っ!? うるせえないきなり! これが何だってんだよ!!」
「いいから手を離さんか! それは貴様らヒーロー如きが触れていいものではない!!」
これまでの諦観に満ちた態度から一変、激しく怒りを露わにして相澤達を怒鳴りつけた。
しかし今の殻木は捕縛布でグルグル巻き。どれ程凄もうともジャンプスケア一回目以上の効果はなく、ギャンギャン喚く殻木の捕縛布を締め上げて黙らせながら、ケースについたラベルを確認する。
そこにはこう綴られていた。
「…………!?【オール・フォー・ワン】!?」
「なっ……!?」
神野にて散った魔王の名にして個性。【オール・フォー・ワン】の文字を目にした二人は動揺を隠せなかった。
【オール・フォー・ワン】……他人の個性を奪い、与える能力。超常社会で支配者にも救世主にもなり得る力。
そんな個性すら複製できてしまうのかと相澤達は戦慄していた。しかし。
「ぐ……それは、オリジナルじゃあ……」
「……オリジナル?」
殻木はそれを否定した。そして全てを諦めたらしい殻木は再びさめざめと泣きながらオール・フォー・ワンの計画の全貌を語った。
まず、殻木が口にした『オリジナル』という言葉の意味。それは今相澤が手に持っているケースの中にあるものが元々オール・フォー・ワンが持っていた方の個性因子であり、タルタロスにいる魔王が持っている方が複製した個性なのだとか。
複製した個性因子の方が優秀……なんて事はない。むしろ失敗の可能性を考えれば生まれ持った個性因子の方が確実性はある。
では何故わざわざ同じ個性を複製したものと取り替えたのか。今度こそ相澤達は言葉を失った。
「敗北を予期した彼は後継に全てを託す気だった……己の個性を渡すつもりだったのじゃよ」
「そうして彼は……死柄木弔の肉体と精神を乗っ取ろうとしていた」
「全ては【ワン・フォー・オール】を手に入れるために……」
悍ましいとか、恐ろしいとか。そういう次元ではなかった。理解すら及ばない、何を言っているのか分からなかった。
しかし、それでも最後に残る疑問はたった一つ。
「……何故、そこまでして?」
聞けば聞くほど分からない。それ程の力を有していながら、何故オール・フォー・ワンは敗北したのか。何を気にすることもなくその力を振るわれていれば、とっくにヒーロー社会など破滅していた。
それを【ワン・フォー・オール】とやらの為だけに多くの人間の人生を狂わせて、一体何がしたかったのか。
殻木は答えない。いや、答えられない。殻木とてオール・フォー・ワンの全てを知るわけではない。首を緩く横に振った。
「……何にせよ、死柄木弔が使い物にならなくなった時点で計画は振り出しに戻っていた。もう一度初めから同じことをするにはワシ一人ではどうしようもない」
「それでタルタロスの襲撃を、か」
「好きにせい……オール・フォー・ワンも死柄木弔もない今……ワシにはもう何も無い……」
ガックリと項垂れる殻木。今この場で聞けることはもうないだろうと、相澤達は【オール・フォー・ワン】のケースと共に研究室を後にした。
◇
同時刻。タルタロスにて。
そこにいるのはヒーローに敗れた魔王。宿敵に負け、後継を奪われ、あらゆる計画がご破算になった敗北者。
目も見えず生命維持装置がなければ生きることさえ叶わない……その上で尚、このタルタロスにおいては誰よりも危険な存在。身動ぎ一つで監視カメラに付属した銃口が動き、数値一つの変動で警戒レベルが引き上げられる。
そんな魔王は今、何も言わぬ屍のような様相となっていた。
「……やけに大人しいですね?」
「ああ……いつもニタニタ笑ってたってのに、ストンと無表情になってる」
監視カメラ越しのオール・フォー・ワンの変化に職員達は不思議そうに首を傾げていた。
ヒーロー公安委員会から話を受け取ったタルタロスは、今回の異能解放軍の計画に備えて厳重な警備体制を整えていた。
ここにいる者は皆凶悪な敵。一人でも社会に解き放ってしまえば無数の犠牲者が出ることは想像に難くない。
中でも頭一つ抜けて危険なのがオール・フォー・ワン。あのオールマイトですら何度も仕留め損ねた魔王だ。
ヒーロー側が先んじて動くとは言っていたものの、万が一がある。そう考えた公安委員会とタルタロスは数日前からオール・フォー・ワンの監視を更に強めていたのだが。
「一体何だったんですかね? あの独り言」
「さあな……結局何も起きなかったんだ、とうとう頭がイカれたのかもな」
作戦決行の数日ほど前。突如オール・フォー・ワンはこんな独り言を漏らしていた。
──ドクター……? 何をしている?
何か個性を使うつもりかとタルタロスの警戒レベルは一気に引き上げられ、無数の銃口がオール・フォー・ワンに向けられた。
しかし何秒経ってもうんともすんとも言わず、オール・フォー・ワンが動く様子もない。それどころかオール・フォー・ワン本人も物凄く困惑した様子だった。
これはオール・フォー・ワン以外の何者も知らぬ事だが、オール・フォー・ワンはオリジナルの個性因子を通して僅かにだが情報を集めていた。
知れる範囲は極めて狭く、個性因子が保管されているケースを中心とした極小の範囲内のみ。研究室の片隅で殻木の独り言を聞くのが限界だった。
こんな事ができると知ったのはタルタロスにぶち込まれてから。生命維持活動以外やる事がなかったからこそ気づけた能力だった。
それでもあまり長くやればバレるかもしれないと思い、オール・フォー・ワンは気が向いた時にのみそうして情報を集めていたのだが。
『マキアにはどの個性がいいかのう……』
『いや、どうせ脳無化するなら難しい個性なんぞ渡しても意味はないか』
『ならいっそ手元の異形型を全部突っ込んでしまうか。使い道も限られとるし』
『ああ……【魔法】も組み込みたいが流石に無駄かのう……?』
オール・フォー・ワンは心底困惑した。待って? 何しようとしてるの?
オール・フォー・ワンの想定では、ドクター一人になってからもサブプラン等を使って当初の計画通りに進んでいるとばかり思っていた。
実際オール・フォー・ワンのプランはいくつもある。死柄木弔はメインプランでこそあったものの、再現不可能とまではいかない。似たようなプランを準備していた。
全てが狂ったのは森岸の腕を……【魔法】の個性因子を手にしたが故だった。
なんと殻木球大。あまりにも摩訶不思議な個性因子を前にして自分の好奇心を優先してしまっていた。
確かに【魔法】は万能だった。使い方次第ではオール・フォー・ワンに続く第二の魔王すら生み出せるだけの素質があった。
でもそんな場合じゃないだろう。肝心のメインプランが潰れてオール・フォー・ワンも負けた状況で、先があるかも分からない個性因子の研究を優先していいわけがない。
そこでようやくオール・フォー・ワンは理解した。
ドクターは全く自分の想定通りに動いておらず、それどころか使い勝手のいい駒であるギガントマキアすら無駄にしようとしている事を。
阿呆かお前。本家本元の【魔法】とオールマイトがいる時点でまともにやったら勝てないだろうが。なんなら成長次第で戦力差コールド負けになるだけじゃん。
オール・フォー・ワンの悲痛な叫びは届かない。オリジナル越しに聞こえるドクターの必死そうな声が一方通行で送られてくるのみ。
そうしてオール・フォー・ワンの優秀な頭脳はひとつの結論を出した。
──ダメみたいですね。
どこか他人事のような結論。しかしオール・フォー・ワンにとってはこれ以上なく絶望的な結論に辿り着いてしまい、そのうちオール・フォー・ワンは考えることをやめていた。
遠からずドクターもここに送られてくるんだろうなあ、なんて子供のような思考がオール・フォー・ワンの最後だった。
ドクター「【魔法】凄い! 楽しい!」
AFO「ドクター?」
ドクター「マキアを脳無に改造じゃ!」
AFO「ドクター??」
ドクター「よーし、いざタルタロス!」
AFO「ドクター???」