魔法って言うならもっとこう……あるだろう!?   作:南亭骨帯

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 Q.森岸はどうやって最初の蹴り避けたの?
 A.絶対突っ込んで来ると思ってたのでとりあえず様子見回避の為に決め打ちで後ろに倒れただけ。特に【魔法】は使ってない。

 Q.飯田の足大丈夫だったの?
 A.脛の辺りに逆関節ができたみたいな折れ方した。ちゃんと治ったのでご安心を。

 Q.穏当な手段って何?
 A.蹴られる前に【アストロン】してレシプロの時間切れ待ち。レシプロ後はエンストして勝ち目がなくなるので降参。






18.パパパッパッパッパ、パァウァー!!

 

 

 

 というわけで準決勝進出決定の森岸です。今は常闇と芦戸さんの試合が終わって響香と爆豪の試合中ですねはい。

 

 ……口調が変だって? そりゃそうでしょうよ。幼馴染がまあまあ粘ってるけどどう見ても時間の問題なんだからさ。

 

 

 常闇と芦戸さんの試合はまたも瞬殺だった。あの【黒影(ダークシャドウ)】には【酸】が通用せず、真正面から押し負けて終わっていた。

 

 すぐに終わってしまった、という意味では塩試合と言う人もいるだろう。そういう人は次の試合に無責任な期待を寄せるわけで。

 

 一回戦で麗日さんをボコボコに痛めつけていた爆豪を同じく女子である響香が打ち負かし、麗日さんの仇をとってやれー……的な応援をしている人が少し目立っていた。

 

 でもそんなもん逆効果にしかならないわけで。

 

 考えてもみて欲しい。あの爆豪が自分より相手の方が応援されているくらいで気圧されるように見えるだろうか? 応援されていないことに凹んでやる気が削がれたりするだろうか?

 

 

 答えはNo。気圧されるどころか、気が削がれたりするとかそんなことは全然なかった。

 それどころか応援されていないこの状況にやる気満々。あの跳ねっ返りのいい爆発さん太郎が黙ってられるわけがなかった。

 

 ブーイングとまではいかずとも応援されていない空気を感じ取ったらしい爆豪はそりゃあもう開幕からフルスロットル。縦横無尽に飛んだり跳ねたりしながら的確に攻撃を差し込んでいる。

 

 

「直接プラグ突っ込むのは無理だろうし……音波も数発入れたくらいじゃ倒れない。こりゃ切島以上に厳しいなあ」

「ううー……なんかないの!? こう、ここから耳郎ちゃんが一発逆転できる裏技みたいなの!」

「そこになかったらないですね」

「幼馴染とは思えない冷たさ!」

 

 

 しょうがないじゃん。仮に俺が思いついたとしても教える訳にもいかないし。遠くから【魔法】で強化なんてしたら誰に対しても失礼だし。

 

 それでもギリギリクリーンヒットだけは避け続けてるから凄いよ。マトモに食らってたらとっくにダウンしてるはずだろうし。

 

 ……ただ、避ける度に爆豪がヒートアップしていくから段々キツくなっているんだけどね。

 

 

 とうとう痺れを切らしたのか爆豪が動いた。様子見とフェイントを織り交ぜて攻撃していたようだが、なりふり構わず吹っ飛ばすことにしたらしい。

 

 盛大に数発の【爆破】をばら蒔いた後、煙で視界が塞がれた響香に上から襲撃。咄嗟にカウンターを狙った響香の背後へと回り込み、そこから【爆破】の反動で加速しながらタックルをぶちかまして場外まで押し出した。

 

 

『くうーっ! 惜しかった! ナイスファイト! 爆豪勝己準決勝進出ーッ!!』

『勝者にもうちょっとフォーカスあててやれよ』

 

 

 それはそう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やー……アイツ強すぎるわマジで」

「あれー……?もうちょい悔しがってるもんだと思ってたんだけど……」

「悔しがる余地もないってあれ。一方的だったもん」

 

 

 まあ、うん。防戦一方だったしな。

 

 

 とはいえ無理もない事ではある。

 プロヒーローに求められる能力は戦闘能力だけではない。災害現場での人命救助や避難誘導……ざっくり括るのならば『人助け』ができる能力を求められる。

 

 爆豪の個性【爆破】は戦闘以外への活用が難しく、そうでなくとも【爆破】が求められる状況はそうそうないだろう。

 故に、爆豪がプロヒーローになる為には戦闘能力という武器だけで戦っていくしかない。ならば尚のこと戦闘能力で誰かに劣る訳にはいかない。

 

 そりゃああんな化け物みたいな強さになるわな。だって爆豪からすりゃそれしかないんだもん。

 

 それを本人がどこまで認識しているのかは知らんけど。

 

 

「……ねえ」

「はいはい?」

 

 

 おっとっと。響香励ましに来たのに考え事ばっかりしていた。それで何じゃろかい。

 

 

「敵討ち、任せた」

「…………ちょっと難しいかなあ」

「そこは任せろって言ってよ」

「いや……轟と爆豪のツートップ倒せって言われて『わかった』って返せるほど自信ないし」

「……そういえば次轟か。それはそうだわ」

 

 

 分かってくれて何より。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

『準決勝!! 炎を解放し、ますます手がつけられねェぞ!! 轟焦凍!!』

 

『お前なら何かしらやらかしてくれそう! エンタメ的にも期待してんぜ!! 森岸詠士!!』

 

 

「期待の方向性が違うんですが!?」

「……」

 

 

 既にアナウンスのコメディ枠になりつつある事に抗議する森岸と、黙って見つめている轟。観客席からも笑いが上がっているが数秒もせずに静まり返る。

 

 全員が何かを期待している。轟にも、森岸にも。

 

 これまで類い稀なる才能(個性)であらゆる強敵を捩じ伏せて来た轟ならば、未だ底知れない森岸の手札を全てを暴いてくれるのではと。

 未だ底知れない森岸の【魔法】ならば、あの暴力的なまでの超出力個性を超えてくれるのではと。

 

 和やかな空気が張り詰めていく。緊張でも圧力でもなく、弾ける寸前の風船のように期待が膨らんでいく。

 

 最後の一押しが、アナウンスが流れた。

 

 

『START!!!』

 

 

「っ!」

 

 

 これまで同様の開幕ブッパ。しかし瀬呂や緑谷に使ったような規模ではなく、ステージに這わせ足場を奪いにいった氷結が放たれた。

 

 緑谷ならば強引に力任せて打ち払った冷気を前に森岸は動かない。ただ一言、こう呟いた。

 

 

「【バーハ】」

「……!?」

「お、よしよし。少なくともこれですぐに凍らされることはなさそうだな」

 

 

 フワリと風が渦巻いた。たったそれだけで冷気が阻まれ、森岸の周囲で氷結が止まる。

 

 

「なんだそりゃ」

「【バーハ】っつってな。俺の周囲の急激な環境の変化を防ぐ【魔法】だ。温度や空気なんかでの攻撃をかなり軽減してくれるんだぜ」

「……ピンポイントで俺の対策ができる【魔法】があるんだな」

「むしろ想定外だっての。これ暑すぎる夏とかに熱中症対策とかで使うようなもんだからな」

 

 

 まさかここに来て天敵が現れたか? と思われたのも束の間。どうやら【バーハ】は軽減はできても無効化はできないらしく、止まっていた氷結がじわじわと森岸へ伸びている。

 

 おそらく出力を上げれば【バーハ】を貫いてダメージを与えられるだろう。しかしそれは逆に言えば生半可な出力ではフェイントにさえならないことを意味している。

 

 緑谷とも爆豪とも異なる、攻撃力ではなく防御力による強敵。圧倒的な高出力で戦ってきた轟焦凍としてはとても珍しい相手。

 

 それを前に轟は何も変わらない。顔色ひとつ変えず、攻撃の手を緩めない。

 

 

「おっと……【スピオキルト】」*1

「!」

 

 

 また聞き覚えのない言葉。おそらく【魔法】の一つ。森岸がそう唱えた瞬間、迫り来る氷結を真正面から殴り砕いた。

 

 

 

『きたきたきたァ!! スピード! タフネス! そして今度はパワーだぜ!!』

 

 

 

 興奮するプレゼントマイク。今の今まで緑谷くらいしか見せなかった真正面からの相殺を見せつけられた観客のテンションも最高潮。

 

 歓声に押されるように森岸も動き出す。これまでの受け身の姿勢とは違う挙動に一瞬反応が遅れる。そしてその一瞬で森岸との距離が食い潰された。

 

 

「っ、速い……!」

「全部乗せしてっからな!」

 

 

 氷結による防御も間に合わない。横薙ぎの蹴りを横っ腹に受け、ボールのように吹っ飛ばされる轟。ステージ外までは届かずとも鈍い痛みが確かなダメージを主張していた。

 

 もう一度はまずい。そう判断し一気に氷結の出力を上げる。波濤の如き氷の壁が森岸へと迫るも【バイキルト】を更にもう一段重ねた森岸の蹴りに打ち砕かれる。

 

 舌打ちをする轟。ただでさえ【バーハ】で通りが悪いというのに、それを真っ向から砕くパワーまであっては面倒なことこの上ない。

 氷の破片が輝きながら溶けていく中を突っ切って突貫する森岸を前に炎を使うべきかという迷いを滲ませながら、それでも再び氷結を放った。

 

 

「……っぶね! 氷に捕まるところだった!」

「チッ……!」

 

 

 せめて機動力でも奪えればよかったのだが、あと数センチのところで【バーハ】に阻まれた。横っ飛びした森岸は冷や汗をかき、轟からすれば惜しかった以上の感想はない。

 

 やはり氷結だけでは厳しい。緑谷にも使ったあの最大火力がなければ押し切れない。そう分かっているのに、まだ炎を使う踏ん切りがつかない。

 

 

「くそっ……」

「? よく分からんが……炎使わねェならこのまま勝っちまうぜ!」

 

 

 轟の葛藤など知る由もない森岸が再び動く。【スピオキルト】と【バイキルト】による強化を受けた拳が振り下ろされる。

 

 転がるように避ける轟。空振ったパンチはそのままステージへと叩きつけられ、小さなクレーターを生み出した。

 

 

『ちょ、アイツ滅茶苦茶強くなってねえ!? ステージぶっ壊しそうだぞ!』

『アイツの強化は重複する(・・・・)からな。あれでもまだ序の口だろ』

『ヤベーな森岸!』

 

 

 ここに来て優勝候補だった轟が追い詰められている。その事実に観客も教師陣も驚きを隠せていないのか、ざわめきと歓声が増えている。

 

 再び氷結の壁を張るも更にもう一段【バイキルト】を重ねた森岸の蹴りに吹き飛ばされる。三段階の強化を経て風圧すら脅威になりつつあるパワーを前に轟は場外ギリギリで留まるのが精一杯だ。

 

 ここまで追い詰められてしまえば躊躇すら吹き飛ぶ。覚悟を決めた表情で轟は左側を、炎を解き放った。

 

 

「っ……!」

「出たな……左側! 真っ向勝負だ!」

 

 

 最早思考する余地さえない。氷に比べ危なっかしい制御で緑谷との試合を思い出すように、解き放った炎と氷を同時に操る。

 

 対する森岸は数歩下がり、腰を深く落とし右腕を大きく引いて構えをとる。

 

 

「【バイキルト】……! もう一回【バイキルト】ォ!!」

「っ!?」

 

 

 まるで緑谷戦の再演。過剰に冷やされた空気の急激な膨張による爆風と超パワーの衝突。

 

 再びスタジアムから音が吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……これスタジアム保つと思うか?』

『知らん』

『ったく……まーた煙で見えねーじゃん! 今度はどうなった!?』

 

 

 煙が晴れていく。全員の注目は当然爆心地のステージ。二回戦の再演ならば轟が勝っているが果たして。

 

 

 

「……! 轟君場外! 森岸君の勝ち!!」

「っっ〜……痛ェ! 無茶し過ぎた!!」

 

 

 ステージに立っていたのは森岸。場外に、スタジアムの壁に体を預けて気絶した轟がいた。

 

 

 ──森岸詠士、決勝戦進出。

 

 

 

*1
マンガ『ドラゴンクエスト列伝ロトの紋章』に登場する合体魔法。【スクルト】+【バイキルト】+【ピオリム】を倍加して掛け合わせる。本作では【スカラ】と【ピオラ】で代用し、倍加はしてないので一度に強化できるだけの時短的な使用でしかない。






・バーハ

 ブレス耐性を上げる魔法。実はナンバリングタイトルだと9、10、11でしか出てなかったりする。これの全体版は3から登場しているのだが単体版のバーハはモンスターズが初出。
 本作では自身の周囲の急激な変化を軽減する効果に。温度は勿論のこと、毒ガスや紫外線なんかも対象になる。夏場に冷房でキンキンに冷えた部屋から出てもしばらくの間は周囲が冷えた空気になったまま……的な使い方もできる。


・スピオキルト

 マンガ『ロトの紋章』にて登場した合体魔法。
 【スクルト】と【バイキルト】と【ピオリム】を足して倍加させた魔法なのだが、本作では【スカラ】と【ピオラ】で代用した上に倍加していない劣化版。一度に複数の能力を強化できるだけの時短用でしかない。



緑谷「」
切島「今度は緑谷のアイデンティティが!?」
鉄哲「人の心とかないのかテメェ!」
森岸「それオールマイトにも同じこと言えないか?」
切島「……」
鉄哲「……」


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